言論の自由、発言の自由、解釈の自由
ゴールデンウィークには憲法記念日があり、70年になりました。この日は、思うところが毎年あります。憲法に対する考え方は特に変わっていませんが、
こちら
総理大臣が、憲法改正の時期とターゲットが九条であることを明確に言及したことで、メディアも軽く騒ぎになっているようです。テレビは見ていないので正確に知りませんが、忖度してあまり報道していないかもしれません。私たちのような大学院受験を扱う塾にとって、国家のあり方は、良くも悪くも非常に重要な問題です。文科省をはじめとする、国家を名乗る役所が決めたことが、我々に直接の影響があるからです。例えば、2013年4月に改正労働契約法が施行されて以来、大学の非常勤講師は、さらにつらい状況下に追い込まれました。希望を持って大学院に行き、研究者を目指す人の心をたくさん折ってきたものです。公認心理師法は、多くの心理職に期待と不安と混乱をもたらしています。
ゆえに、一見、私たちとは関係がない法律でも、めぐりめぐって、影響を及ぼすものもあれば、直接影響を受けるものもあるのです。教育は国家の根幹だという人は少なくありません。しかし、大学2018年問題 のような問題は、国家政策の失敗によるものです。私たちの世代の第二次ベビーブームが受験期であった時代に定員を大幅に増やした結果が、大学の肥大化であり、学部、学科、あるいは大学自体の増産が進んだ結果が、2018年問題ですから、国家による少子化を見据えられなかった失策です。2018年問題は、地方の無名大学だけの問題ではありません。国立大学やいわゆる有力大学にも多大な影響を及ぼすことは間違いありません。各大学の備えはおおむね終わりましたので、正解だったかどうかは、これからわかります。
つまるところ、長期的プランで先の予測ができない政治家と役所が、法律を変な形でいじると、先の世に大きな不安と禍根を作ってしまうのです。国家を名乗る連中とメディアは、決して反省をしませんし、責任もとりません。それは常に踏まえておくべき事柄です。大学が倒産すると、その責は、経営陣と教授陣が取ることになります。被害は学生が受けます。国家という名前の役所は無視です。ヘタしたら、「改善命令」なんてものを出しかねません。失策をしておきながら、その失策を土台に新たに命令をするのです。これは悪循環しか生みません。彼らは、「改革」(という言葉、響き)は好きなのですが、失敗を認めないので、いつも成功体験だと思ってしまいます。法律はもはやどうしようもないのですが、憲法は、「国民の半数」という拘束があるため、慎重に考えられるところが救いです。
今の政権と総理大臣を見るに、「保守」を名乗っているように見受けられるのですが、現憲法は、今上天皇が即位されたときにこれを守ることを述べておられます。以来、一貫してその姿勢を示してこられました。これは政治的な発言ではなく、国家のあり方という哲学的課題に対する発言と言えます。総理大臣は大臣というからには、家臣だと思うのですが、それを無視するかのように、改正の年まで言及するというのは、もはや保守という言葉さえもよくわからない状況です。こんなに堂々と自分の親方の意向を無視して発言をする配慮のない総理大臣はあまり記憶にありません。この国の天皇は、権力なき権威者として、この国の歴史とともに、権力に翻弄されたり、逆に翻弄したりしつつ存在してきました。各時代の政治を担う人々は、そして国民の多くは、その権威と2000年近い歴史の重みに敬意を払い、保守してきたはずです。一方で保守を名乗り、はたまた一方で憲法をかいくぐる「新たな憲法解釈」を表明し、そしてまた一方で、天皇の意向を無視した憲法改正の内容と時期を明言する。論理性も筋も一貫性もめちゃくちゃな状況です。
別に、今すぐ変えなければ、危機に対応できないということはないと思います。だから70年変わらなかったわけです。自衛隊を憲法で言及したからといって、隣の国の暴発に影響を与えることはまずありません。中国とアメリカに喧嘩を売る発言をするわけですし。私たちはこの70年続いた憲法をあらためてよく読み、なぜ70年生きながらえたかを考え、皆が真剣に一条ずつ考えることが重要です。古くなっている以上、修復すべきところは修復しないといけませんから、変えるなら一条ずつ、手続きを踏みながら慎重に変えるべきです。尽きることのない議論が起これば、その方がむしろ望ましいはずです。一億人いるならば、五千万以上の人がその議論に興味を持つことが、国民の半数だと思います。「押しつけ」ではない「自分たちの手」で憲法を作るというならば、そのくらいの人数の手と慎重さと時間が必要だと考えています。
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