【親子問題】親を殴って逮捕された子、親が「処罰を望まない」と伝えたら?

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

子が親に手を上げ、警察に逮捕された。けがをした親の側は「大ごとにしたくない」「処罰までは望まない」と考えることが少なくありません。親子のあいだの出来事であり、本人の今後を思えばなおさらです。では、被害を受けた親が警察や検察に「処罰を望まない」と伝えた場合、子の手続はどう動くのでしょうか。本記事では、親の意思が考慮されやすい場面と、伝える前に整理しておきたいことを、親の立場からまとめます。

本記事は、主に成人した子(18歳以上で、少年事件として扱われない年齢の方)が親への暴行・傷害で逮捕された場面を想定しています。未成年の子の場合は手続が異なるため、後半で簡単に触れています。法定刑は2025年6月施行の拘禁刑の表記によっています。


「処罰を望まない」と伝えても、手続はそこで止まらない

 最初に押さえておきたいのは、暴行罪や傷害罪は、被害者の告訴がなければ起訴できない「親告罪」ではないという点です。そのため、被害を受けた親が「処罰を望まない」と伝えても、それだけで捜査が打ち切られたり、すぐに釈放されたりするとは限りません。
 法定刑は、暴行罪(刑法208条)が2年以下の拘禁刑若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料、傷害罪(刑法204条)が15年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金です。窃盗などの財産犯には親族間の特例(刑法244条)がありますが、暴行や傷害にはこうした特例はなく、相手が親であっても同じ条文で扱われます。この点は【親子問題】親子間の暴行・傷害は立件されるのか|特例が及ばない範囲でも解説しています。
 一方で、被害者の気持ちが意味を持たないわけではありません。検察官が起訴するかどうかを決めるときには、犯罪の軽重や情状、犯罪後の情況などが考慮されます(刑事訴訟法248条)。被害を受けた親が処罰を求めていないことは、その「情状」の中で重く見られる事情の一つです。親の意思は、手続を止めるものではなく判断の材料として働く、と考えておくと見通しを立てやすくなります。

親の意思が考慮されやすい場面

 逮捕された後の手続は段階ごとに進み、それぞれの段階で親の意思が持つ重みは少しずつ異なります。

段階判断されること親の意思の位置づけ
逮捕から勾留請求まで(最大72時間)身柄を引き続き拘束するか釈放の判断材料の一つになることがある
勾留中(原則10日、延長で最大20日)起訴するか、不起訴にするか起訴猶予を検討する際の重要な事情になりやすい
起訴された後刑の重さ、執行猶予を付けるか量刑の事情として考慮されることがある


勾留するかどうかの段階

 勾留は、住居が定まらない、証拠を隠すおそれがある、逃げるおそれがあるといった事情があるときに認められます(刑事訴訟法60条)。親子間の事件では、被害者である親と同じ家に住んでいることが多く、帰宅させると親に働きかけて供述を変えさせるのではないか、と見られることがあります。親が処罰を望んでいないことに加え、釈放された後の住まいや監督の体制が示されると、勾留せずに釈放する方向で検討されることがあります。

起訴するかどうかの段階

 けがの程度が比較的軽く、初めての事件で、被害者が処罰を望んでいないといった事情がそろうと、起訴猶予による不起訴となることがあります。ただし、不起訴にはいくつかの種類があり、どれになるかは事案によります。不起訴の考え方は不起訴の3類型はどう違うのか|どれを目指すべきかで整理しています。

起訴された後の段階

 けがが重い場合や、同じような暴力が繰り返されている場合には、親が処罰を望まなくても起訴されることがあります。その場合でも、親の意思は刑の重さや執行猶予の判断において考慮される事情の一つとなります。

処罰を望まないと伝えても、すぐに帰ってこないことがある理由

 「処罰は望まないと伝えたのに、なぜ釈放されないのか」という疑問はよく聞かれます。考えられる事情としては、次のようなものがあります。

  • けがの程度が重いこと、凶器が使われたことなど、行為そのものの重さ。
  • 同じような暴力で過去にも警察が対応していること。
  • 帰宅すれば再び同じ家で親と暮らすことになり、再発のおそれが残ること。
  • 親が子を怖がって本心と違うことを言っているのではないか、と捜査機関が考えること。
  • ほかの家族(きょうだいや配偶者)も被害を受けていること。


 特に、家庭内の暴力は外から見えにくく、親が子をかばう、あるいは報復を恐れて処罰を望まないと言うことも少なくありません。捜査機関はこうした事情を踏まえ、親の言葉だけでなく、経緯や生活状況を含めて判断します。親の意思が尊重されないというより、親自身の安全も考慮されている、と受け止める方が実態に近いといえます。

伝える前に整理しておきたいこと

 処罰を望まないという意思は、一度伝えると手続に大きく反映されます。後から考えが変わっても、すでに不起訴となっていれば同じ事件で改めて処罰を求めることは難しくなります。伝える前に、次の点を落ち着いて整理しておくとよいでしょう。

  1. 処罰を望まない理由が、本心からなのか、子からの報復や家族関係の悪化を恐れてなのか。
  2. 釈放された後、子を同じ家に戻すのか、別の場所で暮らしてもらうのか。
  3. 再び暴力があったときに、親として何をするか(通報する、家を離れる、相談先に連絡するなど)。
  4. ほかの家族の安全をどう確保するか。
  5. けがの診断書や写真など、今回の記録を手元に残しているか。


「事実」と「気持ち」は分けて伝える

 警察や検察で事情を聞かれたときには、何が起きたかという事実と、子をどうしてほしいかという気持ちを分けて話すことが大切です。処罰を望まないからといって、けがの程度を軽く言ったり、実際にあったことを省いたりする必要はありません。事実は事実として伝えたうえで、「それでも処罰は望まない」と気持ちを述べる方が、親の意思として受け止められやすくなります。

怖さから「望まない」と言っていないか

 「処罰を望むと言ったら、出てきた後に何をされるか分からない」という不安から、処罰を望まないと答える親御さんもいます。その場合、手続上は親の意思どおりに扱われても、帰宅後の暮らしの不安は解消されません。怖さがあるときは、その気持ちも含めて警察や検察に話してよいですし、処罰の有無とは別に、子と距離を置くための手立てを考えることもできます。家族関係への影響は【親子問題】被害届を出すと家族関係はどうなるのか|出す前に考えることでも取り上げています。

意思の伝え方と、子の弁護人とのやり取り

 親の意思が捜査機関に届く経路は、主に次の二つです。一つは、警察や検察から被害者として事情を聞かれた際に、直接その気持ちを述べることです。もう一つは、子の弁護人を通じて、「処罰を望まない」「寛大な処分を求める」といった文言を含む書面(嘆願書や示談書)を提出することです。こうした文言の意味は宥恕文言の意味|「許す」と書かれると刑事処分はどう変わるかで詳しく説明しています。
 ここで知っておきたいのは、子の弁護人は、あくまで逮捕された子の利益のために活動する立場だということです。子の弁護人から書面への署名を求められたとき、その内容が親の考えと合っているか、帰宅後の条件などが書かれていないかを確認し、納得できない部分があればその場で署名せずに持ち帰って検討してかまいません。書面の内容が後から問題になる場面は示談が成立した後に被害者が処罰を求めた|宥恕の撤回はできるのかでも扱っています。
 親が被害者でありながら、同時に子の家族として身元引受人を求められることもあります。被害者としての立場と、子を支える立場が重なるため、どちらの役割を引き受けるのかを分けて考えることが必要です。身元引受人の役割は【親子問題】身元引受人になることの意味と責任を参考にしてください。

釈放された後の暮らしをどうするか

 処罰を望まないと伝え、子が釈放されたとしても、家庭の中の問題が解決したわけではありません。むしろ、ここからの暮らし方を決めておかないと、同じことが繰り返されるおそれがあります。
 釈放の際、子が親と離れた場所(親族の家や賃貸住宅など)で暮らすことを条件のように求められる場合もあります。親としても、すぐに同じ家に戻すのではなく、一定期間は距離を置くという選択肢を検討する価値があります。親の側が一時的に家を離れる方法については【親子問題】避難先の確保|一時的に親が家を出るという選択で触れています。
 また、今回の件で警察に相談した記録や、逮捕に至った経緯は、再び暴力があったときの判断にも関わってきます。一度不起訴になった後に再び事件を起こした場合の扱いは起訴猶予になった後に再び事件を起こしたらで説明しています。
 親が65歳以上の場合には、高齢者虐待防止法に基づいて市区町村が関わる仕組みもあります。詳しくは【親子問題】高齢の親が被害者の場合|行政が動く仕組みをご参照ください。

子が未成年の場合

 子が20歳未満の少年である場合、事件は原則としてすべて家庭裁判所に送られます。18歳・19歳の「特定少年」も同様です。そのため、親が処罰を望まなくても、検察官の判断で手続を終える起訴猶予のような仕組みは基本的にありません。親の意思や家庭の状況は、家庭裁判所での調査や審判の中で考慮されることになります。少年事件の流れは【親子問題】少年事件の流れ|家庭裁判所送致から審判までで解説しています。

よくあるご質問


被害届を出していないのに、子が逮捕されたのはなぜですか

 暴行罪や傷害罪は親告罪ではないため、被害届や告訴がなくても、警察が現場で状況を確認し、必要と判断すれば逮捕することがあります。近所の方からの通報や、きょうだいからの110番で警察が来た場合も同じです。

処罰を望まないと伝えた後で、考えが変わったらどうなりますか

 手続がまだ続いている段階であれば、改めて気持ちを伝えることはできます。ただし、すでに不起訴となった後に処罰を求め直すことは、通常は難しいと考えておいた方がよいでしょう。だからこそ、伝える前の整理が大切になります。

子の弁護人から示談金を受け取るよう言われました。受け取らなければいけませんか

 受け取る義務はありません。親子間の事件では金銭のやり取りをせず、嘆願書だけを作成することもあります。受け取るかどうかは、治療費の負担や今後の関係を踏まえて親が決めてよいことです。親の側の対応で迷う場合は【親子問題】子が逮捕された|親が最初にすべきことも参考になります。

親の立場で相談するという選択

 子が親を傷つけて逮捕された場面では、親は被害者であると同時に、子を心配する家族でもあります。子の弁護人は子の側に立つため、親自身が「本当に処罰を望まないと伝えてよいのか」「帰宅後の生活をどう設計するか」を相談できる相手がいないまま、判断を迫られることも少なくありません。
 当事務所では、親御さんの代理人として子と向き合い、自立支援カウンセラーと役割を分けて、親子それぞれの生活を立て直すお手伝いをしています。サービスの内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご紹介しています。処罰を望むかどうかを決める前の段階でも、ご相談いただけます。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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