マナーうんちく話92≪優雅さが自慢!和の作法≫
フレンチやイタリアンなど、洋食における殻付きのエスカルゴや牡蠣やカニなどは、添えられた専用の道具やフークなどを上手に使いこなすことがポイントです。
一方和食の会席料理は箸だけで食すことが多いので結構難しいですね。
蛤、浅利、蜆などの吸い物は器の扱い方や食べ方にも作法があり、特に気を使いますね。
しかし、なぜそうするの?という理屈も理解しておけば比較的簡単に振舞うことができるでしょう。
吸い物は香りが大切です。
このことを頭に入れて次の要領を参考にして下さい。
〇左手でお椀を抑えて右手で蓋を取ります。
器がお盆の中にあるときには、蓋はお盆の外、右側にあおむけに置きます。
吸い物に限らず、炊き合わせ等の蓋を置くときには両手で扱ってください。
〇お椀を両手で取り上げ、香りをかいで、汁を一口いただきます。
〇次に器を左手でもち、右手で箸を取り上げ、汁の実をつまんでいただきます。
※蛤、蜆、浅利の吸い物やみそ汁の場合も、椀の中で貝の実をつまんで、貝の殻は椀の中に入れておきます。
〇食べ終わったら、元通りに蓋をして下さい。
また蟹料理は細長いスプンが添えられる時もありますが、食べ放題のような時は別として、改まった席では、そのまま口に運ばずに、いったん取り皿に移します。ここがポイントになります。
そして箸に持ち替えて、一呼吸おいて、口に運べばいいでしょう。
私はテーブルマナー講座ではこのように説明しますが、時と場合を考えて振舞ってくださいね。
品格はこのようなところに出ます。
だから、人を見るには共に食事をするのがいいと思うわけです。
普段の食卓でも味噌汁や吸い物は日常的だと思いますが、日頃の心掛けが大切です。
そして味噌汁や吸い物をいただくときには、箸先に注意してください。
箸先は相手に向けず、器の中に入れるということです。
これはぜひ心がけて下さいね。
洋食も和食もテーブルマナーの基本は相手に不快感を与えないことです。
フォークやナイフの刃先や箸の先は鋭利になっており、相手に威圧感を与えるので、相手に向けてはいけないということです。
ちなみに、婚礼用の蛤の吸い物は「潮汁」とも言い、日本文化の象徴であり、実においしく栄養価も高いのですが、汁だけ味わい、実は食べません。
「勿体ない」という言葉が頭をよぎると思いますが、《蛤の吸い物を食って叱られる》という江戸時代の川柳があります。
マナーには「なぜそうするの?」という合理的理由が存在するのですが、私も明確な理由はわかりません。
あくまで私の個人的意見ですが、恐らく婚礼の蛤の吸い物は胃袋を満たすのではなく、儀式用だからだと思います。
例えば「お食い初め」の儀式でもご馳走を用意しますが、食べる真似をするだけですね。
日本では昔から冠婚葬祭を大変大事にしてきました。
そして様々な儀礼には、それにふさわしい特別な食材や調理をお供えしますが、それら一つ一つには感謝や祈りや祈願の意味が込められています。
ただ長年結納や結婚式の披露宴に携わり、蛤の吸い物とはご縁を沢山いただきましたが、汁だけ吸って、実を残されたお客様はそんなにいらっしゃらなかった気がします。
和食マナー講座で、参加者にお尋ねしても「実を残す」と答える人はほとんどいません。もちろん美味しく食べればいいと考えます。
ちなみに雛祭りに「ちらしずし」を食べる、これといったいわれはありません。
しいて言えば縁起担ぎだからでしょう。
「寿司」は「寿ぐ」を「司る」ので縁起が良いからでしょう。
さらに具材にも縁起のいい海の幸、山の幸が多く使用されます。
錦糸卵は財宝に恵まれる、海老は長寿にあやかる、レンコンは見通しがいい、菜の花は春らしい、イクラは子宝に恵まれるといわれます。
正月のお節料理の食材と似ています。
ところでAT全盛の時代になった今でも、縁起を担ぐという行為は不思議に昔と変わりませんね。
むしろ昔より派手になった感もあります。
逆に縁起を担がないようになれば経済は大打撃を受けるのではないでしょうか