【親子問題】子の借金を親が代わりに返した、後で子に請求できる?
親が持っている自宅を売り、その代金を子の生活のために使いたい。ひきこもりの状態が長く続いている子や、病気・障害のために働くことが難しい子がいるご家庭では、こうした考えを持つ親御さんは少なくありません。親が元気なうちにまとまったお金を用意しておきたい、という発想自体はごく自然なものです。
結論からいえば、自宅が親の単独名義で、親自身に十分な判断能力がある限り、売るかどうかは親が決めることができます。ただ、売った後の親の住まい、代金の渡し方と税金、同居している子の退去、ほかの子との公平、親の判断能力が低下した場合の扱いなど、売る前に確かめておきたい点がいくつもあります。この記事では、自宅を売って子の生活資金に回すときに押さえておきたい法律上のポイントを順に整理します。
この記事は、2026年11月時点の法令と国税庁の公表資料をもとにしています。贈与税や譲渡所得税の具体的な税額、特例を使えるかどうかは個別の事情で変わるため、実際に手続を進める際は税理士にもご確認ください。
自宅を売るかどうかは、所有者である親が決められる
所有者は、法令の範囲内で、自分の物を自由に使用し、収益を上げ、処分することができます(民法206条)。自宅が親の単独名義であれば、売却に子の同意は必要ありません。子が反対していても、また子のためという目的であっても、売るかどうかを決めるのは親です。
一方で、自宅が夫婦の共有名義になっている場合は、建物と土地全体を売るには共有者全員の同意が必要です。住宅ローンが残っていれば、売却代金で完済して抵当権を抹消する段取りも欠かせません。まずは登記事項証明書で名義と抵当権の有無を確認しておくと、話が具体的になります。
なお、ご相談の中には、親が自分で決めたのではなく、子から「家を売って金を出せ」と求められているケースもあります。その場合は売却の前に別の整理が必要になるため、【親子問題】「家を売れ」と子に迫られている|所有者である親が確かめることと、無断売却への備えもあわせてご覧ください。
売ること自体は親の判断でできるとしても、実際に代金を子の生活資金に回すまでには、次のような点を確かめておくことになります。
| 確認すること | 主な論点 |
|---|---|
| 親自身の暮らし | 売った後の住まい、老後資金、介護費用が残るか |
| 代金の渡し方 | 贈与税の対象になるか、子が短期間で使い切ってしまわないか |
| 同居している子 | 退去をどう求めるか、子の次の住まいをどう確保するか |
| ほかの子との公平 | 相続のときに特別受益・遺留分として問題にならないか |
| 親の判断能力 | 判断能力が低下した後は、子が代わりに売ることはできない |
売る前に、親自身の暮らしが成り立つかを確かめる
自宅を売れば、親も住む場所を移すことになります。賃貸住宅に移るのか、高齢者向けの住まいや施設に入るのか、それによって毎月の支出は大きく変わります。売却代金の多くを子に回した結果、親自身の家賃や介護費用が足りなくなっては、親子のどちらの生活も立ち行かなくなるおそれがあります。
親は成人した子に対しても扶養義務を負いますが(民法877条1項)、一般に、自分の生活を犠牲にしてまで子の生活を支える義務まではないと考えられています。子の生活資金を考えるのは、親自身の今後の生活費を見積もった後の順番になります。扶養義務の範囲については【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで、今後の資金の見通しの立て方については【親子問題】「あと何年この状態が続くのか」を数字で見積もるで詳しく扱っています。
また、高齢の方の自宅売却をめぐっては、急かされるように契約してしまい、後から違約金や住まいの確保に困るという相談が消費生活センターにも寄せられています。売却代金をすぐに使いたい事情があっても、査定を複数取り、契約書の内容を確かめてから進めることが大切です。売却のほか、住み続けながら資金を得る方法(リースバックやリバースモーゲージ)が話題に上ることもありますが、いずれも仕組みや費用の負担が通常の売却とは異なるため、内容を十分に確認したうえで比べる必要があります。
売却代金を子に渡すときの税金の考え方
自宅を売って得たお金を子に渡すと、渡し方によっては子の側に贈与税がかかります。売却そのものについても、親の側に譲渡所得税の問題が生じます。
必要な都度渡す生活費は、贈与税の対象外とされている
親子のように扶養義務がある者の間で、生活費に充てるために渡したお金のうち「通常必要と認められるもの」には、贈与税はかかりません(相続税法21条の3第1項2号)。毎月の家賃や食費など、必要になったときに必要な分を渡す形であれば、この扱いに当たると考えられます。
まとめて渡すと、贈与税の対象になることがある
国税庁の公表しているQ&Aでは、数年分の生活費をまとめて渡した場合や、受け取ったお金が預金や投資、不動産の購入などに回された場合には、生活費として通常必要な範囲を超える部分が贈与税の対象になるとされています。「売却代金のうち1,000万円を子の口座に移しておく」といった渡し方は、生活費の非課税の扱いから外れる可能性が高い点に注意が必要です。
まとめて渡す方法としては、年110万円の基礎控除の範囲で毎年渡していく方法のほか、子に障害がある場合には、信託銀行などを通じた特定贈与信託という制度があります。特定贈与信託では、特別障害者である子については6,000万円まで、それ以外の対象となる子については3,000万円まで贈与税がかからないとされています(相続税法21条の4)。子が障害者手帳を持っている場合などは、対象になるかを確認する価値があります。
売る親の側の税金も確認しておく
自宅を売って利益が出た場合、親の側に譲渡所得税がかかることがあります。自分が住んでいた家を売った場合には、一定の要件のもとで譲渡所得から最高3,000万円を差し引ける特例がありますが、住まなくなってから3年を経過する日の属する年の12月31日までに売る必要があるなど、時期の制約があります。施設への入所などで先に家を出ている場合は、売却の時期にも気を配っておくとよいでしょう。
子が同居している家を売る場合
子が実家に住んでいる場合、買主は通常、空き家の状態での引渡しを求めます。そのため、売却の前に子に家を出てもらう必要があります。
親子の間で家賃のやり取りがなく、住む期間や目的も決めていない場合、法律上は使用貸借と呼ばれる関係になるのが一般的です。期間も目的も定めていない使用貸借であれば、貸主である親はいつでも契約を終わらせることができます(民法598条2項)。とはいえ、子が出ていかないからといって、荷物を運び出したり鍵を替えて締め出したりすることは、自力救済として法的に問題になるおそれがあります。
実際には、売却の時期をあらかじめ伝え、子の次の住まいや当面の生活費をどう確保するかを、売却代金の使い道とあわせて話し合う進め方が現実的です。「家を出る」ことと「生活資金を受け取る」ことを一つの合意としてまとめることで、子にとっても先の見通しが立ちやすくなります。退去をめぐる法的な整理は【親子問題】子を家から出ていかせることはできるのか|占有と明渡しで、親が施設に移った後の扱いは【親子問題】親が施設に入った後も実家に子が住み続けている|誰が退去を求められるのかで説明しています。
ほかの子との公平と、相続のときの扱い
子が複数いる場合、特定の子の生活資金として多額のお金を渡すと、親が亡くなった後に、ほかの子から不公平だという声が上がることがあります。
相続人の一人が親から生計の資本として受けた贈与は「特別受益」として、遺産を分ける際に考慮されることがあります(民法903条1項)。また、相続人に対する贈与のうち相続開始前10年間にされたものは、遺留分を計算する際の財産にも含まれます(民法1044条3項)。日々の生活費の範囲を超えて、売却代金の一部をまとめて渡した場合などは、こうした扱いの対象になる可能性があります。
親として、その子の事情を考えて渡したお金を相続の計算に含めないでほしいと考える場合は、その意思を遺言などの書面で示しておく方法があります(民法903条3項)。ただし、遺留分の問題まで当然に消えるわけではないため、ほかの子への説明や遺言の内容を含めて、全体を設計しておくことが望まれます。生前の売却ではなく、遺言で「死後に自宅を売り、その代金を子に渡す」と定め、手続を担う遺言執行者を指定しておく方法もあります。
親の判断能力が低下した後は、子が代わりに売ることはできない
自宅は親の財産ですから、親が認知症などで判断能力を失った後に、子が親の代わりに売ることはできません。売るためには、家庭裁判所に成年後見人を選んでもらう必要があります。
さらに、成年後見人が本人の住んでいる家や住んでいた家を売るには、家庭裁判所の許可が必要です(民法859条の3)。成年後見人は本人である親の財産を守る立場にあるため、売却が親自身の生活費や介護費用のために必要かどうかが問われます。「子の生活資金に回すため」という理由だけでは、売却が認められにくいと考えておく必要があります。
つまり、自宅を売って子の生活資金に回したいと考えているなら、親の判断能力が十分なうちに方針を決め、必要であれば任意後見契約や家族信託、遺言などの準備をしておくことが重要です。親亡き後の設計全体については【親子問題】親亡き後問題|子の生活をどう設計しておくかで取り上げています。
渡したお金を、子の生活の土台にするための工夫
まとまったお金が手に入っても、使い方の見通しがないまま渡すと、短い期間で使い切ってしまうことがあります。浪費の傾向や金銭管理の難しさがある子の場合は、渡し方そのものを工夫しておくことが大切です。
- 一度に全額を渡さず、毎月の生活費として決まった額を渡す形にすると、贈与税の面でも使い切りの防止の面でも整理しやすくなります。
- 渡す金額、期間、使い道を親子で書面にしておくと、後になって「もっと出す約束だった」といった食い違いを防ぎやすくなります。
- 本人だけでの金銭管理が難しい場合は、社会福祉協議会の日常生活自立支援事業や、民間の支援者による金銭管理を組み合わせる方法があります。
- 浪費が止まらない場合には、家庭裁判所に保佐人・補助人を選んでもらい、本人の契約や財産の扱いを見守る仕組みを検討する場面もあります。
- 子が生活保護を受けている、または受ける可能性がある場合、まとまったお金は収入や資産として扱われ、保護の受給に影響するため、事前に福祉事務所の扱いを確かめておく必要があります。
書面の作り方は【親子問題】親子間で合意書を作る|約束を書面にする意味と限界、第三者による金銭管理は【親子問題】金銭管理を第三者が担う仕組み|日常生活自立支援事業と民間の支援者の違い、保佐・補助は【親子問題】浪費が止まらない子|保佐・補助を検討する場面、生活保護との関係は【親子問題】ひきこもりの子に生活保護は使えるのか|世帯分離の考え方でそれぞれ詳しく扱っています。
弁護士に相談できること
自宅の売却そのものは不動産会社が、税額の計算は税理士が担う分野です。そのうえで、親子の間の調整が必要になる場面では、弁護士が関わることで進めやすくなることがあります。
- 同居している子に売却と退去を伝える際の窓口になり、話し合いの内容を整理します。
- 売却代金の渡し方や金額について、親子間の合意書を作成します。
- ほかの子との公平を考えた遺言の作成や、遺言執行者の指定について助言します。
- 子が売却に反対している場合や、代金の多くを渡すよう求めてくる場合に、親の代理人として対応します。
当事務所では、子の自立に向けた支援を自立支援カウンセラーと連携して行う取り組みもしています。詳しくは【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応をご覧ください。
まとめ
親の自宅を売って子の生活資金に回すことは、親が所有者で判断能力がある限り、法律上は親の判断で進められます。ただ、親自身の今後の暮らし、代金の渡し方と税金、同居している子の退去、ほかの子との公平、そして親の判断能力が低下した後の制約といった点を順に確かめておかないと、かえって親子双方の生活を不安定にしてしまうおそれがあります。売るかどうかを決める前の段階から、全体の設計を一緒に考えることもできます。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


