突き飛ばして相手が転倒・死亡した|傷害致死になる場合とならない場合
「結局、何もしていない」「その前に警察が来た」という状況で、どこまでが罪に問われるのかが分からないというご相談があります。強盗については、実際に奪う行為に至らなくても、その手前の段階を処罰する規定が刑法に置かれています。
もっとも、「実行に至らなかった」という一言の中には、性質の異なる段階がいくつも含まれています。準備にも入っていない段階、道具をそろえて現場に向かった段階、相手に向けて暴行や脅迫を始めたものの何も得られなかった段階では、適用される条文も刑の幅も別のものになります。
この記事では、強盗予備罪と強盗未遂罪を分けているのは「実行の着手」という一本の線であり、この線をどちら側で越えているかによって刑の枠が2年以下から5年以上へと一段で切り替わるという点を軸に、線の引かれ方と、その前後で何が変わるのかを整理します。
どの段階に当たるのかが問題になる場面
次のような状況で、どの段階に位置づけられるのかが問題になります。
・道具になり得る物を用意したものの、現場に向かう前にやめた
・現場付近で待っていたところ、声をかけられて所持品を確認された
・建物の中までは入ったが、人と顔を合わせる前に立ち去った
・声をかけたものの、相手が逃げてしまい何も奪えなかった
・頼まれて道具を運んだだけで、自分は現場に立ち入っていない
外から見れば、いずれも「奪っていない」という点では共通しています。しかし、法律上どこに位置づけられるかは、それぞれ異なります。
「実行に至らなかった」には三つの段階がある
段階を整理すると、次のようになります。
| 段階 | 外形の例 | 強盗の罪として問われ得るもの |
|---|---|---|
| 準備にも入っていない | 頭の中で考えていた、話題に出した | 強盗の罪としては問われない |
| 準備の段階 | 道具をそろえて現場へ向かった、付近で機会をうかがった | 強盗予備罪(刑法237条・2年以下の拘禁刑) |
| 着手した後 | 反抗を抑圧する程度の暴行や脅迫を始めた | 強盗未遂罪(刑法236条・243条) |
なお拘禁刑は、2025年6月1日施行の改正刑法により、懲役刑と禁錮刑が一本化されたものです。
段階を分けているのは「実行の着手」
刑法43条は、犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった場合について定めています。未遂として扱われるのは実行に着手した後に結果が生じなかった場合であり、着手より前の段階は、この規定の対象にはなりません。
そして刑法44条は、未遂を罰する場合は各本条で定めるとしています。強盗については刑法243条が未遂を罰すると定めているため、着手があれば未遂罪の対象になります。
強盗罪の実行の着手は、財物を奪う手段として、相手の反抗を抑圧するに足りる程度の暴行または脅迫を始めた時点と理解されています。したがって、相手に向けた暴行や脅迫が始まっていない限り、どれほど準備が整っていても強盗の着手には至っていないことになります。
なお、人を昏酔させて財物を奪う類型(刑法239条)では、昏酔させる行為を始めた時点が問題になります。また、盗んだ後に逃げるためなどに暴行や脅迫をした場合(刑法238条)は、別の道筋で強盗として扱われます。
建物に入っただけでは強盗の着手とはされていない
古い裁判例ですが、拳銃を携えて被害者宅の塀を乗り越えて敷地内に入った行為について、住居侵入罪と強盗予備罪の両方が成立するとしたものがあります(東京高等裁判所 昭和25年4月17日判決)。この裁判例は、住居侵入が常に強盗予備に吸収されるとすれば、法定刑の軽い強盗予備罪が法定刑の重い住居侵入罪を吸収することになり均衡を欠く、という理由も述べています。
ここから確認できるのは、侵入という行為は、強盗の実行そのものの開始とは扱われていないという点です。侵入した段階では、まだ相手に向けた暴行や脅迫が始まっていないためです。
窃盗の場合は、住居に入って物色を始めた時点で着手が認められた例があり、着手の線は罪ごとに違う位置に引かれています。同じ「入った」という行為でも、何を目的としていたかによって評価が変わります。
家人を起こした段階でも予備とされた例
道具を携えて被害者宅に行き、表戸をたたいて家人を起こした行為について、強盗予備罪の成立を認めた判断があります(最高裁判所大法廷 昭和29年1月20日判決)。相手を呼び出すところまで進んでいても、暴行や脅迫が始まっていなければ予備の段階にとどまるという整理です。
このように、着手の線は、外形上は「あと一歩」に見える段階よりも、さらに先に置かれています。
予備の側にも線がある
一方で、頭の中で考えているだけの段階は処罰の対象になりません。予備として扱われるには、外に表れた準備行為が必要です。
裁判例では、予備について、犯罪の実行行為に時間的に先行し、将来の実行を可能にし、または容易にする行為であって、実行の着手に至らない程度および段階の外部的な行為が必要である、という説明がされています(東京高等裁判所 昭和32年5月31日判決)。金品を奪うことを企て、その着手を準備する行為をいう、と述べたものもあります(名古屋高等裁判所金沢支部 昭和30年3月17日判決)。
予備罪一般については、実行に着手しようと思えばいつでもそれを利用して着手しうる程度に準備が整った時点で成立する、という考え方を示した裁判例もあります(東京地方裁判所 昭和39年5月30日判決)。
具体的には、道具を買いそろえる、現場を下見する、逃走経路を調べる、共犯者を集めて役割を決める、現場へ向かうといった行為が挙げられます。
目的が具体的でないとして成立が否定された例
もっとも、道具を手にしていれば当然に予備になるというものでもありません。
飲み足りないのに金がなく気持ちがふさいでいたため、強盗でもして金を作ろうという気持ちで包丁を持ち出した、という事案について、強盗の目的が具体的に存在したとはいえないとして、強盗予備罪の成立を否定した裁判例があります(大阪高等裁判所 昭和43年11月28日判決)。
漠然と「機会があれば」という程度の気持ちにとどまる場合には、強盗の罪を犯す目的があったとは扱われないという線が、ここに現れています。準備の外形と、目的の具体性とは、別々に検討される事柄です。
「盗むつもりだった」のか「奪うつもりだった」のか
予備の段階では、目的の中身が結論を大きく左右します。
刑法は、すべての犯罪について準備段階を処罰しているわけではありません。予備を処罰する規定は限られた罪にしか置かれておらず、窃盗罪にはその規定がありません。そのため、同じような物を持って同じ場所にいたとしても、目的が盗むことだったのか、暴行や脅迫を用いて奪うことだったのかによって、準備段階での扱いが変わります。
ただし、ここでいう強盗には、盗んだ後に逃げるためなどに暴行や脅迫をする類型も含まれると解されています(最高裁判所 昭和54年11月19日決定)。盗むつもりで出かけた場合であっても、見つかったときに相手を脅して逃げるつもりで刃物を持っていたのであれば、予備として扱われる余地があります。
また、当初は盗むつもりだったが、途中から暴行や脅迫を用いる方針に変わったという場合には、その変わった時点以降の準備が問題になります。
刑の枠は一段で切り替わる
強盗予備罪の法定刑は、2年以下の拘禁刑です。罰金刑は定められていません。
これに対し、強盗罪の法定刑は5年以上の有期拘禁刑であり、未遂であっても条文上はこの枠から出発します。刑法43条本文により未遂の場合は刑を減軽することができますが、これは減軽できるという定めであって、当然に減軽されるわけではありません。
減軽される場合、刑法68条3号により長期と短期がそれぞれ2分の1になるため、下限は2年6月になります。さらに刑法66条の酌量減軽が重なれば下限はもう一段下がり、刑法25条1項による執行猶予を検討する余地も出てきます。
数字だけを並べると近く見えるかもしれませんが、出発点が2年以下なのか5年以上なのかという差は、その後の手続の見通し全体に影響します。
なお、実行に着手した場合、その前の準備行為が予備罪として別に立つわけではありません。予備は、未遂または既遂の強盗罪の中で評価されると理解されています。
着手の前でやめた場合と、後でやめた場合
自分の意思で犯行をやめた場合について、刑法43条ただし書は、刑を減軽し、または免除すると定めています。中止犯と呼ばれるものです。
ただし、この定めは「犯罪の実行に着手して」という条件の後に置かれています。判例は、予備の段階でやめた場合に中止犯の規定を適用することを認めていません(前掲・最高裁判所大法廷 昭和29年1月20日判決)。
その結果、着手した後に自分の意思でやめた場合には刑の免除まであり得るのに対して、着手する前にやめた場合には強盗予備罪の刑がそのまま適用される、という関係になります。学説では、この点に均衡を欠くところがあるとして、予備の中止についても減軽や免除を認めるべきだという指摘がされています。
やめた時期が早いほど有利になるとは限らないという構造は、当事者の感覚と食い違いやすいところです。
強盗予備罪には刑の免除の定めが置かれていない
刑法には強盗以外にも予備を処罰する規定がありますが、条文の作りは同じではありません。
| 予備を処罰する規定 | 法定刑 | 情状による刑の免除 |
|---|---|---|
| 強盗予備(刑法237条) | 2年以下の拘禁刑 | 定めなし |
| 殺人予備(刑法201条) | 2年以下の拘禁刑 | 情状により免除できる |
| 放火予備(刑法113条) | 2年以下の拘禁刑 | 情状により免除できる |
殺人予備と放火予備には、情状により刑を免除できるというただし書がありますが、強盗予備にはこれに当たる定めがありません。予備の中止に中止犯の規定が適用されないこととあわせると、強盗予備罪については、条文上の免除の道が用意されていないことになります。
着手の前にけがが生じた場合
強盗の際に人にけがをさせた場合の規定(刑法240条)は、「強盗が」人を負傷させたときと定められています。実行に着手していない段階では、この規定の対象にはなりません。
したがって、現場付近でもみ合いになってけがが生じたという場合には、傷害罪や、相手が警察官であれば公務執行妨害罪など、別の罪として検討されることになります。強盗予備罪と重なる形で問われることもあります。
持ち物そのものが別の法令に触れる場合
準備の段階で問題になるのは、刑法上の罪だけではありません。刃物の携帯については銃砲刀剣類所持等取締法や軽犯罪法、解錠に用いる道具については特殊開錠用具の所持の禁止等に関する法律に、それぞれ規制が置かれています。
強盗予備罪が成立しないと判断される場合でも、持っていた物や持ち方によっては、これらの法令の問題として扱われることがあります。
目的は外から見える事情で判断される
強盗の罪を犯す目的は、本人の内心に属する事柄です。しかし、捜査や裁判では内心そのものを直接確かめることができないため、外に残った事情から判断されます。
・持っていた物の組み合わせと、その用途についての説明がかみ合っているか
・入手した時期と、現場に向かった時期との関係
・現場付近にいた時間帯、立っていた場所、移動の経路
・やり取りの履歴に残された指示や打ち合わせの内容
・同行した人との関係と、役割分担についての説明
取調べでは、これらについて詳しく聞かれることになります。記憶があいまいなまま推測で答えた内容が、そのまま目的の認定材料として使われることもあります。分からないことは分からないと述べておくことが、後の説明との食い違いを避けることにつながります。
手続の面で押さえておきたいこと
強盗予備罪には罰金刑が定められていないため、書面のやり取りだけで罰金を納めて終わるという形、いわゆる略式手続はとれません。起訴された場合は、法廷での裁判になります。
また、法定刑が拘禁刑であるため、罰金以下の刑に当たる罪について設けられている逮捕の制限は及びません。準備の段階であっても身体の拘束を伴う手続に進むことがあるのは、こうした条文の作りによります。
一方で、法定刑の上限は2年以下であり、執行猶予を付けられる範囲に収まっています。処分の見通しは事案ごとに異なりますが、着手した後の類型とは前提が違うという点は押さえておきたいところです。
相談の前に整理しておきたいこと
1 いつ、何を、どのような理由で用意したのか
2 現場付近に行った時間と、そこで何をしていたのか
3 相手に対して声をかけたり触れたりした事実があるかどうか
4 誰から、どのような形で話を持ちかけられたのか
5 どの時点で、どのような理由でやめたのか
6 押収された物と、任意で提出した物との区別
これらは、着手の前後どちらに位置づけられるのかを検討するための土台になります。
弁護士に相談する意味
準備の段階の事案では、行為の外形が小さい分だけ、目的の認定が結論を左右します。同じ持ち物、同じ場所であっても、目的の説明が変われば適用される条文が変わります。
早い段階で事実関係を整理し、どの段階に位置づけられるのかを検討しておくことは、取調べでの説明を組み立てるうえでも意味があります。
まとめ
・「実行に至らなかった」という状況には、準備にも入っていない段階、予備の段階、着手した後の段階がある
・段階を分けているのは実行の着手であり、強盗では相手の反抗を抑圧するに足りる程度の暴行や脅迫を始めた時点とされる
・建物に入った段階や、家人を呼び出した段階では、着手ではなく予備として扱われた裁判例がある
・予備として扱われるには、外に表れた準備行為と、具体的な強盗の目的とがそろう必要がある
・漠然とした気持ちにとどまる場合には、目的がないとして成立を否定した裁判例がある
・窃盗には予備を処罰する規定がないため、目的が盗むことだったのか奪うことだったのかで扱いが分かれる
・刑の枠は、予備の2年以下と、未遂を含む強盗罪の5年以上とで大きく異なる
・着手の前にやめた場合には中止犯の規定が適用されず、強盗予備罪には情状による免除の定めも置かれていない
準備の段階の事案は、行為そのものが短く、記録に残る事情も限られています。そのぶん、どの段階に位置づけられるのかという判断が、早い時期の説明の内容に左右されやすくなります。心当たりがある段階で事実関係を整理しておくことをおすすめします。


