マナーうんちく話494≪和顔愛語≫
先日「七十二候」のお話をしましたが、丁度今頃は、七番目の候で、桃の花が笑う頃で、中国では「桃始華」、日本では「桃始笑」と表現します。
先人たちは、花が咲く事を「笑う」と言ったのですね。
但し、これは旧暦ですから、晴れの国岡山で桃の花が咲くのは例年だと一月先ですが、今朝の朝刊に桜が開花した記事が掲載されていましたので、この分だと桃の花も今年は早まりそうですね。
桃は枝にそって艶やかな多くの花を咲かせるのはご承知の通りですが、美しさもさることながら、穢れを払い、安産に通じるので、「桃の節句」を彩る花をして昔から重宝されています。
そのせいでしょうか、俗世界を離れた素晴らしい「ユートピア」の事を、「桃源郷」と言います。また、「李も桃も桃の内(すもももももももものうち)」という早口言葉もお馴染みです。
さて、今日は江戸しぐさの中の「挨拶」を取り上げます。
江戸しぐさは、江戸庶民が、より良く生きるための思いやりの心を形に表した、生活の知恵だとお話ししましたが、それには、庶民同士が序列をつけずに、対等に暮らすことが大切なわけです。
ところで皆さんは、職場で部下や年下の者から、「お早うございます」と挨拶されたらどのように答えますか?
概ね次のように別れると思います。
①偉そうに「ハイ!」と答える。
②言葉は発しないで、ただ頷くだけ。
③「お早う」と答える。
④「お早うございます」と答える。
職場の雰囲気や個人の性格により多少は異なると思いますが、圧倒的に多いのは③ではないでしょうか。
ところが江戸しぐさでは、老若男女関係なく、「お早うございます」と挨拶されたら、「お早うございます」で答えたそうです。
後輩や部下は、年長者や上司から、微笑みを添えて「お早うございます」と、丁寧に答えてもらったら嬉しいですよね。
さらに、江戸しぐさの挨拶は、いくら年上や金持といえども、挨拶されたら、それに答えるのではなく、このコラムでも度々触れたように、気が付いた方から、上下に関係なく、挨拶していたそうです。
これは現代人が大いに見習うべきことだと思います。
前にもお話ししたように、マナーとは、上に立つ人や指導的立場にある人が率先して身に付け、実践するものです。
それでは、これがなぜ「お早うございます」と挨拶されて、「お早う」と答えるようになったかと言いますと、どうやら明治になり、富国強兵制度のもとに作られた軍隊に、その理由が有るようです。
軍隊で、厳しい階級制度が敷かれ、それに伴い、上下関係の言葉遣いが大きく変化して、現在に至ったということです。
軍隊が出来、多くの若者や男性が徴兵されたり、軍需工場で働かされるようになるわけですが、言葉遣いだけでなく、軍事機密も必要になります。
軍需工場でも機密保持のために、そこで働いている工員は、家庭で無駄口を叩かないように強制され、そのせいで、当時の日本の家庭の食卓から会話が激減したようです。だから今でも、コミュニケーションが苦手な人が多いですね
中国には、桃や李は大変美しい花を咲かせるので、多くの人が集まり、道なきところにも道ができると言う言い伝えが有ります。
桃の花が美しく咲く頃には、新入生や新入社員が入ってきます。
挨拶は、彼らとのコミュニケーションの基本の基本です。
迎える先輩や上司が、江戸しぐさに見習った挨拶をしてあげれば、多くの不安を抱いてくる彼らも、ホット心がなごむのではないでしょうか?
素敵なマナーを皆で発揮するのに、経費は不要です。
しかし、その効果は大きいですよ。
今日はホワイトデーでお返しをされる男性も多いと思います。
折角の品物です。是非、優しい言葉を添えて差し上げて下さい。