【親子問題】子に年金の管理を任せろと言われている|渡す前に確かめておくこと
本記事は、2026年10月時点の法令(2022年4月施行の成年年齢の引下げ、2022年12月施行の民法改正による懲戒権規定の削除、2025年6月施行の拘禁刑)を前提にしています。
子の暴力や暴言が続き、「もう一緒に暮らせない」「家から出て行ってもらうしかない」と考える親御さんは少なくありません。ただ、子がまだ未成年の場合には、「家から出すと保護責任者遺棄罪に問われるのではないか」という不安から、身動きが取れなくなっているご相談も見受けられます。
先に方向性をお伝えすると、未成年の子と離れて暮らすこと自体が直ちに犯罪になるわけではありません。問題になりやすいのは、子を「保護のない状態」に置いてしまう場合です。本記事では、保護責任者遺棄罪の考え方を整理したうえで、どのような点に気をつければよいのか、子の暴力で同居が難しいときにどのような選択肢があるのかを解説します。
保護責任者遺棄罪とはどのような罪か
刑法218条は、老年者、幼年者、身体障害者または病者を保護する責任のある者が、これらの者を遺棄し、またはその生存に必要な保護をしなかったときに処罰すると定めています。法定刑は3月以上5年以下の拘禁刑で、遺棄によって死傷の結果が生じた場合には、より重い遺棄等致死傷罪(刑法219条)の問題になります。
この罪には、保護が必要な人を危険な場所に移したり置き去りにしたりする「遺棄」と、そばにいながら生存に必要な保護をしない「不保護」の2つの形があります。また、判例上は、生命・身体に対する危険が抽象的に生じれば成立し得る罪とされており、実際にけがなどの結果が生じたかどうかだけで判断されるわけではありません。
親は「保護する責任のある者」にあたる
親権者は、民法820条により子の監護・教育をする権利を有し、義務を負います。そのため、未成年の子との関係では、親は原則として保護責任者にあたると考えられます。子が親に暴力をふるっている、親の言うことを聞かないといった事情があっても、それだけで親権者としての監護の義務がなくなるわけではありません。
中学生・高校生は「幼年者」にあたるのか
条文には「幼年者」の年齢の定めがありません。一般には、年齢そのものよりも、他人の助けがなければ食事などの日常生活を営めない状態にあるかどうかという観点から判断されると解説されています。これまでに有罪とされた事案の多くは、乳幼児や小学生を置き去りにした事案や食事を与えなかった事案であり、身の回りのことを自分でこなせる高校生が対象になる場面は、相対的には限られると考えられます。
もっとも、年齢が高いから心配がないとは言い切れません。障害や病気があって援助が必要な子や、深夜や真冬に所持金も連絡手段もない状態で外に出された子などは、状況によっては保護が必要な状態にあると評価される可能性があります。「何歳以上なら大丈夫」という線引きではなく、その子がその状況で自力で安全を確保できるかどうかが問われると考えておくのが無難です。
問題になりやすい場面・なりにくい場面
| 確認したい点 | 問題になりやすい方向 | 問題になりにくい方向 |
|---|---|---|
| 子の年齢・心身の状態 | 低年齢である、障害や病気で援助が必要 | 身の回りのことを自分でこなせる |
| 時間帯・季節 | 深夜、厳冬期・猛暑期 | 日中、気候が穏やか |
| 所持金・連絡手段 | お金も携帯電話も持っていない | 当面の生活費と連絡手段がある |
| 行き先 | 行き先がなく、親も把握していない | 親族宅など受け入れ先が決まっている |
| その後の親の関わり | 連絡を絶ち、様子を確認しない | 生活費の負担や安否の確認を続けている |
問題になりやすいのは「締め出して放置する」形
口論の末に「出て行け」と言って子を外に出し、鍵をかけて入れないようにしたうえ、その後の行き先も確認しないといった対応は、上の表でいえば左側に寄りやすい形です。とくに夜間や悪天候の中での締め出しは、危険が生じやすいことから慎重に考える必要があります。
また、子が自分から家を出て行った場合でも、未成年である以上、親が行方を確認しないまま長期間放置してよいということにはなりません。行き先が分からないときは、警察への行方不明者届の提出も含めて検討することになります。
受け入れ先を確保し、保護を続けている場合
これに対し、親族宅や公的な施設など子を受け入れてくれる先を確保し、生活費を負担し、連絡や様子の確認を続けているのであれば、親子が別々に暮らしていても「保護のない状態」に置いたとは評価されにくいと考えられます。大切なのは、家から出すかどうかという一点ではなく、離れた後も子の生活と安全が保たれているかどうかです。
鍵を替えることや締め出すことの法的な位置づけについては、【親子問題】鍵を替える・締め出すことの可否|自力救済の限界でも解説しています。
刑事罰とは別に押さえておきたいこと
児童虐待(ネグレクト)として扱われる可能性
児童虐待防止法では、18歳未満の子を監護する保護者が監護を著しく怠ることも児童虐待(いわゆるネグレクト)にあたるとされています。保護責任者遺棄罪として立件されるほどではなくても、行き場を失った子が保護された場合などには、児童相談所が家庭の状況を調べ、必要に応じて子を一時保護することがあります。
また、2022年12月施行の民法改正で親の懲戒権の規定は削除され、親は子の人格を尊重し、体罰その他の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならないことが明文化されました(民法821条)。「しつけのため」として子を締め出すことも、この観点から評価されることがあります。
18歳・19歳の子は「未成年」ではない
2022年4月から成年年齢は18歳になりました。18歳・19歳の子は民法上は成年であり、親権に服さないため、未成年の子と同じ意味での監護の義務はありません。もっとも、親子の間には扶養義務が残りますし、少年法上は「特定少年」として扱われる点にも注意が必要です。成人した子を家から出す際の考え方は、【親子問題】子を家から出ていかせることはできるのか|占有と明渡しや【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかをご覧ください。
子の暴力で同居が難しいときの選択肢
未成年の子の暴力が続いていると、親としては「離れるしかない」と感じる場面もあると思います。その場合も、子を一人で外に出すのではなく、子の居場所を確保しながら距離を取る方法を考えることが大切です。
身の危険があるときは110番をためらわない
刃物を持ち出す、首を絞めるなど、生命や身体に危険が迫っているときは、まず親御さん自身の安全を確保し、110番通報を検討してください。通報の目安や伝える内容は【親子問題】110番を呼ぶ判断基準|その場で何を伝えるかで、夜間の相談先は【親子問題】夜間に子が暴れたときの相談先|時間帯別の窓口で解説しています。
児童相談所や警察の少年相談を利用する
児童相談所は、虐待だけでなく、子の暴力や非行、性格・行動の問題についても親からの相談を受け付けています。家庭での養育が難しい事情があれば、一時保護や施設での生活など、子の居場所を公的に確保する方法を一緒に検討できる場合があります。各都道府県警察の少年相談の窓口も、子の問題行動について相談できる場所です。
子の行為が犯罪にあたる場合には、少年事件として家庭裁判所の手続に進むこともあります。手続の流れは【親子問題】少年事件の流れ|家庭裁判所送致から審判までをご参照ください。
親の側が一時的に離れるときの注意点
暴力から避難するために、親の側が一時的に家を離れるという選択もあります。ただ、子が未成年の場合は、残された子の食事や生活がどうなるかも考えておく必要があります。もう一方の親や親族に子のことを頼む、児童相談所に事情を伝えておくなど、子が保護のない状態にならないよう手当てをしてから動くのが望ましいでしょう。避難の考え方は【親子問題】避難先の確保|一時的に親が家を出るという選択で解説しています。
避けたい対応
- 深夜や悪天候の中で、所持金や連絡手段のないまま子を外に締め出すこと。
- 子を家から出した後、行き先や安否を確認しないまま放置すること。
- 子の同意のないまま、民間の業者に依頼して子を強引に連れ出させること。
- 暴力を受けた経緯や相談の記録を残さないまま、感情的に対応を決めること。
民間業者による連れ出しの問題点は、【親子問題】本人の同意なく連れ出すことが違法とされる理由|親の依頼では代わりにならないで詳しく取り上げています。
当事務所がお手伝いできること
当事務所では、家庭内暴力やひきこもり、お金の無心などに悩む親御さんの代理人として、自立支援カウンセラーとチームを組んで親子の問題に取り組んでいます。子が未成年の場合は、親の監護の義務が続くことを前提に、児童相談所や警察など公的機関との連携も視野に入れながら、親御さんの安全と子の居場所の両方をどう確保するかを一緒に整理します。
「家から出したいが、罪にならないか不安」「どこに相談すればよいか分からない」という段階でのご相談もお受けしています。サービスの内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご紹介しています。
未成年の子を家から出すことが保護責任者遺棄罪にあたるかどうかは、子の年齢や状態、時間帯、行き先の有無、その後の関わり方といった事情によって左右されます。罪になるかを心配して我慢を続けるのでも、勢いで締め出すのでもなく、子の居場所を確保しながら距離を取る方法を早めに検討することが、親子双方の安全につながります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


