国選と私選はどう違う|途中で切り替えられるのか
「荷物を受け取って、指定された場所に届けるだけ」。そう説明されて引き受けた。あるいは、すでに一度運んでしまった。ご家族から「運んだだけなのに逮捕された」と連絡が来た。この記事は、そうした状況で読まれることを想定しています。
運んだ側の方から最も多く聞かれるのが、「中身が何かは知らなかった」という言葉です。この主張が法律上どう扱われるのかは、実は一言では答えられません。「知らなかった」には性質の違う二つの意味があり、どちらなのかで結論が変わるからです。ここでは、まず運び屋がどの罪に問われ得るのかを整理したうえで、「知らなかった」という主張の位置づけを見ていきます。
「運び屋」という罪名は法律にありません
刑法にも特別法にも、「運び屋罪」という条文はありません。問われるのは、運んだ物ごとに定められた別々の罪です。同じ「荷物を運ぶだけ」でも、中身によって当てはまる法律も刑の重さも大きく変わります。
| 運んだ物 | 問題になり得る主な法律・罪 |
|---|---|
| 詐欺や強盗で得られた現金・商品 | 盗品等運搬罪。事情によっては詐欺罪・窃盗罪の共犯 |
| 覚醒剤などの違法薬物(国内で運搬) | 覚醒剤取締法などの「所持」 |
| 違法薬物(海外から持ち込み) | 覚醒剤取締法などの「輸入」と関税法違反 |
| 通帳・キャッシュカード・携帯電話 | 犯罪収益移転防止法、携帯電話不正利用防止法 |
| 中身を知らされずに預かった荷物 | 上記のいずれか。認識があったかどうかが争点になる |
注意したいのは、「運搬」という行為そのものを処罰する条文は限られているという点です。多くの場合、運搬は「所持」や「共犯」という形で評価されます。「運んだだけで、盗んでもいないし騙してもいない」という感覚と法律上の評価がずれるのは、このためです。
国内で問題になりやすい「盗品等運搬罪」
国内で現金や商品を運んだ場合にまず検討されるのが、刑法256条2項の盗品等運搬罪です。詐欺や窃盗、強盗によって得られた物と知りながら運ぶと成立し得ます。
法定刑は10年以下の拘禁刑及び50万円以下の罰金です。「又は」ではなく「及び」と定められているため、罰金だけで終わる作りになっていません。罰金のみの事件で使われる略式手続によることができず、公開の法廷で審理を受けることになります。
あわせて押さえておきたい点が二つあります。
- 報酬をもらったかどうかは問われません。無償で運んだ場合も対象になり得ます
- 運び始めた時点では知らなかったとしても、途中で盗品等だと気づいたうえで運び続けた場合には成立し得るとされています
二つ目は、「途中でおかしいと思ったが、そのまま届けてしまった」という経過をたどった方に直接関わります。
薬物を運んだ場合
国内で運んだ場合
覚醒剤取締法に「運搬罪」はありません。手元に置いて移動している状態は「所持」として評価されます。覚醒剤の単純所持は10年以下の拘禁刑、営利目的が認められると1年以上の有期拘禁刑となり、情状により罰金が併科されることがあります。報酬を受け取って運んだ場合には、この営利目的の有無が争点になります。
なお大麻は、2024年12月から麻薬及び向精神薬取締法の規制対象として扱われています。
海外から持ち込んだ場合
国境を越えると「輸入」になり、刑の重さが変わります。覚醒剤を営利目的で輸入した場合の法定刑は無期または3年以上の拘禁刑で、情状により1000万円以下の罰金が併科されることがあります。無期が含まれるため、この類型は裁判員裁判の対象です。関税法違反も併せて問題になります。
「現地で荷物を預かって日本に持ち帰る」という依頼が特に重い結果につながり得るのは、この構造によるものです。
「知らなかった」には二つの意味があります
ここからが本題です。刑法38条は、故意についての基本的な考え方を定めています。
①中身を知らなかった(事実を知らなかった)
同条一項は「罪を犯す意思がない行為は、罰しない」と定めています。薬物の罪にも盗品等に関する罪にも、過失で行った場合を処罰する規定は置かれていません。したがって、荷物の中身についての認識が本当になかったのであれば、その罪は成立しないことになります。
②犯罪だとは知らなかった(法律を知らなかった)
一方で同条三項は、「法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない」と定めています。中身は分かっていたが、それを運ぶことが犯罪だとは思わなかった、という主張では故意は否定されません。ただし同項のただし書きは、情状により刑を減軽することができるとしています。
ご自身の「知らなかった」がどちらなのかを整理しないまま話し始めると、①のつもりで述べた内容が②として記録に残ってしまうことがあります。
「はっきりとは知らなかった」場合の扱い
実際に多いのは、①と②の中間です。「何か良くない物だとは思ったが、薬物とまでは思わなかった」という状態です。
この点について最高裁は、覚醒剤の輸入・所持の故意について、覚醒剤を含む身体に有害で違法な薬物類であるという認識があれば足りるという考え方を示しています。「覚醒剤かもしれないし、ほかの違法薬物かもしれない」という程度の認識でも、故意に欠けるところはないとされました。
「危ないものかもしれないが、それでもかまわない」と考えて引き受けた場合も同様です。中身を確定的に知っている必要はありません。
故意は、本人の言葉ではなく事情から判断されます
「知らなかった」と述べても、それだけで認められるわけではありません。捜査機関や裁判所は、周囲の事情を積み重ねて認識の有無を推し量ります。裁判例で重視されてきたのは、次のような事情です。
- 依頼の内容や、依頼者との関係が不自然でなかったか
- 運搬という仕事に対して報酬が見合っていたか
- 渡航費や宿泊費、経費を依頼者側が負担していなかったか
- 連絡手段が匿名性の高いアプリに限られていなかったか
- 中身を確認しない約束や、確認できない渡され方ではなかったか
- 荷物の重さや形状に、説明と食い違う点がなかったか
逆に、こうした推認を弱める事情もあります。以前から付き合いのある相手からの依頼だった、隠し場所を作ったのは自分ではなく中身を知る機会がなかった、報酬が特に高額ではなかった、といった事情です。個々の事情がどの程度の重みを持つかは、事案ごとに変わります。
お気づきの方もいると思いますが、ここに並ぶ項目は、闇バイトの募集を見分けるチェックポイントとほぼ同じです。応募する前に「怪しい」と判断できる材料は、あとから「気づいていたはずだ」と評価される材料でもあります。
思っていたより重い物だった場合
「たばこやブランド品を運ぶと聞いていた」という説明がなされることがあります。この場面で働くのが、刑法38条2項です。
同項は、重い罪に当たる行為をしたが、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない、と定めています。運んだ物が薬物だとは認識していなかったのであれば、薬物についての重い罪で処断することはできない、ということになります。
ただし、これで責任がすべてなくなるわけではありません。自分が認識していた範囲の違反、たとえば申告せずに物品を持ち込むことについて認識があったのであれば、その部分の責任は残り得ます。そして結局のところ、「本当に薬物だとは思っていなかったのか」は、前の章に挙げた事情から判断されることになります。
海外で運んだ場合の注意点
外務省は2025年4月、違法薬物の運び屋として意図せず加担してしまう事案について注意喚起を出しています。挙げられているのは、SNSの高額アルバイトに応募したところ航空券やホテル代を先方が手配し、現地で預かったスーツケースから大麻等が見つかった例と、旅先で知り合った相手から「親戚にお土産を渡してほしい」と頼まれた例です。
荷物の最終目的地が特定されず世界各国が運び先になっていること、応募者は使い捨ての要員として扱われ、現地当局に拘束されても組織は助けないことが指摘されています。
押さえておきたいのは、海外で拘束された場合、「知らなかった」という説明が日本の刑事手続と同じように扱われるとは限らないという点です。国によって、故意の立証の枠組みも刑の重さも異なります。
この段階でできること
まだ運んでいない場合
中身を確認できない荷物を預かる約束をしている段階であれば、まだ選べる余地があります。やり取りの記録を残したうえで、警察や弁護士に相談することが考えられます。荷物を受け取る前と後とでは、置かれる立場が変わります。
すでに運んでしまった場合
- 依頼の経緯を、日付が分かる形で書き出しておく
- 募集の投稿、やり取り、送金の記録を消さずに保存する
- 荷物をどのように受け取り、どこへ渡したかを、覚えているうちに記録する
- 報酬を受け取っている場合は、使わずに手元に置いておく
- 今後の連絡にどう対応するかは、決める前に相談する
やり取りを削除したくなる方は少なくありませんが、消えるのは相手の手元にある情報ではなく、ご自身の説明を裏づける材料のほうです。「本当に知らなかった」という説明ほど、記録がなければ支えることが難しくなります。
もう一点、率直にお伝えしておきます。中身が分かっていたのに「知らなかった」と述べ続けた場合、その説明が客観的な証拠と食い違えば、不合理な弁解を続けたと評価され、当初から事実を認めていた場合より重い判断につながることがあります。どう説明するかは、材料を整理してから決めるべきことです。
ご家族が逮捕されたと連絡が来た場合
運搬役の事件では、共犯者が複数いることが通常です。口裏合わせを疑われやすく、身体拘束が長引いたり、面会が制限されたりすることがあります。ご家族から見ると、何があったのか分からないまま時間だけが過ぎる状態になりがちです。
この段階でご家族ができるのは、本人が受け取った荷物や報酬に関わる物を勝手に処分しないこと、そして早い段階で弁護士に接見を依頼することです。本人が最初にどう説明したかは、その後の見通しに影響します。
弁護士にできること
運び屋の事件でまず行うのは、何をどこまで認識していたのかを、ご本人と一緒に切り分ける作業です。中身についての認識、違法だという認識、営利目的の有無は、それぞれ別の問題です。まとめて「認めます」と述べてしまうと、あとから分けて主張することが難しくなります。
当事務所では24時間体制でご相談を受け付けており、初回のご相談は無料です。逮捕されている方への接見は、即日対応が可能な場合があります。出頭に同行する対応は全国で可能ですが、移動にかかる実費は別途必要になります。弁護士には守秘義務があり、ご相談の内容をご本人の同意なく外部にお伝えすることはありません。
まとめ
- 「運び屋罪」という条文はなく、運んだ物ごとに別の罪が問題になります
- 国内で現金や商品を運んだ場合の盗品等運搬罪は、罰金だけで終わる作りになっていません
- 「知らなかった」は、中身を知らなかった場合と、犯罪だと知らなかった場合とで扱いが異なります
- 「違法な薬物かもしれない」という程度の認識でも、故意が認められることがあります
- 故意は依頼の不自然さや報酬といった事情から判断されるため、記録を残しておくことがご自身の説明を支えます


