いわゆる発達障害と芸能人

井上博文

井上博文

テーマ:雑感

とある芸能人が、自分がいわゆる発達障害であると「告白」するということは時々あります。最近は、SNSを使って、様々に発信できますから、売れていようとも、そうでなかろうと、一般人が目にする情報のバリューは「芸能人からの情報」としての重さで伝わります。
私は仕事柄、発達障害とされる(された)という人とよく話します。皆さん、それぞれ真剣に、自分の問題について話してくれます。皆さん自分なりに精一杯生きていこうとして、どうやれば生きやすくなるのか、多かれ少なかれ考えています。問題のあり方は個々人で大いに異なりますから、悩みのあり方も多種多様です。

語弊を承知で言いますが、芸能人が自身の発達障害を商売に利用するのは、はっきり言えば、迷惑です。その安直な発言がどれほど多くの発達障害とされる人たちを傷つけるかは、無理なのでしょうが、多少は考えることはできないものかと思います。発達障害と言っても様々ありますが、芸能人が、それを言うことで、まずアホで無知で不勉強なメディアが十把一絡げにそれを取り上げます。そして、最初から無理解でセンセーショナルかつウソの釣り見出しを付けます。それをさらに輪をかけてアホなネットメディアや、運が悪いとこの世の最悪の兵器であるテレビメディアが嗅ぎつけて、さらに破壊力を増幅させて、視聴者に「私はそうではない」と思わせる情報にすり替えて、問題の本質など、どこか遠くかなたに排除して、無数の人々の差別と偏見を煽って、生み出して、増強していきます。

芸能人は、特に売れていない人は、それが宣伝になって、動画に広告がついたりするのでしょう。さらにその種の報道に対して、「怒り」「悲しみ」を表明することで、引っ張って、さらなる偏見を世に広めて、また広告収入を得るのでしょう。

しかし、その背後には、数え切れない発達障害の人がおり、本来受けることもなかった差別や偏見にさらされるのです。本当に、この種のメディアは芸能人も含めて世の害悪です。

少し前、兵庫県のある大学を訪問して、そこの先生と長時間話しをさせていただきました。そこで教えていただいたのはフロイトの「抑圧」でした。私たちは、毎日、仕事に行ったり、学校に行ったり、私も先日飛行機に乗って仙台に行きました。こういった日常を送っていますが、幸い無事に帰ってきて、また次の日、日常を送っています。しかし、実は、私たちは明日を無事に迎えられるという保証もなければ、根拠も持ち合わせていないことを、なんとなく知っています。抑圧は、その時に生じる不安や恐怖を抑え込んで、一時的(場合によっては恒久的に)に忘れることで保っているのです。それを正常と考えがちですが、それは多数派であるに過ぎず、実際は、根拠のないことを信じてもいないのに、信じたような気になっているだけです。いわゆる発達障害の人の中で、それを信じることができないと言う人がいます。やはり根拠がないからだそうです。
ふと、冷静に考えると「根拠のないものをなんとなく忘れて信じる」のと「根拠がないから信じられない」というのと、どちらが「正常」なのか、わからなくなります。確かにそんな恐怖に日々苛まれていると、生活をしにくいのは間違いありませんが、それは果たして、障害や異常なのか、と言われると(たいていご本人は自分はそうだ言います)、本当にわからなくなります。私は、日々必修の授業で根拠や証拠の大切さを説いています。その私とて明日の我が身の根拠のないことを恐怖に感じるはずが抑圧して、頭をよぎったとしても「まぁ、大丈夫だろう」「そんなことばかり言っていても生活にならん」なんてことを考えて、また押し込めて生きています。果たしてそれが正常か、バランスが良いとはそういうことか?わからなくなります。

おそらくわからないことが正常なのだろうと想像しています。たぶん、どちらかが正常とか、異常とかいうことではないのだろうと思います。無意識がどう押さえ込んでくれるかの違いはあるのでしょうが、いずれにしても、たいていの人は「普通」に生活できています。「自分ではない」人を指して正常とか異常とか言うのは、かなりの躊躇を要します。

「異常」なメディアは、一度くらい真面目に考えて欲しいものです。


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井上博文(塾講師)

株式会社コムニタス

塾長以下、スタッフが、全ての生徒の状態を正確に把握している。生徒をよく観察し、成長度合、どのような不安や悩みを抱えているか、をしっかりと観察し、スタッフ間で情報共有をしている。

井上博文プロは京都新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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