【親子問題】警察に相談した記録を残す意味|相談票と後の手続
本記事は2026年9月時点の法令・制度に基づいています。年金額や所得の基準額は改定されることがあるため、実際の手続では日本年金機構やお住まいの自治体の最新の案内をあわせてご確認ください。
「自分の年金で、働いていない息子と二人で暮らしています。私が死んだ後、この子はどうなるのでしょうか」。70代、80代の親御さんから、こうしたご相談をお受けすることがあります。一方で子の側からは、「親が亡くなった後のことは考えないようにしてきた」という言葉を聞くこともあります。
この話題について世の中で説明されているのは、「遺族年金の対象になる子は18歳まで」「生活に困れば生活保護がある」といった内容が中心です。どちらも誤りではありません。ただ、親の年金が止まる日から次の収入が入るまでに何が起きるのか、その手前の数年で何を準備できるのかという部分は、あまり語られていません。
この記事では、親の年金で生活している成人の子について、年金はいつ止まるのか、成人した子に遺族年金は出るのか、残った資産で何か月もつのか、親が元気なうちにできること、親が亡くなった後に使える制度、という順に整理します。親が子を養う義務そのものについては【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで扱っています。
親の年金は、亡くなった月の分で終わる
年金は受け取る本人だけの権利です
公的年金は、受給権者本人に支給される権利です。本人が亡くなれば受給権は消滅し、年金は亡くなった月の分までで終わります。親の年金を生活費の柱にしてきた世帯では、この時点で世帯の収入がほとんどなくなることになります。
年金は偶数月の15日に、前月と前々月の2か月分が後払いで振り込まれる仕組みです。そのため、亡くなった時点では、まだ振り込まれていない分が残ります。
未支給年金として受け取れるのは最後の数か月分です
亡くなった方がまだ受け取っていない年金や、亡くなった日より後に振り込まれた年金のうち亡くなった月分までの年金は、未支給年金として、その方と生計を同じくしていた遺族が請求できます。請求できる遺族と順位は、配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹、これら以外の3親等内の親族の順です。
同居していた子は、この順位の中に入ります。ただし受け取れるのは最後の数か月分にとどまり、継続的な収入にはなりません。未支給年金は相続財産ではなく、請求した遺族固有の権利として扱われる点も、他の相続手続とは異なります。
届け出ないまま受け取り続けた場合
年金を受けている方が亡くなったときは、年金受給権者死亡届の提出が必要です(厚生年金は10日以内、国民年金は14日以内)。日本年金機構にマイナンバーが収録されている方については、原則として省略できる扱いになっています。
届け出をしないまま振り込みを受け続けた場合、偽りその他不正の手段により給付を受けたとして、受給額に相当する金額を徴収されることがあります(国民年金法23条、厚生年金保険法40条の2)。事情によっては詐欺罪(刑法246条)として扱われる例もあります。市区町村への死亡届は、死亡の事実を知った日から7日以内とされています(戸籍法86条)。
成人した子に遺族年金は出るのか
遺族基礎年金の「子」は18歳の年度末までです
遺族基礎年金を受け取れるのは、亡くなった方に生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」です。ここでいう子は、18歳になった年度の3月31日までにある方、または20歳未満で障害年金の障害等級1級・2級の状態にある方を指します。
遺族厚生年金でも「子」の意味は同じです
遺族厚生年金は、亡くなった方に生計を維持されていた遺族のうち、配偶者・子、父母、孫、祖父母の順で最も順位の高い方が受け取ります。この「子」の意味は遺族基礎年金と同じです。したがって、障害の状態にない成人の子には、遺族基礎年金も遺族厚生年金も支給されないのが原則です。長年同居し、家計を親の年金に頼ってきた場合でも、この結論は変わりません。
2028年4月の改正でも、この部分は変わりません
2025年6月に成立した年金制度改正法により、遺族厚生年金は2028年4月に見直される予定です。18歳年度末までの子のいない配偶者について原則5年の有期給付とし、60歳未満の男性を新たに支給対象に加えるなど、配偶者の給付における男女差の解消が中心の改正で、成人した子が新たに受給できるようになるものではありません。
年金が止まった後、何か月もつのかを数える
収入の欄と支出の欄を分けて書き出す
漠然とした不安のままでは準備が進みません。次のような項目を紙に書き出すだけでも、残された時間の長さが見えてきます。
| 確認する項目 | 記入例 |
|---|---|
| 子の1か月の生活費 | 10万円 |
| 子自身の1か月の収入 | 0円 |
| 1か月あたりの不足額 | 10万円 |
| 親の死亡後に子が使える資産(預貯金、保険金など) | 600万円 |
| 資産が尽きるまでのおおよその月数 | 60か月(5年) |
記入例の数値は説明のためのものです。実際には、ここに税や社会保険料、住居費の変動が加わります。
見落としやすい支出
親が亡くなると、これまで親の年金から支払われていた費用の名義や金額が変わります。次のようなものが挙げられます。
- 国民健康保険料や介護保険料は、世帯の構成と所得によって金額が変わる。
- 住民税や、持ち家であれば固定資産税、修繕費がかかる。
- 賃貸であれば、家賃のほかに更新料や契約名義の変更が必要になる。
- 葬儀費用と、当面の生活費をどこから出すかという問題が生じる。
- 公共料金や通信費の引き落とし口座を変更する必要がある。
親名義の口座は死亡の事実が金融機関に伝わると凍結されるため、当座の現金をどこに置いておくかも、事前に考えておきたい点です。
持ち家がある場合
住居費を抑えられる一方で、固定資産税や維持費は残ります。相続した不動産の登記申請は2024年4月から義務化され、取得を知った日から原則3年以内に申請することとされています。住み続けるのか、売却して生活費に充てるのかによって設計が変わるため、早い段階で方針を決めておく方が動きやすくなります。
親が元気なうちにできる手当て
子自身の年金記録を確認する
収入のない期間が長い子について、国民年金保険料が未納のままになっていることがあります。未納と、免除・納付猶予の承認を受けた期間とでは、扱いが異なります。
| 区分 | 老齢基礎年金の額への反映 | 障害基礎年金・遺族基礎年金の納付要件 |
|---|---|---|
| 全額免除 | 2分の1が反映(平成21年3月以前の期間は3分の1) | 納めた期間に準じて扱われる |
| 納付猶予 | 反映されない(受給資格期間には算入される) | 納めた期間に準じて扱われる |
| 未納 | 反映されない | 納めた期間としては扱われない |
手続をしていないだけで未納になっている場合、まず記録の確認と免除・納付猶予の申請から始めることになります。免除や納付猶予の承認を受けた期間の保険料は、10年以内であれば追納できます。ただし、これらは子本人名義の手続であり、親がどこまで関与できるかという問題があります。この点は【親子問題】成人した子の問題に親が介入できる法的な範囲で整理しています。
障害年金を検討できる場合があります
外に出られない状態が続いているという事実そのものが年金の対象になるわけではなく、傷病の内容と障害の状態によって判断されます。背景に精神疾患などがあり、一定の障害の状態にあるときは、障害基礎年金の対象になることがあります。
初診日が20歳前にある傷病であれば保険料の納付要件は問われませんが、本人の前年所得による支給制限があり、2025年10月以降は3,761,000円を超えると2分の1、4,794,000円を超えると全額が支給停止となります(扶養親族がいる場合は基準額に加算があります)。障害基礎年金の2級以上を受けることになれば、国民年金保険料は法定免除の対象になります。
生活の形を少しずつ分けておく
親の口座から必要なつど現金を渡す形が続いていると、親が亡くなった日に生活の仕組みそのものが止まります。本人名義の口座、少額でも本人の収入、住まいの契約名義、公共料金の引き落とし先など、分けられるものから分けていく方が、移行は穏やかになります。相談先を親が元気なうちに一度通しておくことにも意味があります(【親子問題】親子の問題はどこに相談すればよいのか|警察・行政・弁護士の役割分担)。
親が亡くなった後に子が使える制度
生活保護は世帯を単位に判断されます
生活保護は、利用し得る資産や能力その他あらゆるものを活用することが前提とされ(生活保護法4条1項)、保護の要否は世帯を単位として判定されます(同法10条)。親と同居していた子が一人になれば、判断の対象はその子の世帯になります。
申請から決定までは原則14日以内、調査に時間を要する場合でも30日以内とされています(同法24条5項)。急迫した事情があるときは、申請を待たずに保護が行われることもあります(同法4条3項)。働くことができると判断されれば、求職活動や就労支援を求められることがあります。
扶養照会は、以前より柔軟に運用されています
扶養義務者による扶養は保護に優先して行われますが(同法4条2項)、扶養できる親族がいることが保護の要件になるわけではありません。実際に援助があったときに、その分を収入として扱うという位置づけです。
厚生労働省の通知により令和3年3月から運用が見直され、扶養義務の履行が期待できないと判断される方には直接の照会を行わない取扱いが広がりました。おおむね70歳以上の高齢者、生活保護を受けている方、10年程度音信不通であるなど著しく関係が不良な場合などが、その例として挙げられています。きょうだいがいるご家庭では、この点が現実的な心配になります(【親子問題】きょうだいが相談者になる場合|親が動けないとき)。
生活保護の手前にある窓口
生活困窮者自立支援制度に基づき、各自治体には自立相談支援機関が置かれています。就労に向けた支援や家計の相談、家賃相当額を支給する住居確保給付金など、組み合わせられる制度もあります。親が亡くなった直後は葬儀や各種の届出が重なるため、どこに何を相談するかを先に決めておくと動きやすくなります。
進め方として避けたい選択
年金を担保にする融資
独立行政法人福祉医療機構の年金担保貸付制度は、令和4年3月末で申込受付を終了しています。現在、年金を担保とした貸付は認められておらず、これを持ちかける業者には注意が必要です。
親の口座をそのまま使い続ける
前述のとおり、届け出をしないまま年金の振り込みを受け続けることは、返還や刑事責任の問題につながります。葬儀費用や当座の生活費をどこから出すのかは、生前に決めておく方が安全です。
現金を多く残すだけの対応
まとまった現金を残す方法は、金銭の管理に慣れていない場合、想定より早く尽きてしまうことがあります。また、資産があるうちは生活保護の対象になりません。金額そのものよりも、使い方を支える人と仕組みを用意できるかどうかが問題になります。
なお、ひきこもり支援を掲げる民間事業の利用をめぐっては、消費者庁が消費者トラブルへの注意喚起を行っています。契約内容、費用、途中でやめる場合の扱いを事前に確認しておくことが大切です。
よくあるご質問
親が亡くなった後、子は親の年金を受け取れますか
受け取れるのは、未支給年金として残った最後の数か月分までです。生計を同じくしていた遺族が請求できますが、継続的な収入にはなりません。以後の年金は支給されません。
生活保護を申請すると、きょうだいに必ず連絡が行きますか
必ず行われるわけではありません。令和3年3月からの運用見直しにより、扶養義務の履行が期待できないと判断される方には直接の照会を行わない取扱いとされています。事情は申請の際に具体的に伝えておくとよいでしょう。
ひきこもりの状態であることを理由に障害年金を受けられますか
状態像だけで判断されるものではありません。傷病の内容と障害の程度、初診日、保険料の納付状況などによって判断されます。受診歴がある場合は、まず医療機関と年金事務所に確認することになります。
まとめ
- 公的年金は本人の権利であり、亡くなった月の分で終わる。未支給年金として請求できるのは最後の数か月分にとどまる。
- 年金受給権者死亡届は厚生年金で10日以内、国民年金で14日以内。届け出ずに受け取り続ければ徴収の対象となり(国民年金法23条、厚生年金保険法40条の2)、事情によっては詐欺罪(刑法246条)の問題となる。
- 遺族基礎年金・遺族厚生年金の「子」は、18歳到達年度の末日までにある方、または20歳未満で障害等級1級・2級の状態にある方をいい、成人した子は原則として対象外である。
- 2028年4月に施行が予定されている遺族厚生年金の見直しは配偶者の給付に関するもので、成人した子が対象になるものではない。
- 未納と免除・納付猶予では扱いが異なり、免除期間は老齢基礎年金の額に2分の1が反映され、障害・遺族の基礎年金の納付要件でも納めた期間に準じて扱われる。
- 生活保護は世帯を単位に判定され(生活保護法10条)、扶養は保護の要件ではなく、保護に優先するという位置づけである(同法4条2項)。扶養照会は令和3年3月から運用が見直されている。
- 年金担保貸付制度は令和4年3月末で申込受付を終了しており、年金を担保とする貸付を持ちかける話には応じない。
親の年金で暮らす子のことでお悩みの方へ
弁護士法人若井綜合法律事務所では、親子の問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。弁護士が親側の代理人として子と向き合い、民間の自立支援カウンセラーと組んで、住まい探しや仕事探し、日々の金銭管理といった生活面の支援を並行して進める形をとっています。親の年金が止まった後の生活をどう設計するかは、その中心にある課題の一つです。
親が元気なうちに準備できることと、亡くなった後に動かせることは異なります。今すぐ何かを決める段階ではない方も、選べる道筋を知っておくことには意味があります。サービスの内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応を、ご相談の前に整理しておくとよい点は【親子問題】相談の前に整理しておきたい5つの情報をご覧ください。


