マナーうんちく話89≪箸と椀。どちらが先?≫
【聖徳太子が公式の場で使用】
「マナーうんちく話」でも箸について度々触れて参りましたが、先日「箸の先を左にする理由」について質問を受けましたので解説しておきます。
箸は日本人にとって毎日ご縁がある小道具ですから、使い方のみならず、その知識にも色々と拘ってみたいものです。
箸の起源は諸説ありますが、その発祥は中国というのが有力です。
恐らく人間が火を使うようになって、食べ物を焼いたり、煮たりして食べるようになると、素手では食べ難いので、箸という小道具が生まれたのでしょう。
そして中国に留学していた僧が日本に持ち帰り、これを聖徳太子が食法として公式の場で定着させたと言われています。
【箸先が左になる理由とは?】
ところで、洋食のフォーク・ナイフなどは縦に置きますが、日本では箸を縦には置きません。
横に置き、尖っている方(先)を左に向けます。
右利きの人には使い勝手がいいので自然な置き方ですが、実はこれには他の理由があります。
箸の先から太陽のパワーを吸収するためです。
世界中の共通の考えだと思いますが、太陽は地球を支配する圧倒的な存在であり、世界各地で太陽は崇拝されていました。
今でも太陽の光を浴びると身体にエネルギーが満ち、活力が湧いてきますが、昔は太陽への依存心が、私たちが考える以上に大きく、太陽暦といった暦が出来たり、信仰の対象になったわけですね。
「冬至」や「夏至」に行われる様々な行事もそうですね。
このように命はまさに太陽の恵みだと考えられていたので、そのパワーを食事の時にも箸を通じて頂こうということです。
太陽は東から昇り、西に沈みます。
だから、太陽のパワーが充満している方向は東になります。
現在のように照明器具が発達していない昔は、人が何かを行おうとすれば、大抵の人は明るい方に向かいます。
中国においても、天帝が政治を司る時にも、南を向いて重臣や大衆を諭したと言われています。
これに伴い、南に向いて座り、箸の先を太陽の力が漲っている東に向ければ、箸の先がおのずと左になるので、「箸先は左」に向けることが定着しました。
【左上位の考えもこの理屈による】
国際儀礼では「右上位」を採用していますが、日本では昔から「左上位」です。
左大臣と右大臣では左大臣が上位ですが、この理屈も箸の置き方と似ています。
天皇が南に向いて座れば、太陽が昇る方向の東は左になるので、左にすわる大臣、つまり「左大臣」が、右に座る右大臣より上位になります。
また、西洋では、方位を示す時の基準は北でしたが、中国では、家を立てる時も、人に道を尋ねる時も、南を基準にしていたようですね。
だから、人が人として道を踏み外さないように正しく教え導くことを「指南」というわけです。
ちなみに、正面が南になれば、背中は北になります。
背を向けて退散することを「敗北」と言うのはこのためです。
また、和食のテーブルマナーで、「左利き」の人の箸使い等のマナーについて質問を受けますが、できれば右で持つようにお勧めしています。
昔は左の手が清浄で、右が不浄であるという考えもあったようです。