【親子問題】ひきこもりの子が「家を継ぐ」と言い張るときは?
本記事は、成人した子から起業資金を求められた親御さんを念頭に、2026年10月時点の法令に基づいて解説しています。贈与税などの税務の取扱いは個別の事情によって変わるため、具体的な判断は税理士にご確認ください。
「会社を辞めて事業を始めたい」「開業資金が足りないので出してほしい」。成人した子からこう切り出されたとき、応援したい気持ちと、老後の資金を減らしてよいのかという不安の間で迷う親御さんは少なくありません。これまでにも何度かお金を渡してきた経緯がある場合は、なおさら判断が難しくなります。
この記事では、子の起業資金を親が出す義務があるのか、出すとしたらどのような形があり、それぞれ何が違うのか、出す場合と断る場合にそれぞれ何を整えておくとよいのかを、法律の観点から整理します。
親に子の起業資金を出す義務はあるのか
民法877条1項は、直系血族は互いに扶養をする義務があると定めています。ただ、成人した子に対する親の扶養義務は、一般に、親が自分の生活を維持したうえで余力がある範囲で、子の最低限の生活を援助する性質のもの(生活扶助義務)と考えられています。
起業資金は、子の生活を支えるためのお金ではなく、事業を始めるための資金です。扶養義務の範囲に含まれるとは考えにくく、出さないと決めることは法的には問題のない選択です。出すかどうかは、親御さんご自身の判断に委ねられています。扶養義務の考え方については【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで、金銭の要求を断ることの位置づけについては【親子問題】子から金銭を要求され続けている|断ることの法的な位置づけで解説しています。
出すかどうかを決める前に確かめたいこと
判断材料がないまま「出す」「出さない」を決めると、後から迷いが残りやすくなります。まずは子に次の点を説明してもらい、できればメモや書面の形で受け取っておくとよいでしょう。
- 始める事業の内容、時期、場所。
- 必要な金額とその内訳(設備、仕入れ、当面の運転資金など)。
- 子自身が用意している自己資金の額。
- 金融機関や公的な創業融資など、親以外の調達先の検討状況。
- 事業がうまくいかなかったときの撤退と生活の見通し。
あわせて、親御さん側の事情も整理しておきます。出せる金額は、老後の生活費や医療・介護への備えを差し引いた後に残るお金がひとつの目安になります。ほかにお子さんがいる場合は、一人だけに多額の資金を出すことが、後のきょうだいの関係や相続に影響することもあります。
「起業」が金銭の要求の言い換えになっていないか
「起業」という説明が、実際には借金の返済や生活費、浪費の穴埋めのための名目になっている場合もあります。次のような事情が重なるときは、事業の資金としてではなく、金銭の要求として受け止めて対応を考えた方がよいことがあります。
- 必要な理由や金額が、話すたびに変わる。
- 「今週中に」など、期限を区切って急がせる。
- 内訳や計画を尋ねると、怒ったり話を打ち切ったりする。
- 以前にも同じような名目でお金を渡したが、事業の実態が見えなかった。
- セミナーやSNSで知り合った人から「先に投資が必要」と言われている。
最後の項目のように、子自身が高額な情報商材や投資話に誘われ、「事業資金」として親にお金を求めている場合もあります。この場合は、子の話を否定するより先に、勧誘の構造を確かめることが大切です。詳しくは【親子問題】SNSで知り合った相手に子が金を送り続けている|ロマンス詐欺・投資勧誘の構造と、止められない理由で解説しています。また、これまでのお金のやり取りを記録しておく意味については【親子問題】金銭要求に応じ続けた記録は、後で意味を持つかをご覧ください。
「あげる」「貸す」「出資する」「保証する」で意味が変わる
親が子の起業にお金を出す方法は、大きく分けて4つあります。どの形をとるかで、お金が戻る可能性や、事業がうまくいかなかったときの親の負担が大きく変わります。
| 出し方 | 法的な性質 | お金が戻る可能性 | 親が注意したい点 |
|---|---|---|---|
| あげる | 贈与(民法549条) | 原則として戻らない | 贈与税、相続のときの扱い |
| 貸す | 金銭消費貸借(民法587条) | 子に返す義務がある | 「もらった」と言われないための書面 |
| 出資する | 会社の株式などの取得 | 事業の成否による | 持ち株の割合と経営への関わり方 |
| 保証人になる | 保証契約(民法446条) | 立て替えた分を子に求められるが、回収は難しいことが多い | 事業がうまくいかないと親が返済を求められる |
あげる(贈与)場合
返してもらうつもりがないなら、贈与として渡すことになります。贈与は口約束でも成立しますが、書面によらない贈与は、まだ渡していない部分であれば取りやめることができます(民法550条)。「出すと言ってしまった」段階でも、実際に渡す前であれば考え直す余地は残っています。
贈与税は、暦年課税の場合、1年間に受けた贈与の合計が基礎控除の110万円を超えると課税の対象になります。また、親が亡くなったとき、子が生計の資本として受けた贈与は「特別受益」として、相続分の計算で考慮されることがあります(民法903条)。起業資金がこれに当たるかは事情によりますが、きょうだいがいる場合は、何のためにいくら渡したかを書き残しておくと、後の話し合いがしやすくなります。
貸す場合
返してもらうつもりなら、貸付けであることをはっきりさせておく必要があります。親子間では口約束で済ませることが多く、後になって子から「あれはもらったお金だ」と言われ、貸したことを示すのに苦労するケースが見られます。弁護士ドットコムでも、住宅購入のためと言われて渡したお金を別の用途に使われ、返還を求めても応じてもらえないという相談が取り上げられています。
金額、返済の期限と方法、利息の有無を記した借用書(金銭消費貸借契約書)を作り、お金は口座振込で渡し、返済も振込で受けるようにしておくと、記録が残ります。返済の期限や方法が決まっていない「出世払い」のような形は、税務上も贈与と扱われることがあります。返済が滞ったときの考え方は【親子問題】子に貸したお金を返してもらいたい|「もらった」と言われたときの整理と請求の進め方で解説しています。
出資する場合
子が会社を設立する場合、親が株式を引き受ける形で資金を出すこともできます。株主は出資した額を限度として責任を負うため、会社が借金を抱えても、出資額を超えて親が支払う義務は原則としてありません。その一方で、出資金は貸付けと違い、会社がうまくいかなければ戻ってこないのが通常です。持ち株の割合によっては経営に意見を言える立場にもなるため、どこまで関わるのかを事前に子と話し合っておくことが大切です。
保証人になる・名義を貸す場合
「お金は銀行から借りるから、保証人にだけなってほしい」と頼まれることもあります。しかし保証人は、子や子の会社が返せなくなったときに、代わりに返済を求められる立場です。手元のお金を出すわけではないため負担が軽く見えますが、結果として、貸すよりも大きな金額を負うおそれがある点に注意が必要です。
なお、事業のための借入れを個人が保証する場合、原則として、契約の前1か月以内に公正証書で保証の意思を表示しておかなければ、保証契約は効力を生じません(民法465条の6)。親が子の会社の取締役になる場合などには例外があります。また、子は保証を頼む際に、自分の財産や収支、ほかの借入れの状況などを親に説明する義務を負います(民法465条の10)。説明を求めても応じない場合は、それ自体がひとつの判断材料になります。
契約や借入れの名義を親が引き受ける場合も、相手方に対して返済の義務を負うのは名義人である親です。保証人になった後の対応は【親子問題】保証人になってしまった後にできることで、名義を親が持つことのリスクは【親子問題】子の携帯・車の名義を親が持っている場合のリスクで解説しています。
出すと決めたときに書面に残しておきたいこと
出すと決めた場合も、口約束だけで渡すのは避けたいところです。少なくとも次の点を書面にしておくと、後の行き違いを減らせます。
- 贈与か、貸付けか、出資かという資金の性質。
- 金額と、渡した日・方法。
- 使い道(起業資金に充てること)。
- 貸付けの場合の返済期限、返済方法、利息の有無。
- 追加の資金を出すかどうかと、出す場合の条件。
特に最後の点は見落とされがちです。事業を始めた後に「あと少しあれば軌道に乗る」と追加の資金を求められ、断りにくくなることは珍しくありません。最初の段階で「今回限り」と決めて書面にしておくと、親御さんご自身の判断の拠り所になります。親子間で書面を作る意味と限界については【親子問題】親子間で合意書を作る|約束を書面にする意味と限界をご覧ください。
断ると決めたときの伝え方
断る場合は、理由を長く説明しすぎず、「老後の生活のために、このお金は動かせない」など、親の事情として簡潔に伝える方が、議論になりにくい傾向があります。事業計画の良し悪しを親が評価する形になると、計画を直せば出してもらえると受け取られ、同じ話が繰り返されることがあります。
そのうえで、資金以外の手助けとして、商工会議所や公的な創業支援の窓口、創業向けの融資制度を案内する方法もあります。第三者である金融機関が事業計画を審査する仕組みは、子にとっても計画を見直す機会になります。
断った後に、暴言や暴力、物を壊すといった行為があったり、「出さないなら死ぬ」と迫られたりする場合は、資金の問題とは切り分けて、身の安全を優先してください。【親子問題】「金を出さないと死ぬ」と子に言われた|命の問題と金銭の問題を分けて考えるや【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録もあわせてご覧ください。
弁護士に相談できること
当事務所では、親御さんの代理人として、子との金銭のやり取りの窓口を引き受けることができます。親が直接やり取りを続けると、感情的な衝突が重なり、断ったはずの話が何度も持ち出されることがあります。弁護士が間に入り、親として出せる範囲と出せない範囲を整理して伝えることで、話し合いを落ち着いた形に戻せる場合があります。
すでに渡したお金の返還を求めたい場合や、貸付けの書面を整えたい場合、保証人を頼まれて判断に迷っている場合のご相談もお受けしています。また、起業の話の背景に、仕事が続かない、生活が自立していないといった事情がある場合は、自立支援のカウンセラーと連携し、子の生活の基盤づくりを含めて対応することもできます。詳しくは【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応をご覧ください。
子の起業を応援したい気持ちと、親自身の生活を守ることは、どちらも大切です。出す場合も断る場合も、お金の性質と範囲を最初に決めておくことが、親子の関係を長く保つことにもつながります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


