【親子問題】子が親の通院や服薬を管理すると言って、親を思いどおりにしようとするときは?
この記事は、2026年11月時点の年金制度と、2025年6月施行の改正刑法(懲役・禁錮を「拘禁刑」に一本化)を前提にしています。個別の事情によって扱いが変わることがあるため、具体的な手続は年金事務所の案内もあわせてご確認ください。
親が亡くなった後も、親の口座に年金が振り込まれ続けている。同居していた子がそのお金を引き出して生活費にしている。別に暮らすきょうだいが、遺産の整理をする段階で初めてそのことに気づいた。親子の問題のご相談では、こうした場面に触れることがあります。
年金は、受け取っている本人が亡くなると受け取る権利がなくなります。それでも届出がされないままだと振込みが続くことがあり、手続を知らないまま、あるいは「止めたら暮らしていけない」という不安から、そのままにしてしまう例が見られます。この記事では、親の死亡後に子が年金を受け取り続けた場合に何が起きるのか、気づいた時点で家族がとれる手順、正当に受け取れるお金との区別を整理します。
年金は、受け取っている人が亡くなった時点で権利がなくなる
老齢年金などの公的年金は、受け取っている本人の生活を支えるための給付です。本人が亡くなると受給権は消滅し、家族が代わりに受け取り続けることは予定されていません。
亡くなった月の分までは受け取れる
公的年金は、原則として偶数月の15日に、その前の2か月分がまとめて振り込まれる後払いの仕組みです。年金は亡くなった月の分まで支給されるため、亡くなった後に振り込まれたお金がすべて返還の対象になるわけではありません。区別の目安は次のとおりです。
| 亡くなった後に振り込まれたお金 | 扱い |
|---|---|
| 亡くなった月までの分で、まだ受け取っていなかったもの | 未支給年金として、一定の遺族が請求できる |
| 亡くなった月の翌月以降の分 | 過払いとなり、返還の対象になる |
たとえば5月に亡くなった場合、4月分と5月分は亡くなった月までの分です。一方、届出がないまま8月に振り込まれた6月分と7月分は、受け取る権利のない過払いになります。
届出がなければ、振込みが続くことがある
市区町村に戸籍法上の死亡届を出しても、それだけで年金が止まるとは限りません。日本年金機構にマイナンバーが登録されている場合は、原則として「年金受給権者死亡届(報告書)」の提出を省略できますが、登録がない場合などは年金事務所への届出が必要です。期限は、厚生年金が死亡から10日以内、国民年金が14日以内とされています。
届出が遅れれば、その間は本人が生きているものとして振込みが続きます。振り込まれたお金が「親が残した最後のお金」に見えても、手を付ける前に、どの期間の分なのかを確かめることが大切です。
受け取り続けた場合に起きること
過払いの分は返還を求められる
受け取る権利のない期間の年金は、後日、日本年金機構から返還を求められます。生活費や葬儀費用に使ってしまっていても、返還すべき金額が減るわけではありません。受け取り続けた期間が長くなるほど金額が大きくなり、一度に返すことが難しくなります。
国が返還を請求できる期間には5年の時効があると説明されています。ただし、これは民事上のお金の問題であり、次に述べる刑事上の責任とは分けて考える必要があります。
事情によっては刑事事件として扱われる
親の死亡を知りながら届出をせず、年金を受け取り続けた場合には、詐欺罪(刑法246条、10年以下の拘禁刑)に問われることがあります。国民年金法111条にも不正受給の罰則(3年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金)がありますが、刑法に定めがある場合は刑法によるとされています。詐欺罪の公訴時効は7年です。
亡くなった親のキャッシュカードで口座から引き出した行為について、窃盗など別の罪が問題になる余地もあります。報道された事例の中には、親の死亡を隠して長年にわたり年金を受け取り続け、詐欺罪のほか、遺体の扱いについて死体遺棄罪の疑いで逮捕されたものもあります。
もっとも、届出が遅れたことが、すべて刑事事件になるわけではありません。手続に不慣れで届出が遅れ、気づいた時点で年金事務所に連絡して返還に応じた場合には、案内に従って返還することで終わることが多いとされています。刑事責任が問題になりやすいのは、次のような事情がある場合です。
- 死亡を知りながら、長い期間にわたって届出をしていないこと。
- 受け取った総額が大きいこと。
- 生存を装う書類を出したり、周囲に「入院している」などと説明したりしていること。
- 亡くなった事実そのものを隠していること。
- 過払いを知った後も引き出しを続けていること。
親の年金で暮らしていた子に起きやすいこと
この問題は、親の年金を世帯の主な収入にしてきた家庭で起きやすい傾向があります。たとえば、ひきこもりの状態が長く続く子が、高齢の親と二人で暮らしてきたような家庭です。
親が亡くなると、子は手続の方法を知らず、相談先も分からないまま時間が過ぎることがあります。年金を止めれば収入がなくなるという不安から、届出に踏み出せないこともあります。周囲との交流が少ない家庭では、親の死亡そのものに長く誰も気づかない、という事態も起こり得ます。
別に暮らすきょうだいなどが、親の口座の動きを見て初めて気づくこともあります。この場合、年金の返還の問題に加えて、引き出されたお金をどう扱うかという相続の問題も重なります。親の口座からの引き出しをめぐる考え方は、【親子問題】親の預貯金を勝手に引き出された|刑事と民事の分かれ道でも解説しています。
気づいた時点で家族がとれる手順
受け取り続けていたことに気づいたら、早い段階で手続に向き合うことが、結果として子と家族の負担を小さくすることにつながります。おおまかな順序は次のとおりです。
- 親が亡くなった日と、亡くなった後に振り込まれた年金の時期・金額を、通帳や入出金の記録で確かめます。
- 年金事務所に親の死亡を伝え、受給権者死亡届など必要な届出をします。
- 過払いの金額を確認し、返還の方法を相談します。一度に返すことが難しい場合は、その事情も伝えます。
- 未支給年金など、正当に受け取れるお金がないかを確かめ、請求します。
- 年金に頼っていた子の生活をどう立て直すかを、行政の窓口などと相談します。
- 刑事事件になるおそれが気になる場合や、家族の間で引き出しをめぐる争いがある場合は、早めに弁護士へ相談します。
返還の方法について、どこまで事情を考慮してもらえるかはケースによります。自分たちだけで判断せず、年金事務所の案内を確認しながら進めてください。
正当に受け取れるお金もある
亡くなった月までの分で、まだ受け取っていない年金は、未支給年金として請求できます。請求できるのは、亡くなった人と生計を同じくしていた配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹、その他3親等内の親族で、この順に優先されます。同居して生計を共にしていた子は、配偶者がいなければ請求できる立場にあることが多いでしょう。請求の期限は5年です。
未支給年金は、請求した人自身の権利として扱われ、相続財産とは区別されると考えられています(最高裁平成7年11月7日判決)。ただし、親の口座から引き出して済ませるものではなく、年金事務所に請求書を出して受け取るものです。
なお、遺族年金を子が受け取れるのは、原則として18歳になった年度の末まで(一定の障害がある場合は20歳未満)に限られます。成人した子が親の遺族年金を受け取れる場面は限られると考えておくほうがよいでしょう。
相続の手続との関係にも注意する
亡くなった親の口座からお金を引き出して使うと、相続の場面にも影響することがあります。相続財産を処分すると、相続を承認したものとみなされることがあり(民法921条1号)、親に借金があって相続放棄を考える場合に、その選択が難しくなるおそれがあります。ほかの相続人がいる場合には、遺産分割の話し合いで、引き出したお金の使い道を説明する必要も出てきます。
親が元気なうちにできる備え
親の年金で暮らしている子がいる家庭では、親が亡くなった後に子が一人で手続を進められるかどうかを、早めに考えておくことが役に立ちます。
- 日本年金機構にマイナンバーが登録されているかを確認しておくこと。
- 亡くなったときに連絡してほしい人や窓口を、子以外の家族や支援者とも共有しておくこと。
- 年金の振込口座、通帳やカード、年金証書の保管場所をまとめておくこと。
- 年金が止まった後に子が使える制度を、事前に調べておくこと。
- 子の生活を見守る第三者とのつながりを作っておくこと。
年金が止まった後の子の生活設計については【親子問題】親の年金で生活している子|年金が止まった後の設計で、親亡き後の備え全体については【親子問題】親亡き後問題|子の生活をどう設計しておくかで詳しく扱っています。
弁護士に相談することで整理できること
親の死亡後の年金の受け取りは、年金の返還という行政上の問題、刑事責任の問題、相続や家族間のお金の問題が重なりやすいテーマです。弁護士に相談することで、次のような点を整理しやすくなります。
- どの期間の年金が返還の対象になるのかを、記録をもとに確認できます。
- 刑事事件になるおそれがどの程度あるのか、警察から連絡があった場合にどう対応するかを検討できます。
- ほかの相続人との間で、引き出されたお金をどう扱うかの話し合いを任せることができます。
- 年金に頼っていた子の今後の生活について、支援者と連携しながら考えることができます。
当事務所では、弁護士と自立支援カウンセラーがチームを組み、親子の問題に向き合うご家庭を支援しています。サービスの内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご紹介しています。
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まとめ
親の死亡後に振り込まれた年金は、亡くなった月までの分と、その翌月以降の過払いの分とで扱いが分かれます。過払いの分を受け取り続けると返還を求められ、死亡を知りながら続けた場合には刑事事件として扱われることもあります。気づいた時点で年金事務所に連絡し、正当に受け取れるお金と返すべきお金を切り分けることが、子と家族の今後の生活を守る出発点になります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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