家族が逮捕されたと連絡が来た|最初の24時間にやること
「初犯なら執行猶予がつく」という言葉を、どこかで目にしたことがあるかもしれません。たしかに多くの犯罪では、前科がないことは量刑上、有利にはたらきます。ただし特殊詐欺では、前科がなくても刑務所に収容される判決が言い渡されることがあります。
これは裁判所が特殊詐欺だけを特別扱いしているというより、詐欺という罪の仕組みと、特殊詐欺という犯行の形が組み合わさった結果です。ここでは、何が刑を押し上げ、何が押し下げるのかを順に整理します。
「初犯なら執行猶予」が特殊詐欺で通りにくい理由
詐欺罪には罰金刑がない
詐欺罪の法定刑は10年以下の拘禁刑で、罰金刑は定められていません(刑法246条)。なお2025年6月から、懲役と禁錮は拘禁刑に一本化されています。
罰金刑がないということは、「罰金を納めて終わり」という着地点が存在しないということです。他の多くの事件で見られる、略式手続で罰金を払って終わるという流れは、詐欺罪では選べません。起訴されて有罪となれば、判決は拘禁刑の実刑か、執行猶予付きかのいずれかになります。中間の選択肢がないぶん、実刑と執行猶予の分かれ目がそのまま結論を左右します。
執行猶予には「3年以下」という入口がある
執行猶予は、言い渡される刑が3年以下の拘禁刑などである場合に、情状により1年以上5年以下の期間、その執行を猶予できる制度です(刑法25条1項)。
つまり執行猶予がつくかどうかを考える前に、「言い渡される刑が3年以下に収まるか」という前段の問題があります。有利な事情がどれほど酌まれても、刑の重さが3年を超えるところまで積み上がっていれば、猶予の対象そのものから外れます。特殊詐欺で「初犯なのに実刑だった」という結果が生じるとき、この前段でつまずいている場合が少なくありません。
「初犯」は「1件だけ」という意味ではない
ここで整理しておきたいのが「初犯」という言葉です。初犯とは前科がないこと、つまり過去に刑を言い渡されたことがないという意味であって、今回の事件が1件だけであるという意味ではありません。
特殊詐欺では、同じ人が短期間に複数回、現金やカードの受け取り、あるいは引き出しを繰り返している例が珍しくありません。この場合、前科はなくても、起訴される事件は複数件になります。「初犯」という有利な事情と、「件数が多い」という不利な事情が、同じ人の中に同時に存在するわけです。ここを分けて考えないと、見通しを取り違えます。
量刑は二段階で考えられている
刑の重さを検討するとき、実務では大きく二つの層に分けて考えます。ひとつは犯情、もうひとつは一般情状と呼ばれるものです。
| 層 | 中身 | 果たす役割 |
|---|---|---|
| 犯情 | 役割、件数、被害額、組織性・計画性、被害の回復状況など、犯行そのものに関わる事情 | 刑の重さのおおよその幅を決める |
| 一般情状 | 反省の程度、家族の監督、就労先の確保、生活の立て直しなど、犯行の外側にある事情 | 決まった幅の中で、どのあたりに落とすかを調整する |
この順序が大切です。反省の言葉や家族の支えは、量刑上まったく意味がないわけではありませんが、主として二つ目の層ではたらきます。犯情の段階で刑の幅が3年を超えるあたりに置かれてしまうと、一般情状をいくら積み上げても執行猶予の入口に届かないことがあります。
「深く反省しているのに実刑だった」という受け止めが生まれるのは、この二段構造が知られていないためです。逆にいえば、見通しを立てるうえでまず見るべきなのは、反省の深さではなく犯情のほうだということになります。
犯情として重く見られやすい5つの事情
- 果たした役割。指示役や電話をかける役に近づくほど重く、受け取りや引き出しだけを担当した場合は相対的に軽く見られる傾向があります。ただし末端であることが、そのまま執行猶予に結びつくわけではありません。
- 件数。何件の犯行について起訴されたかが、そのまま刑の幅に反映されます。
- 被害額。1件あたりの金額と、起訴された全件の合計額の双方が見られます。
- 組織性・計画性。役割分担があり、指示系統があり、道具や台本が用意されている犯行は、突発的な犯行より非難の程度が重く評価されます。特殊詐欺は構造上、この点で不利になりやすい類型です。
- 被害が回復されているか。財産に関する犯罪では、失われた財産が戻ったかどうかが大きな意味を持ちます。
このうち、事件が起きた後に当事者側の努力で動かせる余地があるのは、実質的には最後のひとつだけです。役割も件数も被害額も、すでに起きた事実であり、後から変えることはできません。特殊詐欺の弁護が被害弁償に集中するのは、このためです。
件数が刑を押し上げる仕組み
併合罪という加重
複数の犯罪が同時に裁かれる場合、併合罪として処理されます(刑法45条)。このとき、最も重い罪について定められた刑の長期に、その2分の1を加えた期間が上限となります(刑法47条)。詐欺罪の長期は10年ですから、複数件が併合罪となれば、上限は15年まで広がります。
上限が広がるだけでなく、件数そのものが「繰り返している」という評価につながります。1回限りの関与と、日を空けて何度も繰り返した関与とでは、被害総額が同じでも評価が変わり得ます。
あとから件数が増えていくことがある
特殊詐欺では、逮捕の時点で捜査機関が把握している事件が1件でも、その後の捜査で別の被害と結びつき、再逮捕や追起訴が重なることがあります。とくにキャッシュカードを預かってATMから引き出す形の関与では、金融機関の記録や防犯カメラの映像といった客観的な記録が残るため、日時や金額が特定されやすくなります。
この結果、見通しは時間とともに動きます。最初に聞いた話と、最終的に起訴された件数が違うということが起こり得るため、早い段階で自分が関わった範囲の全体像を弁護人と共有しておくことに意味があります。
罪名が詐欺とは限らない
被害者からキャッシュカードを受け取る際に、別のカードとすり替えて持ち去る手口では、詐欺罪ではなく窃盗罪が問題になります。窃盗罪には罰金刑の定めがあるため、想定される処分の幅がやや異なってきます。自分がどの罪名で捜査されているのかは、見通しに直結する情報です。
被害の回復が特殊詐欺で難しい理由
手元に残っているのは報酬だけ
受け取った現金やカードは、その場で上位の人物に渡すよう指示されているのが通例です。本人の手元に残るのは報酬にあたる金額で、被害額との差が大きくなります。
しかし、量刑上意味を持つのは被害の回復であって、受け取った報酬を返せば足りるという関係にはありません。そこで、弁償の原資を本人以外から用意できるかという現実的な問題が生じます。家族が肩代わりする形になることが多く、事件の影響が家族の生活にまで及ぶのはこのためです。
示談の相手は被害者ごとに存在する
被害者が複数いる場合、示談も被害者ごとに個別に進めることになります。一部の被害者とだけ話がまとまり、他の方とはまとまらない、という状態も起こります。
また、被害に遭われた方がご高齢である事案が多く、代理人からの連絡自体を望まない方もいます。連絡先は捜査機関を通じて確認するのが原則であり、本人やご家族が直接接触を図ることは適切ではなく、かえって不利にはたらくおそれがあります。
全額でなければ意味がないわけではない
全額の弁償が難しい場合でも、できる範囲での支払い、分割による弁済の申し出、謝罪の意思を具体的な形で示すことは、判断の材料になります。相手方が受領を拒む場合には、供託という方法が検討されることもあります。
もっとも、これらを行えば実刑を避けられるという関係ではありません。何をどこまで行ったかが、犯情のうち被害回復の項目にどう反映されるか、という位置づけにとどまります。
「知らなかった」という説明は量刑にどう関わるか
荷物を受け取るだけの仕事だと思っていた、という説明は珍しくありません。ただし、報酬の不自然な高さ、身分証の提出を求められた経緯、指示の受け方、匿名性の高い連絡手段が使われていたことなどの客観的な事情から、詐欺にあたるかもしれないという認識があったと判断されることがあります。
ここで区別しておきたいのは、罪が成立するかという問題と、成立を前提にどの程度の刑にするかという問題は別だという点です。故意が認められた場合でも、加わった経緯や認識の程度は、犯情の評価に影響し得ます。
一方で、犯罪の成立自体を争う方針と、反省と被害弁償を前面に出す方針は、同時に走らせにくい面があります。どちらを選ぶかは事案ごとの判断になるため、供述を重ねる前に弁護人と方針を確認しておくことが望まれます。
一般情状として示せること
犯情で決まった幅の中で、どこに落ち着くかを左右するのが一般情状です。特殊詐欺では、次のような点が具体的に示されているかが見られます。
- 犯罪組織との関係が実際に断たれていること。連絡手段の遮断、使っていた端末や口座の処理など、行動として説明できる形になっているか
- 本人の生活基盤。就労先や就学先が確保され、収入や生活の見通しがあるか
- 監督する人の存在。同居するご家族や雇用主が、何をどのように監督するのかを具体的に述べられるか
- 関与に至った経緯への向き合い方。借金、孤立、脅されて抜けられなかったといった背景が、再発を防ぐ形で解消されているか
いずれも、言葉ではなく状態として示せるかが問われます。「もう関わりません」という表明よりも、実際に連絡が取れない状態になっていることのほうが説得力を持ちます。
なお、執行猶予には保護観察が付されることがあります(刑法25条の2)。保護観察付きの執行猶予は、猶予期間中の生活に一定の制約を伴いますが、社会のなかで生活を続けられるという点で実刑とは大きく異なります。
判決で終わらないもの
刑事の判決とは別に、被害に遭われた方からの損害賠償請求という問題が残ります。複数人が関わった犯行では、関与した人が被害額について連帯して責任を負うと判断されることがあります。受け取った報酬が数万円であっても、請求され得る金額がその範囲にとどまるとは限りません。
また、執行猶予が付いた場合でも有罪判決であることに変わりはなく、前科としての記録は残ります。執行猶予は刑務所に行かずに済む制度であって、事件がなかったことになる制度ではありません。この点は、見通しを立てるうえでの前提として押さえておく必要があります。
20歳未満の場合は枠組みが異なる
20歳未満の場合、原則として家庭裁判所で扱われ、刑罰ではなく保護処分が検討されます。実刑か執行猶予かという枠組みとは別の判断がなされ、少年鑑別所への収容を伴う手続が取られることもあります。
ただし、事案によっては検察官送致を経て、成人と同じ刑事裁判にかけられることがあります。18歳・19歳については、2022年4月に施行された改正少年法により、原則として検察官送致の対象となる事件の範囲が広げられており、より重い法定刑を定めた罪が適用される場合には、この範囲に含まれることがあります。年齢によって進み方が変わるため、早い段階での確認が必要です。
いまの段階でできること
時間の使い方は、手続の段階によって変わります。
- 捜査の段階では、自分がどの範囲の事実に、どういう認識で関わったのかを整理することが出発点になります。曖昧なまま供述を重ねると、後から訂正することが難しくなります。
- 起訴前の段階では、被害者が特定できている事件について、弁償や示談の可能性を探ることになります。この段階で被害が回復すれば、起訴するかどうかの判断そのものに影響し得ます。
- 起訴後の段階では、追起訴の見通しを踏まえながら、弁償と生活環境の調整を並行して進めることになります。判決期日の直前に始めても、形にするだけの時間が足りません。
特殊詐欺の事件は身体拘束が長期に及びやすく、共犯者との関係から接見禁止が付くこともあります。本人が外部と連絡を取りにくい状況では、ご家族が動ける範囲にも限りがあります。弁護人を通じて情報を整理し、優先順位を決めていくことになります。
まとめ
- 詐欺罪には罰金刑がなく、起訴されて有罪となれば実刑か執行猶予かのいずれかになる
- 執行猶予は言い渡される刑が3年以下であることが前提で、まずその枠に収まるかどうかが問われる
- 「初犯」は前科がないという意味であり、起訴される件数が1件であることを意味しない
- 量刑は、犯情で幅が決まり、一般情状で調整されるという二段構えで考えられている
- 事件後に動かせる余地が大きいのは被害の回復と生活環境の調整で、いずれも早い段階から時間をかける必要がある
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