「口座を売っただけ」「名義を貸しただけ」は軽いのか
ご家族が特殊詐欺の事件で逮捕され、釈放されると聞いていたのに、その日のうちにまた逮捕された。あるいは、勾留が明けるはずの日に別の逮捕状を示された。こうした「再逮捕の繰り返し」は、特殊詐欺の事件で少なからず起きています。
このとき最も多く寄せられるご質問が、「いつまで続くのか」というものです。ところが、この問いに日数でお答えすることは難しく、「あと何日です」と言い切る回答は、多くの場合その根拠を持ちません。
本稿では、再逮捕が繰り返される仕組みを分解したうえで、「終わり」が何によって決まるのか、そして見通しをどう立てていくのかを整理します。ご本人にもご家族にも読んでいただける形で書いています。
「いつまで」に日数で答えられない理由
逮捕や勾留には、法律上の時間制限があります。逮捕されてから検察官に送致するまで48時間以内、送致を受けた検察官が勾留を請求するまで24時間以内、勾留は原則10日間で、延長が認められればさらに10日間です(刑事訴訟法203条1項、205条1項、208条)。合計すると最長23日間ということになります。
問題は、この時間の枠が「人」ではなく「事件」に対して設けられているという点です。別の事件で改めて逮捕されれば、その事件についての枠が改めて動き出します。そして、再逮捕の回数について上限を定めた条文はありません。
つまり「いつまで」という問いは、法律の条文をいくら読んでも答えが出てこない性質の問いです。答えを決めているのは、条文ではなく、処理しなければならない事件がいくつあり、それをどの手続で処理するかという現実の側にあります。
そこで本稿では、「いつまで」を「何が終われば終わるのか」という問いに置き換えて考えていきます。
同じ人が何度も逮捕されるのはなぜか
原則は「1つの事件につき1回」
刑事手続には、同一の犯罪事実について逮捕・勾留できるのは原則として1回までという考え方があります。一罪一逮捕一勾留の原則(再逮捕・再勾留禁止の原則)と呼ばれるもので、明文の規定があるわけではありませんが、そう解されています。
同じ事実で何度でも身柄を拘束できるとすれば、先ほどの時間制限を定めた意味がなくなってしまうからです。
報道でいう「再逮捕」は別の事件による逮捕
それにもかかわらず再逮捕が起きるのは、2回目以降の逮捕が別の犯罪事実を理由としているからです。ニュースで見聞きする「再逮捕」は、ほとんどがこちらを指しています。
特殊詐欺の事件でこれが目立つのは、事件の数え方によります。詐欺は、だまされた被害者が財産を交付した一つひとつが、それぞれ1個の犯罪として扱われます。被害者が5人いれば、原則として5個の事件です。同じ被害者から複数回受け取っていれば、その受領ごとに事件として整理されることもあります。
ご本人の感覚では「一つのアルバイト」であっても、手続の上では複数の事件として並んでいる。ここに、再逮捕が繰り返される構造の出発点があります。
時間の枠は事件ごとに動く
したがって、1件目の勾留が満期を迎えた日に2件目で逮捕されれば、そこからまた最長23日間の枠が動きます。3件目があれば、さらに同じことが起こり得ます。身柄拘束が数か月に及ぶ事案が生じるのは、この積み重ねによるものです。
終わりを決める要素① 立件され得る事件の数
件数は記憶ではなく記録で決まっていく
「自分は3回しか行っていない」とご本人が話していても、後から件数が増えることがあります。捜査機関が事件を組み立てるのは、ご本人の記憶ではなく、外に残っている記録だからです。
典型的には、次のようなものが端緒になります。
- 被害者からの届出(時間差で出されることがある)
- 現金やカードを受け取った場所周辺、金融機関、ATMの防犯カメラの映像
- キャッシュカードを使った引き出しの日時・場所・金額の記録
- 携帯電話やアプリの通信履歴、位置情報
- 共犯者や関係者の供述
- 押収された端末に残っていたやり取りや画像
このうち、カードを受け取ったりすり替えたりする類型では、引き出しの記録という形で日時・場所・金額が客観的に残ります。そのため、後から件数が確定していきやすい傾向があります。現金を手渡しで受け取る類型では、この種の記録が残らないこともあり、事情が変わってきます。
いずれにせよ、件数の母数は、捜査が進むにつれて後から見えてくるものです。初期の段階で「これで全部です」と言い切れないのは、そのためです。
数えられない被害は立件されにくいが、それは有利とばかりはいえない
被害者や日時が特定できない事件は、証拠の面から立件が難しくなります。これは形式的には有利に見えます。
ただし、特定できない相手とは示談も被害弁償もできないという裏返しがあります。処分や量刑の場面で被害回復が意味を持つことを考えると、「立件されないから安心」という単純な話にはなりません。この点は、見通しを立てるうえで押さえておきたいところです。
公訴時効という外側の枠
詐欺罪の法定刑は10年以下の拘禁刑ですから、公訴時効は7年です(刑法246条、刑事訴訟法250条2項4号)。起算点は「犯罪行為が終わった時」とされ、既遂であれば財産が交付された時点が基準になります(同法253条1項)。
時効は罪ごと・行為ごとに進むため、古い関与の一部について完成していることもあります。もっとも、身柄を拘束されている局面で時効の完成を待つという発想は現実的ではありません。ここでは「事件の母数には外側の枠がある」という位置づけで足ります。
終わりを決める要素② 1件ごとの処理の仕方
余罪が判明したとき、捜査機関の選択肢は再逮捕だけではありません。身柄を取らずに、捜査資料と証拠だけを検察官に引き継ぐ「追送致」という処理もあります。どちらを選ぶかは捜査機関の判断であり、ご本人や弁護人が決められるものではありませんが、分かれ目にはある程度の傾向があります。
| 比較の観点 | 再逮捕 | 追送致 |
|---|---|---|
| 身柄の扱い | その事件で改めて逮捕・勾留される | 新たな身柄拘束を伴わない |
| 時間制限 | 48時間・24時間・最長20日間の枠が改めて動く | この枠は働かない |
| 選ばれやすい場面 | 余罪を否認している、供述以外の証拠が乏しい、証拠隠滅や逃亡が問題にされている | 余罪を認めており、客観的な証拠が揃っている |
| その後 | 勾留を経て起訴・不起訴の判断へ | 資料が検察官に渡り、起訴・不起訴の判断へ |
実務では、当初は再逮捕を重ねていたものが、途中から追送致に切り替わることがあります。捜査機関の側でも、必要のない身柄拘束を重ねることには制約があるためです。
再逮捕が止まっても、事件処理が終わったとは限らない
ここが誤解の生まれやすいところです。再逮捕が止まったことと、事件の処理が終わったことは別です。
追送致に切り替わった場合、新しい逮捕状は出てきません。ご家族から見れば「ようやく落ち着いた」ように見えます。しかし、余罪は資料の形で検察官に渡り続けており、後の起訴・不起訴の判断の対象になります。すでに起訴されて勾留が続いている状態であれば、追送致になったからといって釈放されるわけでもありません。
「もう逮捕されなくなったから終わりだと思っていた」という受け止め方は、後から追起訴の連絡を受けたときの衝撃を大きくします。再逮捕の有無ではなく、処理待ちの事件がどれだけ残っているかで見ておくほうが、見通しは安定します。
終わりを決める要素③ 起訴後の審理
最初に起訴された事件を本起訴、その後に追加で起訴された事件を追起訴と呼びます。特殊詐欺のように事件が複数並ぶ場合、追起訴が重ねられていくことは珍しくありません。
同じ被告人に対する複数の事件は、まとめて審理されるのが一般的です。裁判所は、適当と認めるときに弁論を併合することができるとされており(刑事訴訟法313条1項)、併合されれば判決も一度に言い渡されます。
「早く始める」と「まとめて判断してもらう」は同時に成り立ちにくい
追起訴が予定されている場合、裁判所は次回以降の期日を追起訴の見込みに合わせて設定することがあります。その結果、判決までの期間は長くなります。
一方で、事件を分けて次々に審理してもらえば早く進むかというと、そう単純でもありません。分けて判断されると、後の事件について量刑を判断する前提が変わってきますし、公判に出頭する負担も繰り返し発生します。
「早く終わらせたい」という希望と「全体をまとめて判断してもらいたい」という希望は、同時には満たしにくい関係にあります。どちらに重みを置くかは、事件の数、認否、被害回復の進み具合によって変わってきますので、弁護人と方針をすり合わせておくべき点です。
保釈はいつ請求するのがよいのか
保釈は起訴された後に請求できる制度です。保証金を納めることで身柄の解放を求めるものですが、再逮捕が続いている局面では、請求のタイミングそのものが検討事項になります。
押さえておきたいのは次の点です。
- 別の事件で逮捕・勾留されている状態であれば、保釈が認められても釈放されません。手続上、身柄を拘束する根拠が別に存在しているためです。
- 保証金は、原則として裁判が確定するまで戻ってきません。再逮捕を挟んで改めて保釈を求めることになれば、そのたびに用意が必要になります。
- 共犯者のいる事件では、証拠を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとして、権利としての保釈が認められない場合があります(刑事訴訟法89条4号)。より重い法定刑を定めた罪が適用される場合には、別の除外事由に当たることもあります。
- 接見等禁止の決定が付くことがあり(同法81条)、その場合はご家族の面会も制限されます。この決定については、一部解除を求める余地があります。
したがって、請求できる時期と、請求したほうがよい時期は別です。再逮捕が見込まれる段階であえて請求を控え、事件の追加が落ち着いてから請求するという判断もあり得ます。ご家族としては「なぜすぐに保釈を求めてくれないのか」と感じられるかもしれませんが、この判断の理由は弁護人に確認していただくのがよいと思います。
判決が出れば、それで全部終わるのか
併合して審理された事件については、判決によって決着します。ただし、次の2点は残ります。
1つは、判決の時点で処理されていなかった事件の扱いです。確定裁判を経ていない複数の罪はまとめて処断されますが、拘禁刑以上の刑に処する確定裁判があったときは、その前に犯した罪に限って併合の対象になるとされています(刑法45条)。そして、確定裁判を経た罪と経ていない罪があるときは、経ていない罪について更に処断されます(同法50条)。判決が確定した後に別の事件が処理されることは、制度上あり得るということです。
もう1つは、民事の賠償です。刑事の手続が終わっても、被害者に対する損害賠償の問題は別に残ります。受け取った報酬の額と、請求され得る額は一致しません。
見通しを立てる順番
「いつまで」を考えるときは、次の順に整理していくと、答えの出る部分と出ない部分が分かれます。
- 自分が関与した可能性のある行為を、時期・場所・受け取りの方法ごとに書き出す
- そのうち、記録として外に残っていそうなものを見分ける(引き出しの記録、防犯カメラ、通信履歴など)
- すでに逮捕・勾留の対象になった事件と、まだ対象になっていない事件を分ける
- 残っている事件について、再逮捕という形で処理されそうか、追送致という形になりそうかを弁護人と検討する
- 起訴された事件について、審理をまとめる方向で進めるかどうかの方針を決める
- 被害回復について、できる範囲と時期を確認する
この作業をしても、日数が確定するわけではありません。しかし、どこまで進んだら終わりに近づくのかという座標は持てるようになります。先が見えない状態そのものが負担になっている局面では、これがあることの意味は小さくありません。
この段階でできること
事実の整理を先にしておく
記憶は時間とともに曖昧になりますし、後から「言っていたことが違う」と指摘される材料にもなります。日付や金額があやふやな部分は、無理に断定せず「確かでない」と示したまま整理しておくほうが安全です。
供述の方針は弁護人と決める
余罪について何をどこまで話すかは、その後の処理の仕方に影響します。黙秘権を行使すること自体は不利益な取扱いを受ける理由になりませんが、事実と異なる説明をすることは別の問題を生みます。方針は、取調べが始まる前に弁護人と共有しておくことをおすすめします。
被害回復は件ごとに考える
示談や被害弁償は、被害者ごとに個別のものです。全体をまとめて解決する方法はありません。連絡先が分からない場合でも、捜査機関を介して働きかける方法があります。全額に届かない場合でも、進めておく意味がなくなるわけではありません。
ご家族の側で決めておきたいこと
身柄拘束が長引く場合、勤務先や学校への説明、生活費、住居の維持といった問題が並行して生じます。差し入れや面会の可否は接見等禁止の有無によって変わりますので、まずはそこを確認してください。ご家族が身元引受人として関わる場面もありますので、どなたが窓口になるかを早めに決めておかれるとよいと思います。
まとめ
- 逮捕・勾留の時間制限は事件ごとに設けられており、別の事件で逮捕されれば枠が改めて動く。再逮捕の回数に法律上の上限はない
- 特殊詐欺では被害者ごと・受領ごとに事件が数えられるため、複数の事件が並びやすい
- 終わりを決めるのは、①立件され得る事件の数②1件ごとの処理の仕方(再逮捕か追送致か)③起訴後の審理の進め方の3つ
- 件数は本人の記憶ではなく客観的な記録によって後から確定していく
- 再逮捕が止まったことと、事件の処理が終わったことは別。追送致という形で処理が続いていることがある
- 保釈は「請求できる時期」と「請求したほうがよい時期」が異なる。別事件で拘束されていれば釈放されず、保証金の負担も重なる
- 判決の後にも、処理されていなかった事件や民事の賠償が残ることがある
再逮捕が繰り返されている段階は、ご本人にとってもご家族にとっても、最も先が見えにくい時期です。ただ、見通しが立たないことと、何もできないことは同じではありません。事実を整理し、供述の方針を決め、被害回復に着手しておくことは、この段階から進められます。
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