【親子問題】ひきこもりの子の年金保険料は、親が払い続けるべき?

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

ひきこもりの子が20歳を過ぎると、日本年金機構から国民年金の納付書が届くようになります。本人に収入がなく、親が代わりに払ってきたものの、親自身の定年や年金生活が近づき「いつまで払い続ければよいのか」と迷う方は少なくありません。この記事では、親に法律上の納付義務がある場面とない場面、免除・納付猶予の使い方、払い続けるかどうかを考えるときの視点を順に整理します。

この記事は2026年10月時点の制度にもとづいています。令和8年度の国民年金保険料は月額17,920円です。保険料の額や免除・猶予の要件は見直されることがあるため、手続の前には年金事務所や市区町村の窓口で最新の内容をご確認ください。


まず確かめたいのは「親が世帯主かどうか」です

 国民年金の保険料は、原則として被保険者本人が納めるものです(国民年金法88条1項)。ただし同じ条文の2項は、世帯主は、その世帯に属する被保険者の保険料を連帯して納付する義務を負うと定めています。親が住民票上の世帯主で、20歳以上60歳未満の子が同じ世帯にいる場合、子の保険料は親にとっても「自分の義務」になっているということです。

 そのため、子が払わないまま放置すると、催告状や督促状が世帯主である親にも届き、最終的には親の預貯金などが差し押さえの対象になることがあります。弁護士ドットコムにも「仕事をしていない兄の保険料について、世帯主の母に督促の電話が来る」「本人が不在なのに、世帯主の父に支払い義務があると年金事務所で言われた」といった相談が寄せられています。

 一方で、子が独立して別の世帯を構えていれば、その期間について親に連帯納付義務はありません。「払い続けるべきか」という問いは、まず世帯の状況によって答えが変わります。

払えないときは「未納」にせず、免除か納付猶予を検討します

 親に払う余裕がない、あるいは払い続けることに疑問がある場合でも、未納のまま放置することはおすすめできません。国民年金には、所得が少ない人のための免除・猶予の制度があり、承認されればその期間は未納ではなくなります。主な制度は次のとおりです。

制度審査で見られる所得対象となる年齢老齢基礎年金の額への反映
申請免除(全額・4分の3・半額・4分の1)本人・配偶者・世帯主20歳以上60歳未満一部反映される
納付猶予本人・配偶者(世帯主は見られない)50歳未満反映されない
法定免除生活保護の生活扶助の受給、障害基礎年金(1・2級)の受給など20歳以上60歳未満一部反映される


 ひきこもりの子の場合に注意したいのは、申請免除の審査では世帯主である親の所得も見られるという点です。本人に収入がなくても、同居する親に一定の所得があると、免除が承認されないことがあります。弁護士ドットコムでも「世帯収入があるため免除できないと言われた」という相談が見られます。

 これに対して納付猶予は、本人と配偶者の所得だけで審査されます。親に収入があっても、子が50歳未満であれば猶予が承認される余地があります。納付猶予は時限措置で、現在は令和17年6月までとされています(自治体の案内による)。制度の見直しが議論されたこともあるため、申請の際に最新の要件を確認しておくと安心です。

 免除・猶予の申請は、申請時点から2年1か月前までさかのぼってできます。すでに未納の期間がある場合も、まずは窓口で相談してみる価値があります。

子が50歳を超えている場合

 いわゆる8050の世帯では、子が50歳を超えていて納付猶予が使えないことがあります。この場合に残る選択肢は、申請免除(世帯主の所得が基準内であれば承認される余地があります)か、誰かが保険料を納めるかのいずれかです。親が年金生活に入って所得が下がっていれば、免除の審査結果が以前と変わることもあります。60歳になれば国民年金の納付義務自体が終わるため、残りの期間がどのくらいかを数えたうえで判断する方法もあります。

未納と免除・猶予の違いは、老後より先に障害年金で表れます

 保険料の話になると老後の年金額に目が向きがちですが、ひきこもりの子の家庭でより影響が大きいのは障害基礎年金です。障害基礎年金を受け取るには、原則として初診日の前日の時点で、一定の保険料の納付要件を満たしている必要があります。

  • 初診日のある月の前々月までの被保険者期間のうち、納付済期間と免除・猶予期間を合わせて3分の2以上あること。
  • 初診日のある月の前々月までの直近1年間に未納がないこと(初診日が2036年4月1日より前にあり、初診日に65歳未満である場合の特例)。


 ここで重要なのは、免除・猶予の期間は「納めていない期間」でありながら、この要件の計算では未納として扱われないことです。反対に、未納のまま初診日を迎えると、後から保険料を納めても納付要件は満たせません。ひきこもりの背景に心身の不調がうかがえる場合、医療機関の受診より前に保険料の状態を整えておくことには意味があります。

 なお、初診日が20歳より前にある場合は、保険料の納付要件を問われない仕組みもあります。医療とのつながり方については、【親子問題】ひきこもりと精神疾患の切り分け|医療につなぐ判断も参考にしてください。

親が払う場合に知っておきたい実務

 親が子の保険料を代わりに納めることは、制度上認められています。払うと決めた場合は、次の点を押さえておくと負担や行き違いを減らせます。

社会保険料控除を受けられる

 生計を一にする親族の社会保険料を支払った場合、支払った人の所得から社会保険料控除を受けられます(所得税法74条)。年末調整や確定申告には「国民年金保険料控除証明書」が必要ですが、この証明書は被保険者である子の名前で届きます。子の郵便物の中に紛れてしまわないよう、届く時期(例年11月頃)を意識しておくとよいでしょう。

現金を子に渡さず、直接納める

 「保険料に使って」と現金を子に渡すと、別の用途に使われてしまうことがあります。納付書で親が直接納めるか、年金事務所に申し出て親名義の口座からの振替やクレジットカード払いにしておくと、払ったかどうかが記録に残り、払い忘れも防げます。金銭の要求が保険料を口実にしている場合の考え方は、【親子問題】子から金銭を要求され続けている|断ることの法的な位置づけで整理しています。

さかのぼって払える期間には限りがある

 未納の保険料を納められるのは、納付期限から2年までです。免除・猶予を受けた期間については、10年以内であれば後から納める「追納」ができます(3年度目以降は一定の加算がつきます)。「今は免除・猶予にしておき、子が働けるようになったら追納する」という組み立ても考えられます。

「払い続けるべきか」を判断するための視点

 親が子の保険料を払い続けることは、子の将来の最低限の保障を整えるという意味では合理的な選択です。ただし、親の老後資金を削ってまで払い続けることが常に正しいとは限りません。判断の材料として、次の点を整理してみてください。

  • 親が住民票上の世帯主で、子と同じ世帯にいるかどうか。
  • 子の年齢が50歳未満で、納付猶予を使えるかどうか。
  • 親の所得から見て、申請免除が承認される見込みがあるかどうか。
  • 子に心身の不調がうかがわれ、障害年金の可能性を残しておく必要があるかどうか。
  • 親自身の老後資金と、保険料を払い続けた場合の残り年数。
  • 子が独立して別の世帯になる見通しがあるかどうか。


 親が成人した子をどこまで経済的に支える義務を負うのかについては、【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで詳しく扱っています。保険料の連帯納付義務は、この扶養義務とは別に、国民年金法が世帯主に課しているものです。両者を分けて考えると、整理しやすくなります。

世帯を分けるという選択には慎重さが必要です

 住民票の世帯を分けると、保険料や各種制度の扱いが変わる場面があります。ただし、同じ家で暮らし生計も同じであるのに、負担を軽くする目的だけで世帯を分ける届出は、窓口で受理されないことがあります。世帯の分け方と制度ごとの影響については、【親子問題】世帯分離とは|住民票・保険・年金の扱いをご覧ください。

子が独立した後の保険料をどう扱うか

 子が家を出て別の世帯になれば、それ以降の保険料について親に連帯納付義務はありません。独立後も親が払い続けるかどうかは、親子で決めてよい事柄です。支援の一環として払う場合も、「就労が安定するまで」「1年間だけ」のように期間を決めておくと、支援が終わらない状態を避けやすくなります。

 また、独立した子が生活保護を受けるようになると、生活扶助を受けている間は法定免除の対象になります。生活保護と世帯の関係は、【親子問題】ひきこもりの子に生活保護は使えるのか|世帯分離の考え方で解説しています。親の死後に子の生活をどう支えるかという観点からは、【親子問題】親亡き後問題|子の生活をどう設計しておくかもあわせてご確認ください。

本人が手続に応じないとき

 免除・猶予の申請は、本人が行うのが原則です。ひきこもりの子が書類の記入や窓口への同行を拒み、手続が進まないという相談も少なくありません。委任状によって家族が手続を代わりに行える場合もあるため、まずは年金事務所に、子の状況と世帯の状況をそのまま伝えて相談してみてください。本人が相談そのものを拒んでいる場合に家族だけでできることは、【親子問題】本人が相談を拒む場合|家族だけで動ける範囲で整理しています。

 当事務所では、弁護士が親御さんの代理人として子との窓口を担い、提携する自立支援カウンセラーが住まい探しや仕事探し、生活保護の申請、日々の金銭管理などを支える形で、親と子それぞれの自立に向けた取り組みを行っています。保険料のような生活の基盤にかかわる手続も、子の独立に向けた計画の中で一緒に整理することができます。サービスの流れについては、【親子問題】子の暴力・ひきこもり・お金の無心・犯罪行為に悩む親御さんへ|ご相談から自立までの流れと費用、よくあるご質問をご覧ください。

 保険料を払い続けるかどうかは、親の老後と子の将来の両方にかかわる判断です。世帯の状況や子の年齢によって使える制度が変わるため、一つの答えを急がず、事情を整理したうえで決めていくことが大切です。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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