児童買春の『対償』とは何か|金銭以外の提供でも成立するのか
過去に起訴猶予となった事件があり、その後に別の事件で警察や検察から連絡を受けている。あるいは、いま起訴猶予の見通しを説明されていて、この先もし同じことがあればどうなるのかが気にかかっている。そうした場面でまず整理しておきたいのは、前回の起訴猶予が何をした処分で、何をしていない処分なのかという点です。
インターネット上には「2回目は起訴される」といった説明が多く見られますが、そこで何が起きているのかまでは書かれていないことがほとんどです。実際には、前科がある人に働く法律上の加重の仕組みは、前回が起訴猶予にとどまっている場合には一つも作動しません。それでも次の判断が変わるとすれば、それは別の経路を通ってのことです。
この記事では、起訴猶予の後に再び事件を起こした場合に、法律上は何が変わらず、実際の判断では何が変わるのかを、条文の作りに沿って整理します。
この記事で扱う範囲
- 前回が起訴猶予による不起訴で、今回は別の事件について捜査を受けている場面を想定しています。
- 前回が有罪判決(執行猶予付きを含む)だった場合は前科がある場合の話になり、扱いが変わります。
- 成人の事件を前提としています。少年事件は手続の枠組みが別です。
- 事実関係を争う場面の対応には立ち入りません。
起訴猶予は「事件が消えた」処分ではない
起訴猶予は、刑事訴訟法248条にもとづく不起訴処分の一つです。同条は「犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる」と定めています。
ここに書かれているのは訴追を必要とするかどうかの判断であって、犯罪が成立しなかったという判断ではありません。つまり起訴猶予は、有罪と確定したわけではないという意味で前科にはならず、他方で犯罪の成立を否定されたわけでもない、という位置に立っています。手続としては、起訴しないという選択がされた状態です。
この位置づけが、次に事件を起こしたときの扱いを、そのまま形づくります。
前が有罪判決だった場合との違い
| 場面 | 前に有罪判決がある場合 | 前が起訴猶予の場合 |
|---|---|---|
| 刑の上限 | 要件を満たせば上限が引き上げられる余地がある | 上限は変わらない |
| 執行猶予の要件 | 前の刑の種類と時期によっては使えない | 条文上の欠格事由には当たらない |
| 前の処分の取消し | 執行猶予中であれば取り消されることがある | 取消しという制度がない |
| 前の事件の扱い | 確定判決を受けた事実で再び起訴されることはない | 公訴時効が残っていれば起訴の余地が残る |
| 新しい事件の評価 | 判断材料として考慮される | 判断材料として考慮される |
法律上の効果という点だけを見ると、前が起訴猶予である場合には真ん中の列がほとんど当てはまりません。以下、条文で確認します。
法律上の加重の規定は、どれも作動しない
累犯加重の対象にならない
刑法56条1項は、拘禁刑に処せられた者が、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に更に罪を犯し、有期拘禁刑に処せられるときを「再犯」としています。刑の上限が引き上げられるのは、この要件を満たした場合です。
起訴猶予は刑に処せられた処分ではないため、そもそも入口の要件を満たしません。日常の言葉としての「再犯」と、刑法が加重の要件として使う「再犯」は、指しているものが違うということです。
執行猶予の入口は閉じない
刑法25条1項1号は、執行猶予を付すことができる者として「前に拘禁刑以上の刑に処せられたことがない者」を挙げています。起訴猶予となった事件がいくつあっても、刑に処せられてはいない以上、この号に当たる状態は続きます。
したがって、今回の事件で起訴されて有罪となった場合でも、言い渡される刑が3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金であれば、条文の上では執行猶予を付す余地が残ります。実際に付されるかどうかは、そのうえでの情状の判断になります。
「起訴猶予の取消し」という制度はない
刑法26条と26条の2は、いずれも執行猶予の取消しについての規定です。起訴猶予には、猶予される期間も、取消しの手続も、法律に定められていません。「起訴猶予中」という状態が存在しないのも同じ理由です。
起訴猶予とした事件が後に起訴されることを指して「取消し」と説明されることがありますが、これは次に述べる別の仕組みのことで、執行猶予の取消しとは性質が異なります。
変わるのは「評価」の側
では、前回の起訴猶予は次の事件でどこに現れるのか。248条が挙げる6つの事項のうち、前の処分歴が入り込むのは、主に「犯人の性格」と「犯罪後の情況」の欄です。
注意しておきたいのは、「犯罪の軽重」は今回の事件そのものの重さを見る欄だという点です。前に起訴猶予となった事件があることで、今回の行為の内容が重くなるわけではありません。動くのは、同じ重さの事件について訴追を必要とするかどうかという、必要性の側の見立てです。
起訴された後の量刑判断でも構造は変わりません。前科や前歴は、行為そのものの重さを決める事情としてではなく、更生の見込みなどに関わる事情として位置づけられます。
もう一点、時間の扱いにも違いがあります。前科については、刑法に一定期間の経過によって刑の言渡しの効力が消えるという仕組みが置かれていますが、起訴猶予となった事件の記録について、これに対応する規定はありません。時間の経過が意味を持たないということではなく、期間の経過で自動的に消えるという形の仕組みがないという意味です。実際には、前の処分からどれだけ間が空いたかは、次に述べるとおり評価のなかで扱われます。
前の事件が再び動く場合がある
憲法39条の一事不再理は、確定判決を受けた事件について働く効力です。不起訴処分は判決ではないため、この効力は生じません。そのため、公訴時効が完成していない限り、起訴猶予とした事件について後から起訴することは、制度としては可能です。検察の事務手続にも、不起訴処分に付した事件を再び受理する「再起」の定めが置かれています。
もっとも、実際に再起されるのは限られた場面です。典型的なのは、前の処分を支えていた前提が崩れた場合、たとえば示談の成立を前提に訴追不要と判断したのに、その示談の内容が実際とは違っていたことが分かった場合や、当時把握されていなかった同種の行為がまとまって明らかになった場合などです。
同じことを繰り返せば前の事件も当然に起訴される、という関係にあるわけではありません。ただし、前の事件が制度上まだ終わりきっていないという点は、押さえておく意味があります。
次の判断を左右する4つの軸
| 見られる軸 | 判断に結びつく理由 |
|---|---|
| 前と同じ種類の行為かどうか | 前回と同じ状況が再び生じている点が、更生の見込みという評価に直接つながるため |
| 前の処分からどれだけ間が空いたか | 期間が短いほど、前回の処分を経ても状況が変わらなかったという見方につながりやすいため |
| 前回はどういう事情で訴追不要と判断されたか | 前回の判断を支えた事情が今回も残っているかどうかが問われるため |
| 前の処分の後に何をしていたか | 「性格」や「境遇」の欄に置ける材料が、その期間の中にしかないため |
この4つは、いずれも今回の事件そのものの内容ではなく、前回との関係で決まる事情です。前回の記録は捜査機関の側に残っているため、こちらが説明しなくても把握されている前提で考えたほうが実際的です。
身柄の扱いに差が出ることがある
刑事訴訟法60条1項は、勾留の要件として、住居が定まらないこと、罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があること、逃亡すると疑うに足りる相当な理由があることを挙げています。前歴があること自体はこの要件ではありませんが、同種の前歴があることが、これらの判断のなかで考慮される場面はあります。
前回は在宅のまま処分が決まったので今回もそうなるだろうと考えていたところ、逮捕された、というご相談は実際にあります。前回と同じ進み方をするとは限らない、という点は見込みを立てるうえで重要です。
なお、起訴後の保釈について、刑事訴訟法89条2号は、前に一定の重い罪について有罪の宣告を受けたことがある場合を権利保釈の除外事由としています。有罪の宣告を受けていない起訴猶予歴は、これには当たりません。
前回と同じ材料が、同じようには働かない
前回が示談によって起訴猶予となった場合、今回も同じように示談を整えればよい、と考えたくなるところです。しかし示談は、主に「犯罪後の情況」の欄に置かれる材料です。
今回新たに問われているのは、同じことが繰り返されたという事実そのものであり、これは「性格」や「境遇」の欄の問題です。前回と同じ書面を同じ形でそろえても、今回生じている問いには答えていないことになります。
ここで意味を持つのは、反省の言葉を重ねることではなく、繰り返しにつながった具体的な条件を切り分けて示すことです。どういう状況で、どの時間帯に、誰といるときに、どんな体調や金銭の状態のときに起きたのか。前回の処分の後、そこに手が入っていたのかいなかったのか。この点を具体的に説明できるかどうかが、実務では分かれ目になりやすい部分です。
いま確認しておきたいこと
- 前の処分が、どの理由による不起訴だったのかを確認する。処分の内容は、被疑者が請求すれば検察官から告げられることになっています(刑事訴訟法259条)。
- 前の処分がいつのものか、事件そのものの日付とあわせて整理する。
- 前の事件と今回の事件が、同じ種類のものといえるかどうかを整理する。
- 今回の事件がいまどの段階にあるか(呼出しの有無、在宅か身柄か)を把握する。
- 前回、どのような書面がどこまで提出されていたのかを確認する。
まとめ
- 起訴猶予は前科ではないため、累犯加重の要件にも、執行猶予の欠格事由にも当たりません。
- 起訴猶予には取消しの制度がなく、「起訴猶予中」という状態も存在しません。
- 変わるのは刑の枠ではなく、訴追を必要とするかどうかという評価の側です。
- 一事不再理は不起訴処分には及ばないため、公訴時効が残っていれば前の事件が動く余地は残ります。
- 前回と同じ材料をそろえることより、前回の処分の後の期間を説明できるかどうかが問われます。
前の処分の理由や時期、今回の事件との関係によって、いま準備しておくべきことは変わります。当事務所では刑事事件のご相談をお受けしています。すでに呼出しを受けている場合はもちろん、まだ連絡が来ていない段階でも、状況を整理するところからご相談いただけます。


