再逮捕が繰り返されるのはなぜか|余罪と追起訴の見通し
「やめたい」と伝えたとたん、相手の口調が変わった。「家に行く」「学校にバラす」「家族がどうなってもいいのか」——応募のときに送った身分証や住所を材料にそう言われ、身動きが取れなくなっている方がいます。
こうした場面でつらいのは、恐怖そのものだけではありません。「警察に相談したら、今度は自分が捕まるのではないか」という不安が重なり、誰にも言えないまま時間だけが過ぎていくことです。
この記事では、脅されている状態から離れるために、どの順番で何をすればよいのかを整理します。すでに何かを引き受けてしまった方にも、まだ何もしていない方にも読んでいただける形にしています。
まず、その脅しが何を材料にしているのかを確かめる
脅し文句は、受け取る側の想像を膨らませることで効きます。実際には相手の手元にあるのは、あなたが渡した情報の範囲にとどまることが少なくありません。何を握られているのかがはっきりしないままだと、要求のたびに最悪の想像に引きずられることになります。
渡したものを書き出す
最初にやっておきたいのは、これまでに渡したものを一覧にすることです。
- 身分証の画像(運転免許証、マイナンバーカード、学生証など)
- 顔写真、身分証と一緒に写った写真
- 氏名、住所、電話番号、メールアドレス
- 家族の名前、勤務先、学校名
- 自宅の周辺や部屋までの経路を撮った動画
- 銀行口座、キャッシュカード、暗証番号
- 携帯電話の端末やSIMカード
- SNSのアカウント名、交友関係が分かる投稿
この作業には二つの意味があります。一つは、相手が実際に使える材料の範囲がはっきりすること。もう一つは、この一覧がそのまま、あとで警察や弁護士に状況を説明するための資料になることです。
「家に行く」と「学校にバラす」は、手当ての方向が違う
同じ脅しに見えても、何を材料にしているかによって、検討できる対応は変わります。
| 言われている内容 | 材料になっているもの | 手当ての方向 |
|---|---|---|
| 家に行く、家族に危害を加える | 住所、家族の情報 | 警察への相談、住所情報の取扱い、一時的な避難 |
| 学校にバラす、会社に言う | 学校名、勤務先、応募のやり取り | 自分から先に伝える段取りと、伝える範囲の設計 |
| 払わなければどうなるか分かるな | 渡した情報全般 | 支払いに応じず、窓口を移す |
脅している側の行為も、それ自体が犯罪にあたり得る
脅されている側は「自分が悪いのだから仕方がない」と考えてしまいがちです。しかし、相手の行為は相手の行為として、別に評価されます。
人の生命、身体、自由、名誉または財産に害を加えると告げて脅した場合、脅迫罪(刑法222条)の検討対象になります。法定刑は2年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金です。「学校にバラす」は名誉に対する害悪の告知として、「家に行く」は身体や自由に対する害悪の告知として問題になり得ます。告げられた内容が事実であるかどうかは、この罪の成否に直接は影響しません。
さらに、脅して義務のないことを行わせた場合には強要罪(刑法223条・3年以下の拘禁刑)が問題になります。この罪は未遂も処罰されるため(同条3項)、実際には従わなかった場合でも検討の余地があります。金銭を求められているのであれば、恐喝罪(刑法249条、未遂は250条)の問題にもなります。
あなたは、同時に二つの立場に置かれている
ここで大切なのは、二つの立場を分けて考えることです。
一つは、脅されている側、つまり被害を受けている立場。もう一つは、犯罪に関わりかけている、あるいはすでに関わってしまった側、つまり捜査の対象になり得る立場です。この二つは同時に成り立ちます。そして、片方がもう片方を打ち消すことはありません。相手の行為が脅迫にあたるとしても自分の関与がなかったことにはなりませんし、逆に、自分に関与があるからといって被害を申し出られないわけでもありません。
「相談したら捕まる」と考えて動けなくなるのは、この二つを一つに混ぜてしまうためです。分けて考えると、どちらから手をつけるかという順番を設計できるようになります。
「脅されて仕方なくやった」は、法的にどう扱われるのか
脅されて行った行為について、刑法には緊急避難という規定があります(37条1項)。生命、身体、自由、財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り罰しない、という内容です。
条文からは、次の三つが問われることが分かります。
- 差し迫った危難が現に生じているといえるか
- ほかに取り得る方法がなく、やむを得ずにした行為といえるか
- 避けようとした害と、生じさせた害の均衡がとれているか
脅されている場面では、二つ目と三つ目が壁になりやすいところです。警察に相談するという道が現に用意されている以上、ほかに方法がなかったといえるかが問われます。また、自分の名誉や生活が壊れることを避けるために、他人の財産や身体を害する行為をしたという場合、害の均衡という点で説明が難しくなります。
「違法だとは知らなかった」という点についても、法律を知らなかったことによって罪を犯す意思がなかったとすることはできない、と定められています(刑法38条3項)。
もっとも、脅されていた事情に意味がないわけではありません。起訴するかどうかは、犯人の性格や年齢、境遇、犯罪の軽重や情状、犯罪後の情況をふまえて判断されます(刑事訴訟法248条)。どのような立場で、どのような圧力の下で関わったのかは、この判断や量刑の場面で考慮され得る事情です。だからこそ、脅されていた経過を残しておくことには、自分自身のための意味があります。
安全に離れるための手順
順番を間違えると、後から取り返しにくくなります。特に、最初に思いつきやすい「アプリを消す」を先にしてしまうと、自分の説明を支える材料のほうが失われます。
- 渡したもの、言われたことを書き出す
- やり取りの画面を保存する(消さない)
- 話せる家族や大人に、先に伝える
- 警察に相談する
- 住所や身分証の取扱いを整える
- 相手との連絡は、相談した先の助言に沿って扱う
やり取りは消さずに残す
警察庁が公表している相談事例には、匿名性の高いアプリをアンインストールしたところ、別の連絡手段を通じて個人情報を送り返され、手元にはやり取りだけが残っていなかったという例が紹介されています。アプリを消しても、相手の手元にある情報は消えません。消えるのは、自分の立場を説明する材料のほうです。
残しておきたいのは、やり取りの画面(日時が分かる形)、相手のアカウント名やID、送金や入金の記録、指示された日時や場所のメモです。端末そのものを初期化することは避けてください。
警察に相談すると、何が行われるのか
警察庁は2024年10月、闇バイトに応募した人から相談を受けた場合に、本人や家族の一時的な避難、関係先のパトロールの強化といった保護措置を適切に行うよう、全国の警察に通達しています。
この保護措置は、2025年11月末までに全国で544件実施されたことが公表されています。その中では、応募した人の年代は20代が45.2パーセントで最も多く、10代が24.8パーセント、30代が13.6パーセントと続いています。応募の経緯として最も多かったのは知人の紹介で30.7パーセントでした。警察庁は、保護したあとに本人や家族が危害を加えられた事例は把握していないとしています。
これは結果を約束するものではありません。ただ、相談を受け止める仕組みが現に用意され、実際に使われていることの手がかりにはなります。相談先としては、警察相談専用電話(#9110)や最寄りの警察署、都道府県警察本部の少年相談窓口があります。
住所が伝わることを防ぐ仕組み
住所を握られている場合には、住民基本台帳事務における支援措置という制度があります。配偶者からの暴力、ストーカー行為等、児童虐待およびこれらに準ずる行為の被害者が対象とされており、「準ずる」といえるかどうかは、警察などの相談機関の意見をふまえて市区町村が確認します。認められると、相手方からの住民票の写しや戸籍の附票の写しの交付請求などが制限されます。
ただし、この制度は住民票などから現住所が伝わることを防ぐためのものであり、身体を守る制度ではないと各自治体も説明しています。警察への相談と切り離さず、あわせて検討する位置づけのものです。
「学校にバラす」への手当て
知られたくないことを人質に取られている場合、その秘密を守ること自体を最上位の目的に置くと、要求に応じ続ける以外の選択肢がなくなります。相手が主導権を握り続ける構造になるからです。
目的を「秘密を守ること」ではなく「生活が壊れないこと」に置き直すと、選べる手が増えます。その一つが、自分から先に話すことです。誰に、どこまで、どの順番で伝えるかをあらかじめ決めておけば、相手が握っている材料の価値は下がります。また、学校や勤務先に伝わる経路は相手からの連絡だけではなく、捜査が進んだ場合には別の経路で知られることもあります。伝えるかどうかではなく、いつ、どう伝えるかという問題として扱うほうが現実的です。
お金が入口だった場合は、その部分を別に扱う
借金や生活費の不足が入口になっている場合、その問題そのものは別の窓口で扱えます。借入れであれば債務整理という手続があり、生活の維持が難しい状況であれば、自立相談支援の窓口で相談できます。条件を満たせば、一定期間、家賃相当額の支給を受けられる制度もあります。
状況を悪くしやすい行動
- 記録を残さないまま、アプリやアカウントを消す
- ブロックだけして、何もせずに様子を見る
- 「これで最後にする」と考えて、もう一件だけ引き受ける
- 相手と直接交渉し、口止め料や違約金を支払う
- 指示に従って、友人や知人を紹介する
- 家族に何も伝えないまま、住所だけを変える
支払いに応じることは、一度で終わらないことがあります。応じた経過そのものが、次の要求の材料になるためです。また、人を紹介する行為については、警察庁などが公表している資料でも、紹介しただけでも責任を問われ得ると注意が呼びかけられています。相手の指示で誰かを巻き込むことは、自分の立場をさらに難しくします。
未成年の場合、ご家族が気づいた場合
保護者に知られたくないという理由で動けなくなる例は多くあります。ただ、保護者に伝わることを避けようとすると、使える手がほとんど残りません。都道府県警察には少年向けの相談窓口があり、まずそこから話すこともできます。
ご家族の側が気づいた場合には、問い詰めて端末を取り上げる前に、確認しておきたいことがあります。
- 端末を初期化したり、アプリを削除したりしない
- 誰と、どのアプリで、いつからやり取りしているかを確認する
- 何を渡したか(身分証、口座、携帯電話など)を一覧にする
- 警察や弁護士への相談を、本人と一緒に検討する
責めることよりも先に、事実を確定させることです。学校への説明や賠償の問題は、何が起きているのかが分かってから、順番に考えることができます。
弁護士に相談してできること
弁護士に相談した場合には、まず、これまでの経過を法的な意味に置き直す作業から始まります。どの段階で何が問題になり得るのか、脅されていた事情をどう位置づけるのかを整理したうえで、警察への相談や出頭の進め方を一緒に考えていきます。
当事務所では、警察署への出頭に弁護士が同行する対応を全国で行っています(移動にかかる費用は別途必要となります)。深夜や早朝でも対応できる場合があり、ご相談は24時間受け付けています。初回のご相談は無料です。
「相談したら、学校や家族に伝わってしまうのではないか」と心配される方もいます。弁護士には、職務上知り得た秘密を正当な理由なく他に漏らしてはならないという守秘義務があります(弁護士法23条)。誰に、どこまで伝えるかを設計することも、相談の内容に含まれます。
まとめ
- 脅し文句そのものより先に、何を渡したのかを書き出して、材料の範囲をはっきりさせる
- 脅している側の行為は脅迫罪や強要罪の検討対象になり、被害を受けている立場と、関与を問われ得る立場は同時に成り立つ
- 脅されていた事情で犯罪の成立がなくなることは限られるが、処分や量刑の判断では考慮され得る
- アプリを消すことを先にすると、消えるのは自分を説明する材料のほうになる
- 警察には保護措置の仕組みがあり、住所の取扱いや相談の順番は、専門家と一緒に設計できる
脅されている状況は、時間が経つほど選べる手が減っていきます。どの段階であっても、まだ検討できることは残っています。一人で抱え込まず、早い段階でご相談ください。


