不可思議を考えてみる1
衝撃的な研究発表に行ってきました。
おそらく日本人なら誰でもが知っている「お盆休み」の「盆」とは何であるか?
という問題に関する発表です。発表者は創価大学の辛島静志先生です。
この業界では、言わずと知れた語学の天才です。
「新聞を読むように仏典を読む」と言われるくらい本当におそるべきスピード
で漢文やサンスクリットなどの特殊言語を読んでいきます。何度か研究会で
同席させていただきましたが、とてもついていけるスピードではありませんでした。
「世の中にはこんな人がいるんだ」と思うくらいの達人です。
こんな天才が、誰でもが知るお盆について、その起源に取り組まねばならない
ということは、実はだれも知らないということです。
私も知りませんでした。
実はお盆というのは、諸説ありすぎるくらいあって、
どれが本当かわからなかったのですが、根拠になる仏教経典があるのです。
これが『仏説盂蘭盆経』という非常に短い経典です。これにちなんで
今でも盂蘭盆会というものがあります。だから少なくとも日本産ではないのです。
ここでは、要するにお盆は、私たちが誰でもが知るあのトレイの
お盆であることが書いてあります。ところが、やっかいなのは
「じゃあ、盂蘭盆経の「盂蘭」ってなんなのさ?」
という問いに対する答えがなかったのです。以下、長くなるので
結論から先に言えば、この「盂蘭」の回答を提示されたということです。
私たちからすると、ips細胞の発見、ポアンカレ予想の解明くらいの衝撃です。
(本当に、大げさではなく)
何でこんなに衝撃的かと言うと、昔の研究者は「盂蘭盆」をトレイのお盆とは見ずに、
盂蘭盆をインド語のullambanaと一語で捉えていました。
カタカナで読めば「ウランバナ」くらいでしょうか。
この音写語が盂蘭盆だというのです。ではそのウランバナはどういう
意味かというと、「逆さつり」くらいの意味ですが、正確にそんな単語は
ないそうです。じゃあウランバナ説は怪しいということで、他にも
なんと「イラン語説」が出てきます。古代イランの言葉で
「霊魂」を意味する「ウルヴァン」(urvan)だというのです。
これを提唱したのが大学者だったものですから、学部生時代、私はこれを
真に受けていました。だから、無知の強みで、堂々と
「お盆休みはイランに起源があるんやで」
と他人に言ったことがあります。その話を師匠にすると
「お前は『盂蘭盆経』を読んだことがあるのか?」と言われました。
「きっちり原典を読まないからそういうことが起こる」
とも言われ(叱られ)ました。そして経典を見ると、どう読んでも
あのトレイのお盆です。そうかイラン語説は残念説だったか・・・・でした。
未熟者にはそのくらいが限界だったのですが、師匠は20年以上前に
盂蘭盆はトレイのお盆であることを指摘していました。
だから盂蘭盆は、盂蘭と盆の二語に分かれることは確かになりました。
あるいは「ウラン盆」とかいう特殊なお盆でもあるんかいな?
くらいの想像も出てきました。そのくらいこの盂蘭が意味不明だったのです。
さらにこれに加えて、この『盂蘭盆経』はインド生まれではない
偽物の経(偽経)ということもかなり一般化していました。
これについては、私は今日まで何となくそうだと考えていました。
だからお盆行事はいいとこ中国起源くらいと漠然と考えていました。
ところが、です。全部それらが覆されることになります。
要するに、盂蘭をインド語に遡れるならば、中国人がその言葉を
音写語的に作る意味はないですから、やはり起源はインドという
ことになります。さらに、お盆の行事が日本以外にインド文化圏に
あるならばやはりお盆はインド起源であることになります。
「今まで覚えたこと全部でたらめだったら面白い」
ってなにかの歌のフレーズがあった気がするのですが、
本当にそんな感じでした。
続きは次回。
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