【親子問題】子の暴力で親が反撃してしまった、親が罪に問われる?
ひきこもりの状態にある子が、昼夜を問わずネットやゲームに向かい続けている。食事の時間にも部屋から出てこず、声をかけても画面から目を離さない。そうした姿を前にして、Wi-Fiを切ってしまおうか、端末を取り上げようかと考える親御さんは少なくありません。
一方で、通信を止めたことをきっかけに子が強く反発し、家庭内の緊張が高まったという話も聞かれます。この記事では、親がネットを「止める」ことについて法律上どこまでできるのか、止める前に確かめておきたいこと、家族だけで抱えにくいときの相談先を順に整理します。
この記事は、18歳以上の子が親の家で暮らしているケースを中心に、一般的な考え方をまとめたものです。依存にあたるかどうかの判断は医療機関などの専門家が行うもので、この記事は診断に代わるものではありません。
「止めていいか」は、何を止めるかによって答えが変わる
一口に「ネットを止める」といっても、回線を解約する、Wi-Fiのパスワードを変える、端末を取り上げる、課金の支払いを止めるなど、中身はさまざまです。法律上の整理は、その回線や端末、支払いが誰の名義で、誰の物なのかによって分かれます。
親名義の回線や支払いは、契約者である親が整理できる
自宅のインターネット回線や子のスマホが親名義で契約され、料金も親が払っている場合、契約の変更や解約は契約者である親が行うことができます。成人した子の娯楽のための通信費を、親が払い続けなければならないという法律上の義務は、一般には想定しにくいところです。親の扶養義務は、子が自分の力で生活できないときに、親に余力がある範囲で生活を支えるものと考えられており、どの支出まで含めるかは家庭の事情によって変わります。
ただし、親名義の契約を子が使い続けている状態には、別のリスクもあります。料金の滞納や、子が名義を使って有料サービスに申し込んだ場合、請求は名義人である親に届きます。名義と契約の整理については、【親子問題】子の携帯料金やサブスクを止めたい|名義と契約の整理と【親子問題】子の携帯・車の名義を親が持っている場合のリスクで解説しています。
子が自分で契約し、自分のお金で買った物は勝手に処分できない
子が自分の名義で契約したスマホや、自分の収入や貯金で買ったパソコン・ゲーム機は、子の所有物です。成人した子の物を親が無断で壊したり処分したりすると、器物損壊などの問題に発展するおそれがあります。親が家の所有者であっても、家の中にある子の持ち物まで自由にできるわけではない点に注意が必要です。
子が18歳未満であれば、親権者として監護・教育の範囲で使い方を制限することは考えられます。もっとも、その場合でも取り上げ方が行き過ぎれば子の反発を強め、かえって状況がこじれることがあります。成人した子に親がどこまで関われるかは、【親子問題】成人した子の問題に親が介入できる法的な範囲で整理しています。
法律上できることと、うまくいくことは別
親名義の回線であれば、翌日から止めることも法律上はできます。しかし、止められるかどうかと、止めた結果がよい方向に向かうかどうかは別の問題です。弁護士ドットコムニュースの取材記事では、家族会に寄せられる相談の中に、家のWi-Fiを切ったりゲーム機を取り上げたりしたことで、子が家族に暴力をふるったという例があると紹介されています。
また、岐阜県精神保健福祉センターの案内では、周囲から本人のネット使用をコントロールしようとしてもうまくいかないことが多く、本人が自分の意思で行動を変えていけるよう援助することが基本だとされています。止めるかどうかを考えるときは、法律上の権限だけでなく、家族の安全と、その後の本人の生活まで見通しておくことが大切です。
「没頭している」と「依存している」の違い
長時間ネットを使っていることが、すぐに病気としての依存を意味するわけではありません。ひきこもりの状態にある人にとって、ネットが外の世界とつながる数少ない窓口になっている場合もあります。
世界保健機関(WHO)は、国際疾病分類(ICD-11)に「ゲーム障害」を位置づけています。ゲームをする時間などを自分で調整できない、ほかの関心事や日常の活動よりゲームを優先する、問題が起きても続けてしまうといった状態が、原則として12か月以上続くことが目安とされています。ネット全般の過剰な使用についても、似た視点で考えられることがあります。
家庭の中で目安にしやすいのは、次のような変化です。
- 食事や入浴、睡眠など基本的な生活が崩れています。
- 昼夜が逆転し、元に戻らない状態が続いています。
- 課金や通販の支払いが、本人の収入を超えています。
- 使用を止められそうになると、強い怒りや暴力が見られます。
- ネット以外の関心事がほとんど見られなくなっています。
こうした変化が重なっている場合は、親が家庭の中だけで止めようとするより、専門の相談先につなぐことを先に考えたい場面です。精神面の不調が背景にある可能性もあるため、医療につなぐかどうかの考え方は【親子問題】ひきこもりと精神疾患の切り分け|医療につなぐ判断も参考にしてください。
回線を止める前に確かめておきたいこと
実際に回線や支払いを止めることを考えるなら、その前に次の点を整理しておくと、後の対応がしやすくなります。
| 確かめること | 見ておく理由 |
|---|---|
| 回線・端末・課金の名義と支払い方法 | 親が手続できる範囲と、できない範囲を分けるため |
| これまでに暴力をふるったり物を壊したりしたことがあるか | 止めた後に起こりうる反応を見通し、安全を確保するため |
| 親のカードや口座が使われていないか | 請求の整理と、今後の利用を止める手続のため |
| 子自身の収入や貯金の有無 | 子が自分で回線を契約し直す可能性を見ておくため |
| 同居している家族の状況 | 高齢の親やきょうだいなど、守る必要がある人を把握するため |
とくに暴力の経験がある家庭では、回線を止める日に家族が家にいないようにする、避難先を決めておくといった準備が欠かせません。具体的な備えは【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録と【親子問題】避難先の確保|一時的に親が家を出るという選択で解説しています。
止めると決めたときの進め方
止めることを決めた場合でも、いきなり切るのではなく、段階を踏むほうが衝突を抑えやすくなります。一例として、次のような順序が考えられます。
- 利用時間や課金額、生活の様子をメモに残し、現状を把握します。
- 精神保健福祉センターなど家族向けの相談窓口で、止めることの是非を相談します。
- 暴力が予想される場合は、避難先や110番の判断基準を家族で共有します。
- 止める理由と時期を、事前に本人へ伝えます。
- 親名義の契約や支払いを、予告した時期に整理します。
- 親が直接伝えると衝突しやすい場合は、第三者を介して伝えます。
本人に伝えるときは、「ネットをやめなさい」と行動そのものを否定するより、「家の回線の費用をいつまで親が負担するか」といった親の側の事情として伝えるほうが、話がこじれにくい傾向があります。それでも話し合いが難しい場合や、親が伝えること自体に身の危険を感じる場合は、伝える役目を第三者に任せることも選択肢になります。
家族だけで抱えにくいときの相談先
本人が相談に行くことを拒んでいても、家族だけで相談できる窓口はあります。それぞれにできることと限界があるため、組み合わせて使うのが現実的です。
| 相談先 | 主にできること | 限界になりやすい点 |
|---|---|---|
| 精神保健福祉センター・保健所 | ネット・ゲーム依存についての家族相談、医療機関の紹介 | 本人が来所しない場合、関わりは家族への助言が中心になる |
| 依存症の専門外来がある医療機関 | 診断、治療、家族向けのプログラム | 本人の受診が前提になることが多い |
| ひきこもり地域支援センター | ひきこもりについての相談、支援機関へのつなぎ | 個々の家庭に継続して入る支援には限りがある |
| 家族会 | 同じ悩みを持つ家族との情報交換 | 子との交渉や具体的な介入は行わない |
| 警察 | 暴力が起きたときの対応、相談の記録 | ネットの使い方そのものには関与しにくい |
| 弁護士 | 親の代理人としての子との交渉、金銭や契約の整理 | 医療的な判断や治療は行わない |
相談先ごとの詳しい内容は、次の記事で解説しています。
- 【親子問題】ひきこもり地域支援センターでできること・できないこと
- 【親子問題】家族会・当事者会の役割|弁護士に頼む前にできること
- 【親子問題】親子の問題はどこに相談すればよいのか|警察・行政・弁護士の役割分担
ネットの問題の先にある「親子の距離」
ネットへの没頭は目に見える一つの現れであり、その背景には、将来への不安や自己評価の低さ、家族との関係のこじれなど、さまざまな事情が重なっていることがあります。回線を止めても、そうした事情が変わらなければ、別の形で問題が続くことも少なくありません。
当事務所では、弁護士が親の代理人として子と向き合い、自立支援カウンセラーがチームとして子の生活面を支える形で、親子の問題に取り組んでいます。同居が長く続き、親子の距離が近くなりすぎている家庭では、本人と時間をかけて話し合い、家を出て自分の生活を組み立てることを提案することもあります。家を出た後は、カウンセラーが住まい探しや仕事探し、日々のお金の管理などを支え、弁護士は親への過度な要求や連絡を整理する役割を担います。
ネットとの付き合い方は、本人が自分の生活を持つようになってはじめて、本人自身の課題として向き合えるようになる面もあります。サービスの内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応で、距離を取ることの意味は【親子問題】親子が離れて暮らすことの意味|距離という視点で紹介しています。
よくあるご質問
Wi-Fiのパスワードを変えるのは、問題になりますか
親名義で契約し、親が管理しているWi-Fiであれば、パスワードを変えること自体は契約者の判断で行えます。ただ、事前の説明なく接続できなくなると、本人が強く反発することがあります。暴力の経験がある家庭では、変更の前に家族の安全の確保を優先してください。
親のクレジットカードで課金されていました。支払わなければいけませんか
カード会社の規約では、家族による利用は名義人の責任とされていることが多く、すぐに支払いを拒めるとは限りません。まずはカードの利用停止と再発行を行い、利用明細を保管したうえで、カード会社やゲームの運営会社に事情を伝えることが考えられます。詳しくは【親子問題】子が親のカードで課金・通販をしている|成人した子の無断利用と、支払い・返還の整理で解説しています。
本人が受診や相談を拒んでいます。家族だけで相談しても意味はありますか
家族だけの相談でも、本人への関わり方を見直したり、暴力が起きたときの備えを整えたりすることはできます。本人が支援を受け入れる時期は、家族の関わり方の変化をきっかけに訪れることもあります。家族だけで動ける範囲は【親子問題】本人が相談を拒む場合|家族だけで動ける範囲で整理しています。
ネットを止めるかどうかは、家族の安全、契約の名義、本人の状態を合わせて考える必要があり、どれか一つだけで決めると思わぬ衝突につながることがあります。止めるべきか迷っている段階でも、まずは今の状況を整理するところから始めてみてください。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


