児童買春の『対償』とは何か|金銭以外の提供でも成立するのか
工事の着手金、オーダー品の代金、レッスンや施術の回数分の料金、物件や車両の予約金。仕事や取引の性質によっては、先にお金を受け取ってから履行するという形が広く使われています。ところが、資金繰りや体調、仕入先の事情で履行できないまま時間が過ぎ、返金もできていない。そこへ相手方から「これは詐欺だ」「被害届を出す」と言われる。そうしたご相談は珍しくありません。
受け取ったお金を返せていないという事実は同じでも、法律上の位置づけは一つではありません。刑法上の詐欺罪が問題になる場合、横領罪が問題になる場合、そして民事の債務不履行にとどまる場合があり、どこに落ち着くかは、お金を受け取ったときの状況と、そのお金がどういう性質のものだったかによって変わります。
この記事では、前受金や予約金を受け取ったまま履行も返金もできていない側の立場から、詐欺と債務不履行がどこで分かれるのか、そして横領がどこで顔を出すのかを、裁判例に沿って整理します。
どのような場面で問題になるのか
前受金・予約金をめぐって刑事責任を持ち出される場面には、次のようなものがあります。
・工事やリフォームの着手金を受け取ったが、着工できないまま時間が過ぎている
・受注生産品やオーダー品の代金を先に受け取ったが、納品できていない
・レッスン、施術、イベントの料金を前払いで受け取ったが、休業や中止で提供できていない
・物件や車両の予約金・申込金を受け取ったまま、契約に至らず返金もしていない
・仕入れや外注の費用として先に受け取った金を、別の支払いに回してしまった
・廃業や事業の縮小によって、返金の原資そのものがなくなっている
いずれも「約束したものを渡していない」「受け取った金を返していない」という点では共通しますが、ここから先の評価は一様ではありません。
返していないという結果だけでは詐欺にならない
詐欺罪は、人を欺いて財物を交付させた場合に成立します(刑法246条1項)。法定刑は10年以下の拘禁刑で、罰金刑の定めはありません。未遂も処罰の対象となり、公訴時効は7年です。
ここで押さえておきたいのは、条文が問題にしているのが「渡された金を返したかどうか」ではなく「どのようにして金を受け取ったか」だという点です。詐欺かどうかは、返せていないという結果ではなく、お金を受け取った時点で約束どおりに履行できる意思と態勢があったかによって判断されます。
受け取った時点では履行するつもりで、実際にその見込みもあったのに、その後の事情で履行できなくなったという経過であれば、民事の債務不履行(民法415条)の問題として処理されるのが基本です。相手方が「詐欺だ」と述べていることと、捜査機関が詐欺罪として立件することとは、別の話になります。
三つの入口を分けて考える
前受金・予約金のトラブルは、次の三つの入口のどれに当たるかで見通しが大きく変わります。
| 入口 | 何が問われるか | 判断の中心になる時点 |
|---|---|---|
| 詐欺罪 | 受け取った時点で履行の意思と態勢があったか | お金を受け取ったとき |
| 横領罪 | そのお金が使途を定めて預かった金だったか | お金を使ったとき |
| 債務不履行 | 履行と精算がどこまでできているか | 契約全体の経過 |
実務では、この三つが混ざったまま「詐欺だ」という一語で語られていることがよくあります。まずは自分の事案がどの入口の話なのかを切り分けることが出発点になります。
一つ目の入口・受け取った時点の意思と態勢
詐欺罪が成立するかどうかを見るとき、裁判所は受領時の状態に目を向けます。
大阪地方裁判所の平成元年3月29日の判決は、金地金の先物取引などを営む会社の役員が、すでに経営が破綻し、新たに顧客から金銭を受け入れても約定どおりの償還に充てる資金を準備できる可能性がほとんどない実情を秘したまま、優良堅実な企業であり預託期間の満了時には約定どおりの償還を受けられる旨を申し向けて、顧客から代金名目で金員を受け取った行為について、詐欺罪の成立を認めました。
この判断で重く見られているのは、返す気持ちがあったかどうかという内心そのものではありません。受け取った時点で約束どおりの履行ができる態勢にあったのか、その実情を相手に伝えたのか、という二つの点です。履行の原資を用意できる見通しが立たない状態を伏せたまま、そのことを知れば相手が金を渡さなかったであろう説明をして受領した、という経過が問題にされています。
一件ではなく取引全体の実態で見られる
もう一つ、受注と入金と支出の全体像が見られるという点も押さえておく必要があります。
東京高等裁判所の昭和57年9月20日の判決は、会社組織を利用して10か月にわたり反復継続して多数の商品を仕入れては安く売り、それによって積み上がる債務を解消する努力の形跡が見られず、会社が倒産すると別の会社に多額の債務を承継させて同じことを繰り返していた事案について、これを通常の商取引ということはできないと述べ、詐欺罪の成立を認めています。
前受金の場面に置き換えれば、一件の契約だけを切り出すのではなく、その時期にどれだけの受注と入金があり、受け取った金が何に使われ、履行のためにどれだけの手当てがされていたかという流れ全体が見られるということです。受注のたびに入ってくる前受金を、直前の受注分の履行費用や過去の穴埋めに充て続けていたという経過は、この観点から説明を求められやすい部分になります。
事情が変わって履行できなくなった場合
これに対し、受け取った時点では履行の見込みがあったのに、その後の事情で履行できなくなったという経過は、詐欺とは区別されます。仕入先の廃業、資材の調達難、体調不良、想定していなかった受注の落ち込みといった事情は、受領後に生じたものであれば、受領時の判断材料には含まれません。
分かれ目になるのは、受け取った時点でその事態がどの程度見えていたか、見えていた部分を相手にどう説明していたか、という点です。すでに履行が難しくなりつつあることを認識しながら、そこに触れずに新たな前受金を受け取っていた場合は、その受領分について別に評価されることになります。
受け取ったあとの言い訳はどう評価されるか
履行が遅れている間、相手方からの督促をしのぐために、実際には進んでいない作業について進捗があるかのような説明をしてしまう。これは前受金のトラブルで起こりやすい対応の一つです。
この点について、最高裁判所の昭和30年4月8日の判決が参考になります。りんごの売買代金を受け取りながら履行せず、督促を受けて、あたかも発送の手続を終えて到着を待つばかりであるかのように相手方に示した事案です。裁判所は、すでに履行が遅れている状態の債務者が、欺く手段によって一時的に債権者の督促を免れたというだけでは、刑法246条2項にいう財産上の利益を得たものとはいえないと判断しました。
ただし、この判決には続きがあります。もし欺かれていなければ、その督促によって債務の全部または一部の履行や、これに代わる担保の設定といった具体的な措置がとられざるをえなかったといえる特段の情況があった場合には、財産上の利益を得たといえる、というのが最高裁の示した枠組みです。その場しのぎの説明がいつでも問題にならない、という話ではありません。
また、進捗を偽る説明は、後から時系列を検証されたときに、受領時の意思についての見方まで不利に傾ける材料になります。
二つ目の入口・受け取った金の性質
前受金のトラブルで見落とされやすいのが、横領罪の問題です。
商品やサービスの代金の前払いとして受け取った金は、原則として受け取った側のものになります。ですから、それを別の支払いに回したこと自体が、直ちに横領になるわけではありません。
これに対し、使途を定めて預けられた金は扱いが違います。最高裁判所の昭和26年5月25日の判決は、製茶の買受資金として寄託された金銭について、使途を限定されて寄託された金銭は、売買代金のように単純な商取引の履行として授受されたものとは性質を異にし、特別の事情がない限り、受託者は刑法252条にいう「他人の物」を占有する者と解すべきであると判示しました。委託の趣旨に反する処分をすれば横領罪になる、というのがその帰結です。
同じ考え方から、株式の現物を買い付けるために受け取った手付金や申込証拠金を別の用途に費消した事案(大審院大正15年12月13日判決、同昭和12年2月6日判決)、証券会社が株式の買付代金として預かった金員を費消した事案(最高裁判所昭和33年6月5日決定)などで、横領罪の成立が認められています。法定刑は、単純横領が5年以下の拘禁刑、業務上横領が10年以下の拘禁刑です。
名目ではなく実質で分かれる
ここで分かれ目になるのは、契約書に「前受金」「予約金」「手付金」「預り金」のどれと書かれていたかではありません。そのお金が、こちらの売上として渡されたものなのか、特定の使い道のために一時的に託されたものなのか、という実質によって判断されます。
実費の立替えや代行のために預かった費用、契約が成立する前に一時的に受け取った申込金、第三者に支払うために託された金などは、名目が何であっても預り金としての性格を帯びやすい部分です。逆に、代金の一部を先に受け取ったものであれば、それを運転資金に回していたこと自体が横領として問われる筋合いのものではありません。
なお、預かった金を使ってしまった場合に、あとから補うつもりと資力があれば罪にならないのか、という点については、最高裁判所の昭和33年1月14日の決定が、後日に補填する意思と資力があったとしても横領罪の成立を妨げないと述べています。他方で、学説には、同額以上の金銭を手元に持っており補填できる場合には成立しないと解する考え方も有力です。手元に資金があるから問題ないと自己判断せず、事実関係を整理したうえで検討すべき部分といえます。
三つ目の入口・返す金額は全額とは限らない
民事の側では、「返す義務があるかないか」ではなく「いくらをどう精算するか」が実際の争点になります。
請負契約の場合、注文者は仕事が完成しない間はいつでも損害を賠償して契約を解除できます(民法641条)。そして解除されたときでも、請負人がすでにした仕事のうち可分な部分の給付によって注文者が利益を受けるときは、その部分は仕事の完成とみなされ、請負人は注文者が受ける利益の割合に応じた報酬を請求できます(民法634条)。契約が解除されれば、当事者は互いを原状に復させる義務を負います(民法545条1項)。
つまり、着手済みの部分がある場合、返還すべき額は受け取った全額とは限らず、どこまで履行したかを評価したうえでの差額になります。設計や材料の発注、仕入れ、外注先への支払いなど、すでに支出した内容を裏づける資料があるかどうかが、この精算の中身を左右します。
もっとも、これは着手の実態がある場合の話です。実質的に何も進んでいないのに費用が発生したかのような主張をすれば、精算の主張そのものの信用が失われます。
被害届が出されたらどうなるか
被害届や告訴は誰でも申し出ることができますが、受理されることと、立件され起訴されることとは別の段階です。財産をめぐる紛争では、当事者の言い分だけでは受領時の意思を判断しにくいため、直ちに事件として動くとは限りません。
一方で、民事の話だから警察は動かないと決めてかかることも避けたいところです。入金の記録や資金の流れといった客観的な資料が揃えば捜査が進むことはあり、相手方が複数いる場合や、同じ時期に同じ形で入金を受けていた場合は、まとめて見られやすくなります。
整えておきたいもの
説明を求められる場面に備えて、手元で整理しておきたい資料があります。
・契約書、見積書、注文書と、やり取りのメールやメッセージ
・入金日と金額が分かる通帳や決済の記録
・受け取った金を何に使ったかが分かる領収書、発注書、外注先への支払記録
・受領した当時の受注状況や資金の状況が分かる資料
・どこまで着手していたかを示す写真、図面、納品書
・返金や精算についてこれまでに提案した内容と、その日付
特に、受け取った時点でどういう状態だったかを示す資料は、あとから作れるものではありません。時系列に沿って並べておくことが、そのまま説明の土台になります。
避けたい対応
事態を重くしやすい対応もあります。
・連絡を絶つ、所在や連絡先を明らかにしない
・進捗について事実と異なる説明を重ねる
・新たに受け取った前受金で、過去の分の穴を埋める
・その場で求められるまま念書や公正証書に署名する
・帳簿や記録をあとから整え直す
このうち、新たな前受金で穴を埋める対応は、資金繰りの応急処置として選ばれがちですが、あとから見たときに取引全体の実態を説明しにくくする要因になります。
まとめ
前受金・予約金をめぐる問題を整理すると、次のようになります。
・返せていないという結果だけで詐欺罪になるわけではない
・詐欺の判断の中心は、受け取った時点で履行の意思と態勢があったか、その実情を伝えたかにある
・一件だけでなく、その時期の受注・入金・支出の全体像が見られる
・代金の前払いか、使途を定めた預り金かによって、横領罪の問題になることがある
・返還すべき額は、着手の実態に応じた精算になることがある
・受領後に進捗を偽る説明を重ねることは、刑事でも民事でも不利に働く
履行も返金もできない状態が続くと、相手方への連絡そのものが重荷になり、結果として避けたいはずの「連絡を絶つ」という対応に近づいていきます。事実関係と資料を整理したうえで、返せる範囲と時期を含めた現実的な提案を組み立てることが、刑事の入口に立ち入らないためにも、民事の紛争を長引かせないためにも、有効な手立てになります。早い段階で弁護士に相談し、説明すべきことと整理すべき資料を確認しておくことをお勧めします。


