【親子問題】ひきこもりの子が「家を継ぐ」と言い張るときは?

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

この記事は、2026年10月時点の民法をもとに解説しています。相続の扱いは、財産の内容や家族の構成、遺言の有無によって変わります。


「この家は自分が継ぐ」「親が死んだら家は自分のものだ」。ひきこもりの状態が長く続く子から、こうした言葉を繰り返し聞かされているというご相談があります。ほかのきょうだいとの関係や、親が亡くなった後の子の暮らしを考えると、どう受け止めればよいのか迷われる親御さんも多いと思われます。

 この記事では、「家を継ぐ」という言葉が法律上どのような意味を持つのかを整理したうえで、親が元気なうちに確かめておきたいこと、子との向き合い方、整えておきたい備えについて解説します。

「家を継ぐ」という言葉の中身を分けて考える

 かつての民法には、家の財産と戸主の地位を一人の跡取りがまとめて引き継ぐ「家督相続」の仕組みがありました。この仕組みは戦後の民法改正で廃止されており、現在の法律には「家を継ぐ」という地位はありません。親の財産は、親が亡くなったときに、遺言や法定相続分に従って相続人に引き継がれます。

 そのため、子が「家を継ぐ」と言うときは、その言葉の中身をいくつかに分けて考えると整理しやすくなります。

  • この家に住み続けたいという希望。
  • 家(土地・建物)の所有権を相続したいという希望。
  • 墓や仏壇を守る役目を担いたいという意識。
  • 親が亡くなった後の暮らしへの不安の表れ。


 このうち、墓や仏壇などの「祭祀財産」は、ほかの財産とは別に扱われ、被相続人の指定や慣習によって引き継ぐ人が決まります(民法897条)。家の所有権とは切り離して考えることができます。

親が存命のうちは、家は親の財産

 親が存命である限り、子は将来相続人になる見込みのある立場(推定相続人)にとどまり、家について権利を持っているわけではありません。家を売る、貸す、誰かに贈与する、遺言で行き先を決めるといった判断は、所有者である親が行うことができ、子の同意は必要ありません。

 同居している子が家に住んでいるのは、多くの場合、親が無償で住まわせている関係(使用貸借)と考えられます。子が「継ぐ」と言い張っていても、それだけで親に名義を変えたり、相続を約束したりする義務が生じるわけではありません。

 生前に名義を移すよう迫られている場合や、権利証・実印を持ち出されている場合は、次の記事もあわせてご覧ください。


親が亡くなった後、家はどのように引き継がれるのか

 親が亡くなった後の家の行方は、主に遺言があるかどうかで変わります。全体像は次のとおりです。

状況家の行き先の決まり方ひきこもりの子の立場
親が存命所有者である親が決める家についての権利はない
遺言がない相続相続人全員の話し合い(まとまらなければ調停・審判)ほかのきょうだいと同じ割合の相続分を持つ
遺言がある相続遺言の内容に従う家を取得できなくても、遺留分の範囲で金銭を求められることがある


遺言がない場合

 遺言がなければ、相続人全員の話し合い(遺産分割協議)で、誰が家を取得するかを決めます。子どうしの法定相続分は、ひきこもりの状態にあるかどうかにかかわらず等しく扱われます(民法900条4号)。話し合いがまとまらなければ、家庭裁判所の調停や審判で決めることになります。

 また、親の許しを得て同居していた相続人については、特段の事情がない限り、相続が始まってから遺産分割が終わるまでの間、無償で住み続けることが認められると判断した最高裁判決(平成8年12月17日)があります。話し合いが長引くほど、同居の子が住み続ける期間も長くなりやすい点は知っておいてよいでしょう。

遺言がある場合

 遺言で家の行き先を指定しておけば、遺産分割協議を経ずに取得する人を決めることができます。ただし、子には「遺留分」という最低限の取り分があり、子の遺留分は法定相続分の2分の1です(民法1042条)。

 2019年7月に施行された改正により、遺留分を侵害された相続人が求められるのは、侵害された額に相当する金銭の支払いとされました(民法1046条)。家を別の家族に相続させる遺言があれば、ひきこもりの子が家そのものを取得することは基本的にできませんが、金銭の請求を受ける可能性は残ります。この請求には、相続の開始と遺留分の侵害を知った時から1年などの期限があります(民法1048条)。

配偶者が残る場合

 夫婦の一方が先に亡くなる場合には、残された配偶者が家に住み続けられるよう、「配偶者居住権」を遺言や遺産分割で設定する方法もあります(民法1028条)。家の所有権は子に渡しつつ、配偶者が亡くなるまで住む権利を確保するという組み立ても考えられます。

言い張る子と向き合うときの考え方


言葉を否定するより、背景にある不安に目を向ける

 「家を継ぐ」と繰り返す背景に、親がいなくなった後に住む場所や生活費を失うことへの不安がある場合は少なくありません。「そんな権利はない」と正面から否定すると、かえって主張が強まったり、話し合いが途切れたりすることがあります。「住む場所の心配」と「家の所有」を分けて話題にするだけでも、やり取りが落ち着くことがあります。

その場で約束や署名をしない

 強く迫られて「お前に継がせる」と口にしたり、子が用意した書面に署名したりすると、後でほかのきょうだいとの間で争いの種になることがあります。口約束だけで相続が決まるわけではありませんが、親の意思をめぐる対立が生じやすくなります。親子で約束を書面にするのであれば、内容と効力の限界を確かめてから進めることが大切です。詳しくは【親子問題】親子間で合意書を作る|約束を書面にする意味と限界で解説しています。

家族の受け答えをそろえる

 夫婦やきょうだいの間で受け答えが食い違うと、子が都合のよい言葉だけを根拠にすることがあります。何を約束しないかを家族の間であらかじめ共有しておくと、対応が安定しやすくなります。

親が元気なうちに整えておきたいこと

 遺言の作成や財産の整理は、親の判断能力が十分なうちでなければ進めにくくなります。次の順で準備を進めると、見通しを立てやすくなります。

  1. 家・預貯金・保険・年金など、財産の全体を書き出します。
  2. 家を誰に残すか、残さないかの方針を夫婦で話し合います。
  3. 方針に沿った遺言を作成します。
  4. 親亡き後の子の住まいと収入の見通しを立てます。
  5. 必要に応じて、ほかのきょうだいと方針を共有します。


 遺言は、公証役場で作成する公正証書遺言のほか、自分で書いた遺言を法務局で保管してもらう制度(自筆証書遺言書保管制度)も利用できます。自宅に置いた遺言は、紛失や同居の家族による持ち出しのおそれがあるため、保管方法まで含めて検討しておくと安心です。なお、遺言書を破棄したり隠したりした相続人は、相続人となる資格を失うと定められています(民法891条5号)。

家をひきこもりの子に残したい場合

 子に家を残す場合も、固定資産税や修繕費を負担し続けられるか、家を手放す必要が生じたときに誰が手続を支えるか、といった点を確かめておく必要があります。社会との接点が少ない状態で財産を受け継ぎ、勧誘や詐欺の被害に遭うおそれも指摘されています。信頼できる家族に管理を任せつつ子が住み続けられるようにする家族信託も選択肢の一つですが、設計には専門家の関与が欠かせません。ほかのきょうだいの遺留分への配慮も必要です。

家を子に残さないと決めた場合

 別の家族に家を残す、売却して老後の資金に充てる、といった方針も親の判断で選べます。この場合は、遺留分としてどの程度の金銭を求められる見込みがあるか、支払いの原資をどう確保するかもあわせて考えておくことになります。子が親に暴力をふるっている場合などには、相続人から外す「相続廃除」の制度もありますが、家庭裁判所が認める要件は厳しく、慎重な検討が必要です。


 どちらの方針をとる場合でも、家の行き先とは別に、子の住まいと生活をどう支えるかを考えておくことが、争いを小さくすることにつながります。


暴力や脅しを伴うときは、安全の確保を先に

 「継がせると言え」と迫って物を壊す、暴力をふるう、遺言を書くよう脅す、といった状況では、相続の話よりも親の安全の確保が先になります。身の危険を感じたときは、警察への相談をためらわないでください。仮に脅されて遺言を書いてしまった場合でも、遺言はいつでも撤回することができます(民法1022条)。初動の考え方は【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録で解説しています。

弁護士に相談することでできること

 当事務所では、ひきこもりや家庭内暴力に悩む親御さんの代理人として、子との間に入る対応を行っています。家をどうするかという相続の見通しを整理したうえで、子との連絡の窓口を弁護士が担い、自立支援カウンセラーと役割を分けながら、子の住まいや生活の基盤づくりを並行して進めることができます。サービスの内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご紹介しています。

 子の「家を継ぐ」という言葉には、権利の主張だけでなく、先行きへの不安が重なっていることがあります。家の行き先は親が決められることを確かめたうえで、遺言と子の生活の設計を早めに整えておくことが、親子双方にとっての備えになります。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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