【刑事事件】会社に捜査関係事項照会が届いた|従業員として知っておくこと

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

本記事は、2026年10月時点の刑事訴訟法、個人情報の保護に関する法律(個人情報保護法)及び同法施行令、労働契約法に基づいて解説しています。個別の事件で捜査機関がどのような照会を行い、会社がどう回答するかは事案ごとに異なります。


「人事部から、警察の照会書に自分の名前が書かれていたと聞かされた。何の件か分からず落ち着かない」という従業員の方からのご相談があります。反対に、「総務で照会書を受け取ったが、対象は同じ部署の同僚だった。本人に伝えてよいのか分からない」という、回答を担当する立場の方からのご相談もあります。

 捜査関係事項照会については、企業や医療機関が照会を受けたときの対応手順を解説した記事が多く見られます。その内容自体は誤りではありませんが、会社側の視点で書かれているため、照会の対象になった従業員から見て「自分に何が起きているのか」「何をすると状況が悪くなるのか」という点は見えにくくなっています。

 この記事では、照会の仕組みと会社が回答しうる情報の範囲、照会の対象になった従業員が避けたい行動と整えておきたい準備、回答を担当する従業員の注意点を順に整理します。警察からの呼び出しや家宅捜索への具体的な対応は、それぞれ別の記事に委ねています。

捜査関係事項照会とはどのような手続か

刑事訴訟法197条2項に基づく「照会」

 捜査関係事項照会は、警察や検察が「公務所又は公私の団体」に対し、捜査に必要な事項の報告を求める手続です(刑事訴訟法197条2項)。会社はこの「公私の団体」に当たるため、従業員に関する事項について照会書が届くことがあります。

 照会を受けた側は報告する義務を負うと解されていますが、回答を強制する方法や回答しないことへの罰則は定められていません。この点で、裁判官の発付した令状に基づいて物や記録を差し押さえる捜索・差押えとは性質が異なり、任意捜査の一つと位置づけられています。

会社は本人の同意なく回答できる

 会社が従業員の個人データを外部に提供するには、原則として本人の同意が必要です。ただし、「法令に基づく場合」は例外とされており、捜査関係事項照会への回答はこれに当たると解されています(個人情報保護法27条1項1号)。

 また、この例外に当たる提供は、第三者に提供したときの記録作成義務の対象からも外れています(同法29条1項ただし書)。会社には、照会に回答したことを従業員本人に知らせる法律上の義務はなく、本人が知らないまま回答が済んでいることも珍しくありません。

会社に照会されやすい事項

 照会される事項は事件によって異なりますが、会社が業務上保有している記録が中心です。たとえば、次のような事項が照会の対象になることがあります。

  • 在籍の有無、入社日、所属部署、役職。
  • 住所、電話番号、緊急連絡先などの登録情報。
  • 本人確認書類の写しや社員名簿。
  • タイムカード、シフト表、出張記録などの勤務実績。
  • 入退館記録や社用車・社用携帯の利用記録。
  • 給与の振込先口座。


 照会書には、照会対象者の氏名や生年月日、照会事項、回答期限、照会元の警察署・担当者などが記載されるのが一般的です。どの期間のどの記録を求めているかによって、捜査機関が何を確かめようとしているのかが、ある程度うかがえる場合もあります。

照会の対象になったことは何を意味するのか

照会の対象者が被疑者とは限らない

 照会書に自分の名前があったと聞くと、自分が疑われていると考えがちです。しかし、照会は被疑者についてだけ行われるものではありません。事件の被害者や目撃者の所在確認、関係者の身元の裏付け、同姓同名の人物との区別など、被疑者以外の人について照会が行われることもあります。

 心当たりがまったくない場合には、自分の氏名や身分証の情報が第三者に悪用され、口座や携帯電話の契約などに使われている可能性も考えられます。この場合は、自分が被害を受けている側として、早めに状況を確かめる意味があります。

被疑者として扱われている場合に考えられる流れ

 自分が被疑者として捜査の対象になっている場合、勤務記録の照会は、事件があったとされる日時に職場にいたかどうかを確かめる目的で行われることが多いといえます。住所の照会であれば、呼び出しや捜索に向けた準備として行われている可能性もあります。

 ただし、照会があったことだけで、その後に呼び出しがあるのか、捜索や逮捕に進むのか、いつ動きがあるのかを読み取ることはできません。照会の後しばらく何も起きないこともあります。捜査の時間の流れについては事件から時間が経ってから連絡が来た|捜査が動く時期の読み方、身柄を拘束されずに捜査が続く場合については在宅事件になった場合|見えない時間の進み方で解説しています。

照会があったことを本人が知る経路

 照会があったことを本人に伝えるかどうかは、会社の判断に委ねられています。照会書に、照会の事実を本人に伝えないよう求める記載がある場合や、会社の規程で取り扱いを決めている場合には、会社から知らされないこともあります。

 会社に対して自分の個人データの開示を求める制度もありますが(個人情報保護法33条)、その存否が明らかになることで犯罪の捜査などに支障が及ぶおそれがあるデータは、開示請求の対象となる「保有個人データ」から除かれています(同法16条4項、同法施行令5条)。照会の有無や回答の内容を、本人が会社から確実に聞き出す方法はないと考えておく方が現実的です。会社に知られる経路全般については、勤務先に伝わる経路|通知制度と事実上の伝達を分けるもあわせてご覧ください。

照会を知った従業員が避けたい行動

会社に回答の見合わせや記録の修正を頼む

 照会があったと知ったとき、会社に「回答しないでほしい」「その日の記録を直してほしい」と頼みたくなる方もいます。しかし、会社が照会に回答するのは法令に基づく手続への対応であり、従業員の希望で回答の内容を変えることは通常ありません。

 記録の修正や削除を頼む行動は、証拠を隠そうとしたものと受け取られ、逮捕や勾留の必要性を判断する場面で「罪証隠滅のおそれ」として考慮される可能性があります(刑事訴訟法60条1項2号)。依頼に応じて記録を改変した側が、証拠隠滅罪(刑法104条)に問われるおそれもあります。この点は証拠を消した・口裏を合わせた|証拠隠滅罪と量刑への影響で詳しく解説しています。

社用のパソコンや携帯電話のデータを消す

 社用のパソコンや携帯電話には、メールや通話の履歴、位置情報などが残っていることがあります。これらのデータを照会の後に消去すると、上と同じく証拠を隠そうとした行動と評価されるおそれがあるうえ、会社の情報管理規程に反するとして社内で問題になることもあります。消去したデータが後に復元されることも少なくありません。

関係者への口裏合わせや、準備のないまま警察に連絡すること

 同僚や事件の関係者に連絡して話を合わせようとすることも、罪証隠滅のおそれとして考慮される行動の一つです。

 また、照会書に記載された警察署へ自分から電話をかけ、事情を説明しようとする方もいます。電話でのやり取りであっても、話した内容は捜査報告書などの形で記録に残る可能性があります。自分が被疑者として扱われているかどうか分からない段階では、まず状況を整理し、何をどう伝えるかを決めてから連絡する方が落ち着いて対応できます。

照会を知った従業員が整えておくこと

照会された期間と事項から心当たりを整理する

 会社から照会の内容を聞けた場合は、照会された期間や記録の種類を書き留めておきます。そのうえで、該当する時期に自分がどこで何をしていたか、誰と連絡を取っていたかを、記憶が新しいうちにメモにまとめておくと役立ちます。

 私物のスマートフォンの予定表や移動履歴、領収書など、自分の手元にある記録は消さずに保管しておきます。手元の記録を整理する目的は、事実を確認しやすくすることであり、記録に手を加えることではありません。

呼び出しや捜索があった場合に備える

 照会の後に、警察から事情を聴きたいと連絡が来ることがあります。被疑者としてではなく参考人として呼ばれる場合もありますが、話を聴くうちに立場が変わることもあります。呼び出しへの対応は警察から呼び出しの電話が来た|任意同行・出頭要請への対応と『参考人』として呼ばれた|被疑者に切り替わる瞬間、自宅に捜索が入った場合の立ち会いは家宅捜索(ガサ入れ)が来た|立ち会いでできること・できないことで解説しています。

会社との関係をどう考えるか

 照会の対象になったことだけを理由に、会社が懲戒処分を行うことは通常は困難です。懲戒処分には就業規則上の根拠が必要であり、処分の理由となる事実や処分の重さが社会通念上相当でなければ、懲戒権の濫用として無効とされます(労働契約法15条)。照会は事実関係を確かめるための手続であり、照会があったこと自体は、従業員が何かをしたという事実を示すものではありません。

 一方で、会社が独自に事情を確認するため、社内でヒアリングを行うことはあります。社内で話した内容が、後の刑事手続での説明と食い違うと、供述の信用性に影響することがあります。社内ヒアリングへの備えは会社の内部調査(ヒアリング)に呼ばれた|話す前に整理すべきこと、刑事手続と退職・懲戒の判断が重なる場合は退職届と懲戒解雇|刑事と労務が同時に動くときの順序をご参照ください。

弁護士に相談する意味

 照会書の中身や捜査の進み具合は、弁護士であっても捜査機関から教えてもらえるとは限りません。それでも、照会された事項と本人の心当たりを照らし合わせることで、考えられる見通しを立て、呼び出しへの同行や、被害者がいる事件での示談の検討、自ら出頭するかどうかの判断など、次に取りうる対応を整理することができます。

 弁護士に依頼する時期については弁護人を頼むタイミング|捜査段階で差がつく理由、自分から出頭するかどうかの判断については自分から出頭すべきか|自首の成否と実務上の意味で解説しています。

照会への回答を担当する従業員の注意点

一人で判断せず社内の手続に沿って回答する

 総務や人事の担当者として照会書を受け取った場合は、担当者一人で回答を判断せず、上司や法務部門、顧問弁護士などと相談したうえで、会社としての手続に沿って回答することが大切です。電話や来訪による口頭の依頼であれば、照会書の形で書面を出してもらうよう依頼し、照会事項として示された範囲の情報を回答します。

 照会事項の範囲を超えて、関係がありそうな資料までまとめて提出すると、従業員の個人情報を必要以上に外部へ出すことになりかねません。受け取った照会書の写しと回答の内容は、時系列で記録に残しておきます。

対象となった同僚への伝え方

 照会の対象が同僚であった場合、担当者が個人的な判断で本人に知らせることは避けた方がよいでしょう。照会書に本人へ伝えないよう求める記載がある場合はもちろん、記載がない場合でも、伝えるかどうか、いつ誰がどう伝えるかは、会社として方針を決めたうえで対応します。社内で照会の事実が広まると、対象者が被害者や参考人にすぎなかった場合に、その人の名誉や職場での立場を損なうことにもつながります。

よくあるご質問

会社が照会に回答しなければ、捜査は止まるのですか

 止まるとは限りません。照会への回答を強制する方法はありませんが、捜査機関が必要と判断すれば、裁判官の令状を得て記録を差し押さえるなど、別の手段に進むことがあります。会社に回答を見合わせてもらうよう働きかけることは、前述のとおり避けた方がよい行動です。

照会が来たということは、近いうちに逮捕されるのですか

 一概にはいえません。照会は被疑者以外の人について行われることもあり、被疑者であっても、照会の後に呼び出しや書類送検で手続が進むこともあれば、しばらく動きがないこともあります。照会の事実だけで時期や結果を予測するのは難しいため、心当たりの有無を整理したうえで、状況に応じて弁護士に相談することをおすすめします。

退職すれば、会社に照会が来ることはなくなりますか

 退職しても、在籍していた期間の記録は会社に残るため、その期間について照会が行われることはあります。照会をきっかけに退職を急ぐと、生活の基盤を失うだけでなく、捜査の面でも不利に受け取られる場合があります。退職するかどうかは、刑事手続の見通しとは切り分けて判断することが大切です。

まとめ


  1. 捜査関係事項照会は、警察や検察が会社などの団体に事実関係の報告を求める任意捜査の手続で、報告義務はあると解されているものの、強制の方法や罰則はありません(刑事訴訟法197条2項)。
  2. 会社の回答は「法令に基づく場合」に当たり、本人の同意は不要とされ、本人に知らせる義務も定められていません(個人情報保護法27条1項1号、同法29条1項ただし書)。
  3. 照会の有無や内容は、本人が会社に開示を求めても明らかにならないことがあります(同法16条4項、同法施行令5条)。
  4. 照会の対象者は被疑者とは限らず、被害者や参考人、名前を悪用された人である場合もあります。
  5. 会社への回答見合わせや記録修正の依頼、社用端末のデータ消去、関係者との口裏合わせは、罪証隠滅のおそれとして考慮されるおそれがあります(刑事訴訟法60条1項2号、刑法104条)。
  6. 照会があったことだけを理由とする懲戒処分は通常困難であり、懲戒には就業規則上の根拠と相当性が必要です(労働契約法15条)。
  7. 照会を知った段階で、該当時期の心当たりと手元の記録を整理し、呼び出しや社内ヒアリングに備えておくことが落ち着いた対応につながります。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、刑事事件に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。会社に捜査関係事項照会が届いたと知り、自分が何の件で照会されたのか、この先どうなるのか分からず不安を抱えている方は、まずは状況の整理からご相談ください。

照会への回答を担当する立場で、同僚への伝え方や社内での対応に迷っている方からのご相談もお受けしています。早い段階で事実関係を整理しておくことが、その後の手続を落ち着いて進める助けになります。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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