マナーうんちく話459≪手土産の渡し方①「玄関先」≫
新元号は「梅」と密接な関係があるようですが、日本中はただ今桜色に染まる絶好の季節で花見全盛の時節を迎えています。
ところで「梅」は玄関の中百花に先駆けて花を咲かせるので「春告げ草」と呼ばれ、大変めでたいものの象徴ですが、一方「桜」と「米」が深い関係にあることをご存知でしょうか。
ちなみに「さくら」の語源ですが、さくらの「さ」は「田の神様」を意味します。
そしてさくらの「くら」は「座」のいみです。
従って「さくら」は神様が鎮座される場所という説があります。
春になったら農作業を行うわけですが、桜が咲く頃になると山の神様が村のふもとに降りてこられます。
その際「依り代」になるのが「さくら」だといわれています。
だから村人たちは桜が咲くと、そこにご馳走や酒を持参し、桜を囲んで山の神様とともに宴を楽しみます。
このコラムで何度も取り上げた「神人共食文化」で、山の神様をご馳走や酒でおもてなしをするということです。
正月におせち料理で歳神様をもてなししますが、それと同じですね。
桜を囲んで山の神様をおもてなししたら、神様をふもとにお招きして今度は「山の神様」から「田の神様」になっていただくわけですね。
田の神様はこれから始まる「田植え」が無事終わり、秋には豊作が迎えられるように見守ってくださるわけです。
だから農家にとって、桜の花は米と密接な関係がある大変神聖な花でもあります。
そういえば田植えを経験した人はご存知だと思いますが、「苗代」から、田へ植え替える時期の稲の苗は「早苗」といいます。
日本人女性の名前にもなっています。
そしてその苗を、田植えの日に田に植える女性を「早乙女(さおとめ)」といいます。
現代でも田に祭壇を設け、山の神を迎え、その前で早乙女が田植えをする神事がありますが、もともと田植えは女性がする仕事だったようです。
桜の花を農作業の目安にした先人の気持ちが理解できる気がしますが、日本の農耕文化は大変豊かです。
「和食」がユネスコの無形文化遺産に登録された理由の一つに、年中行事との深いかかわりがあげられますが、米を主食にし、正月を寿ぐ日本人ならぜひ知っておきたい「しきたり」です。
私は例年この時期には講演の冒頭でこのような話をしますが、多くの方が結構興味を抱かれます。
ちなみに奈良時代には中国からの留学生が、中国から「梅」を持ち帰り、奈良時代の貴族は自分の屋敷の庭に梅を植え、それを愛でるのがステータスだったようです。
そのせいでしょうか、万葉集にも多くの花が登場しますが、梅は萩に続き、2番目に多く詠まれています。従って当時の花見は桜ではなく梅であったことが容易に想像できます。
やがて武士の台頭とともに花見は「梅」から「桜」に変わり、江戸時代になると庶民が弁当持参で花見を楽しむようになります。