被害者が複数いる|弁償の順序と原資の作り方

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

特殊詐欺に関与してしまった事件では、被害者が一人ではないことが少なくありません。関わった回数だけ被害者がいて、そのうえ手元に残っているのは受け取った報酬の一部だけ、という状況もよく見られます。

 このとき多くの方が、「誰から先に弁償すればよいのか」「そもそもそのお金をどう用意すればよいのか」というところで止まってしまいます。

 この記事では、被害者が複数いる場合の被害弁償について、順序の決め方と原資の作り方を、判断の材料という形で整理します。ご本人が身柄を拘束されていて、ご家族が動いている場面も想定して書いています。

被害者が複数いるときの弁償は、四つの決定に分かれている


 弁償という言葉は一つですが、実際に決めなければならないことは四つに分かれます。

  1. 誰に払うのか(複数いる被害者のうち、どの方から進めるのか)
  2. いくら払うのか(全額なのか、一部なのか)
  3. いつ払うのか(処分が決まる前か、判決の前か、その後か)
  4. どのお金で払うのか(原資をどこから作るのか)


 この四つは切り離せません。用意できる金額が決まらなければ順序も決められませんし、逆に順序の見通しが立たなければ、いくら用意すればよいのかも決まりません。順序と原資は、同時に考える必要があります。

 そして、この四つを決める前に確かめておくべきことがあります。自分が負っている金額が、いま実際にいくら残っているのかという点です。

前提1 自分が負う金額は、受け取った報酬の額ではない


 複数の人が関与して他人に損害を与えた場合、関与した人はそれぞれが損害の全額について賠償の責任を負うと判断され得ます。組織の中でどの役割だったのか、報酬をいくら受け取ったのかは、被害者との関係では区別されません。

 たとえば被害額が三百万円の件で、受け取った報酬が数万円だったとしても、被害者から見れば、請求できる相手の一人であることに変わりはありません。「自分の取り分に相当する額だけ返せばよい」という整理にはならないのが出発点です。

役割の違いは、あとの精算の話として残る


 役割の違いがまったく意味を持たないわけではありません。関与者どうしの内部では、それぞれが負担すべき割合という考え方があり、自分の負担部分を超えて支払った分については、他の関与者に請求できると判断され得ます。

 ただしこれは被害者への支払いを済ませたあとの話です。被害者に対して「自分の割合の分だけ払います」と主張できるという意味ではありません。

前提2 「いくら残っているか」を先に確かめる


 被害額がそのまま、いま支払うべき金額として残っているとは限りません。確認しておきたい経路が二つあります。

口座に残っていた資金から、すでに回復されている場合


 振り込みが使われた事件では、振込先の口座が凍結され、口座に残っていた資金が被害者に分配される仕組みがあります。この分配を受けた場合、被害者が持っている損害賠償請求権は、受け取った額の分だけ消滅します。

 つまり、被害額が三百万円であっても、その一部がすでに被害者のもとに戻っていれば、いま残っている金額はそれより小さくなります。

他の関与者が、すでに支払っている場合


 関与者の一人が被害者に全額を支払えば、同じ損害について他の関与者に請求できる分は残りません。先に別の関与者が弁償を済ませていた場合、こちらが法律上支払うべき金額は残っていないことになります。

 もっとも、示談はあくまで任意の話し合いですので、法律上の義務が残っていなくても、謝罪の意思を形にするために解決金という名目で受け取っていただけることはあります。反対に、すでに解決した話だとして受け取りを断られることもあります。

 いずれにしても、最初にすべきなのは、支払う準備ではなく、いま残っている金額の確認です。これはご本人が拘束されている状態では調べようがない部分を含みますので、弁護人を通じて捜査機関に確認していくことになります。

弁償の順序を決めるときの四つの視点


 全員に全額を同時に、という形が難しい場合、どこから進めるかを決めることになります。判断の材料になるのは、主に次の四つです。

視点見ているもの順序への影響
手続の段階その件がいつ判断されるか判断の時期が近い件が先になりやすい
連絡の可否被害者と連絡が取れるか連絡がつかない件は、順番を待つより別の方法を検討する
残っている金額一件あたりいくら残っているか全額に届く件があれば、その件は解決に至りやすい
被害者の意向受け取る意思があるか受け取り自体を望まない方もいる


 このうち順序を左右しやすいのは、一つ目の手続の段階です。まだ処分が決まっていない件と、すでに起訴されて判決を待っている件とでは、弁償が判断に反映される場面が違います。どの件がいつ判断されるのかは、弁護人が検察官とのやり取りの中で把握していくことになります。

一部の被害者にだけ弁償するのは、不公平ではないか


 被害者が複数いると、限られた資金をどう配るかで迷う方が多くいます。全員に均等に少しずつ配る方法と、一部の方にまとまった額をお渡しする方法があり、どちらが正しいと一律に言えるものではありません。

 均等に配る方法は、どの被害者に対しても誠意を示せる一方で、どの件も解決には至らないまま終わることがあります。まとまった額をお渡しする方法は、その件については解決に近づく一方、他の件が手つかずのまま残ります。

 材料になるのは、それぞれの件がいつ判断されるのか、被害者がどのような意向を持っているのか、そして用意できる資金がどれだけあるのかです。加えて、なぜその順序にしたのかを説明できる形にしておくことにも意味があります。資金が限られる中でどう配分したのかという経過そのものが、事情として説明の対象になるためです。

先に払った人だけが有利になる、という構造ではない


 誤解されやすい点ですが、弁償の効果は支払った本人だけにとどまるとは限りません。被害が回復したという事実は事件全体の評価に関わるため、まだ弁償していない他の関与者にとっても、有利な事情として扱われることがあります。

 自分が支払った分について他の関与者に請求できる建前があるのは、この点とも関係しています。ただし、上位にいた人が特定されていない事案も多く、請求できる建前があることと、実際に回収できることは別だと考えておいたほうがよいでしょう。

原資の作り方1 本人の資産から出す


 最初に検討するのはご本人の資産です。ただし特殊詐欺の事案では、受け取った報酬がすでに使われていることが多く、手元にまとまった資金が残っていないことが珍しくありません。

 実際に原資になり得るものとしては、預貯金のほか、給与、退職金、自動車や貴金属など換価できる財産、保険を解約した場合の返戻金などがあります。一つひとつは大きな額でなくとも、組み合わせることで一件分の弁償に届く場合があります。

身柄を拘束されていると、本人は動けない


 ご本人が留置されている間は、口座からお金を出すことも、物を売ることも本人にはできません。そのため実際には、ご家族が本人の意思を確認しながら手続きを進めることになります。

 何をどう処分してよいのか、どの口座から出すのかを、面会や弁護人を通じて具体的に決めておくと動きやすくなります。判断の時期が近い事案ほど、この点の詰めが遅れると間に合わなくなります。

原資の作り方2 家族が出す場合に決めておくこと


 現実には、ご家族が資金を出す形になることが多くあります。この場合に、先に決めておいたほうがよいことが二つあります。

本人の依頼に基づく形にしておく


 賠償金は、ご本人以外の第三者が支払うこともできます。ただし、その支払いについて法律上の利害関係を持たない第三者は、本人の意思に反して支払うことはできないとされています。親族であるというだけでは、この法律上の利害関係があるとは扱われないのが原則です。

 実務上は、ご本人がご家族に支払いを依頼した形にしておき、示談書にもその点が分かるように記載しておくことで、あとから支払いの効力が問題になる事態を避けやすくなります。

渡すのか、貸すのかを先に決める


 ご家族が出した資金を、あとで本人に返してもらうのか、返さなくてよいものとするのか。ここははっきりさせておいたほうがよい点です。

 返してもらう前提であれば、金額と返済方法を書面にしておきます。返さなくてよいものとする場合は、金額によっては税務上の扱いが問題になることがありますので、大きな資金を動かす前に税理士にご確認ください。

 また、ご家族の生活が立ち行かなくなるほどの負担を負うと、ご本人が社会に戻ったあとの生活基盤まで失われます。出せる範囲をあらかじめ決めておくことも、弁償の設計の一部です。

原資の作り方3 借りて作る場合に考えること


 金融機関や貸金業者からの借入れで原資を作る方もいます。判断の時期までに資金を用意する手段としては現実的ですが、返済は事件が終わったあとも続きます。就労の見通しが立たない状態で借入れを重ねると、社会復帰後の生活が回らなくなることがありますので、返済額が生活を圧迫しない範囲かどうかを先に確認してください。

 分割で支払うという方法もあります。示談の中で分割の約束をすること自体は可能ですが、支払いが終わっていない状態で判断の時期を迎えることになりますので、そこまでにどこまで進んでいるかが見られます。分割にするかどうかも、判断の時期から逆算して決めることになります。

原資にしてはいけないもの


 弁償のために新たに違法な仕事に関わる、正規の貸金業者ではないところから借りる、といった方法は、結果として事件を重ねることになります。弁償を急ぐあまりこうした方向に進んでしまう例は実際にありますが、用意できる金額には限りがあるという前提で組み立ててください。

全額に届かないまま、判断の時期が来たとき


 資金が足りないまま処分や判決の時期を迎えることは、珍しいことではありません。この場合でも取り得る対応は残っています。用意できた分だけを被害弁償として支払う、弁護人が預かって支払いの準備ができていることを示す、被害者に受け取っていただけない場合に法務局へ供託する、被害者への支払いに代えて贖罪寄付を行う、といった方法です。

 いずれも被害者との示談に代わるものではありません。ただ、資金が足りない中で何をしてきたのかという経過は残ります。支払えた金額だけでなく、どうやって用意したのか、なぜその配分にしたのかを説明できる状態にしておくことに意味があります。

未成年の方が関与していた場合


 二十歳未満の方が関与した事案では、親が当然に賠償義務を負うものと受け止められていることがありますが、法律上の整理はもう少し細かいものです。

 ご本人に自分の行為の責任を理解できるだけの能力があると判断される場合、賠償義務を負うのはご本人です。親が責任を負うのは、親自身の監督のあり方に問題があり、それが結果につながったと判断される場合です。中学生以上の年齢であれば、本人に責任能力が認められることが多いといえます。

 もっとも、ご本人に資力がない以上、実際には親が資金を出す形になります。その場合も、前に述べた「本人の依頼に基づく形にする」「渡すのか貸すのかを決める」という点は、同じように当てはまります。

弁償したあとに残るもの


 支払いを終えても、それで全部が終わるとは限りません。

  • 示談書に清算条項がなければ、あとから民事上の請求を受ける余地が残ります
  • 自分の負担部分を超えて支払った分を他の関与者に請求できる場合はありますが、相手が特定されていなければ現実の回収は難しくなります
  • 弁償が終わっていない被害者がいる場合、その方との関係は判決のあとも続きます


 判決が出たあとに弁償を続けることに意味がないわけではありません。支払いを続けているという事実は、その後の生活の中で自分の立場を説明するときの材料になりますし、被害者にとっては回復そのものです。

段階ごとに、いまできること


  1. 残っている金額を確認する(他の関与者の支払い状況、口座からの回復状況を含む)
  2. 被害者ごとに、いつ判断の時期が来るのかを把握する
  3. 用意できる資金の総額と、その出どころを整理する
  4. ご家族が出す場合は、依頼の形と返済の有無を先に決める
  5. 配分の順序を決め、その理由を説明できる形にしておく
  6. 届かない分をどうするかを、判断の時期から逆算して決める


 このうち一つ目と二つ目は、ご本人やご家族だけでは調べようがない部分を含みます。弁護人を通じて捜査機関とやり取りしながら把握していく作業になります。

まとめ


  • 被害者が複数いる場合、弁償は「誰に・いくら・いつ・どの資金で」の四つの決定に分かれます
  • 被害者との関係では、受け取った報酬の額ではなく、損害の全額について責任を負うと判断され得ます
  • 支払う前に、口座からの回復や他の関与者の支払いによって残額が変わっていないかを確認します
  • 順序を左右しやすいのは、どの件がいつ判断されるかという手続の段階です
  • ご家族が資金を出す場合は、本人の依頼に基づく形にし、返済の有無を先に決めておきます
  • 全額に届かない場合でも、一部の支払いや供託など、取り得る対応は残ります


 弁償の順序と原資は、事件全体の見通しと切り離して決めることができません。当事務所では二十四時間体制でご相談を受け付けており、初回のご相談は無料でお受けしています。ご本人が身柄を拘束されている段階でも、即日で接見に伺える場合がありますので、まずはご連絡ください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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