【親子問題】子の結婚資金を出したのに離婚した、返してもらえる?

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

本記事は2026年10月時点の法令にもとづいて記載しています。財産分与の請求期間は、2026年4月1日に施行された改正民法により、同日以降の離婚では離婚の時から5年となっています(同日より前の離婚は2年のままです)。


子の結婚にあたって、挙式の費用や新居の頭金、家具や家電をそろえる資金を親が出すことは珍しくありません。ところが、その後に子が離婚することになると、「あのとき出したお金は返してもらえるのか」「相手の側に残ったままになるのは納得がいかない」と感じる親御さんもいらっしゃいます。

 渡したお金が戻るかどうかは、「あげたのか、貸したのか」「誰に渡したのか」「そのお金がいま何になっているか」の3つでおおむね方向が決まります。離婚したという事実だけで、いったん渡したお金の返還を求められるわけではありません。一方で、渡し方や使い道によっては、子の離婚手続の中で考慮されたり、相手に返還を求めたりできる場合もあります。

 この記事では、親の立場から、結婚資金をめぐって確かめておきたい点と、取り得る手段の順序を整理します。

最初に確かめたいのは「あげたのか、貸したのか」

 親が子に結婚資金を渡したとき、法律上は大きく「贈与」か「貸付(金銭消費貸借)」のどちらかとして扱われます。どちらにあたるかで、その後の話は大きく変わります。

贈与だった場合

 贈与は、渡す側と受け取る側の合意で成立します(民法549条)。書面によらない贈与であっても、すでに渡し終えた部分は後から撤回することができません(民法550条)。そのため、「お祝いとして渡した」「新生活の足しにと渡した」というお金は、子が離婚したことだけを理由に返してもらうことは原則として難しいと考えられています。

 「結婚生活が続くことが前提だった」というお気持ちは自然なものですが、その前提が当時の約束の内容になっていたと示すのは簡単ではありません。参考になるのが結納の扱いです。最高裁は、挙式後8か月あまり夫婦として生活し、婚姻の届出も済ませていた事案で、その後に協議離婚となっても結納を返す義務はないと判断しています(最高裁昭和39年9月4日判決)。婚姻が成立した時点で、結婚のための贈与はその目的を果たしたと考えられやすいということです。もっとも、同居がごく短期間で終わった事案では返還を認めた裁判例もあり、婚姻生活の実態によって評価が分かれる余地はあります。

貸付だった場合

 「返してもらう」という約束で渡したのであれば、貸付として返還を求めることができます(民法587条)。ただし、親子の間では借用書を作らないことが多く、後から「もらったものだと思っていた」と言われることも少なくありません。貸付だったと示すには、次のような記録が手がかりになります。

  • 借用書や、返済の約束が書かれたメール・LINEのやり取り。
  • 振込の際に付けた「貸付」「立替」などのメモ。
  • 返済の時期や方法を話し合った記録。
  • 少額でも返済を受けていた記録。


 子に貸したお金を請求する進め方は、【親子問題】子に貸したお金を返してもらいたい|「もらった」と言われたときの整理と請求の進め方で詳しく解説しています。

誰に渡したのか|子本人か、夫婦二人か

 次に確かめたいのは、お金を受け取ったのが子本人なのか、子とその配偶者の二人なのかという点です。

子本人に渡した場合

 子の名義の口座に振り込んだ、子に手渡したという場合、贈与であればそのお金は子が親から受け取った財産です。結婚後に親から贈与された財産は、夫婦が協力して築いた財産ではないため、離婚の際の財産分与では「特有財産」として分ける対象から外れる可能性があります。つまり、親が直接取り戻すのではなく、子が離婚の手続の中で「これは親から受け取った自分の財産だ」と主張するという形になります。

夫婦二人に渡した場合

 「二人の新生活のために」と夫婦に贈与した場合、そのお金は夫婦それぞれが受け取ったものと扱われる可能性があります。この場合、子の配偶者が受け取った部分を後から返してもらうことは、贈与である限り難しいと考えられます。

 これに対し、夫婦二人に貸したのであれば、子の元配偶者にも返す義務が残ります。特別な取り決めがなければ、借りた人数で割った額をそれぞれが負担するのが原則です(民法427条)。

 誰に渡したかは、振込先の口座名義、当時のやり取り、贈与税の申告をしていればその内容などから判断されます。たとえば、子の配偶者を受け取る人として贈与税の申告をしていた場合には、配偶者への贈与だったと見られやすくなります。

そのお金がいま何になっているか|使い道による違い


使い道離婚の際の考え方の目安
挙式・披露宴・新婚旅行の費用すでに使い切っており、離婚の手続の中で取り戻すことは難しいのが一般的です。
預金として残っている子の特有財産として、財産分与の対象から外すよう主張できる可能性があります。生活費の口座に混ざっていると区別が難しくなります。
住宅の頭金頭金の割合に応じて、子の特有財産として考慮される可能性があります。
家具・家電・車夫婦の生活のための財産として扱われやすく、時間とともに価値も下がります。


住宅の頭金に充てた場合の考え方

 頭金は、出した金額がそのまま戻るのではなく、現在の住宅の価値のうち、頭金が占めていた割合に応じた部分が特有財産として考慮されるのが一般的です。住宅の価値が購入時より下がっていれば、考慮される額も小さくなります。計算の方法には複数の考え方があり、住宅の時価の評価そのものも争いになりやすい点に注意が必要です。

 また、住宅を売却するのか、どちらかが住み続けるのか、住宅ローンをどう扱うのかといった問題も同時に話し合うことになります。頭金の扱いだけを切り離して決めることは難しいため、離婚の話し合い全体の中で位置づけることになります。

子の離婚手続の中で考慮してもらう道

 親から受け取ったお金を特有財産として扱ってもらうには、子自身が財産分与の話し合いや調停の中で主張する必要があります。親は離婚の当事者ではないため、親が財産分与を求めることはできません。子が主張するにあたっては、次の点を押さえておくとよいでしょう。

  • 特有財産であることは、主張する側が示す必要があります。親からの振込記録や当時のやり取りが手がかりになります。
  • 離婚協議書に「本書に定めるほか、互いに何らの債権債務がないことを確認する」といった清算条項を入れると、後から請求することは難しくなります。署名の前に、親からのお金の扱いを話し合いに含めておくことが大切です。
  • 財産分与を家庭裁判所に求めることができる期間は、2026年4月1日以降の離婚では離婚の時から5年、それより前の離婚では2年です(民法768条2項)。


 なお、親からのお金をどこまで主張するかは、最終的には子が決めることです。離婚の話し合いを早く終えたいなど、子なりの事情もあります。親としての考えは伝えつつ、子の離婚手続そのものに親が前に出すぎないよう気をつけたいところです。

親が子の元配偶者に直接返還を求めるとき

 夫婦二人に、または子の配偶者に貸していた場合には、親が貸した側として子の元配偶者に返還を求めることになります。このとき、次の点に気をつける必要があります。

  • 金額や渡した日、貸付だと考える根拠を整理し、書面で伝えることをおすすめします。
  • 電話や訪問を重ねたり、元配偶者の勤務先や親族に連絡したりすると、かえって話がこじれ、相手から苦情を申し立てられるおそれがあります。
  • 貸したお金の返還を求める権利は、時間の経過によって時効にかかることがあります。返済期限を決めていたかどうかで扱いが異なるため、早めに確認しておくことが大切です。
  • 子の離婚の話し合いが続いている間は、親の請求が話し合い全体に影響することもあるため、子と方針をそろえてから動くことが望ましいといえます。


子に返してほしいと考えるとき

 子本人に貸していたのであれば、子の離婚とは関係なく、子に返済を求めることができます。贈与だった場合には、子にも返す義務はありません。

 ただ、離婚の直後は、子の生活も気持ちも大きく揺れている時期です。返済を求めるときは、金額や時期を一方的に決めるのではなく、無理のない返済の計画を話し合い、合意できた内容を書面に残しておくと、後のすれ違いを防ぎやすくなります。書面の作り方は【親子問題】親子間で合意書を作る|約束を書面にする意味と限界で解説しています。

 また、返してもらうことまでは考えていないものの、ほかの子との公平が気になるという場合もあるでしょう。婚姻のために受けた贈与は、将来の相続の場面で「特別受益」として、遺産の分け方を考える際に考慮されることがあります(民法903条)。ただし、相続開始から10年を経過した後の遺産分割では原則として特別受益を主張できなくなるなど(民法904条の3)、時間の経過による制限もあります。遺言で扱いを明らかにしておくことも一つの方法です。

話を進める前に整理しておきたいこと


  1. 渡した金額と日付、渡し方(振込・手渡し)。
  2. 振込先の口座の名義(子本人か、配偶者か、夫婦共同か)。
  3. 渡したときに「お祝い」「貸す」などどのように伝えたか、それが分かるメールやLINE。
  4. 贈与税の申告をしたかどうか、したのであれば受け取った人が誰だったか。
  5. お金の使い道と、いま何として残っているか。
  6. 子の離婚が話し合いの途中か成立済みか、成立済みであれば離婚した日。
  7. 子自身が、親からのお金をどう扱いたいと考えているか。


よくあるご質問


離婚の原因が子の配偶者にある場合、結婚資金を返してもらえますか

 離婚の原因が相手の不貞行為などにある場合、子が相手に慰謝料を請求できることはありますが、それは結婚資金の返還とは別の問題です。贈与として渡したお金は、離婚の原因がどちらにあるかによって当然に返還を求められるものではありません。結納の返還をめぐっては、婚姻が短期間で終わった場合にどちらに原因があったかが考慮された裁判例もありますが、個別の事情によるところが大きいといえます。

子の配偶者の親も援助していた場合はどうなりますか

 双方の親が援助していた場合も、考え方は同じです。それぞれの親が誰に、どのような趣旨で渡したかを分けて整理します。住宅の頭金を双方の親が出していた場合には、夫婦それぞれが自分の特有財産を主張し合う形になることもあります。

相手が「あれはもらったものだ」と言って話し合いに応じません

 貸付だったと考える根拠を整理したうえで、書面で返還を求めるのが一般的な進め方です。それでも応じない場合には、調停や訴訟で判断を求めることになります。親が直接やり取りを続けることで関係がこじれていると感じる場合には、弁護士が窓口となることも考えられます。

当事務所にご相談いただく場合

 当事務所では、親御さんの立場からのご相談をお受けしています。結婚資金をめぐっては、子の離婚手続、子の元配偶者とのやり取り、子との親子関係が重なり合うため、どこから手をつけるかで進み方が変わることがあります。お手元の記録をもとに、贈与か貸付か、誰に渡したのかを整理し、子の離婚手続の中で考慮してもらう道と、親が直接求める道のどちらが現実的かを一緒に検討します。親御さんの代理人として子の元配偶者と連絡を取る場合も、子の意向を確認しながら進めます。窓口を弁護士に代えることの意味は、【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択で解説しています。

 結婚資金は、子の幸せを願って出したお金だからこそ、離婚の場面で割り切れない思いが残りやすいものです。返してもらえるかどうかは渡したときの事情で大きく変わるため、まずは記録を手元に集め、子の離婚の進み具合とあわせて落ち着いて整理することから始めてみてください。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

風俗・男女トラブルの不当要求から依頼者を守る弁護士

  1. マイベストプロ TOP
  2. マイベストプロ東京
  3. 東京の法律関連
  4. 東京の男女・夫婦問題
  5. 若井亮
  6. コラム一覧
  7. 【親子問題】子の結婚資金を出したのに離婚した、返してもらえる?

若井亮プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼