専門家の力を軽視するなかれ

井上博文

井上博文

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臨床心理士や公認心理師は心の専門家です。専門家とは何か、と言われるといろいろな言い方があると思いますが、私個人としては、「あの人のところに行けば何とかしてくれる人」と大雑把な言い方ではそう考えています。例えば、家の倉庫を整理していたら古文書らしきものが出てきたとします。当然一般の人は何が書いてあるのかは読めません。本屋に行って、本を探してもおそらく何を手に取ればいいかわからないでしょう。ネット検索をしてもまず届かないでしょう。こういった時に、おそらくネット検索する人は、自分で読むことよりも、読める人を探すことにシフトチェンジするはずです。この作業が専門家を探す作業になります。今はネットで簡単に探せる分、質が問われることになります。
その意味では、専門家の力は非常に重要ですし、専門外の人は、専門家の能力を軽視すべきではありません。その専門家は常に養成しておかなければ、その技はすぐに継承されず途絶えてしまいます。だから大学は専門家の養成機関として非常に重要な役割を担います。大学に行かなければ手に入らない専門技術が「専門」と言われる種の中で最も多いからです。大学に行っては全く得られない専門能力を探す方が難しいくらいです。

最近では専門職大学院というものもできています。臨床心理士指定大学院もいくつかあります。法科大学院もその部類に入りますが、臨床心理士とは少し意味が異なります。いずれにせよ、専門家の養成こそが大学や大学院の最も言って良い重要な仕事と言えます。

しかし、最近、専門家が軽視されるケースが増えてきています。総理大臣や内閣は言うまでもありませんので、ここでは言及しません。日本企業には昔からあるのですが、「大学で学んだことなど意味がない」という風潮はいまだに根強くあります。殺し文句は「それ、何の役に立つの?」です。確かに、一般人にはわからないような有用性も、学問分野にはたくさんあります。しかし、この国は、大学受験を人生の最上位に置き、大学の中での勉強を軽視し、あまり勉強をせずに就職してしまうという現象は今もあり、大学が就職専門学校と化している面は否めません。そのため、一時大学が生き残りをかけて、資格学校化に舵を切ったケースもたくさんありました。しかし、これは結局うまくいったかと言うと、そうではなかったと思われます。
今のところ、善し悪しはさておき、高校生の多くは「都会の有名大学に現役で入って、中で学びたいことができて、4年で就職すればいい」くらいの感覚が一般的です。「どこでもいいから資格と大卒資格がとれればいい」と考えている人はかなり減ったと思われます。もちろん、今は多様化しているので一概に言えない面もありますが、この感覚は実は私の世代が学生であった時とあまり変わっていないのです。大学で教えていると、肌感覚としてよくわかるのですが、変化があるのは、施設の方で、どんどん進化しています。しかし、学生のあり方は、時代が止まっているのではないかと思うくらい変わっていません。変わったのはスマホを持っていることくらいです。授業開始前に着席している9割くらいの生徒がスマホを真剣な顔で見ている光景は、私たちの世代にはありませんでした。スマホがなかったからです。あれば同じだったのだろうと思います。逆説ですが、結局学生のあり方は変わっていないということです。

今の時代、大卒者は18歳人口の約半分です。進学率は2005年に男子が50%をこえ、2009年に男女あわせて50%をこえてから、以後ほぼ横ばい状態です。少子化は進んでいますので、大学に進学する絶対数が減っているということです。もちろん、これですぐに専門職者の継承ができなくなるということではありませんが、閉鎖されたり、補助金が打ち切られる確率はどんどん増えています。その意味で、今は大学の施設の充実ぶり、大学における見た目の学生数の多さから、大学が危機にあるという実感はあまりありませんが、危機は忍び寄ってきていることは間違いありません。

最近のコロナウイルスの問題で、目に見えないウイルスと戦うには(実際に英語ではfightと言います)、専門知識を持った人以外に無理です。見えない敵と戦うのは怖いですし、見えたら見えたでもっと怖いです。とても素人の戦える相手でありません。大航海時代や新大陸発見の時代の開拓者たちの勇気と犠牲を現代人の素人に強いるのは酷です。だからといって専門家を万能視しすぎるのも違います。同じ人間ですし、専門家とて知らないものは知りません。世界中で解明されていないことなどわかりません。それでも未知のウイルスのことについては、彼らの経験から来る知識に耳を傾けることはとても大切なことです。

政治が腐敗すると、その波及効果の怖さをまざまざと見せつけられる昨今で、専門家の言葉さえ歪められてしまうところが大変残念です。しかし、こういった未知のものと立ち向かわねばならない時、そして、政治のトップが国民の命に興味がない時、不幸にして、これが同時におこってしまった時、こういった時こそ各方面からの専門家の力の結集が必要です。何より正確な事実が大切であることを、政治がどのように言おうとも、伝え続けることが専門家の重要な仕事の一つでもあります。心ある大学人があきらめないことを願います。




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井上博文
専門家

井上博文(塾講師)

株式会社コムニタス

塾長以下、スタッフが、全ての生徒の状態を正確に把握している。生徒をよく観察し、成長度合、どのような不安や悩みを抱えているか、をしっかりと観察し、スタッフ間で情報共有をしている。

井上博文プロは京都新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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