自己責任論

井上博文

井上博文

テーマ:雑感

自己責任論とは言わずもがな、この方に対して世間とやらが向けている「論」のようなものです。最近になって、以前のように「自己責任だから助けなくていい」「迷惑をかけたのだから謝罪しろ」といった論調らしきものが、うけなくなってきたせいか、「英雄視するな」といった方向にすり変わりつつあります。それはそれで良いのではないかと思っていますし、遠からず下火になるのではないかと思います。あとはそのジャーナリストの方が、早く回復して、是非本などでこの経験を残していただきたいと願っています。

私がこの事について、口をはさむのは、大学院に進む人は、少なからず、この自己責任という言葉にさらされているからに他なりません。先に言えば、自己責任という言葉は、通常、投資家に向けて言われる言葉です。REBTも自分の感情に対する自己責任を言います。共通するのは、これは本来他人から問われるものではないということです。今回帰還されたジャーナリストも「自業自得」「自己責任」という言葉を言っておられました。例えば、投資家が、投資をして、相場が急落して大損をしたとします。でも、それは、たとえナントカミクスがあり得ない金額で株に介入したとしても、他人のせいではなく、自己責任になります。あるいは探検隊に企業が投資をして、その探検隊の全員がその地で全滅したとします。それも企業の自己責任になります。私たちのように、大学院に進み、例えば研究者を目指す人は、博士課程までストレートで終了したとしても、博士号取得は、27歳か28歳くらいになります。そして、就職はありません。うまくいって大学の非常勤講師になれることもありますが、なったとしても社会的弱者です。しかし、少なくとも日本の研究者は皆ここからがスタートです。ここで他人のせいにしてしまうと、何もできません。だから、やはり自己責任でここまでは来ないといけません。これらのことは、自分で決めることであり、他人がとやかく言うことではありません。(お金を出してくれる親は別かもしれませんが)

問題は、このような自己責任の問題について、関わっていない、あるいは知識のない、見てもいない、なんなら興味もない「他人」が、とやかく言うことです。「自己責任だから、だから、あの人は○○であるべきだ」という論法に大きな問題がありますし、当事者は大迷惑です。それこそ、全く責任を持ってくれない人が、口だけ介入して、しかも意味不明な非難をする。まして、今回のジャーナリストの場合、「謝罪せよ」「助かる必要がない」とまで、堂々と言う人がいます。これが問題です。あまり気が進みませんでしたが、ネットの書き込みを見ると、皮肉なことに「他人に迷惑をかけたから」「税金を使って助ける必要がない」こんな意見が多かったように思います。この種の自己責任を隠れ蓑にした不合理な他者批判は、この記事によると、今の東京都知事が一番最初に言い始めたのだそうです。さもありなんという感じですが、政治家が大元というのもまたさもありなんです。

自己責任であること自体は、自分の決めることですから、自分に帰属する問題です。その自己責任であることを、自分で認められず、他人のせいにした場合、その他人は「それはあなたの自己責任である」と言うことに何ら問題はありません。しかし、当人が自己責任であることを認めているにも関わらず、また他人のせいにしていないのにも関わらず、政治家などの公人や、ネット民のような顔も名前も出さない人どうかもわからない者が、自己責任だから、死ねばよかったかのような発言は、言われた当事者からすると、それが最も迷惑な話です。
また、公共が助けた(かどうかは定かではありませんが)から税金の無駄遣いと言う人もいるようですが、これは全く趣旨の異なる話です。公共で、危機にある人を助けることを仕事にする人は、当然、税金を使ってその人々を雇うわけですが、海にも、山にも、陸にもエキスパートがいます。私はなぜか、海上のライフセーバー講習を受けたことがありますが、多くの場合、飲酒で溺れた人や、侵入禁止区域に入った人を想定して訓練を受けます。自己責任だから助けなくてよい、などという訓練は受けません。消防の人々は、救助のエキスパートですが、失火を自己責任だから、知らないなどと言いません。時には命懸けで、救出に動いてくれます。救助を考える人は、それを第一に考えます。侵入禁止区域に入っても、どうしようもない時以外は、なんとかしようとしてくれます。意図的に入る人もいれば事故的に入ってしまう人もいるかもしれません。彼らはそんなことで命の選別をしない人たちです。こういった人々はとても大切な仕事をしているわけですから、公共が雇うのは当然のことです。また一方で、彼らも命の危険にさらされやすい仕事です。しかし、その仕事を選ぶのは自己責任です。でもだからと言って、仮にミスをして命を落としたとして、それは自己責任だから、公共は知ったことではない、としたら大変なことになるでしょう。
いろいろ言いましたが、巷で、東京都知事を初源とするらしい自己責任論などと言われているものは、実は、関係のない二つ以上のトピックを無理矢理くっつけた論とは呼べない類のものであり、本来公共で命を救う立場にいる人は、自己責任という言葉に振り回されることなく、自らの使命として、危機に瀕した人の命を救っているということです。
今更騙されるひとはいないと思いますが、これから研究者を志す人は、是非この自己責任という言葉をしっかり考えて欲しいと思い、言及してみました。



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井上博文
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井上博文(塾講師)

株式会社コムニタス

塾長以下、スタッフが、全ての生徒の状態を正確に把握している。生徒をよく観察し、成長度合、どのような不安や悩みを抱えているか、をしっかりと観察し、スタッフ間で情報共有をしている。

井上博文プロは京都新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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