マナーうんちく話502≪会話の中に季節の話題を積極的に!≫
田んぼを耕し、水を張って、苗代を作り、苗を育てるわけですが、程良く育った苗を、今度は広い田んぼに植え替えなければいけません。
これが日本の「田植え」です。
最近は田植えも機械化され、スピーディーに行うことが出来ますが、田植え機が開発されるまでは全て手作業です。
水の張った田んぼに入り、腰をかがめて、数本ずつ束ねた苗を、手で植えて行くわけですから、かなりの重労働です。
幼い頃に父母や祖父母に「一粒のコメも無駄にするな」とか「米を粗末にしたら目がつぶれ」等と諭された人も多いと思いますが、狭い農地の、日本の米作りは本当に大変だったわけです。
私が主催する「和食のテーブルマナー講座」は、このような理由で、感謝の気持ちで食事をすることを大切にします。
これが出来れば、やがて周囲の色々な人への感謝の気持ちが芽生えます。
6月6日は、二十四節季のひとつ「芒種(ボウシュ)」です。
稲のように穂の出る植物の種をまく頃を意味します。
今や、二十四節季の中でも、なじみの薄い言葉になっていますが、米を主食のしている日本人として、是非心にとめて頂きたい言葉です。
だから、コラムでも色々な角度から「芒種」を取り上げています。
ところで、田植えに関連する言葉に「早乙女」がありますが、ご存知でしょうか?
「夏は来ぬ」の歌の二番に、《さみだれの そそぐ山田に 早乙女が 裳裾濡らして 玉苗植うる 夏は来ぬ》と有ります。
今から約120年前に発表された唱歌ですから、難しい表現が多々ありますが、中年以降の人なら、一度は口ずさんだ歌ではないでしょうか?
早乙女(さおとめ)は田植えに携わる女性です。
「さ」は「早苗」等と同じように、田植えに関連する接頭語です。
但し、田植えに従事する全ての女性ではなく、特別な役割を担う女性です。
特別な役割とは、豊作を祈願する神事です。
このコラムでも既に触れましたが、桜の咲く時期になると、村人たちは「山の神」をお迎えして、村にお越しいただき「田の神」になって頂きます。
そして、田植えの時期になると、特定の水田に斎場を用意して田の神をお迎えして、その前で田植えを行います。
そこに登場する、紺の単(ひとえ)の赤だすきに白い手拭をかぶった菅笠(すげがさ)の女性が早乙女です。
早乙女は苗字や地名にも使用されていますが、「田植えという神聖な儀式において、田の神に奉仕する特別な女性」と認識して頂ければいいと思います。
今でも、日本各地で田植えに早乙女が登場する行事が見られ、新聞でもテレビでも取り上げられています。
このような行事を見る機会が有れば、「田の神様に豊作を祈る行事」で、とても神聖な儀式だと思って頂ければ嬉しいです。
「稲=イネ=命根」という説があります。
それくらい日本人と稲との結びつきは深いということです。
最近、和食に関するマナー講演の依頼を様々な分野からいただきます。
食育や教育に携わる方を始め、各種女性部、企業、病院や行政、地域団体、老人クラブなど等・・・。
和食の基本知識、箸や器の扱い方もお話ししますが、時間が許せばこのようなお話をふんだんに取り入れます。
毎回、非常に深い関心を寄せて頂き、リピートも多く、大変嬉しく思うわけです。次回は「命の根」にふれてみます。