古宮昇先生講演会
目次
大学院受験勉強を始めたとき、まず感じる未経験の不安
大学院受験は、人生においてとても重要なイベントですが、大学受験とは質が大きく異なります。昔から言っているのは、大学受験はスピードスケートで、大学院受験はフィギュアスケートと質が同じだということです。
例えばこちら
スピードスケートはタイムがすべてであり、ユニフォームも性格もそのタイムを縮めるために必要ではあっても、審査員などの第三者に訴えかけるものではありません。一方、フィギュアスケートは、すべてが審査員に向けられたもので、大げさかもしれませんが、その人の人生が問われます。やはり、その人に合った衣装、その人にあった演技構成が点数を伸ばします。大学院受験はこちら側の競技ですので、本番での受験生の心理状態はとても重要になります。とくに「不安」という感情はとても重要かつやっかいな感情ですので、自らの不安に対する知見を高めておく必要があります。
不安から生じる孤独を感じたらまずは私たちに相談してください
京都コムニタスでは心理系大学院を受験する人が大半ですが、どの人も、この勉強を始める前にもすでに多くの不安を感じて、それを乗り越えて受験をすることを決意します。そして、いざ受験勉強を始めて、だいたい2~3ヶ月は我慢の期間ですが、まず「何から始めたらいいのか?」「どのようなことをしないといけないのか?」などと「わからない」「雲をつかむような」といった不安は総じて襲ってきます。
これはとても重要なことですが、この種の不安は誰にでも発生します。この不安から、「自分だけだ」「自分だけ劣っている」「他のみんなすごい」というさらなる不安が発生し、「何でこんなこと始めたんだろう」という気持ちも湧いてきます。
しかし、繰り返しですが、どの人にも発生します。私は20年間京都コムニタスを運営してきて、この種の不安に常に出会ってきましたし、多かれ少なかれ、ほぼ全員にあります。だから安心できるわけではありませんが、「自分だけ」ということはないということと、この「自分だけ」が「孤独」に導いてしまいます。大学院受験の最大の敵は不安ではなく、不安から導かれる孤独だと、私は確信しています。
この不安を感じたらまずは私たちに相談をして欲しいと願っています。放っておくと、負のスパイラルにはまってしまうケースが多いと思います。
負のスパイラルの回避はEQが鍵
負のスパイラルをわざわざ今作ることは避ける必要がありますし、それをしないことが智慧のはずです。今、私たちにできることは、自重であって、負のスパイラルを作らない、負のスパイラルにならない智慧を出すことと、複雑に絡み合ったスパイラルの要因を剥がしていく作業をすべきです。
EQについては、これまで何度か触れてきましたが、私たちが受けてきた教育では、感情に関するものは全くありませんでした。だから感情処理について全く方法を知りません。特に不安という感情は様々なところに広がり、私たちに災いをもたらすことが多くあります。日本人の貯蓄の多さは世界トップクラスですが、不安の反映でもあります。でも不安は誤った思い込みに起因しますので、やはりいきすぎた自滅的行動に結びつきやすくなることが考えられます。
面白い話があります。ある人は貯金が1億円あることを自慢しています。その人は老後にそれだけ必要と主張します。しかし、まだ収入は普通の人よりも十分多くあり、その1億円を切り崩す必要はありません。でもその人は「何があるかわからない」といいます。だから貯めておかねばならないともいいます。返す刀で、日本の不景気は政府の無策のせいだといいます。国家予算の数倍の貯蓄がある国は異常だ。だから国内に金がまわらず、不景気になるのだ。政府がもっと財政出動して、景気対策すべきだと。こんな話を大まじめに言っているのですが、何かおかしくはないでしょうか?貯蓄1億以上ある人がみんなこんな人だったらどうなるのでしょうか?考えてみる必要があります。貯金が1億円ある人が、日本の不景気を全部政府の無策のせいにすることについて、ちょっとおかしくはないかと問いました。どこがおかしいかというと、1億円なんて持っている人はそうはいないと思いますが、それだけ持っている人がお金を使ってくれなければ、国内に流通するお金は減ります。それなのに自分は何も悪くない。全部政府のせいと言っても、政府がその人たちをターゲットにして、お金を使わせる政策をうったとしても多分その人は1億円を切り崩さないでしょう。要するに不安な人は1億あっても10億あっても不安です。
元凶は「何があるかわからないから」という思い込みの言葉でしょう。これは重要キーワードです。最近よく聞いています。例えば、「周囲が私のことをどう考えているかわからないから・・・・」「将来どうなるかわからないから、だから・・・・」かくいう私も年何回使ったかわからないくらい使っています。でもこれを使うと余計に不安になり、余計に不適切な行動を取っていることに気づくことがあります。
不安処理方法も学びましょう
不安とは不思議な感情で、誰でも不安になります。ポジティブに見れば、不安や怒りや恐怖、罪悪感といった不健康でネガティブな感情に意味がないとは言いません。例えば怒りは、漠然としたストレスを形にして、処理することが可能ですし、恐怖はブレーキになります。罪悪感は、自分の再構築に役立つこともあります。不安にも「不安力」なんてことを名乗る本もあるくらいですからそれなりに意味があると考える人もいます。「どうしよう」という考えは事態を一旦ストップさせて、慎重さを与えてくれます。
しかし、これらの感情は持ち続けていても、その後実質的には何も与えてくれません。不安を抱えていた方が単語一個覚えさせてくれるかというと、エネルギーを余分に使うだけです。不健康でネガティブな感情は、少なくとも大学院受験では余分な感情です。
「少しでも余計な(気がする)科目を勉強するのは時間の無駄」
これは典型的な不健康でネガティブな感情で不安が生み出す思念です。例えば、自分の能力に自信が持てず、範囲の大きさに愕然とし、不安がよぎると、こういった思考が発生します。「受験生普遍的不安症候群」とでも名付けています。年齢も、性別も、学力も、偏差値も何も関係のないところからこんな思考が生まれるというのはよく考えてみれば恐るべきことです。まずこれをセルフヘルプで処理をしておくことが望ましいと言えます。
方法については以前書きました。これは「不安が生じたらどうしようという不安」ではなく、不安が生じてからの対処ということになります。
例えば、よく言われることですが、受験まであと3日だとして、
「もう3日しかない」ととらえるか、「まだあと3日ある」
ととらえるかで、どちらがうまくいくかと言えば、これまでの経験値から見てもやはり後者の方です。これを「ポジティブ思考」ととるか、「ネガティブをやめた思考」ととるかと言えば、やはり後者ととらえるのが妥当かと考えます。
私は、「ネガティブ思考は良くないが、何でもポジティブなら良いというものではない」と考えるようにしています。つまり、ネガティブな思考や、それを震源地とする不安などの感情に気づいて、それを処理した上で、「まだあと3日ある」と考えたいのです。自分の思考の中で「もう3日しかない」と考えるより、「まだあと3日ある」と考えた方が、自分にとって利益性が高いと気づいた人が最もうまくいくと、考えられます。このような処理をせずに、ただネガティブを否定して、「とにかくポジティブ」という思考にスライドさせても、あまり問題の解決にはなっていません。
もちろん、私と異なる考え方もあります。それほど大きく異なるわけではありませんが、どちらかというとネガティブ思考を否定する傾向にあると思われます。特に間違っていると思われる点はありませんので、こういった考え方もあるかなぁと思えるものです。
「どうしよう」を「どうする」に切り替える
どのような方法をとるにせよ、ネガティブ思考に拘束されてしまい、がんじがらめになってしまい、「もうだめだ」という思考が頭によぎったとき、そのときこそむしろ「どうするか」と考えるように、頭の中に筋道ができていることが重要です。プロセスはどれでも構いませんし、自分なりのプロセスを組み立てておけばよいと思います。「どうする?」思考は、生きるための思考です。災害に追いかけられた時も「どうする?」と考えている人は生きることを考えているはずです。そこに「あきらめる」という選択肢はないと思います。不合理なことはあきらめなけれならないことはたくさんあります。災害が押し寄せた時に、「全くの無傷で助からねばならない」と考えていたのでは、余計なダメージを受ける可能性が高くなります。多少の傷は仕方がないとして、今できる、生きることを目的とした最大限重要なことを適切に遂行することは、「どうする?」という思考から生まれると考えられるのです。
受験でも同じです。受験は災害ではありませんが、追い込まれる思考になることは共通します。残り3日の自分の現状をよく把握して、その上でよく相手を知り、今できる最大限の準備をすることが求められます。思考ができていない人は「これをすれば正解」というものを求めます。思考ができている人は、自分に必要なことに気づいた上で、それを可能な限り獲得しようとします。この差は非常に大きく、面接にも反映します。
あと3日になったとして、ネガティブ思考が生じるのは当然です。そのネガティブ思考と感情に気づき、その上で、まだ3日もあると考えます。その裏付けとして、自分が3日でできることを知っているということが前提になります。そして残り3日で自分の任務を定めて、それを目一杯遂行します。その際、どうしてもあきらめなければならないこともあるということです。でもそれは入試をあきらめるということではないのです。
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