「家に行く」「学校にバラす」と脅されている|安全に抜けるための手順
「自首したほうがいいのか」と迷っている段階の方へ
荷物や封筒を受け取るだけの仕事だと聞いて引き受け、あとになって特殊詐欺の受け子だったと気づいた。そうした経緯で、警察に自分から行くべきかどうかを迷っている方からのご相談があります。
この記事は、その判断を代わりに下すためのものではありません。自首と出頭は法律上どう違うのか、受け子の事案ではその違いがどこで決まるのか、そして弁護士が同行することで何が変わり、何は変わらないのか。順番に整理していきます。判断の材料をそろえたうえで、ご本人とご家族が決められる状態をつくることが目的です。
自首と出頭は、気持ちではなく捜査機関の把握状況で分かれる
刑法は、罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができると定めています(刑法42条1項)。この「発覚する前」は、日常語の印象よりも狭く読まれています。
「発覚」には犯罪事実と犯人の二つが含まれる
ここでいう発覚は、犯罪事実が把握されたことと、犯人が誰であるかが把握されたことの両方を指すものとして扱われてきました。事件そのものは把握されていても、犯人が誰かまでは分かっていない段階であれば、自首が成立する余地があります。一方で、事件も犯人も特定されていて、居場所だけが分かっていないという状態は、ここでの「発覚する前」には当たらないとされています。
整理すると、次のようになります。
| 捜査機関の把握状況 | 法律上の位置づけ |
|---|---|
| 事件そのものが把握されていない | 自首が成立する余地がある |
| 事件は把握されているが、犯人が誰かは特定されていない | 自首が成立する余地がある |
| 事件も犯人も特定され、居場所だけが分からない | 自首にはあたらず、出頭として扱われる |
| 呼出しを受けて警察署に行く | 自首にはあたらず、任意出頭として扱われる |
条文は「減軽することができる」と書かれている
条文は「減軽しなければならない」ではなく「減軽することができる」と定めています。自首が成立することと、実際に刑が軽くなることは別の話で、減軽するかどうかは裁判所の判断に委ねられます。自首の成立そのものを目的にしてしまうと、この点を見落としやすくなります。
受け子の場合、「発覚しているか」は件ごとに答えが違う
受け子は、被害者と直接会って現金やキャッシュカードを受け取る役割です。被害者からすれば顔を合わせた相手であり、だまされたと分かった時点で、事件としてはすでに届け出られていることが少なくありません。つまり、犯罪事実そのものは把握されている前提で考えたほうが実態に近い場合が多く、分かれ目になるのは、犯人が誰かというところまでたどり着かれているかどうかです。
受け取り方の型によって、残っている記録が違う
現金を直接受け取った場合と、キャッシュカードを受け取ったりすり替えたりした場合とでは、後に残る客観的な記録の量が変わります。カードを受け取ったうえでATMから引き出す役割まで担っていた場合、金融機関への照会によって引き出しの日時・場所・金額が判明し、ATMの防犯カメラにも記録が残ります。被害者の自宅周辺の防犯カメラをたどられることもあります。
自分がどの型で、どこまでの行為をしたのか。捜査機関がすでにどこまで到達しているかは、ここによって変わってきます。推測で決めつけず、事実として書き出しておく部分です。
複数回関与している場合、答えは一つになりません
自首の成否は、事件ごとに判断されます。仮に3回関与していれば、1件目は共犯者の供述からすでに名前が挙がっていて、2件目と3件目は捜査機関がまだ把握していない、という状態もあり得ます。この場合、「自分は自首になるのか、ならないのか」という一つの答えを探しても、うまく整理できません。
また、ある事件で逮捕され取調べを受けている最中であっても、まだ発覚していない別の事件を自ら申告した場合には、その事件について自首が成立する余地があるとされています。捜査機関がすでにその事件の嫌疑を持っていた場合は、これにあたりません。
したがって最初の作業は、自首すべきかどうかを決めることではなく、関与した件を一件ずつ書き出し、それぞれがどの状態にあるかを並べることになります。
自首が成立しても、逮捕されないとは限らない
自首の成否と、身柄を拘束するかどうかの判断は、別の枠組みで動いています。逮捕や勾留は、住居が定まっているか、証拠を隠すおそれがあるか、逃げるおそれがあるかといった点から判断されるためです。
特殊詐欺は、複数の人間が役割を分けて関与する形が典型です。共犯者との口裏合わせが問題にされやすい類型であり、被害者が複数にわたる場合には、事件ごとに手続が進んで身柄の拘束が続いたり、ご家族との面会が制限されたりすることもあります。
痴漢や盗撮といった事案について、「自分から出向いたことで在宅のまま捜査が進んだ」という説明を目にすることがあります。ただ、共犯者のいる事案では前提条件が異なります。自ら出向けば身柄の拘束を避けられるという理解のまま臨むと、想定と現実がずれてしまいます。
それでも早い段階で動くことに意味がある理由
検察官が起訴するかどうかを決めるにあたっては、犯人の性格・年齢・境遇、犯罪の軽重や情状、犯罪後の情況が考慮されます(刑事訴訟法248条)。この「犯罪後の情況」には、組織との関係を断ったこと、自ら申し出たこと、被害の回復に向けて動いたことといった経過が含まれ得ます。
受け子の事案は、法定刑の面でも軽い枠組みではありません。詐欺罪には罰金刑がなく、団体の活動として詐欺を実行するための組織により行われたと評価される場合には、より重い法定刑を定めた別の罪が適用されることもあります。だからこそ、処分や量刑の判断材料として残せるものを、早い段階からそろえていく意味があります。
なお、受け取った報酬が1件あたり数万円程度であっても、被害額はそれとは別に積み上がっていきます。返せる額と被害額が釣り合わないことは珍しくなく、そのなかで何をどこまで申し出るかは、一人で抱えて決めるには重い判断です。
弁護士が同行すると、何が変わり、何が変わらないのか
自首や出頭への同行については、事務所によって説明の力点が異なります。ここでは、期待できる部分とできない部分を分けて示します。
同行によって変わり得ること
- 事前に警察署へ連絡して担当者と日時を調整したうえで出向ける
- 申告する内容を書面(上申書)に整理し、その場の口頭のやり取りだけに頼らずに済む
- 逃げるおそれや証拠を隠すおそれがないと考える事情を、資料の形で示せる
- 身元を引き受ける受け皿を用意できる(ご家族が難しい事情のあるとき、弁護士が担える場合もあります)
- 取調べで問われる事項をあらかじめ想定し、記憶にないことは記憶にないまま伝える準備ができる
- 本人以外を介した申告でも自首として扱われる余地があるため、最初の連絡の入り口を弁護士に置ける
同行しても変わらないこと
- 逮捕するかどうかを決めるのは捜査機関と裁判官であり、同行がその判断を拘束するものではありません
- 自首が成立した場合に減軽するかどうかを決めるのは裁判所です
- 被害弁償に充てる原資が生まれるわけではありません
- すでに起きた事実そのものが変わるわけではありません
同行の意味は、結果を約束することではなく、伝わり方と手続への入り方を整えることにあります。「弁護士が付けば逮捕を避けられる」という理解ではなく、「避けられる事情があるなら、それを伝わる形にできる」という理解のほうが、実態に近いといえます。
今すぐ向かうべきか、準備してから向かうべきか
「行くなら早いほうがよい」と「準備してから行くべきだ」は、一見すると相反しますが、実際には見ている対象が違います。
早さが意味を持つのは、犯人の特定が進む前かどうかという点と、組織との関係を断った時期がいつかという点です。逆に、準備が意味を持つのは、身元を引き受ける人の手配、伝える内容の整理、ご家族への説明といった、当日その場では用意できない事柄についてです。
実務では、方針を決めるための相談は早く行い、警察署に出向く日程はその後に調整する、という順序をとることが多くなります。相談したその日に出向かなければならないわけではなく、逆に、日程を先に決めてから中身を考えると、当日に整えられないものが出てきます。
なお、「そのうち時効になるのを待つ」という考え方は、共犯者の供述や客観的な記録が残る事案では現実的とはいいにくく、待っている間に犯人の特定が進めば、自首として扱われる余地も失われていきます。
警察署に向かう前に整理しておきたいこと
- 関与した件を一件ずつ、日付・場所・受け取った物・受け取った相手の順で書き出す
- 指示のやり取り、振込、移動の記録を消さずに残す(消えるのは、自分の説明を裏づける材料でもあります)
- 報酬を受け取ったかどうか、金額はいくらか、いま手元に残っているかを確認する
- 身分証の画像など、相手側に渡したものを書き出す
- 家族に、どの順番で、どこまで話すかを決めておく
なお、組織側から「警察に行けば家に行く」「家族に知らせる」といった連絡が来ている場合は、抜けること自体の安全確保が先の課題になります。この点は事情によって順番が変わりますので、出向く日程を決める前にご相談ください。
お子さんが受け子をしてしまった場合
20歳未満の場合、手続は成人と異なる流れをたどりますが、逮捕や取調べが行われないわけではありません。学校や進路への影響、被害弁償を誰がどのように負担するかなど、ご家族が判断しなければならない事柄も並行して出てきます。
本人が事情を話しづらそうにしているとき、問い詰める形で聞き出そうとすると、かえって全体像が見えにくくなることがあります。事実の確認は、第三者を介したほうが進む場合もあります。
弁護士にできること
弁護士には守秘義務があり、ご相談の内容を学校や勤務先、ご家族に無断でお伝えすることはありません。相談した時点で処分が決まるわけでもなく、出頭するかどうかを含めて、方針はご本人が決められます。
当事務所では、出頭・自首への同行について全国対応が可能です(移動にかかる費用は別途となります)。深夜・早朝のご相談に対応できる場合もあり、ご相談の受付は24時間行っています。初回のご相談は無料で、すでに身柄を拘束されている場合の即日接見にも対応しています。
まとめ
- 自首と出頭の違いは、本人の気持ちではなく、捜査機関が事件と犯人をどこまで把握しているかで決まります
- 受け子の事案では犯罪事実が把握済みのことが多く、分かれ目は犯人の特定まで進んでいるかどうかです
- 複数回関与している場合、自首の成否は件ごとに異なり、一つの答えにはなりません
- 自首が成立しても身柄の拘束を避けられるとは限らず、共犯者のいる事案では証拠隠滅のおそれが問題にされやすくなります
- 弁護士の同行は結果を約束するものではなく、伝えるべき事情を伝わる形にするための手段です


