エビデンスって何ですか?

井上博文

井上博文

テーマ:実は難しい研究計画作成方法

表題は、今年の臨床心理士指定大学院入試の面接で実際に聞かれた問いです。今はEvidence-basedの時代ですので、何でもエビデンスがあった方がいいという考え方は確かにあるかと思います。しかし、エビデンスとはそもそも医療研究の用語です。私の知る限りにおいてですが、1991年くらいにEBM(Evidence-based-medicine:エビデンスに基づいた医療)という言葉ができて、それ以来、各方面でエビデンスという言葉が使われるようになったと記憶します。私は看護系予備校で小論文の講師を長くしていましたので、その際にこのEBMはかなり頻度で使用しました。エビデンスとは、基本的には統計と実験から得られた普遍的データとでも言うとちょうど当てはまるかと思います。もちろん、マウス実験で得られたものと、臨床試験で得られたものは質が異なりますので、エビデンスと一口に言っても多様であることは間違いありません。医療でも個人に対する医療行為でもエビデンスが重視されますし、現在では公衆衛生でも疫学調査に基づいたエビデンスが日々更新されています。簡単な例で言えば、タバコを吸うと肺がんになりやすいというのは、都市伝説ではなくて、疫学に基づいた調査によって、数字的なエビデンスが明確になっています。当然、今はもっと詳細な研究が進められていますが、それは様々なエビデンスを基礎(base)に上乗せされたものということになります。

今回、このコラムを書こうと思った理由は、以前「教育とは何か」という漠然とした問いが今問われています というコラムを書いた時に、「で、結局、あなたはエビデンスに基づいた教育に賛成なのですか、反対なのですか?」と問われたことがきっかけです。あの時点で、私は、将来そんな時代が来るだろう、くらいに考えているだけで、現時点で、まだリアリティのある話ではないと思っていたというのが正直なところです。賛成か反対かという問いに対する回答は用意していませんでした。
教育とは本質的には、国家という漠然とした「公共」が、子どもを将来の「国民」として、義務を持った親とともに育てるものといったところでしょうか。いつから教育が競争になって、いつから大学が就職予備校になって、いつからサラリーマンを養成することが教育になったのか。私は全部正確な情報を持っていません。エビデンスを取る研究をするのは結構ですが、その目的が重要であろうと思います。学力を中心に考えた場合、対象は小中高生となりますが、何のための学力かを問うた場合、大学受験力なのか、人間力なのか、何かしらのスキルなのか、それとも海外の学生との世界共通学力なのか・・疑問符だらけです。明確なのは、他者との比較になることです。しかし、例えばゲームをしている群としない群にわけて、統計的に比較調査をする場合、ゲームをしない群の方がテストの点数が高くなる・・で終了する話ではないと思います。教育は終わりなきストーリーであるはずです。だからこそ切り取り口が大事だと思いますが、妥当性をどう担保するかは難しい問題です。例えば有名私立と地域の公立の学校をそのまま比較対象にすることが妥当かと言われると、違うと思います。またこんな調査がなされて、結果が出てしまい、それがタバコと肺がんの関係のように一般化すると、教育格差をさらに助長する材料になってしまうようにも思います。そのため、いわゆる偏差値で輪切りにして、それに基づいたエビデンスを取るという方法が果たして説得力があるのかと言われると、私は無理筋ではないかと思います。
他にも思うところはたくさんあるのですが、結論としては、反対とまでは言いませんが、説得力のあるエビデンスを出していくのはかなり難しいのではないかと思います。例えば臨床心理学の研究でも、現在、対象者の大半は大学生です。小中高生を対象にするのはかなり難しい状況です。学校が滅多なことでは了解してくれません。もし統計的に説得力のある調査をしようとするならば国家プロジェクトになるでしょう。仮にそれで何らかのエビデンスが取れたとしてもどう使うのかの用途が明確でなければ、そのうち調査自体に意味がないとして、できなくなってしまうでしょう。疫学などは、国民の健康に直結するものですので、その調査の意義は誰でも理解できます。しかし教育となると果たしていかがなものでしょうか。すでにどなたかがしているのだと思いますが、まずは壮大な研究デザインをすることが重要だと思います。できれば大学生の教育について、エビデンスを取れるようなデザインがあると、これからの時代、有用になることが予想されます。



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井上博文
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井上博文(塾講師)

株式会社コムニタス

塾長以下、スタッフが、全ての生徒の状態を正確に把握している。生徒をよく観察し、成長度合、どのような不安や悩みを抱えているか、をしっかりと観察し、スタッフ間で情報共有をしている。

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