他の事務所にも相談してよいか|店側顧問事務所に相談するリスク
逮捕されたと聞くと、多くの方が「このまま何十日も帰れないのではないか」と考えます。ただ、逮捕と勾留は別々の判断です。勾留するかどうかを決めるのは裁判官で、その判断はあらかじめ決まった枠組みに沿って行われます。枠組みが決まっているということは、どの点について何を示せばよいかも、ある程度は決まっているということです。
この記事では、性風俗の利用に関わる事件で身体拘束が問題になったときに、勾留を避けるための「材料」として何を用意できるのかを整理します。身元引受と生活環境の整え方を中心に、風俗の事件で特に問題になりやすい点にしぼって説明します。なお、ここで扱うのは起訴される前の段階です。
「勾留を避ける」とは、何を避けることなのか
まず、避けようとしている対象を正確にしておきます。
逮捕の判断と勾留の判断は別のもの
逮捕は、身体の拘束を始める処分です。これに対して勾留は、その拘束を続けるかどうかを、あらためて裁判官が判断する別の手続です。逮捕された人が当然に勾留されるわけではなく、勾留を請求しないという判断も、請求が却下されるという結果もあります。
決まると10日、延ばされるとさらに10日
逮捕された後、身体を拘束された時から72時間以内に、検察官が裁判官へ勾留を請求するか、釈放するかが決まります。勾留が認められた場合、期間は勾留の請求をした日から10日以内で、やむを得ない事由があると認められればさらに10日を超えない範囲で延長されます(刑事訴訟法208条)。
起訴される前に「保釈」はない
保釈は起訴された後の制度で、起訴される前の段階には保釈という手続がありません(刑事訴訟法207条1項ただし書)。お金を積んで出るという選択肢がこの段階にはない、ということです。そのため起訴前にできることは、勾留の判断そのものに材料を届けるか、決まってしまった後にその期間を短くするよう求めるか、という形になります。
材料が向けられる先は、三つの入口と一つの物差し
勾留できるのは、罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、次のいずれかにあたるときです(刑事訴訟法60条1項。被疑者にも207条1項で準用されます)。
- 定まった住居を有しないとき。
- 罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
- 逃亡し、または逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
注意したいのは、三つ全部ではなく、一つでもあてはまれば勾留できるという建て付けだという点です。したがって、用意する材料も「全部に均等に」ではなく、その事件でどの入口が問題にされているかに合わせて選ぶことになります。
もう一つの物差し「勾留の必要性」
上の三つは「勾留の理由」と呼ばれます。これとは別に、実務では「勾留の必要性」という物差しが用いられます。条文に正面からの定義はなく、勾留の取消しを定めた87条1項が「勾留の理由又は勾留の必要がなくなつたとき」と書き分けていることから導かれる考え方です。理由があっても、身体を拘束することで得られるものと本人が受ける不利益との釣り合いがとれていなければ、勾留すべきではないという判断がありうるということです。
「おそれ」ではなく「現実的な可能性」
この点について、最高裁判所は平成26年11月17日の決定で、電車内の痴漢が問題になった事件について、勾留の必要性の判断を左右する要素は罪証隠滅の現実的可能性の程度であると述べています。前科前歴のない会社員であり、逃亡のおそれが否定されていたことなどを前提に、被害者に接触する可能性が高いことを示すような具体的な事情がうかがわれないとして、勾留の必要性を否定した原々審の判断を不合理とはいえないとしました。
ここから分かるのは、材料の性質です。「証拠を隠したりしません」という言葉ではなく、隠せる状況にないこと・近づける状況にないことを示す具体的な事実が求められている、ということになります。
風俗の事件で焦点になりやすいのは「罪証隠滅」
実務では、罪証隠滅のおそれを、何に対する隠滅か(対象)、どのような働きかけか(態様)、そもそもそれができる余地があるか、そうする意図があるか、といった角度から見ていくとされています。風俗の事件では、このうち「できる余地」の部分に事件特有の事情が出やすくなります。
相手に近づく経路が残りやすい
電車内の痴漢では、相手がどこの誰かを知らないのが通常です。これに対して風俗の事件では、店名、源氏名、予約に使ったサイトやアプリのアカウント、登録した電話番号、来店の履歴といった形で、どこに行けば相手や関係者にたどり着けるかが残っていることが少なくありません。接触の可能性を示す具体的な事情が拾われやすい構造がある、ということです。
供述が証拠の中心になりやすい
二人だけの場面で起きた出来事について、何があったか、同意があったかが争われる類型では、証拠の中心が当事者の説明になります。相手の説明が動くと結論も動きうるため、相手への働きかけが警戒されやすくなります。
記録の形で残っている場合
撮影が問題になっている場合は、端末やクラウド上のデータが証拠の中心になります。これらは消すことができるものなので、「消される余地」が正面から問題になります。
| 事件の形 | 警戒されやすいこと | 材料として示せること |
|---|---|---|
| 本番・わいせつを疑われている | 相手方や店への働きかけ、口裏合わせ | 連絡できる手段を持っていないこと、連絡していないこと |
| 撮影が問題になっている | 端末やクラウド上のデータの削除 | 端末をすでに提出していること、自分で操作していないこと |
| 店とのやり取りから通報に至った | 店の関係者への接触、支払いを通じた働きかけ | 店への連絡と金銭のやり取りを止めていること |
| 相手方と個人的につながっていた | 直接連絡できる状態が続いていること | つながりの経路を申告し、そこに触れていないこと |
身元引受という材料
身柄をめぐる場面で必ず出てくるのが「身元引受人」です。まず、その位置づけを正確にしておきます。
法律上の資格ではない
身元引受人は、法律に定められた資格や制度ではなく、実務上の呼び方です。引き受けた人が、そのことによって法的な義務や制裁を負う仕組みでもありません。逆に言えば、なれる人があらかじめ限定されているわけでもなく、同居の家族に限られるものでもありません。
書面に書かれる内容
一般に、身元引受書には次のような事項が記載されます。
- 引き受ける人の氏名、住所、連絡先。
- 本人との関係と、付き合いの長さ。
- 同居しているかどうかと、日ごろの生活の様子。
- 捜査機関から呼出しがあったときに出頭させること。
- 本人と連絡を取り合う具体的な方法。
- 今後、日常生活や職場でどのように関わるか。
体裁よりも中身
「引き受けます」とだけ書かれた一枚と、日ごろの生活ぶり、勤務の様子、本人と事件との関わり方まで具体的に聴き取った書面とでは、読む側にとっての情報量が違います。生活の基盤があり、姿を消したり関係者に近づいたりする人物ではないと理解してもらうための材料である以上、様式を整えることより、書かれている事実の具体性のほうが意味を持ちます。
家族に頼めない場合
風俗に関わる事件では、家族に知られたくないという事情から、身元引受を頼みにくいことがあります。この場合、選択肢が一つとは限りません。同居していない親族、事情を伝えられる範囲の勤務先の関係者、長い付き合いのある知人などが考えられます。
また、引受人が用意できないことが、そのまま勾留に直結するわけでもありません。頼める人がいない場合は、後で述べる生活環境の側の材料に重心を移すことになります。会社や家族にどの段階で知られうるかは別の論点なので、身元引受の話と混ぜずに、切り分けて考えたほうが整理しやすくなります。
生活環境の整え方
「定まった住居」と「逃亡のおそれ」に向けた材料は、生活の実際を示すことに尽きます。
住居は住民票の記載だけでは決まらない
60条1項1号の「定まった住居を有しないとき」は、住所も居所も定まっていない状態を指すと解されています。住所とは生活の本拠、居所とはそこまでではないものの継続して住んでいる場所です。住民票にどこかの住所が記載されていることだけで「定まった住居」があるとされるわけではなく、実際にどこで生活しているかが実質的に見られます。
逆に言えば、住民票が実家のままでも、実際に継続して住んでいる場所があるなら、それを示せばよいということです。示し方としては次のようなものがあります。
- 賃貸借契約書や入居時の書類。
- 家賃、公共料金、通信料の支払いの記録。
- その住所で郵便物を受け取っていること。
- 同居している人がいる場合は、その人からの説明。
- 勤務先とその住まいの位置関係。
逃亡のおそれは、生活の安定と結びつけて見られる
逃亡のおそれは、実務上、生活が不安定なために所在が分からなくなる可能性と、処罰を免れるために所在をくらます可能性とに分けて考えられています。前者については、職業、家族関係、社会的な立場といった事情が見られます。生活と勤務を捨ててまで姿を消すだろうか、という見方だと考えると分かりやすいと思います。
新しく作った体制より、続いている事実
このため、逮捕後に急いで作った書面よりも、以前から続いている事実のほうが崩れにくい材料になります。同じ勤め先に通い続けていること、同じ場所に住み続けていること、家賃を払い続けていることなどです。「環境を整える」の中身は、多くの場合、新しく何かを始めることではなく、すでにある事実を第三者が確認できる形にすることだといえます。
「経路を断つ」ことと「記録を消す」ことは違う
ここは間違えると結果が反転する部分なので、項目を分けて書きます。
断つ対象は接触であって、記録ではない
相手方や店に近づかないことは、罪証隠滅のおそれを小さくする方向に働きます。一方で、連絡先を削除する、アカウントを消す、端末を初期化するといった行為は、罪証隠滅そのものと受け取られかねません。同じ「関係を断つ」という言葉で語られがちですが、向かう方向は正反対です。手元にあるものは、自分の判断で処分しないほうが安全です。
窓口を一つにしておく
謝罪や話し合いを申し入れたい場合でも、本人や家族が直接連絡を取ると、働きかけと評価される余地が生じます。弁護人が窓口になっている状態は、連絡の経路が管理されていること自体が材料になるという意味も持ちます。なお、相手方の連絡先は本人には知らされないのが通常で、代理人に対して相手方の同意がある範囲で伝えられる、という運用になっています。
材料は、誰に、いつ届くのか
同じ書面でも、届く先とタイミングによって意味が変わります。まず、勾留を請求するかどうかを判断するのは検察官です。次に、請求を受けて勾留するかどうかを判断するのは裁判官です。決まった後は、その判断に対する不服申立てや、勾留の取消しを求める手続、期間の延長に対する反論という形になります。
なお、勾留が決まる前に検察官や裁判官へ意見書を出すことは、法律上の手続として定められたものではなく、事実上の働きかけとして行われているものです。提出すれば必ず読まれて考慮されるという性質のものではない、という前提で考えておく必要があります。
本人は資料を集められない
身体を拘束されている間は、契約書一枚を取り出すこともできません。ここまで挙げた材料は、いずれも外にいる人が集めることになります。家族については、本人とは別に、独立して弁護人を選任できるという定めがあります(刑事訴訟法30条2項)。
逆効果になりやすい行動
良かれと思って行われることの中に、判断を反対方向へ動かしうるものがあります。
- 店に電話をして、その場で話をつけようとすること。
- 相手方本人に直接、謝罪や説明の連絡をしようとすること。
- 端末やアカウントを消す、機種変更する、下取りに出すこと。
- 家族や知人に頼んで、代わりに店や相手方へ連絡してもらうこと。
- 早く帰りたいという理由で、記憶にないことまで認めてしまうこと。
- 住まいを引き払う、急に転居するなど、生活の形を動かすこと。
最後の点は見落とされがちです。荷物をまとめる、部屋を解約するといった動きは、本人にとっては生活の整理でも、外からは所在が不安定になったと見えることがあります。
勾留が決まってしまった場合
決まった時点で終わりというわけではありません。勾留の裁判に対しては不服を申し立てる手続があり、勾留された後に事情が変わった場合には勾留の取消しを求める手続もあります。期間の延長についても、必要な範囲を争う余地が残ります。
あわせて、勾留に加えて弁護人以外との面会や物のやり取りを禁じる処分が付くことがあります。これは勾留とは別の処分で、その部分だけを争うこともできます。起訴された後は、あらためて保釈が問題になります。
まとめ
この記事の要点を整理します。
- 逮捕と勾留は別の判断で、勾留するかどうかは裁判官が改めて判断する。
- 勾留の理由は住居・罪証隠滅・逃亡の三つで、一つでもあてはまれば勾留できる建て付けになっている。
- これとは別に勾留の必要性という物差しがあり、最高裁は罪証隠滅の現実的可能性の程度を問題にしている。
- 風俗の事件では相手や店にたどり着ける経路が残りやすく、罪証隠滅が焦点になりやすい。
- 身元引受人は法律上の資格ではなく、書面は様式より記載された事実の具体性が意味を持つ。
- 住居は住民票の記載ではなく実際の生活で見られ、続いている事実ほど材料として崩れにくい。
- 接触を断つことと記録を消すことは正反対で、手元のものを自分の判断で処分しないほうがよい。
勾留の判断は短い時間の中で進み、身体を拘束されている本人が自分で資料を集めることはできません。何が問題にされているかによって、集めるべき材料も変わります。判断の前に整理しておくことが、この段階では意味を持ちます。
当事務所では、性風俗の利用に関わるトラブルについて、利用した側の立場からのご相談をお受けしています。初回のご相談は無料で、お問い合わせは24時間受け付けています。逮捕の連絡を受けた場合の即日の接見や、ご家族からのご連絡にも対応しています。


