他人のIDでログインした|不正アクセス禁止法の成立範囲
「寝ている相手に触れた」という場面について、インターネット上には「寝ていたのなら罪になる」という短い説明が数多く並んでいます。ただ、刑法の条文はそこまで単純な作りにはなっていません。眠っていたという事実は、条文のなかで一つの位置を与えられているにすぎず、そこだけで結論が決まる構造にはなっていないからです。
この記事は、警察から連絡を受けた方、相手からその点を指摘されている方、過去の出来事について不安を抱えている方を主に想定して、刑法176条1項4号がどのような言葉で書かれているのか、そして「眠っていたかどうか」が実際にはどのように確かめられていくのかを整理します。
事実と異なる説明を組み立てるための記事ではありません。条文の言葉と自分の記憶がどこでずれているのかを、早い段階でつかむための材料としてお読みください。なお、挿入を伴う行為の場合、相手が16歳未満の場合、撮影を伴っていた場合は、別の条文が重ねて問題になります。
「寝ている人に触れた」は条文のどこに置かれているか
体に触れる行為が問題になるとき、まず出てくるのは刑法176条の不同意わいせつ罪です。この条文は、いくつかの行為や事由によって、同意しない意思を形成し、表明し、または全うすることが困難な状態にさせたか、その状態にあることに乗じて、わいせつな行為をした場合を対象としています。
そして、その原因となり得るものとして八つの類型が並べられており、睡眠はその四番目に置かれています。条文の言葉は「睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること」です。
ここで押さえておきたいのは、4号は原因の欄に置かれた言葉であって、成立を決める最後の欄ではないという点です。眠っていたことが確かめられれば、そこで話が終わるわけではなく、その状態によって意思の形成・表明・全うが困難だったといえるかが、あらためて問われます。
4号は二つの書き方でできている
4号の文言は、一つの状態について二通りの関わり方を書き分けています。眠らせるように働きかけた場合と、すでに眠っていた相手に関わった場合です。
| 形 | 条文の言葉 | 典型的に問題になる場面 |
|---|---|---|
| 状態を作り出した形 | 睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること | 眠り込むように働きかけた場合 |
| すでにある状態に関わる形 | その状態にあること | 相手が自然に眠っていた場合 |
この書き分けを見落とすと、説明の方向を誤りやすくなります。相談の場では「自分が眠らせたわけではない」という説明がよく出てきますが、条文には状態にあることに乗じた場合も並べて書かれているため、自分が原因を作っていないことは、それだけでは成立を否定する事情になりません。眠らせたかどうかは、事情の重さを考える場面では意味を持ちますが、入口の要件を外す理由にはならないという整理になります。
「睡眠」と「意識が明瞭でない状態」は別の言葉
法務省が公表している法改正のQ&Aでは、「睡眠」は眠っていて意識が失われている状態を指し、「その他の意識が明瞭でない状態」は、意識がもうろうとしているような、睡眠以外の原因で意識がはっきりしない状態を指すと説明されています。
つまり4号は、完全に眠り込んでいる場面だけを想定した規定ではありません。体調の急変、強い疲労、薬の影響など、眠りとは呼べないけれど意識がはっきりしない状態も、同じ号のなかに置かれています。飲酒が絡む場合は3号のアルコールの影響と重ねて問題になることもあり、実務でも重ねて適用される例が指摘されています。
争点は「寝ていたか起きていたか」の二択にならない
条文は「明瞭でない状態」とだけ書いており、どの程度の意識レベルを指すのかまでは書いていません。起きぬけで寝ぼけている状態や、疲れてぼんやりしている状態がどこまで含まれるのかは、条文の文言からは決まらないという指摘が、弁護士向けの専門誌でもなされています。
そのため、この類型で実際にやりとりされるのは、眠っていたか起きていたかという二択ではなく、そのとき相手の意識がどの程度だったのかという、段階のある事実です。目を開けていたか、自分から動いたり話したりしていたか、その内容はどのようなもので、どの程度まとまりのあるものだったか。こうした点が着眼点として挙げられます。
ここは両方向に注意が必要です。返事があったこと自体は、意識がはっきりしていたことを示す事情になり得ますが、寝ぼけたまま短く応じることもあるため、それだけで結論が決まるわけではありません。逆に、動きや発言がなかったことも、直ちに4号に当たると決めるものではありません。
4号に当たることと、罪が成立することは別
前述のQ&Aでは、八つの類型はいずれもその程度を問わないとしつつ、成立するにはこれらの行為や事由によって、同意しない意思を形成し、表明し、または全うすることが困難な状態になっていることが必要だと説明されています。原因の欄と状態の欄が、二段構えになっているということです。
もっとも、睡眠の類型では原因と状態が近い位置にあります。眠っている状態が認められれば、そこから困難な状態が導かれやすい構造になっているため、実際の争いは「そのときどの程度の意識だったのか」という一点に集まりやすくなります。困難な状態そのものの意味については、別の記事で詳しく扱っています。
記憶が欠けている場面で、何が材料になるのか
この類型には、他の類型と違う事情が一つあります。相手の側に、その時間の記憶がまったく残っていないことがある、という点です。そのため確かめられるのは、行為そのものよりも、その前後の状況になりやすくなります。
| 材料になりやすいもの | 示しやすいこと | 限界 |
|---|---|---|
| 直後のやりとりの記録 | その時点で双方が状況をどう受け止めていたか | 行為の中身までは示さない |
| 同じ場にいた人の話 | いつから眠っていたと見られていたか | 時刻の記憶が混ざりやすい |
| 室内や端末に残る記録 | 出来事の前後関係と時間の流れ | 意識の程度までは示さない |
そしてもう一つ、この類型に特有の構造があります。相手の記憶が欠けている場面では、そのときの様子について語れる人が限られるため、行為者自身の説明が事実上の中心的な資料になりやすいということです。取調べで述べた内容が、後の判断の骨組みになりやすい類型だといえます。
取調べで言葉が固まる
だからこそ、聞かれ方と答え方の整理が意味を持ちます。相談前に、次の区別だけでも自分のなかで付けておくと役に立ちます。
・実際に覚えていること
・覚えていないこと
・覚えていないが、たぶんこうだったと思っていること
・後から人に聞いて知ったこと
このうち三つ目と四つ目を、自分が見たこととして述べてしまうと、記憶ではない部分が事実として記録に残ります。「たぶん寝ていたと思います」という言い方は、推測のつもりでも、認めた内容として読まれることがあります。「寝ていたかどうかは分からない」と「起きていた」も、意味の違う説明です。
供述調書は、内容を確認したうえで署名するもので、違うと感じた部分については訂正を申し立てることができます。分からない部分を分からないまま残すことは、不誠実な対応ではありません。
途中で目が覚めた場合
相手が途中で目を覚ましたという経過は、事実関係のうえでも法律の当てはめのうえでも、区切りとして扱われます。目が覚めた後も行為を続けたのであれば、その時点から先は睡眠の類型では読まれず、別の類型として整理されることになります。気づいた時点でやめたのか、続けたのか、その間にどのようなやりとりがあったのかは、早い段階で確かめられる点です。
「同意があると思っていた」は別の問い
相手が眠っていたと言われている場面で、「そうは思わなかった」「起きていると思っていた」という説明が出てくることがあります。これは、相手の状態がどうだったかという問いとは別に、行為者がそれをどう認識していたかという問いにあたります。専門誌でも、意識が明瞭だったかどうかは評価の入る問題であるため、認識の点をあわせて検討すべきだと指摘されています。この論点は別の記事で扱っています。
関係があることは結論を決めない
条文には、婚姻関係の有無にかかわらず成立し得ることが書かれています。夫婦や交際関係にある相手であっても、この条文の対象から外れるわけではありません。
一方で、関係があることだけで成立が決まるわけでもありません。日ごろどのようなやりとりがあったのかは、状態の評価にも認識の評価にも関わってくる事情です。関係があるから問題にならない、という理解も、関係があるから当然に問題になる、という理解も、条文の作りとは合いません。
重なって問題になりやすい別の話
睡眠の類型が問題になる場面では、次のような話が同時に出てくることがあります。
・眠らせるために酒や薬を用いた場合は、別の類型や別の犯罪が重ねて問題になる
・相手の住まいに入っていた場合は、住居侵入の点が別に検討される
・撮影を伴っていた場合は、撮影に関する法律の規定が別に問題になる
・電車内や公共の乗物での出来事は、条例違反として扱われることもあり、どちらで立件されるかは行為の内容による
・相手が16歳未満の場合は、状態の評価とは別の規定が働く
相談前に整理しておくとよいこと
・その日の時間の流れを、覚えている範囲で時刻とともに書き出す
・相手がいつごろ横になったのか、その時点で何をしていたのかを思い出せる範囲で記録する
・自分が見たこと、聞いたこと、推測していることを分けて書く
・その後に相手や第三者とやりとりした記録を消さずに残す
・警察や相手方から言われた言葉を、言われたとおりに書き留める
・分からない部分は空欄のままにして、あとから埋めない
弁護士に確認できること
・自分の説明が、条文のどの部分に関わる話なのか
・取調べで聞かれている内容が、どの点を確かめようとしているのか
・手元の記録のうち、どれを保存しておく意味があるのか
・相手方とのやりとりを自分で行うことの影響
・今後どのような手続が想定され、どの段階で何が決まるのか
立場が逆の場合
眠っている間の出来事について不安を感じている側の方は、性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センターの全国共通短縮番号#8891に連絡することができます。医療面の対応、証拠の保全、警察への相談について、あわせて案内を受けられます。
まとめ
・4号の言葉は「睡眠その他の意識が明瞭でない状態にさせること又はその状態にあること」
・4号は原因の欄であり、そこに当たることと罪が成立することは別の話
・条文は状態を作り出した形と、すでにある状態に関わる形の両方を書いている
・自分が眠らせたわけではないことは、それだけでは成立を否定する事情にならない
・争点は寝ていたか起きていたかの二択ではなく、意識の程度という段階のある事実
・相手の記憶が欠けている類型では、行為者自身の説明が中心的な資料になりやすい
・途中で目が覚めた後の経過は、別の区切りとして扱われる
眠っていたかどうかは、白か黒かで割り切れる事実ではありません。だからこそ、覚えていることと覚えていないことを分けたまま保つことが、この類型では意味を持ちます。説明を整える前に、記憶の形をそのまま残しておくことをおすすめします。


