詐欺で不起訴を目指すには|返金・弁償のタイミングが結果を変える理由

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

詐欺の疑いで捜査を受けている方やそのご家族から、「お金を返せば不起訴になりますか」というご質問をいただくことがあります。返金や被害弁償が処分の判断に関わることは確かですが、同じ金額を同じ相手に返しても、それがいつ届いたかによって持つ意味は変わります。

 刑事手続は、段階ごとに判断する人が入れ替わっていきます。そして次の段階に進むと、前の段階にあった選択肢は戻ってきません。ここでは、詐欺事件で不起訴を目指すときに、返金・弁償のタイミングが何を左右するのか、どこに締切があるのかを整理します。

なぜ「いつ」が結果を変えるのか


段階ごとに判断する人が入れ替わる


 刑事手続では、その時々で決まることと、それを決める人が違います。返金や弁償は、その時点で判断している人に向けた材料として働きます。

段階そこで決まること判断する人
事件化の前被害届や告訴が出されるか被害者
捜査の段階逮捕するか、身柄拘束を続けるか警察官・検察官・裁判官
送致から処分まで起訴するか不起訴にするか検察官
起訴から判決まで刑の重さ、執行猶予か実刑か裁判官


 同じ弁償でも、事件化前であれば「届け出るかどうか」を考える被害者に向けたものになり、捜査段階では身柄拘束の必要性を判断する材料の一つになり、処分前であれば起訴・不起訴を決める検察官に向けたものになります。届いた時期がずれれば、宛先そのものが変わってしまうということです。

戻れない一線がある


 もっとも大きな区切りは起訴です。起訴された後は、不起訴という選択肢は原則として残りません。制度としては、検察官が第一審の判決前に公訴を取り消すことができるとされていますが(刑事訴訟法257条)、これは限られた場面での運用です。

 検察官が起訴・不起訴を判断する際の根拠となる規定は、刑事訴訟法248条です。犯人の性格・年齢・境遇、犯罪の軽重と情状、そして犯罪後の情況によって訴追を必要としないときは公訴を提起しないことができる、と定められています。被害弁償や示談は、この「犯罪後の情況」として位置づけられます。裏を返せば、検察官が判断を下す前に届いていなければ、その材料としては使われないということになります。

詐欺という罪の性質が「不起訴」の重みを大きくする


 詐欺罪の法定刑は10年以下の拘禁刑で、罰金刑が定められていません(刑法246条)。窃盗のように罰金刑がある罪では、略式手続で罰金という中間的な着地点がありますが、詐欺にはそれがありません。

 そのため、起訴されれば公判請求となり、有罪の判断に至った場合は執行猶予付き判決か実刑かのいずれかになります。執行猶予の入口は言渡し刑が3年以下であること(刑法25条1項)ですから、被害額や件数によっては、その前段でつまずくこともあります。起訴の前と後で状況の落差が大きい罪である分、処分が決まる前の時間の使い方が持つ意味も大きくなります。

「返せば詐欺ではなくなる」わけではない


犯罪の成否と処分の判断は別の話


 返金をすれば事件そのものがなかったことになる、と受け取られている方がいますが、そうではありません。詐欺として問題になるのは、お金や物を交付させた時点でどのようなやり取りがあったかであり、後から返したことで当時の事情が消えるわけではないからです。

 返金が意味を持つのは、あくまで先ほどの「犯罪後の情況」としてです。犯罪が成立するかどうかの土俵ではなく、起訴するかどうかを決める土俵で働くと理解しておくと、期待と実際のずれが小さくなります。

被害届が取り下げられても自動的に不起訴にはならない


 示談ができて被害届が取り下げられれば終わる、というものでもありません。詐欺は親告罪ではないため、告訴の取消しがあっても、検察官の判断で起訴されることはあり得ます。

 ただし、被害者の処罰感情が変わったという事実自体は、判断材料として扱われます。示談書に許すという趣旨の条項(宥恕条項)を入れられるかどうかが重視されるのは、このためです。

どの不起訴を目指すのかを先に決める


 不起訴処分にはいくつかの種類があり、代表的なものは次の三つです。

  1. 嫌疑なし=犯罪の疑いがないと判断された場合
  2. 嫌疑不十分=証拠が足りず、起訴して有罪の立証をするには至らないと判断された場合
  3. 起訴猶予=犯罪の疑いはあるが、諸般の事情から起訴を見送ると判断された場合


 被害弁償が正面から働くのは、主に起訴猶予の筋です。一方、事実関係そのものを争っている事案では、目指す先が嫌疑不十分の筋になり、弁償の位置づけが変わります。

 ここが実務上いちばん悩ましいところで、争う姿勢を取りながら先に金銭を渡すと、事実を認めたものと受け取られかねません。逆に、認めて起訴猶予を目指す方針なのに弁償の着手が遅れると、判断の時期に間に合わなくなります。争うのか認めるのかの整理は、弁償のタイミングを決めるより前に来る問題だとお考えください。

 なお、争う方針を維持したまま民事上の返還として金銭を渡す組み立てが取られることもあります。この場合は書面の文言や渡し方の設計が結果を左右しますので、自己判断で動く前に弁護人と詰めておく必要があります。

「早ければよい」ではなく「順序を誤らない」


 早い段階のほうが選べる手が多いのは事実です。事件化の前は、届け出るかどうかを決める人が被害者本人であり、当事者間で解決できる余地が最も大きい時期にあたります。

 ただし、自分から被害者に直接連絡を取りにいくことは、別のリスクを生みます。詐欺は、関与した人が複数いたり、やり取りの経緯が供述に左右されたりする事件が多く、当事者間の接触が口裏合わせや証拠の働きかけと評価されることがあります。身柄拘束の判断では、証拠を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるかどうかが要件の一つになっていますので(刑事訴訟法60条1項2号)、善意で連絡したことが不利に働く場合もあります。

 被害者の側から見れば、だました相手からの突然の連絡はそれ自体が負担です。返金の意思を伝えたつもりが、かえって届出のきっかけになることも考えられます。順序としては、まず窓口を弁護人に置き、そのうえで被害者の意向を確認するという進め方が無難です。

弁償は「決めてから届くまで」に時間がかかる


間にはいくつもの工程がある


 弁償しようと決めた翌日に検察官の手元へ届く、ということは通常ありません。実際には次のような工程を踏みます。

  1. 弁護人を選任する
  2. 捜査機関を通じて被害者に連絡先を教えてよいか確認してもらう(被害者の承諾が前提になります)
  3. 連絡を取り、謝罪の意思を伝える
  4. 金額・支払方法・宥恕条項・接触禁止条項・清算条項などの条件を話し合う
  5. 原資を用意して支払う
  6. 示談書や領収書などの書面を整える
  7. 検察官に提出し、経過を説明する


 このうち二番目だけでも数日かかることがありますし、被害者が返事を保留すればさらに延びます。連絡先の提供に応じてもらえないこともあります。締切から逆算すると、着手できる時期は思っているより早いということになります。

身柄事件の締切は逮捕の日から数える


 逮捕された場合、警察は48時間以内に検察官へ送致し、検察官は送致から24時間以内に勾留を請求するか釈放するかを決めます。勾留が認められると原則10日、延長されると通じて最長20日で、逮捕からは最長23日という枠になります。

 ここで注意したいのは、この日数が上限であって予定ではないという点です。延長されずに処分が決まることもありますし、勾留の途中で処分が固まることもあります。「23日あるから来週から動けばよい」という組み立ては、うまくいかないことがあります。

在宅事件は締切が見えない


 逮捕されずに捜査が進む在宅事件では、処分までの期間に法律上の定めがありません。数か月、事案によってはそれ以上かかることもあります。

 このため「まだ何も言われていないから時間がある」と受け取られがちですが、予告なく処分が決まることがあるのが在宅事件です。呼び出しを受けて取調べを終えた後、しばらくして処分の連絡が来るという流れもあります。締切が見えないことは、時間があることとは違います。むしろ、いつ判断されても説明できる状態を保っておく必要があります。

全額そろうまで待つべきか


 被害額が大きいと、資金が整うまで動けないと考えてしまいがちです。しかし待っている間も締切は近づきますし、被害者の側にも「返す気があるのか」という不信が積み上がります。

 実務上は、全額に届かない段階でも、支払える範囲を先に届ける、支払計画を示して合意を目指す、弁護人が預かる形で意思を明確にするなど、取り得る形がいくつかあります。どの形を選ぶか、誰から順に対応するか、資金をどこから用意するかは、それ自体が別に検討すべき論点ですので、ここでは深追いしません。タイミングの観点で押さえておきたいのは、満額がそろうのを待つこと自体が一つの選択であり、その選択にも締切があるという点です。

 なお、被害者が複数いる事案や、後から別の事実が送致される事案では、処分の締切が一度きりではなく複数回訪れることがあります。最初の処分に間に合わなかったとしても、その後の手続で意味を持つ場面が残ることは少なくありません。

受け取ってもらえないときの切り替え


 申し入れても応じてもらえないことはあります。詐欺の被害者は一度欺かれた経験をしているため、加害者側からの働きかけを警戒するのは自然なことです。

 この場合でも、申し入れをした事実とその時期は記録に残ります。そのうえで、金銭を法務局に預ける供託(民法494条)や、弁護士会などへの贖罪寄付といった方法が検討されます。ただし供託には相手方の氏名や住所が必要で、被害者の個人特定事項を秘匿する措置が取られている事案では、事実上難しいこともあります。

 タイミングの観点で大切なのは、断られたと分かった時点で次の手に切り替えることです。返事を待ち続けたまま処分の時期を迎えてしまうと、切り替える時間そのものがなくなります。

間に合わなかったときに残るもの


 処分に間に合わなかった場合でも、被害弁償の意味がすべて失われるわけではありません。起訴後であれば、保釈の判断や、刑の重さ・執行猶予をつけるかどうかの判断に関わってきます。判決までに間に合わせる、あるいは控訴審の段階で進めるという道もあります。

 失われるのは「不起訴」という選択肢であって、それ以外の場面は残っています。すでに起訴されている方が今から動くことにも意味はあります。

まとめ


  1. 返金や弁償は、その時点で判断している人に向けた材料として働くため、届いた時期によって意味が変わります
  2. 起訴されると不起訴という選択肢は原則として残らず、その一線を越える前かどうかが分かれ目になります
  3. 詐欺罪には罰金刑がなく中間的な着地点がないため、処分前の時間の使い方が持つ意味は大きくなります
  4. 返金しても犯罪の成否そのものが変わるわけではなく、被害届の取下げがあっても自動的に不起訴になるわけでもありません
  5. 事実を争うのか認めるのかの整理は、弁償のタイミングを決めるより前に来る問題です
  6. 被害者への直接連絡は逆に働くことがあり、窓口を弁護人に置いたうえで進めるのが無難です
  7. 連絡先の確認から書面の提出までには工程があるため、締切から逆算した着手が必要になります
  8. 在宅事件は期限が見えないだけで、予告なく処分が決まることがあります


 弁護士法人若井綜合法律事務所では、刑事事件のご相談を24時間受け付けており、初回のご相談は無料です。逮捕された直後の接見にも即日で対応しています。どの段階にいるのかによって取れる手は変わりますので、処分の時期が近づく前に、いまの状況を整理する機会をお持ちいただければと思います。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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