古宮昇先生講演会
京都コムニタスでは、独自の授業として必修の授業があります。今回2回にわたって、塾生の方々が、心理職について語ってくれましたが、その際にもよく「必修」という言葉がでてきますが、それがこの授業のことです。
自分の授業を自分で必修と名付けるのも勇気がいりますが、創業以来20年間、私は一貫してこの授業を続けてきました。合格するためにも、合格後のためにも必要だと考えており、必修と名付けています。
心理職大全にもエッセンスは書きましたので、ご覧いただければと思います。
大枠は①「適性磨き」②「思考磨き」③「志望理由」+「研究計画」④「面接対策」+「集団討論対策」になります。これらを半年タームで年二周するイメージで毎年やってきました。京都コムニタスに初めて来られた方々から、当塾のことで最も多く質問をいただくのは、必修という授業についてです。必修の授業は、当塾のオリジナルのものです。基本的には私自身の経験を下地に、私たちが手がける入試の合格から、入学後の生活をうまくやっていくために必要な要素をできるだけたくさん盛り込んだ内容になっています。大学という機関で生活するとはどういうことか、研究をするとはどういうことか、こういったことも話していきます。私としては、学科の能力を高めるという意味でもこの必修を受けてもらいたいと考えています。必修の授業を全部語り尽くすのはかなりの文量を要しなかなか難しいのですが、ここでは必修の授業の要点と枠組みを順を追って説明したいと思います。
ここからは、かなり長くなりますが、連載で必修の授業について、最初から最後まで述べていきたいと思います。
今回はアウトラインです。
必修の基本理念
必修の授業は、どの分野の方にも共通して受けていただいています。必修は一言で言えば、学科以外で入試に必要なことを一手に行う授業です。本来は学科以外でやらねばならないことの方が多いのです。入試と入学後に目を向けた場合、英語と専門科目だけができていれば、問題がないかというと、決してそんなことはありません。まずは論理的に考えることができなければ、どんな分野に進んでもうまくいきません。論理的思考力のある人が「今自分にできること」がわかります。論理的思考力が身に付けば、「他者が求めていること」もわかります。両方がわかれば、どんな行動をすればよいかもわかります。また論理的思考力が身に付けば、学科での「論述」ができるようになります。論述をするには、「事実に基づく」という意味がわかりますし、「根拠」「証拠」を提示しながら言葉を作ることができます。それによって「筋道」を通した物の考え方ができます。それができると、いったん、出た結論に対して「じゃあ、これはどうなる?」とさらに疑問をかぶせて、それについて考えて、また結論を出して、また疑問をかぶせて、を繰り返していくことができます。これが「深く考える」ことです。これができると、深く考えた上で話すことができるようになりますから、自分の発言や行動に理由をつけられるようになります。そうすると、不用意な発言や「そんなつもりじゃなかった」なんてことを言わなくてよくなります。つまり自分の発言に責任を持つようになります。
必修の授業は、このようにして、良い循環を作ることを念頭においてセッティングをしています。
その意味で、まず論理的思考の枠(フレーム)を提示し、フレームに沿って考えるという作業を体感していただきます。基本フレームは「問いの設定」「回答(仮説)」「証拠」「方向性」です。まずは問いの設定ができなければ、次に進めないといっても言い過ぎではないでしょう。そのためこの問いの設定の説明から始めます。問いの設定をしていくには、幅広い知識を要します。それには幅広い興味を持つ必要があります。幅広い興味を持つには観察が必要になります。あらゆる学問をするにはまず観察から始まります。何を観察するのかというと、私たちが日常持っている知識、常識です。「世間」という言葉は気をつけなければなりません。常識を常識と決めつけず、事実であるかどうかをよく見て、対象から情報を引き出します。例えば、自分の座っている椅子一つ取ってみても、よく観察をしてみると、情報が満載です。何かしら文字情報が書いてあるかもしれません。だとすると、それを読めなければなりません。特殊な言語や文字が書いてあったならば、それを読める人こそが専門家ということになります。そして、例えば「何が書いてあるのだろう」と疑問を作ります。興味を持つということは、すなわち疑問を持つことです。これは人工的にできます。自然発生物ではありません。例えば、興味のある人に出会えば、まず最初に質問をすると思います。そして、「出身はどこですか」「好きな食べ物はなんですか」など、疑問詞をつけた疑問文で質問をするのが通常です。これをオープンクエスチョンと言います。この疑問文が、研究の質を決めます。できるだけよい疑問文を作る能力を身につけることが、その後の研究計画や志望理由の作成に役立ってくれます。また、大学院入試や編入入試で、必ずと言って良いほど聞かれることの一つに「何がしたい?」というものがあります。これに回答する方法として、自分のたてた問いに答えたいということがあげられます。あるいは、証拠探しの旅をしたい、ということも言えます。証拠探しの旅とは、例えば考古学なら、遺跡掘りに行くことであり、文献学なら文献を読むことです。どんな文献をどんな理由で読みたいと考えているのかを言えればOKです。
必修の授業のスタートラインは、このフレームを身につけるところから始まります。
次に必修の授業の目的は、各人が論理的に考えることで、「良い循環」を作れるようになることです。論理的思考力が身に付いていなければ、すぐに「悪循環」に陥ります。必修はそうならないための予防策でもあります。良い循環を作ることは容易ではありませんが、悪循環にならないようにすることは、ある程度方法があります。この点については、何度か述べてきましたが、まずはエラーチェックです。詳細は省きますが、エラーは思考と身体とがあり、まずは思考のエラーを改善することを、必修では優先します。思考のエラーチェックにはREBTを応用します。方法として、まずは不安や怒りなどの不健康でネガティブな感情に気付くことから始めます。その感情から自滅的行動につながっていた場合、間違いなくチェック対象です。そこには根拠のない思い込みがあります。その思い込みを言語化し、適切な形に変えることによって、感情も適度なものに変えます。この作業を先にしておくことに意味があります。これをしておかないと、例えば不安にとりつかれたまま勉強をしても、どんどん不安になっていき、成果があがらないのです。これを本当の意味で効率が悪いと言います。効率が悪いとは、試験に出ないかもしれない勉強をすることではなく、不安を根拠に自分の行動を決めることです。無駄なのは、例えば「どうせ何をしても無駄」「私なんてどうせ無理」などといった、どうどうめぐりにしかならない思考であり、うまくいかない自分を責めることです。私はエラー思考の三原則として「できないから」「嫌だから」「○○さんが△△をしてくれる(してくれない)から」をあげています。このエラーは誰でもしてしまうものですが、これに気づき、修正することが重要です。またエラー思考の多くは偏っていることが多く、私たちは知らない間に差別や偏見を無知に基づいてもってしまっています。エラーを修正するということは、バランスの良い思考を手に入れることでもあり、「ちょうどいい」「適度」「適切」といった言葉の意味を身体で覚えることも意味しています。例えば、私たちは夏には半袖、エアコンの下で生活しますし、冬はあったかい服に暖房のもとに生活します。それは要するに「ちょうどいい」ものを探して見つけた結果です。しかし、何かが偏ったり、バランスを崩すと、「どうでもいい」などという思考が頭を席巻し、暑いときにさらに暑くなるような生活をしたり、体調を悪くすることもあります、その意味では「健康でネガティブの獲得」は極めて重要だと考えています。その延長線上に、研究計画、志望理由、面接対策などがあるのです。これらは、私たちが手掛ける入試で重要なトピックであることは間違いないので、十分な準備が必要です。
あまり意識されていないことが多いのですが、学科以外の項目は、むしろ重要なものが多く、これらが合否を分けることもよくあります。場合によっては、ゼロに近い点数がついていることもあるのです。しかし、多くの人は、不合格の要因を学科にしか求めないもので、その要因を英単語だけに求めるケースが最も多いと思います。大学院入試や編入入試は総合力が重要です。やはり、悪循環に陥り安い人は、そのままだと良い循環は巡って来ません。何事においてもと言えると思いますが、うまくいく人は、良い循環を手に入れています。必修は総合力を身に付けることによって、この良い循環を体感してもらったり、あるいは悪循環に気付いてもらい、そこから脱する方法を体感してもらう授業でもあります。
必修の授業では、エラーチェックのトピックが終わると、「こんなことをやってはダメよ集」に進みます。ここでは、ある一定のことを言ったり、書いたりすると、それが致命傷になりかねないことを伝えます。どのようなことかというと、例えば、過去の人が当塾に来る前の志望理由書で、どこに出しても通用しなかったというより、あちらこちらで叱られたという代物が残っています。それは、その名も「編入学志望理由書」です。いつも言っていることですが、志望理由書とは、その学校、その学科、その資格でなければならない理由であって、一番良い理由ではないのです。ましてや「編入学理由書」というのはあまりにも杜撰で、おそらく、どこにでも出せるように作ったものだと思われます。しかし、こういったものは逆にどこに出しても通用しません。通常の志望理由書の場合、そこでなければならない理由である以上、自分がその学校でできることを書くはずです。「○○ができないから、だから貴学に行きたい」という理屈はおかしいのはわかりやすいと思います。だからこそ、○○先生の講義を受けて、自分のキャリアを活かした研究がしてみたい、などという発想につながるはずです。しかし、どこにでも通用するものを書こうとすると、できることを書いてしまうと、フィットしない学校が出てきてしまいます。「うちの学校ではこれはできませんね」と言われると、そこまでになってしまうからです。そうすると、不思議なことに、「できないこと」「できなかったこと」をたくさん主張するものができてしまいます。ひどいものになると、「何もできない私」「だから、編入学したい」という理屈を主張してしまうケースが多いのです。これは最悪のケースです。書類もテストのうちですから、当然、できる人とできない人とでは、できる人に目が留まります。できないことを主張してもいいのならば、どこの学校でも、どこの学科でも共通して志望ができてしまうということです。書いている人は、ほぼ無意識なのだと思います。こういった無意識的に生じてしまうことに気づいて、これをしないようにしておくことが三番目です。こういった文章を書いてしまうのは、意外とプロが多いのが厄介なところです。自信満々でとんでもないことを書いている志望理由書対策書もありますので、要注意です。
それでは、じゃあどうする?編が必要になります。論理的思考のフレームを身に付け、自らの中にあるエラーのチェックができて、不健康でネガティブな感情処理ができるようになり、その上、受験において、あるいは書類作成において「こんなことをしてはダメよ」ということを知り、さらにその先ということになります。必修の授業の中でやることは、過去の人の書いた、研究計画や志望理由を見てもらうことです。10年以上継続していると、かなりの蓄積があります。中には、かなり特徴のあるもの、自己調査をしたもの、当たり障りのないもの、上手なもの、チャレンジングなもの、などなど、いろいろな評価ができるものがそろっています。また例えば京都ノートルダム女子大学だと、研究計画、志望理由、卒論要旨をそれぞれ1500字程度で書かねばなりませんので、かなりのボリュームになります。一方京都光華女子大学はそれぞれ600字程度です。両方受験する人は、結構な手間がかかります。だいたいどの学校がどのような書類を、どの程度の量で要求してくるかは、それなりに安定していますので、変動が少ないところです。ただし、立命館大学は最近3000字が2000字になりましたし、花園大学はインターネット上で提出できるようになりましたので、手書きの手間が減りました。いずれにせよ、過去の人の書類は、通常の過去問以上に参考になります。すべて合格者のものですので、それなりの力があるのと同時に、どの程度の水準で書けばよいのかという目安にもなります。
それぞれの書類には、それぞれのドラマが詰まっており、しっかりとした思い入れを盛り込んで書いてあります。自分にしか書けないものを書いています。また、受験する学校にのみ適応するように書いています。志望理由であればその学校でなければならない理由が書いてあります。しかし、これらは、いずれも簡単にできたものではありません。ほぼすべての書類作成に私は関わりますが、当然ながら、どれ一つ同じものはありませんし、借用することもありません。それぞれの人が「何がしたいのか」ということを明確に引き出した上で、さらにそれを少しずつ具体化していき、時間の許す限り納得のいく書類を作ります。ここで大事なことは、本人が納得のいく書類を作ることです。決して、受験校に迎合した形で書くわけではありません。確かに大学の先生は、研究計画書を見て、自分たちが指導できるかどうかを考えます。大阪経済大学の古宮先生もそう仰ったことがあります。しかし、当塾では、大学に合わせることよりも、まず自分が本当の意味で何をしたいのかを突き詰めた上で、それを形にすることを最優先課題としています。その上で、研究計画と志望理由に分岐します。志望理由は、その学校でなければならないに理由に展開していきます。研究計画は料理のレシピと同様、具体的に何をつくるのかということをイメージしていきます。実際に作っていく作業は、授業外で個別に作っていきます。必修の授業はそのために全員に適合する情報を提供して、構えを作るということを重視しています。
研究計画や志望理由について、一通りの説明が終わると、次は面接対策に移ります。京都コムニタスでは面接対策にかなりの力を注ぎます。そのため、約2ヶ月時間をかけて、最終的には集団討論の実践までを行います。面接は、私たちが手掛ける受験では、必須と言えます。配点が高いところも多く、臨床心理士指定大学院では、兵庫教育大学が300点、帝塚山大学が200点です。また例えば東海大学の医学部編入では10分間プレゼンテーションが課せられたり、複数回の面接が課せられたりと、学科以上に面接が重視されていることがうかがえます。
面接の点数を高める方法は、一様ではなく、相手方の多様な観点に耐えうるように自分を作ることを考える必要があります。そのため、必修では、過去の人がどのような質問を受けたか、といった単純な対策をするのではなく、根本的に自分を見つめ直すところから始めます。すでにエラーチェックから始めていますので、自分を見つめ直す装置は身体に埋め込まれているはずですので、この段階で比較的入っていきやすい状態になっています。面接は受験の中でも最も緊張する場面ですので、やはり、入り口は不安対策からになります。あらためて、REBTの解説と、不安低減の実例を示し、自分の不安と向き合う重要性を示します。手順は、①不健康でネガティブな感情への気づき②そのイラショナルビリーフの知覚③ラショナルビリーフへの変換④健康でネガティブな感情の獲得。このようになります。しかし、そう簡単にできれば苦労はしませんので、少しずつ実践してもらうようにしています。その次に、過去の面接質問集を一通り見てもらいます。そこには様々なドラマがありますので、そのドラマの披露と解説をします。例えば、「試験どうでしたか?」という質問に対し、「身の程知らずでした。すみません」と、なぜかあやまった人がいましたが、その人は「そう、身の程知らずだったのね。じゃあ終わりましょう」と言われ、そこで試合終了になってしまいました。これは悲劇です。しかし、ちょっとした一言が決定打になっていることはたくさんあり、やはり慎重な回答をするにはどうすればよいのかを解説していきます。それが終わると、一通りのマナー集もやります。以前、写真に関するコラムを書きましたが、写真も意外に重要です。また服装も適切な服装で行きましょう。これはいわゆる常識の範囲内でいいと思います。マナー集が終わると、以降は質問タイムです。これについては面接対策の仕方について などこれまでいくつか書いてきました。当塾での面接対策の仕上げは、塾生の側に質問を大量に作ってもらい、それに私がすべてに回答するというやり方です。この方法でやると、いわゆる想定外がなくなります。この質問タイムにかなりの時間を割くのですが、慣れてくると、塾生からの質問が止まらなくなります。こうなるとかなり良い状態ができあがっています。話し口調で話すこともできていますし、アドリブの意味もわかります。臨機応変も少しわかってきます。こういったキーワードが整ってくると、討論への準備ができてきますので、最後に討論の練習をして、受験直前ということになります。
必修の授業の最終局面は集団討論になります。これはアウトプットの練習にもなります。他人の前で話すことに対する抵抗感を減らしていきます。また、集団の意味を考えてもらいます。さらに討論とは何かを考えてもらいます。その上で、公認心理師でもよく話題になる「連携」「協働」といった言葉の意味を考え、実感してもらうことを目的とします。昔は立命館、京都教育、龍谷といった大学が主たる集団討論を課す学校でしたが、最近は臨床心理士指定大学院ではほとんどなくなってしまいました。医学部学士編入、就職活動ではいまだに課されます。あまり実践で使うことがなくなってきているのが残念です。
私が必修を通して伝えたいこと、身につけて欲しいことを再度流れにしてまとめると、
①論理的思考力を身につけること
1.フレームで考えること
2.根拠、証拠でもって事実に基づいた思考をすること
(嘘はつかない)
3.疑問をしっかりもつこと
4.疑問に合わせた回答(仮説)を作ること
5.それを裏付ける証拠を出して、筋道をたてて考えること
6.結果に対して「じゃあどうする」と方向性を考えること
これらの一つずつを開くとさらに説明が増えますが、今はおきます。
この論理的思考のもとに論文検索もあります。
②思考のエラーをチェックできるようになること
1.エラーの三原則を知った上で、REBTで言うところのイラショナルビリーフに気づくこと
2.思考が感情を作っていることを知り、思考をコントロールすれば感情のコントロールにつながることを知ること
3.明らかにおかしいと思える文章や考え方を見て、「おかしいものはおかしい」と考えられるようになること(こんなことをしてはダメよ集)
4.おかしな考え方は、人工的に変えられるということを知ること
5.実際に変えてみること
③じゃあどうするを考えてみる(書類対策)
1.実際に過去の合格者の研究計画や志望理由書を見る
2.志望理由や研究計画の基本を知る
3.学校ごとの書類を見たり、内部生のものを見たり、特徴をつかむ
④面接対策
1.思考のエラーチェック(再)
2.適性を知る=相手が求める人材像を知る
3.言葉のエラーチェック(カミングアウトの禁止から)
4.バランス感覚を知る(完璧主義、極端主義を離れる)
5.質問をできるだけたくさん作って、こちらに聞く
6.適切な回答を知る
7.面接マナー講習
8.集団討論対策
以上が必修の授業の骨格です。
これらの一つひとつにさらに肉付けがされて授業が構成されていきます。その中には時事的な問題が入ったり、小論文の書き方、そもそも論文とは何か、宗教、文化なども多少は入ります。研究方法や調査方法などの情報も入ります。肉付けの仕方は時代によって少しずつ変化するものです。特にコロナ禍において、社会はダイナミックに変化しました。それに対応していくことも必修の授業の役割であろうと思っています。
次回からは①「適性磨き」②「思考磨き」③「志望理由」+「研究計画」④「面接対策」+「集団討論対策」の各トピックを深掘りして、必修の全貌をお見せしたいと思います。
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