マナーうんちく話553≪「和の作法」と「一回一動作」のお勧め≫
恵みの雨を受け、県南ではあちらこちらで「田植え」が始まりました。
日本の稲作は弥生時代頃からだとされていましたが、最近の研究ではさらにさかのぼるそうですね。
ところで、水田で栽培される稲を「水稲(すいとう)」、畑で栽培される稲を「陸稲(りくとう)」と言いますが、収穫した稲から、「米」「米ぬか」「わら」「もみがら」が採れるのをご存知でしょうか?
それらは、すべて日本人の日常生活や、年中行事、神事の中に溶け込んでおり、いずれも、なくてはならないものばかりです。
今でこそ、農機具の発達により効率的に栽培できますが、稲作が始まって以来、昭和40年頃までの何千年もの間、人の手で田植えが繰り返し行われ、大変重労働だったわけです。
だから稲から採れる、米も、米ぬかも、もみがらも、わらも残すところなく大切にしてきたのでしょうね。そして、このような重労働は、一人ではできないので、隣近所、親族等が力を合わせ共同で行い、絆を深めてきました。
その米を食すのに、日本は箸を使用しますが、それだけに箸使いにも、先人のこだわりが伺えます。
どのようなものを、どんなときに、どのようにして食べるか?
箸にも「祝い箸」「割箸」「塗り箸」という格式を定めたわけです。
日本人らしい発想ですね。
「神人共食箸」である祝い箸については、これまで度々触れてきましたので、今回は、「おもてなしの心」で作られた「割箸」について解説します。
箸は、中国、朝鮮半島、台湾、東南アジアの一部で使用されていますが、それらの国では箸は共有しております。「マイ箸」といわれるように、自分だけの箸を使うのは、恐らく日本人だけの文化だと思います。
裏を返せば、箸は下着と同じで、他人と共有したくないものなのですね。
そのような視点で、割箸は江戸時代に、お客様を「おもてなしする」という発想で作られたようです。
そして、木の目に沿って割るから、割り箸という名前になったそうです。
割り箸は、「この箸はあなただけのために用意しましたよ!」という贅沢な箸ですが、もてなしの心をたいせつにし、清潔好きの日本人ならではの発想ですね。使い捨てで、衛生的で、便利が良く、軽くて使い易い。さらに、箸を割る時の心地良い感触、ほのかな香りと木の目の美しさ等など、すぐれた特徴を沢山備えております。
しかし、時として、割箸は、環境保護の視点から悪者扱いされますが、これはおかしいと思います。
もともと森で伐採したスギやヒノキを、建材や家具などに効率的に利用し、廃材となったものを、さらに大事に使い、割箸に加工したのが割り箸です。
稲を、米・米ぬか・わら・もみ等として全て有効利用したように、資源の乏しい日本では、木も余すところなく使い切ったわけです。
今で言う「究極のエコ」だったわけですね。
ところで、「割箸」を、どのように、使用されていますでしょうか?
殆どの人が垂直に持って左右に割っていますが、「水平に持って上下に割る」ことをお勧めします。理由は、左右に割ると、隣の人に当たるとまずいからです。
所作が美しく、人にも思いやりの有る割方は、膝の上の位置で、割れた方が左に来るように、割り箸の中央部分を水平に持ち、左手で箸の下側を、右手で上側を持ち、上下に割ります。
くれぐれも割った箸を、こすり合わせたり、水につけたりしないでくださいね。
また、使い終えて箸袋に入れる時は、袋の端を2-3センチ折って入れると、「これは使用済みの箸ですよ!」と言う「思いやり」になります。
日本人は年間、割箸を約240億本使用するそうです。
その一本一本の割り箸が、思いやりの心と共に、美しい所作で使用されれば、日本はもっともっと平和な国になるのでは?と思っています。。