「低学歴国」ニッポン 

井上博文

井上博文

テーマ:雑感

日経が低学歴ニッポン 革新先導へ博士生かせという記事を掲載していました。これから大学院に行こうと考える人には是非読んでいただきたい記事です。

引用します。
「「Ph・D(博士)が活躍する職場をつくりたい」。フリーマーケットアプリ大手のメルカリは今年から国内の大学院博士課程に社員を送り出す。研究職の社員以外も対象で、原則3年間の学費を支給。時短勤務や休職を認め、仕事と研究の両立に道をひらく。」
ちょっと感動しました。私にそんな力がないので、読んでいて少し心が痛くなりました。でも、こんな方法もあるのかと、目を見開かされました。
ちょっと長いですが、次の引用は多くの人の読んでいただきたいです。

「文部科学省科学技術・学術政策研究所によると、日本は人口100万人当たりの博士号取得者数で米英独韓4カ国を大きく下回る。減少は中国も加えた6カ国中、日本だけだ。2007年に276人いた米国での博士号取得者も17年は117人に減少。国別順位は21位だ。
注目度の高い科学論文数の国際順位は1990年代前半までの世界3位が2018年は10位に落ちた。同じ平成の30年間に産業競争力も低落。イノベーションの担い手を育てる仕組みの弱さが産学の地盤沈下を招いた。
根っこには大学院への評価の低さがある。どの大学に合格したかが企業の採用基準になる社会では、学びは学部に入った時点で終わり。研究を志す学生だけが集う大学院の魅力が高まるはずはなかった。過剰な学歴批判や、学問より社会経験を重視する一種の「反知性主義」も大学院軽視の岩盤を強固にした。」

この「根っこ」の部分は、私自身長年言い続けてきたことです。誤解を恐れずに言いますが、この国が低学歴化していることは、もはや古い話で、今更感満載です。海外から見ればとっくの昔にこの国は低学歴社会です。イギリス出身の同業にこれを言われるとつい腹が立ってしまいますが、要するに図星だからです。「反知性主義」でかつ息を吐くように嘘をつく者が国や自治体のトップに立ってきた失われた悪夢の悲劇の8年間で、この国はとてつもなく多くの力を失いました。こういう言い方をすると、「左翼」「右翼」だと言いたがる輩が発生するようですが、この種の輩は「正しいかどうかなどどうでもいい」のだそうです。要するに自分が好きならそれでいいのだ、と。こういう連中の中には、ホシュを名乗り、「論破」などという言葉が好きな人も増えていると聞きますが、これも所詮単純二項対立でしか見えない者同士でしか成り立たない話でしょう。
花園大学の師茂樹先生の最新作『最澄と徳一』(岩波新書)では、最澄と徳一という日本仏教史の傑物2人の対立を複雑な当時の日本仏教社会のあり方を可能な限り俯瞰して、正確な2人の論争を読み解こうとしておられます。その中で師先生は、こんな二項対立で単純化して理解しようとすることは、知的(おそらく倫理的)怠慢だと喝破しておられます。全くその通りだと思います。ロシアとウクライナもそうですが、何かの対立を単純な二項対立で理解することはできません。事実はもっともっと複雑な構造のはずですが、それを描こうとすると理解を放棄する人が多くなっています。そしてわかりやすい(感じがする)二項対立を勝手に描き、あるいはそれを描く知性の足りない政治禍やメディアの戦略に乗ってしまう人が増えています。これは日本の低学歴化が招いた悲劇です。古代ローマ、ユヴェナリスの名句「パンとサーカス」同様の現象が不可避になってきているのだと思います。
こうなると、自分の都合の良い情報だけに目を向けるようになり、自分の不快な情報からは目を背けてしまい、自分の気にいったことを言ってくれる人は味方、さもなくば敵という、恐ろしい単純二項対立が生まれてしまうと、世界の危機です。

どのようなことであれ、自分の理解が及ばないことなど無数にありますが、そこに目を背けず、視線を向け続けて、考え続ける重要性を、私は20年近く言い続けてきました。右だの左だの、明日には違うことになって、説明がつかなくなることなどどうでもいいことです。ロシアやウクライナを理解するには、トルコもフィンランドも、アメリカもNATOもドイツもフランスも、皇帝のいたロシアも、ソ連も、なんならナポレオンも、もっともっと全部理解して、世界地図と年表を描き、その上で学説たちに目を向け、「なぜあんなことになっている?」という問いを発することを放棄することを、私は、少なくとも自分には認めていません。それでも、私の力では全部わからないので、遠からず、ロシアの専門家が当塾にいるので、講座をしてもらおうと相談中です。
こうした知的営為は、大学院に行ったからこそ思いつくのだと思います。記事にあるような、現代社会でのイノベーションは、間違いなく知的営為から生まれます。反知性主義は何も生まないのです。

ただし、政治の責任だけではないと思います。企業も大学も同罪だと思います。しかし、政治があまりにも無能すぎると、その悲劇は限りがありません。8年という月日は、一人の大学院生を地獄に追いやるには十分な時間です。この私とて、先輩と友人を失ったり、失いかけたことがあります。事情を深く知ると、背景を作った連中に対して許せない気持ちに、今もなります。国会に出ている政治禍だけではなく、申し訳ありませんが、大学の先生方ももっと院生の将来に真剣に取り組んでいただきたいと、心から願っています。もうすぐ出る本にも書いたのですが、私が願うのは、どの人も大学院に行き、そして大学院を出たあと、しっかり食べていける社会になることであり、彼らがその力を大学院で身につけることです。それ以上でもそれ以下でもありません。

しかし、一方で、日本の博士たちを見ていると、申し訳ないのですが、(自分のことはいったん棚にあげて)あまりにも力がないと思います。後輩にも、博士を取って、今、居酒屋でアルバイトをしている男がいますが、40歳を超えています。我が身を嘆くことも、それほどあるわけでもありませんが、だからと言って、何か気概を見せるかというとそうでもありません。彼らがもっと強い意志を持って、あらゆる視点からイノベーションを起こすようになっていってくれれば、良い循環が生まれるはずです。これからも(というか残り少なくなりつつある自分の人生)そこに力を注いでいきたいと思っています。


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井上博文(塾講師)

株式会社コムニタス

塾長以下、スタッフが、全ての生徒の状態を正確に把握している。生徒をよく観察し、成長度合、どのような不安や悩みを抱えているか、をしっかりと観察し、スタッフ間で情報共有をしている。

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