【親子問題】子の暴力が始まる前触れに気づいたとき、何をしておけばいい?
年金の支給日が近づくと、成人した子から連絡が入る。当日になると実家に来て、「少し貸して」「今月だけ」とお金を求めて帰っていく。そうした状況が何年も続き、断れば機嫌を損ねるのではないかと思うと言い出せない、というご相談をいただくことがあります。この記事では、子にお金を渡す義務があるのかという法的な整理と、支給日の前に親ができる備え、断った後に強い言動があった場合の対応を順に解説します。
本記事は2026年10月時点の法令・制度をもとにしています。個別の事情によって結論が変わることがありますので、具体的な対応はご相談のうえでご判断ください。
年金の支給日に子が来るという状況を整理する
公的年金は、原則として偶数月の15日に、前月までの2か月分がまとめて受取口座に振り込まれます。15日が土日・祝日にあたる場合は、その直前の平日が支給日です。支給日が決まっているため、口座にまとまった額が入る日を子が把握していれば、その日に合わせて来訪や連絡が集中しやすくなります。
ご相談では、次のような悩みが重なっていることが少なくありません。
- 支給日のたびに子が実家に来て、帰りにはお金を持っていく。
- 「貸して」と言われるが、返ってきたことはない。
- 断ると大声を出したり、居座ったりするので結局渡してしまう。
- 年金だけで暮らしており、渡した月は生活が苦しくなる。
- ほかの家族に知られたくなくて、誰にも話していない。
どれか一つでも当てはまる場合は、子との関係を大切に思う気持ちとは別に、親自身の生活を守る仕組みを整えておくことが大切です。
求められたお金を渡す義務はあるのか
渡したお金は贈与として扱われるのが通常
親が子にお金を渡す行為は、返済の約束がなければ、法律上は贈与として扱われるのが通常です。贈与は渡す側の意思で行うものですから、求められたからといって応じなければならない法的な義務はありません。毎回渡してきたという経緯があっても、それによって次回も渡す義務が生じるわけではありません。
扶養義務は「余力の範囲」で考える
民法877条1項は、親子などの直系血族に互いに扶養する義務があると定めています。ただ、成人した子に対する親の扶養義務は、親が自分の生活を維持したうえで、なお余力がある範囲で援助すれば足りると考えられています。年金だけで暮らしている親が、自分の生活費を削ってまで子の求めに応じる必要はないと考えられます。扶養の程度や方法について話がまとまらない場合は、家庭裁判所の手続で定めることになります。詳しくは【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで解説しています。
「貸して」と言われた場合
「貸して」と言われて渡したお金は、返済の約束があれば貸金として扱われる余地があります。もっとも、口頭のやり取りだけでは、後から「もらったものだ」と言われたときに貸したことを示すのが難しくなります。貸すのであれば、金額・日付・返済の時期を書いた書面を残しておくことが考えられます。ただ、これまで一度も返ってきていないのであれば、貸すという形をとること自体を見直したほうがよい場合もあります。
支給日の前にできる備え
支給日に子が来ることが分かっている場合は、当日になってから断ろうとするよりも、その前に「渡せる状態をつくらない」準備をしておくほうが、親の負担は小さくなります。主な備えを整理すると、次のとおりです。
| 備え | ねらい | 気をつけたい点 |
|---|---|---|
| 自宅に現金を多く置かない | その場で渡せる額を小さくする | 生活に必要な分は確保しておく |
| 受取口座と日々の生活費の口座を分ける | 残高をまとめて引き出されないようにする | 口座の名義と管理は親本人が持つ |
| 通帳・カード・暗証番号を親だけで管理する | 無断の引き出しを防ぐ | 暗証番号は子が推測しにくいものに変える |
| 支給日に一人で家にいない予定を組む | その場で迫られる状況を避ける | 予定はほかの家族とも共有する |
| 渡した日時・金額・言われた言葉を記録する | 後で相談するときの資料にする | 手帳やメモに簡潔に残す |
受取口座の変更は、年金を受け取る親本人が行う手続です。子から「口座を自分が管理する」「受取口座を変えておく」と言われても、その求めに応じて手続をすることは避けたほうがよいでしょう。この点は【親子問題】子に年金の管理を任せろと言われている|渡す前に確かめておくことでも取り上げています。口座や光熱費の名義を整理する実務は、【親子問題】家計を分ける実務|口座・光熱費・保険をどう切るかが参考になります。
記録は、後から弁護士や行政の窓口に相談するときに状況を伝える手がかりになります。記録が持つ意味については、【親子問題】金銭要求に応じ続けた記録は、後で意味を持つかをご覧ください。
断るときの伝え方
断るときは、理由を長く説明するよりも、短く同じ言葉で伝えるほうが話がこじれにくい傾向があります。「今月は渡せない」という言い方は、来月なら渡せると受け取られることがあります。支援を続けるのであれば、金額と頻度を先に決めて伝え、それ以外は応じないという線を示すことが考えられます。支援をやめるのであれば、「これからはお金は渡せない」と時期を区切らずに伝えるほうが伝わりやすいでしょう。
伝える場面は、支給日当日の玄関先よりも、落ち着いて話せる別の日を選ぶほうが安全です。電話や手紙で伝える方法もあります。断ることの法的な位置づけは【親子問題】子から金銭を要求され続けている|断ることの法的な位置づけ、伝え方の具体例は【親子問題】子への仕送りを止めたい|止め方と伝え方で解説しています。
断った後に強い言動があった場合
帰ってほしいと伝えても帰らない
実家を離れて暮らしている子が、親から帰るよう求められても家にとどまり続ける場合、不退去罪(刑法130条後段)が問題になることがあります。身の危険を感じるときや、帰るよう何度伝えても応じないときは、110番通報をためらう必要はありません。
脅す言葉や暴力があった
お金を出さなければ危害を加えるといった言葉で金銭を要求された場合は、恐喝罪(刑法249条)にあたる可能性があります。ただし、親子のような直系血族の間では、恐喝罪にも親族相盗例(刑法251条・244条1項)が適用され、罪が成立しても刑が免除される扱いになっています。そのため、お金の要求そのものを刑事手続で止める道は限られます。
一方で、暴行・傷害・脅迫・不退去などにはこの特例は及びません。命や身体への危害を告げられた場合の考え方は【親子問題】「殺す」と言われた|脅迫罪として扱われる線引きで取り上げています。「お金を出さないと死ぬ」と言われた場合は、命の問題と金銭の問題を分けて考えることが大切です。【親子問題】「金を出さないと死ぬ」と子に言われた|命の問題と金銭の問題を分けて考えるもあわせてご覧ください。
親が65歳以上の場合は行政にも相談できる
高齢者虐待防止法は、65歳以上の高齢者について、親族が本人の財産を不当に処分したり、本人から不当に財産上の利益を得たりすることを経済的虐待の一つとして定めています(同法2条4項2号)。年金を目当てに繰り返しお金を求められている場合、市区町村の高齢者福祉の窓口や地域包括支援センターに相談することで、行政が状況の確認に動くことがあります。仕組みについては【親子問題】高齢の親が被害者の場合|行政が動く仕組みをご覧ください。
親だけで支給日を乗り切るのが難しいとき
お金の管理を第三者に手伝ってもらう
社会福祉協議会が行う日常生活自立支援事業では、日々のお金の出し入れや通帳の預かりなどを手伝ってもらえることがあります。判断能力の低下が心配な場合は、成年後見制度や任意後見契約を検討する場面もあります。第三者が管理に関わることで、子から求められても「自分の一存では動かせない」と伝えやすくなります。詳しくは【親子問題】金銭管理を第三者が担う仕組み|日常生活自立支援事業と民間の支援者の違いをご覧ください。
弁護士が親の代理人として窓口になる
弁護士が親の代理人となれば、子からの金銭の求めや連絡を弁護士が受ける形に切り替えることができます。親が支給日に直接対応する場面を減らせるほか、子との話し合いの場を家庭裁判所の親族関係調整調停に移すことも考えられます。窓口を代えることの意味は【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択で解説しています。
当事務所では、弁護士が親の側に立って子からの金銭要求に対応しつつ、自立支援カウンセラーが子の仕事探しや生活保護の申請、日々の金銭管理などを支える形で、親子それぞれの生活を立て直す取り組みを行っています。お金を断るだけでは子の生活が立ち行かない場合にも、子の側の生活基盤づくりとあわせて検討できます。サービスの流れや費用は【親子問題】子の暴力・ひきこもり・お金の無心・犯罪行為に悩む親御さんへ|ご相談から自立までの流れと費用、よくあるご質問にまとめています。
よくあるご質問
これまで渡してきたお金を返してもらうことはできますか
返済の約束がないまま渡したお金は贈与と扱われるのが通常で、後から返還を求めるのは難しいことが多いと考えられます。一方、貸したことを示す書面ややり取りが残っていれば、貸金として返還を求める余地があります。手元に残っている記録を整理するところから始めるのがよいでしょう。
子が本当に生活に困っているようです。断ってもよいのでしょうか
子の生活が苦しいことと、親が年金から渡し続けることとは、分けて考える必要があります。子が働けない事情を抱えている場合は、自治体の生活困窮者向けの相談窓口や生活保護の申請など、親のお金以外で生活を支える方法を検討する余地があります。親が窓口探しを手伝うことと、お金を渡すことは別の支え方です。
子に知られずに相談することはできますか
弁護士には守秘義務がありますので、ご相談いただいたことが子に伝わることはありません。子への連絡を始めるかどうか、いつ始めるかは、ご相談のうえで決めていきます。
まとめ
- 子に求められたお金を渡す法的な義務はなく、扶養義務も親の生活に余力がある範囲で考えるものです。
- 支給日の前に、現金を置かない、口座とカードを親だけで管理するといった備えをしておくと、当日の負担を減らせます。
- 断るときは短く同じ言葉で伝え、支給日当日の玄関先を避けて話すほうが安全です。
- 居座りや暴力、脅す言葉があった場合は、110番通報や行政の窓口への相談をためらう必要はありません。
- 親だけで対応するのが難しいときは、第三者による金銭管理や、弁護士が代理人として窓口になる方法があります。
年金は、親がこれからの生活を続けていくための大切な収入です。子を思う気持ちを持ち続けることと、支給日のたびにお金を渡すことは、必ずしも同じではありません。親の生活を守る形を整えることが、結果として子が自分の生活に向き合うきっかけになる場合もあります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


