マナーうんちく話92≪優雅さが自慢!和の作法≫
一匹丸ごとの魚、つまり尾頭がついたまま出された場合はそれなりのテクニックが必要です。
昔からこのような魚をきれいに食べる人のことを、「猫が食べたように美しく食べる」と例えられましたが見倣いたいものですね。
ただし人間には文化があります。
魚を食す際には感謝の気持ちで美しく食べることが求められます。
ところで日本には食前・食後に感謝の心を表現する言葉があります。
自分の命を長らえるために魚や牛や豚や卵や野菜の命を頂くという「いただきます」と、料理をつくってくれたひとへの感謝の言葉である「ごちそうさま」です。
つまり魚を感謝の気持ちで食べるということは、ありのままの姿で食べなければいけないということです。
尾頭が付いた魚を裏返して食べるということは、その魚を食べる人の都合に合わして食べるということですから、魚の命を頂く食べ方としては良くないという理屈になるわけです。
さらに補足すると、神道を信仰し、稲作を中心とした農耕文化で栄えた日本では、何かにつけ神事を執り行います。
そして五穀豊穣、家内安全、子孫繁栄などを祈願するわけですが、その神事に当たり野菜や酒や魚をお供えします。
魚も神様にお供えするのですから、一匹丸ごとの新鮮で美しい魚が求められます。尾頭付きの魚です。
そして無事神事が終われば、神事に参加した人たちで、お供え物を下げて、食べるわけですが、いずれも神様にお供えした食べ物ですから、真摯な気持ちで食さなければなりません。
つまり《ありのままの状態》で、命に感謝しながら食べるということです。
裏返すという行為は、ありのままではなくなるから、上側の身を食べたら、背骨や頭を外して、下の身を食べます。
下の身を食べ終えたら、小骨や皮、さらに果汁をかけた柑橘類なども、皿の奥側にまとめればいいでしょう。
特にめでたい席での会食には尾頭付きの魚料理はつきものです。
予め懐紙をお忘れなく。
また、この美しい食べ方は、考え方は異なりますが、洋食の魚料理にも応用できるのでぜひ覚えておいて下さい。
和食がユネスコの無形文化遺産に登録された理由の一つに年中行事との深いかかわりがありますが、豊かな精神文化を含んだ素晴らしい文化だと思います。