【親子問題】被害届を出すと家族関係はどうなるのか|出す前に考えること
「娘が風俗店で働いていると知った。親として辞めさせる方法はないのか」「店に行って直接話をつけたい」。親子の問題のご相談の中で、こうしたお話を伺うことがあります。知ったきっかけは、偶然目にした店のサイトだったり、子の金遣いの変化だったりとさまざまです。
「成人した子の仕事に親は口出しできない」という説明は、法律の面からみれば誤りではありません。ただ、その一言だけでは、親が何をすると問題になり、どのような場面なら動く余地が生まれるのかが見えてきません。
この記事では、18歳以上の子が風俗店で働いていることを知った親の立場から、介入できない範囲と、介入の余地が生まれる場面を整理します。子の売掛金の問題や、18歳未満の子が性的な被害に遭っている場合の対応は、それぞれ別の記事で扱います。
本記事は2026年9月時点の法令に基づいて作成しています。
親が「辞めさせる」ための法的な手段はない
18歳からは本人が契約の主体になる
2022年4月から、成年年齢は18歳に引き下げられました(民法4条)。未成年の子が契約を結ぶには親の同意が必要で、同意のない契約は取り消すことができますが(同法5条)、18歳以上の子にはこの仕組みが及びません。
親権も未成年の子についての制度であるため、成人した子の勤め先や働き方を親が決めたり、子に代わって店との契約を終わらせたりする権限はありません。子が18歳以上である限り、店との関係を終わらせるかどうかを決めるのは子本人です。
| 項目 | 18歳未満の子 | 18歳以上の子 |
|---|---|---|
| 契約を結ぶとき | 親の同意が必要(民法5条1項) | 本人だけで結べる |
| 同意のない契約 | 取り消せる(同条2項) | 取消しの対象にならない |
| 不利な労働契約 | 親が将来に向かって解除できる(労働基準法58条2項) | 親に解除の権限はない |
| 性風俗店での就労 | 店が客に接する業務に就かせること自体が禁じられている | 届出をした店での就労は職業の一つとして扱われる |
以前使えた解除の権限も18歳未満に限られた
労働基準法には、未成年者に不利な労働契約を親権者が将来に向かって解除できる規定があります(労働基準法58条2項)。成年年齢の引下げ前は19歳の子にも使えましたが、現在の対象は18歳未満です。
また、風俗店では働き手を雇用ではなく業務委託として扱う例も多く、その場合はそもそも労働基準法の適用が争われます。18歳・19歳の子の親が「まだ10代だから」と考えて動いても、法的な裏付けは得られないのが現状です。
親の価値観と法律上の評価は別のもの
憲法は職業選択の自由を保障しています(憲法22条1項)。届出をして営業している店で働くこと自体は、法律上、成人が選べる仕事の一つです。親として受け入れがたい気持ちを持つのは自然なことですが、その気持ちを理由に法的な手段が用意されているわけではない、という点は押さえておく必要があります。
成人した子について親が介入できる範囲の全体像は、【親子問題】成人した子の問題に親が介入できる法的な範囲で整理しています。
親がとりがちな行動と、その法的なリスク
店に乗り込む・辞めさせるよう求める
店に連絡して「辞めさせてほしい」と伝えても、店は契約の相手方である子本人の意思を確認しないまま応じることはまずありません。連絡すること自体が直ちに違法になるわけではありませんが、営業中の店で大声を出す、何度も電話をかけて業務を止めるといった形になると、業務妨害(刑法233条・234条)などが問題になる余地があります。
親が店と対立すると、子は親ではなく店の側に立つことが少なくありません。子が相談できる相手を減らす結果になりやすい点も考えておきたいところです。
連れ戻す・外に出さない
子を実家に連れ帰って外出させない、スマートフォンを取り上げて連絡を断つといった対応は、親子の間でも逮捕監禁罪(刑法220条)や強要罪(同法223条)が問題になり得ます。同居の親族の間で財産を持ち出した場合には刑が免除される特例がありますが(同法244条1項)、身体の自由を奪う行為にはこうした特例がありません。
親の側が良かれと思って実力で解決しようとすることの限界については、【親子問題】鍵を替える・締め出すことの可否|自力救済の限界も参考になります。
周囲に知らせる・子の端末を調べる
きょうだいや親族、子の職場や交際相手に事情を伝えたり、子のスマートフォンを無断で見たりすることも、子のプライバシーとの関係で問題になり得ます。法的な責任が生じるかどうか以前に、子が親を避ける大きなきっかけになりやすい行動です。
介入の余地が生まれる3つの場面
親が子の働き方そのものを変えることはできませんが、次のような事情があると、親が関わる余地が生まれます。
- 子本人が辞めたいと考えているのに、店との関係を終わらせられずにいる。
- 子の借金や店との金銭問題が、親のお金にまで及んでいる。
- 子が本人の意思に反して働かされている疑いがある。
子本人が「辞めたい」と言っている場合
辞めたいと伝えたら罰金を求められた、店のサイトから写真が消えない、といった悩みを子が抱えていることがあります。この場合に店と話をする立場にあるのは子本人です。弁護士に依頼する場合も依頼者は子本人となり、親は相談先を一緒に探す、費用の面で支えるといった形で関わることになります。
店が働き手に科す罰金や違約金の考え方は、キャスト側の「罰金」「違約金」|遅刻・当欠・退店で引かれるお金は適法かで解説しています。
親のお金が巻き込まれている場合
子の借金を代わりに払うよう求められた、子から繰り返しお金を求められている、という場面では、親自身が当事者になります。親は、保証人になるなど自ら義務を負っていない限り、成人した子の借金を支払う法的な義務を負いません。保証契約は書面でしなければ効力を生じません(民法446条2項)。
成人した子への仕送りや援助をどこまで続けるかも、基本的には親が判断してよい事柄です。扶養義務の範囲については、【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで詳しく扱っています。
意に反して働かされている疑いがある場合
ホストクラブなどの売掛金を返すために性風俗店で働くよう求めることは、2025年6月施行の改正風営法で禁止されました(風営法22条の2第2号)。暴行や脅迫によって働くことを強いることは労働基準法でも禁じられており(労働基準法5条)、スカウトが性風俗店に人を紹介する行為は職業安定法違反(職業安定法63条2号)となり得ます。
こうした事情がうかがえる場合は、子の意思を確かめながら、警察や女性相談支援センター(全国共通の相談番号#8778)、弁護士への相談を考える段階です。売掛金をめぐる要求の中身は、【風俗トラブル】『売掛を返すために働け』と言われた|53条2項が正面から禁じた要求で整理しています。
なお、子が18歳未満であれば話はまったく異なります。性風俗店が18歳未満の者を客に接する業務に就かせることは風営法などで禁じられており、親は保護者として速やかに警察や児童相談所に相談できます。
介入の限界の中で、親ができること
戻ってこられる関係を残しておく
子が働き方を見直したいと考えたとき、最初に相談する相手に親が選ばれるかどうかは、それまでの関わり方に左右されます。働いていることを責めるより、困ったときには話を聞くという姿勢を伝えておくほうが、結果として子の安全につながることがあります。
相談先を知っておき、子に渡せるようにしておく
女性相談支援センターは、2024年4月施行の困難な問題を抱える女性への支援に関する法律に基づいて各都道府県に置かれ、生活や人間関係の悩みの相談、一時保護などを行っています。性風俗で働く人を対象に相談を受けている民間団体もあります。親が先に調べておき、子が必要とするときに渡せるようにしておくことは、介入の限界の内側でできることの一つです。
親自身が弁護士に相談する
子の問題に悩み続けることで、親の生活や健康が損なわれてしまう例もあります。子の金銭要求が続いている、子との話合いが難しいといった場合には、親自身が相談者として弁護士に相談することができます。相談の内容が子にどう伝わるかについては、【親子問題】相談内容は子に伝わるのか|守秘義務と連絡の取り方をご覧ください。
よくあるご質問
19歳の子が親に黙って店と契約していました。取り消せますか?
2022年4月以降、18歳以上の子は親の同意なく契約を結ぶことができ、親の同意がないことを理由に取り消すことはできません(民法4条・5条)。子本人が契約を終わらせたいと考えている場合に、その手続を支える形になります。
店から「親御さんから本人を説得してほしい」と連絡がありました。応じる必要はありますか?
親が店に協力する義務はありません。店が親に連絡してくる背景には、子の退店を引き止めたい、子の借金を親に負担させたいといった事情がある場合もあります。金銭の話が出たときは、その場で約束をせず、内容を記録して相談につなげるのが無難です。
子の借金を返すまで働かせると言われました。親が払えば解決しますか?
親に支払義務がないのであれば、払うかどうかは親が判断することです。ただ、請求の中身によっては、そもそも支払う必要のない部分や、要求そのものが法律に触れる場合があります。払ってしまうと取り戻すのが難しくなるため、支払う前に請求の根拠を確かめることをおすすめします。
まとめ
- 18歳以上の子は本人だけで契約を結ぶことができ、親の同意がないことを理由に取り消すことはできない(民法4条・5条)。
- 不利な労働契約を親が解除できる規定は、現在は18歳未満の子に限られる(労働基準法58条2項)。
- 届出をした店で働くことは成人が選べる職業の一つであり、親の価値観と法律上の評価は別のものである(憲法22条1項)。
- 子を連れ戻して外に出さないといった対応は、親子の間でも逮捕監禁罪などが問題になり得る(刑法220条)。
- 親は、保証人などとして自ら義務を負っていない限り、成人した子の借金を支払う義務を負わない(民法446条2項)。
- 売掛金の返済のために性風俗店で働くよう求めることは、改正風営法で禁止されている(風営法22条の2第2号)。
- 親にできるのは、関係を保ち、相談先を用意し、親自身の問題として相談することである。
成人した子の働き方に悩んでいる親御さんへ
成人した子の仕事について、親が法的に決められることは多くありません。一方で、子の金銭問題が親に及んでいる、子が意に反して働かされている疑いがあるといった場面では、親の立場から取り得る対応があります。何ができて何ができないのかを知っておくことが、子との関係を保ちながら動くための第一歩になります。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、親子の問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。弁護士が親御さんの代理人となり、自立支援カウンセラーと連携して対応する取り組みについては、【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応をご覧ください。遠方にお住まいの方からのご相談もお受けしています。


