【親子問題】子の薬物使用に気づいた|通報すべきか迷ったとき
この記事は、2019年7月1日に施行された改正民法(遺留分侵害額請求の制度)を前提にしています。個別の事情によって結論が変わることがあるため、具体的な判断は専門家にご確認ください。
ひきこもりの子のほかに子がいるご家庭では、「家業を継ぐ子に多めに残したい」「介護を担ってくれた子に報いたい」「自分たちが亡くなった後、ひきこもりの子を支えてくれる子に財産をまとめておきたい」と考える親御さんが少なくありません。一方で、ひきこもりの子が後になって「不公平だ」と訴え、きょうだいの間で争いになるのではないかと心配されるご相談も寄せられています。
この記事では、ほかの子に多めに相続させた場合に、ひきこもりの子が法律上どのような主張をできるのか、そして親が生前にどのような備えをしておけるのかを、順を追って整理します。
親は遺言で分け方を決められるが、子には「遺留分」がある
多めに残すこと自体は、遺言で指定できる
財産を誰にどれだけ残すかは、遺言によって親が決めることができます(民法902条・964条)。法定相続分は、遺言がない場合や遺産分割の話し合いの目安となる割合であり、必ずその割合で分けなければならないものではありません。そのため、「長男に自宅、次男とひきこもりの三男には預金を少しずつ」といった偏りのある遺言も、形式を満たしていれば有効です。
ただし、子には「遺留分」という、法律が保障する最低限の取り分があります。ほかの子に多めに残すことはできても、ひきこもりの子の遺留分を下回る配分にした場合は、後で金銭の支払いを求められる可能性が残ります。
子の遺留分は、法定相続分のおおむね半分
子が相続人になる場合、遺留分の割合は全体で遺産の2分の1で、これを各自の法定相続分で分けます(民法1042条)。たとえば次のような計算になります。
| 相続人の構成 | 子1人あたりの法定相続分 | 子1人あたりの遺留分 |
|---|---|---|
| 子3人(配偶者なし) | 3分の1 | 6分の1 |
| 配偶者と子2人 | 4分の1 | 8分の1 |
| 配偶者と子3人 | 6分の1 | 12分の1 |
配偶者がすでに亡くなっていて子が3人、遺産が6,000万円という場合、ひきこもりの子の遺留分は1,000万円が目安です。遺言でこの子に500万円しか残していなければ、差額の500万円程度を、多く受け取った子に請求できる可能性があります。実際の金額は、生前贈与や借金なども含めた計算になるため、上の数字はあくまで考え方の目安としてご覧ください。
「不公平を訴える」とは、法律上は何をすることか
請求できるのは遺留分に足りない分の金銭
ひきこもりの子が「不公平だ」と感じても、遺留分を超える部分について法律上の請求ができるわけではありません。法的な手段としては、遺留分に足りない分を金銭で支払うよう求める「遺留分侵害額請求」が中心になります(民法1046条)。2019年の改正で、自宅などの財産そのものを取り戻す仕組みから、金銭を請求する仕組みに改められました。そのため、自宅を相続した子が家そのものを分けるよう求められるのではなく、お金で精算する問題になります。もっとも、支払う資金がなければ、自宅の売却を検討せざるを得ない場合もあります。
このほか、遺言を書いた当時の親の判断能力に疑問があるとして、遺言の有効性そのものを争われることもあります。
請求には期限がある
遺留分侵害額請求には、相続の開始と遺留分を侵害する遺言や贈与があったことを知った時から1年、相続開始から10年という期間の制限があります(民法1048条)。ここで注意したいのは、1年の期間は「知った時」から進むという点です。ひきこもりの子が遺言の内容を知らされないまま時間が過ぎても、それだけで請求できなくなるとは限りません。
「本人は請求しないだろう」という見込みには頼りにくい
ひきこもりの状態にある子は、自分から手続を起こさないだろうと考える方もいます。しかし、親が亡くなって生活の支えを失ったときに、本人が支援者や弁護士に相談して請求に踏み切ることは考えられます。また、本人に判断能力の問題があって成年後見人が付いた場合には、後見人が本人の利益を守る立場から請求を検討することもあります。遺留分は本人の権利であり、ほかの家族の見込みで消えるものではない、という前提で準備しておくほうが安全です。
きょうだい側からよく出る反論|長年の生活費は「先にもらった分」になるか
遺留分を請求された側のきょうだいからは、「ひきこもりの子は、何十年も親に生活費を出してもらっていた。その分を差し引くべきだ」という声がよく聞かれます。
法律上、相続人が親から受けた贈与のうち、生計の資本としての贈与などは「特別受益」として扱われ、遺留分の計算で考慮されることがあります(民法903条・1044条3項・1046条2項)。ただし、同居している子の食費や日常の生活費のように、親子の扶養の範囲内と見られる支出は、特別受益にあたらないと判断されることが一般的です。
一方で、子の借金をまとめて肩代わりした、車や住まいのためにまとまった金額を渡したといった場合には、特別受益として考慮される可能性があります。いずれにしても、何年も前の支出は後から証明することが難しくなりがちです。親御さんが援助の内容を記録しておくことは、将来の話し合いを落ち着いたものにする助けになります。
親が生前にできる備え
争いを完全になくす方法はありませんが、争いが起きにくい形に整えておくことはできます。主な備えは次のとおりです。
- 遺留分を下回らない配分を基本に考えるか、下回る場合は請求された分を支払える預金などを、多く受け取る子の側に用意しておく。
- 公正証書遺言にして、遺言の形式や判断能力をめぐる争いが起きにくくする。
- 遺言の中に、なぜその分け方にしたのかを伝える「付言事項」を書き添える。
- ひきこもりの子の生活を支えることを条件に、ほかの子に多めに残す「負担付遺贈」を検討する。
- 遺言の内容を実現する役割を担う遺言執行者を指定しておく。
- 生活費以外のまとまった援助をした場合は、日付・金額・目的を記録しておく。
付言事項には法的な拘束力はありませんが、親の考えが言葉で残っていることで、ひきこもりの子が感情的に受け止めにくい内容でも、受け止め方が変わることがあります。負担付遺贈は、多めに受け取った子がひきこもりの子の生活費を一定期間負担する、といった形で使われます(民法1002条)。ただし、約束が守られなかったときの扱いや、ひきこもりの子との関係が悪い場合の実効性については、慎重な設計が必要です。
生前に遺留分を放棄してもらうことはできるか
親が存命のうちに、子が家庭裁判所の許可を得て遺留分を放棄する制度があります(民法1049条)。ただし、申立てをするのは子本人であり、親やきょうだいが代わりに行うことはできません。家庭裁判所は、本人の自由な意思によるものか、放棄に見合う生前贈与などの代わりがあるかといった点を確認するとされています。ひきこもりの子に放棄を強く迫ったり、念書に署名させたりしても、家庭裁判所の許可がなければ効力は認められません。かえって関係をこじらせるおそれもあるため、話を持ち出す場合は時間をかけて進めることが大切です。
相続させないことは、遺留分とは別の問題
ひきこもりの子から暴力や重大な侮辱を受けている場合には、家庭裁判所に「推定相続人の廃除」を申し立てる方法もありますが、認められる要件は厳しく、ほかの子に多めに残したいという理由だけで使える手段ではありません。詳しくは【親子問題】暴力を続ける子に財産を渡したくない|相続廃除の要件で解説しています。
請求が起きた後、多く受け取った子が直面すること
遺留分侵害額請求を受けた子は、原則として金銭で支払うことになります。すぐに支払えるお金がない場合には、裁判所に支払いの期限を延ばすよう求める制度もあります(民法1047条5項)。
実務上、難しくなりやすいのは金額よりも話し合いの進め方です。ひきこもりの子と長く会話がなかったきょうだいが直接交渉しようとすると、過去の家族の出来事まで持ち出されて話が進まないことがあります。双方が感情的になりやすい場面では、代理人を立てて窓口を一本にすることで、金額と支払方法の話に絞りやすくなります。
財産の分け方と、ひきこもりの子の生活は切り離して考えにくい
ほかの子に多めに残すと決めた場合でも、ひきこもりの子が親の亡き後にどう暮らしていくのかという問題は残ります。遺留分の請求は、その子にとって生活の手段を確保するための行動である場合もあります。財産の配分だけでなく、年金や公的な支援、住まいの確保とあわせて考えておくと、相続のときの対立も小さくしやすくなります。
親亡き後の生活の設計については、次の記事もあわせてご覧ください。
- 【親子問題】親亡き後問題|子の生活をどう設計しておくか
- 【親子問題】親が亡くなった後に子が孤立する|備えとして何ができるか
- 【親子問題】生前贈与を迫られている|断り方と記録の残し方
- 【親子問題】親が高齢で、きょうだいの一人が親の財産を使っている
- 【親子問題】親子間で合意書を作る|約束を書面にする意味と限界
当事務所がお手伝いできること
当事務所では、家庭内暴力やひきこもり、金銭の要求に悩む親御さんの代理人として、親子の問題に取り組んできました。相続の準備も、子との関係や今後の生活と切り離せない場面が多くあります。ひきこもりの子に財産の話をどう伝えるか、きょうだいとの間でどのような取り決めをしておくかといった点も含めて、ご家庭の事情に合わせて整理します。サービスの内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご紹介しています。
ほかの子に多めに残すこと自体は、親が決めてよいことです。そのうえで、ひきこもりの子に保障されている取り分と、その子のこれからの暮らしの両方を見ながら準備を進めることが、家族の間の対立を小さくすることにつながります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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