【刑事事件】恋人に貸したお金を取り返そうとして、物を持ち帰ったら?

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

交際中に貸したお金がなかなか返ってこない。催促しても話が進まず、別れ話のついでや相手の部屋に行った機会に、時計やバッグ、ゲーム機などを「返してくれるまで預かる」つもりで持ち帰ってしまった。こうした相談は少なくありません。貸した側からすれば当然の行動に思えても、法律上は別の見方をされることがあります。この記事では、恋人に貸したお金を取り返そうとして物を持ち帰った場合に問われうる罪、評価を分ける事情、持ち帰った後にできることを整理します。

本記事は、2025年6月施行の改正刑法(懲役・禁錮を「拘禁刑」に一本化)を反映した法定刑で記載しています。個別の事案の結論は事実関係によって変わるため、一般的な考え方としてお読みください。


お金を貸していても、相手の物を持ち帰ってよいことにはならない

 日本の法律では、権利を持っている人であっても、裁判所の手続などを通さずに実力で権利を実現すること(いわゆる「自力救済」)は、原則として認められていません。貸したお金を返してもらう権利は確かに貸した側にありますが、その権利の内容は「お金を返してもらうこと」であって、「相手の持ち物を代わりに持っていくこと」までは含まれていません。

 そのため、「貸した分を取り返すだけ」「返済されたら返すつもりだった」という気持ちがあっても、相手の物を相手の了承なく持ち帰れば、刑事事件として扱われる可能性があります。お金の貸し借りは民事の問題、物を持ち帰った行為は刑事の問題として、別々に評価されると考えておくとよいでしょう。

持ち帰った場面で問題になりうる罪

 物を持ち帰った経緯によって、問題になる罪は一つとは限りません。主なものを順に見ていきます。

窃盗罪

 他人の財物をその人の意思に反して自分の支配下に移すと、窃盗罪(刑法235条)が問題になります。法定刑は10年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。

 窃盗罪が成立するには、物を自分のものとして利用・処分する意思(不法領得の意思)が必要とされています。「借金のかたに預かっただけ」という説明は、この意思がなかったという主張として出されることがあります。ただ、相手を排除して自分の手元に置き、返済がなければ売るなどして貸金に充てるつもりであれば、この意思が認められる方向で考えられることが多いと言えます。「担保のつもりだった」というだけで、直ちに罪にならないとは言い切れません。

住居侵入罪

 物を持ち帰るために相手の部屋に入った場合は、住居侵入罪(刑法130条)も問題になります。法定刑は3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金です。交際中に合鍵を渡されていたとしても、別れた後や、相手が入ることを認めていない状況で入った場合には、立ち入り自体が問われることがあります。住居侵入と窃盗が重なると、まとめて評価される分、事案として重く見られる傾向があります。

恐喝罪・強盗罪

 相手を脅して物を差し出させた場合は恐喝罪(刑法249条、10年以下の拘禁刑)、相手が抵抗できないほどの暴行や脅迫を用いて物を取った場合は強盗罪(刑法236条)が問題になります。判例(最判昭和30年10月14日)は、権利の行使であっても、その方法が社会通念上一般に許容される程度を超えれば恐喝罪が成立しうるという考え方を示しています。貸金があることは、脅しや暴力を正当化する理由にはならないということです。

器物損壊罪

 持ち帰った物を壊したり、捨てたり、使えない状態にしたりした場合には、器物損壊罪(刑法261条、3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金もしくは科料)が問題になることもあります。

場面問題になりうる罪法定刑の上限の目安
相手の物を了承なく持ち帰った窃盗罪10年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金
持ち帰るために相手の部屋に入った住居侵入罪3年以下の拘禁刑または10万円以下の罰金
脅して物を差し出させた恐喝罪10年以下の拘禁刑
持ち帰った物を壊した・捨てた器物損壊罪3年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金もしくは科料


 表は一般的な整理です。実際にどの罪で扱われるか、どの程度の処分になるかは、個別の事情によって大きく変わります。

「自分が貸した物」を取り返した場合はどうか

 持ち帰った物が、もともと自分の物で、相手に貸していたにすぎない場合もあります。この場合も、まったく問題にならないとは限りません。刑法には、自分の物であっても他人が占有している物は、窃盗罪との関係では他人の物とみなすという規定があります(刑法242条)。

 判例(最決平成元年7月7日)では、自動車金融の業者が、契約上は自社の所有となった車を、借主の了承を得ずに引き揚げた事案で、窃盗罪の成立が認められています。自分の物を取り戻す場面でも、相手の手元にある物を無断で持ち出す方法は慎重に考える必要があるということです。

 もっとも、取り返した物、取り返した方法、相手との関係によって評価は変わります。自分の物を実力で取り返した場合の考え方は、以下の記事で詳しく整理しています。


評価を分ける事情

 同じ「物を持ち帰った」という出来事でも、次のような事情によって、事件として扱われるかどうかや、扱われた場合の見通しが変わります。

  • 相手が物を渡すことを了承していたか、了承を示すやり取り(LINEなど)が残っているか。
  • 相手の部屋に入った経緯(合鍵を使ったか、相手が在宅していたか、入ることを認められていたか)。
  • 持ち帰る際に、脅すような言葉や力ずくの行動がなかったか。
  • 持ち帰った物の価値や数、相手にとっての重要性。
  • 持ち帰った物を売る・捨てるなど、すでに処分していないか。
  • 持ち帰った後、相手にどのように伝えたか、返還の申し出をしたか。


 とくに大きいのは、相手の了承の有無です。相手のほうから「お金の代わりにこれを渡す」と申し出て、双方が納得して受け渡した場合は、合意による清算として整理できることがあり、無断で持ち帰った場合とは評価が異なります。ただし、別れ話の最中など気持ちが高ぶった場面では、後になって「了承していない」「無理に持っていかれた」と言われることもあります。その場の口約束だけでなく、やり取りの記録が残っているかどうかが重要になります。

 なお、刑法には、配偶者や同居の親族の間での窃盗について刑を免除する規定(刑法244条)がありますが、交際相手は親族ではないため、この規定の対象にはなりません。内縁関係の相手についても、この規定は適用されないと判断した判例(最決平成18年8月30日)があります。「恋人同士だから家族と同じように扱われる」とは考えないほうがよいでしょう。

持ち帰ってしまった後にできること

 すでに物を持ち帰ってしまった場合でも、その後の対応によって、事態の広がり方は変わります。

物を処分せず、そのまま保管する

 持ち帰った物は、売ったり使ったりせず、そのままの状態で保管しておくことが基本です。売却や処分をしてしまうと、返還という選択肢がなくなり、相手との話し合いも難しくなります。貸金に充てるつもりで売ったという事情は、相手から見れば被害が確定したことになるため、慎重に考える必要があります。

返し方を一人で決めない

 早く返したいという気持ちから、相手の家に直接持っていく、玄関先に置いてくるといった方法をとると、改めて揉めごとになったり、相手に不安を与えたりすることがあります。別れた後の相手に繰り返し接触すると、内容によってはつきまといと受け取られるおそれもあります。返還の方法やタイミングは、第三者を介して決めるほうが落ち着いて進めやすいと言えます。

 返したことが処分にどう影響するかについては、以下の記事で整理しています。


相手から「被害届を出す」と言われたら

 相手から被害届の話が出た場合は、物の返還とあわせて、話し合いでの解決(示談)を検討する場面です。示談では、持ち帰った物の返還、謝罪、今後の接触の方法などに加え、貸したお金の扱いをどうするかもあわせて取り決めることがあります。

 一方で、「物を返す代わりに借金を返せ」と強く迫ると、それ自体が新たなトラブルの原因になりかねません。持ち帰った件と貸金の件は、本来は別の問題です。二つをどう整理するかは、当事者同士で直接やり取りするより、代理人を通して進めるほうが感情的な衝突を避けやすくなります。


警察から連絡が来たら

 相手が警察に相談し、警察から事情を聞きたいと連絡が来ることもあります。連絡が来た段階で、どこまでの事実をどのように説明するかを整理しておくことが大切です。貸金の経緯、持ち帰った物、相手とのやり取りの記録などを手元にまとめたうえで、早めに弁護士に相談することを検討してください。


貸したお金は別の手続で取り戻す

 貸したお金を返してもらう方法は、物を持ち帰ること以外にもあります。まずは話し合いや書面での請求、それでも応じてもらえない場合は、支払督促や少額訴訟、通常の訴訟といった裁判所の手続を使うことが考えられます。

 交際中の貸し借りは借用書を作っていないことも多いですが、振込の記録、LINEなどで「貸して」「返す」といったやり取りをしていた記録は、貸したことを示す材料になりえます。逆に、物を持ち帰ったことで相手の態度が硬くなったり、相手から損害賠償を求められたりして、貸金の回収がかえって難しくなることもあります。回収の手段として何を選ぶかは、記録の残り方や金額によって変わります。


よくあるご質問


貸した金額より安い物なら、罪にはならないのでしょうか

 金額の大小で窃盗罪の成否が決まるわけではありません。貸した金額の範囲内の物であっても、相手の了承なく持ち帰れば、窃盗罪が問題になりえます。持ち帰った物の価値や貸金の額は、処分の重さや示談の内容を考える際の事情の一つになりますが、それだけで罪にならないということにはなりません。

交際中は相手の部屋に自由に出入りしていました

 交際中に出入りを認められていたとしても、その同意はふだんの交際の範囲での出入りについてのものと考えられることが多いでしょう。別れた後や、相手の物を持ち出す目的で入った場合には、その同意の範囲を超えていると見られることがあります。

返済されたらすぐ返すつもりでした

 その気持ちは、事情として相手や捜査機関に伝える意味があります。ただ、返済を条件に手元に置き続けるという考え方自体が、相手の物を自分の支配下に置く意思と受け取られることもあります。「返すつもりだった」と言えば問題がなくなる、とは考えないほうがよいでしょう。

まとめ


  • お金を貸していても、相手の物を了承なく持ち帰ってよいことにはなりません。
  • 持ち帰り方によって、窃盗罪のほか、住居侵入罪や恐喝罪などが問題になることがあります。
  • 自分が貸した物であっても、相手の手元にある物を無断で持ち出すと問題になる場合があります。
  • 持ち帰った物は処分せずに保管し、返し方は第三者を介して決めるほうが進めやすくなります。
  • 貸したお金は、話し合いや裁判所の手続など、別の方法で取り戻すことを考えます。


 貸したお金が返ってこない悔しさから、つい行動してしまったという方は少なくありません。持ち帰った物の扱いと、貸金の回収をどう分けて進めるかを早めに整理しておくことで、事態が大きくなる前に対応しやすくなります。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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