保釈の条件(制限住居・接触禁止・渡航制限)に違反したらどうなるか
本記事は、2026年10月時点の刑事訴訟法・労働基準法・労働契約法・民法の規定と、一般的な実務の運用をもとに記載しています。勤務先の就業規則や事件の内容によって、適切な対応は変わります。
家族が逮捕されたとき、ご相談の早い段階で出てくるのが勤務先への連絡の問題です。「朝、会社から本人と連絡がつかないと電話があったが、何と答えればよいのか分からない」というご家族もいれば、「最初に体調不良と伝えてしまったが、勾留が決まって休みが長引き、説明の続け方に困っている」というご家族もいます。
この場面については、「詳細を伏せて欠勤の連絡を入れる」「弁護士に相談してから伝える」といった説明がよく見られます。いずれも誤りではありませんが、逮捕直後、勾留が決まった後、処分の見通しが出た後とでは、勤務先に伝えるべきことも、伝えないほうがよいことも変わってきます。最初の一言の選び方によって、その後の説明のしやすさが左右される面もあります。
この記事では、ご家族が勤務先と話すときの内容を、段階ごとに整理します。警察から会社に連絡が行くのか、どのような経路で知られるのかといった点は会社・学校に知られるのはどの段階か|通知の仕組みと事実上の経路で扱っていますので、あわせてご覧ください。
勤務先への連絡を考える前に押さえておきたいこと
身柄拘束の期間は段階で区切られている
逮捕されると、警察は48時間以内に事件を検察官へ送り(刑事訴訟法203条1項)、検察官は24時間以内に勾留を請求するかどうかを判断します(同法205条1項)。逮捕から勾留請求までは最大で72時間です(同条2項)。勾留が認められると原則10日間、延長されるとさらに最大10日間、身柄の拘束が続きます(同法208条)。
つまり、逮捕直後の時点では、数日で戻れるのか、3週間前後かかるのかがまだ分かりません。勤務先への説明は、この見通しが定まっていない段階で始めなければならないという点に、この問題の難しさがあります。手続全体の流れは逮捕から解決までの流れ【フローチャート】|今どの段階かがわかるで確認できます。
本人は自分で会社に連絡できない
逮捕・勾留されている本人は、携帯電話を使って勤務先に連絡することができません。勾留後は家族も面会できるのが通常ですが、時間や回数に制限があり、接見禁止が付くと家族は会えなくなります(刑事訴訟法81条)。一方、弁護人は立会人なしで本人と接見することができます(同法39条1項)。
勤務先に何をどこまで伝えるかは、本人の雇用に関わる事柄であり、本人の意向を確かめながら決めていくのが望ましいといえます。弁護人が付いている場合は、接見の際に「会社にどう伝えてほしいか」を本人に確認してもらい、その内容を家族に伝えてもらう形がとれます。接見の流れは「接見」で弁護士は何をするのか|依頼から面会までの流れ、家族が会えない場合については接見禁止がついて家族が会えない|解除に向けた動きで解説しています。
家族に事件の内容を説明する義務はない
家族は、本人と勤務先との雇用契約の当事者ではありません。勤務先から事情を尋ねられても、事件の内容まで家族が説明しなければならない立場にはありません。家族が担うのは、本人が出勤できない状態にあることを伝え、無断欠勤の状態を避けるための連絡役だと考えると、話す範囲を決めやすくなります。
段階ごとに見る、勤務先への伝え方
勤務先に伝える内容の軸は、段階によって次のように変わります。
| 段階 | 期間の目安 | 伝え方の軸 |
|---|---|---|
| 逮捕直後 | 逮捕から最大72時間 | 出勤できないことと、改めて連絡することだけを伝える |
| 勾留決定後 | 原則10日、延長で最大20日 | 休みの見込み期間と、休みの扱いを相談する |
| 処分の見通しが出た後 | 釈放・起訴・不起訴の判断の前後 | 本人が直接説明する形に戻していく |
逮捕直後|出勤できないことと、改めて連絡することだけを伝える
逮捕直後の連絡の目的は、勤務開始の前に、本人が出勤できなくなったことを伝える点にあります。連絡がないまま欠勤が続くと、勤務先が本人の安否を心配して自宅や緊急連絡先に何度も問い合わせることになり、かえって事情が広がりやすくなります。
この段階では、たとえば次のような伝え方が考えられます。
- 「本人が急な事情で、本日から出勤できない状況になりました」と伝える。
- 「詳しいことが分かり次第、改めてご連絡いたします」と、次の連絡を約束する。
- 「業務でお急ぎの件があれば、私のほうで承ります」と、連絡の窓口を示す。
ここで「体調不良」「入院」など具体的な理由を作って伝えると、勾留が決まって休みが長引いたときに説明が合わなくなります。事実と異なる理由を作るのではなく、言える範囲の事実だけを伝えるという考え方が、その後の説明を続けやすくします。逮捕直後に家族が行うことの全体像は家族が逮捕されたと連絡が来た|最初の24時間にやることにまとめています。
勾留決定後|休みの見込み期間と、休みの扱いを相談する
勾留が決まると、少なくとも10日程度は出勤できないことが見えてきます。この段階では「しばらく」という言い方だけで連絡を続けるのは難しくなり、勤務先からも、いつ戻れるのか、休みをどう扱うのかを尋ねられることが多くなります。
年次有給休暇は、本来、労働者本人が時季を指定して取得するものです(労働基準法39条5項)。家族が独断で申請するのではなく、弁護人を通じて本人の意向を確認したうえで、「本人が有給休暇の取得を希望しています」と伝える形が考えられます。欠勤や休職の扱いについて就業規則に定めを置いている会社もありますので、その内容を確認させてもらうことも一つの方法です。
理由をまったく伝えないまま長期間連絡が途絶えると、無断欠勤として扱われ、解雇の理由とされることがあります。反対に、出勤できない事情があることを伝え、勤務先との連絡を保っていれば、会社としても対応を検討する時間をとりやすくなります。勾留の延長を避けるための動きについては勾留延長を止めるために家族ができることをご覧ください。
処分の見通しが出た後|本人が直接説明する形に戻していく
釈放された場合や、処分の見通しが立った場合には、勤務先への説明は本人が担う形に戻していくのが自然です。家族が説明を続けると、本人の説明と食い違いが生じたり、本人の知らないところで話が進んだりするおそれがあります。
起訴された場合については、就業規則に起訴休職の定めを置いている会社もあります。この段階では刑事手続と労務の問題が同時に動くことになりますので、退職届と懲戒解雇|刑事と労務が同時に動くときの順序もあわせてご確認ください。
勤務先から尋ねられやすいことと、答え方の考え方
「何があったのですか」と聞かれたとき
事件の内容を家族が説明する必要はありません。「私からは詳しいことをお話しできる状況にありません。本人から改めてご説明させていただきます」と伝えることで足りる場面が多いと考えられます。逮捕の事実を伝えるかどうかは、本人の意向、職種、報道の可能性などを踏まえて判断する事柄であり、家族が一人で決めなくてよいものです。
「警察沙汰なのですか」と直接聞かれたとき
報道や勤務先への聞き込みなどによって、勤務先がすでに逮捕を把握している場合もあります。その状態で否定すると、事実と異なる説明をしたことが後で問題になりかねません。否定も肯定もせず、「弁護士に相談しているところです。今後のことは弁護士とも相談してご連絡します」と応じる方法があります。
弁護人が付いている場合には、本人の同意を得たうえで、弁護人から勤務先に必要な範囲の説明をしてもらう方法もあります。報道の可能性については実名報道は避けられるのか|報道の判断と弁護人ができることで解説しています。
「いつ戻れるのですか」と聞かれたとき
逮捕直後に、戻れる時期をはっきり答えることはできません。根拠のない見込みを伝えると、外れたときに勤務先の信頼を損ねることになります。「数日のうちに見通しが分かる予定です。分かった時点でご連絡します」と、次に連絡する時期を伝えるほうが、誠実な対応として受け止められやすいでしょう。
家族が避けたほうがよい対応
本人に確認せずに退職を申し出る
勤務先から退職を勧められたり、迷惑をかけたことを申し訳なく思って家族の側から退職を申し出たくなったりすることがあります。しかし、退職するかどうかは本人の意思で決めるものです(民法627条1項)。本人の意向を確認しないまま、家族が退職の意思を伝えたり退職届を代わりに出したりすることは避けたほうがよいでしょう。
また、懲戒解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合には無効とされます(労働契約法15条、16条)。私生活上の行為を理由とする処分は、行為の内容や会社の業務・評価への影響などを踏まえて判断されるため、逮捕されたことで直ちに解雇が有効になるわけではありません。退職や解雇の話が出た場合は、その場で返事をせず、本人と弁護人に伝えることを優先してください。
事件の中身について勤務先で話す
「本人も認めている」「相手にも問題がある」といった、事件の中身に触れる発言は、本人の弁護方針と食い違うことがあります。被害者のいる事件では、被害者に関する情報を勤務先で話すことが、示談の交渉に影響するおそれもあります。事件の中身は弁護人とだけ話すようにしておくと安心です。
連絡の窓口を広げる
心配して連絡をくれた本人の同僚や知人に事情を説明すると、そこから話が広がることがあります。勤務先との連絡は、上司や人事担当者など1か所に絞っておくと、説明の食い違いも起きにくくなります。SNSなどで事情に触れることも控えておくのが無難です。
勤務先そのものが事件に関わっている場合
勤務先が被害を受けた事件
横領や窃盗など、勤務先が被害を受けた事件では、勤務先は単なる連絡先ではなく、被害者の立場になります。この場合、家族が勤務先に謝罪したり、返済を約束したりすることは、示談の内容や処分に影響することがあるため、弁護人を通じて対応するのが基本です。家族が返済の誓約書や保証の書面への署名を求められることもありますので、会社が用意した「返済誓約書」にサインする前にも参考にしてください。
上司が身元引受人を求められた場合
家族が遠方に住んでいるなどの事情で、勤務先の上司が身元引受人を求められることもあります。この場合は勤務先が事情を知ることになりますので、上司とどこまで情報を共有するかを、弁護人と相談しておくとよいでしょう。家族が身元引受人になれない場合の考え方は【刑事事件】家族が身元引受人になれない|代替の環境調整で扱っています。
よくあるご質問
最初に「体調不良」と伝えてしまいました。訂正したほうがよいですか。
すでに伝えた理由を急いで撤回する必要はありませんが、勾留で休みが長引くと、体調不良のまま説明を続けることは難しくなります。次の連絡の際に、「本人がしばらく出勤できない事情があり、弁護士に相談しています」といった、言える範囲の事実に切り替えていく方法が考えられます。切り替える時期と言い方は、本人の意向を弁護人に確認してもらったうえで決めるのが望ましいでしょう。
警察から会社に逮捕の連絡が行くことはありますか。
逮捕したことを警察が勤務先に通知する一般的な制度はありません。ただし、勤務先に関係する事件の場合や、勤務先の関係者から事情を聴く必要がある場合などには、捜査の過程で勤務先が知ることがあります。公務員の場合は、勤務先に伝わる場面が多くなる傾向があります。詳しくは冒頭でご紹介した記事をご覧ください。
勤務先との連絡を弁護士に任せることはできますか。
弁護人は本人のために刑事手続の対応をする立場ですが、本人の同意があれば、身柄拘束の見通しや示談の状況など、必要な範囲で勤務先に説明することは可能です。家族が直接連絡するか、弁護人から説明してもらうかは、事件の内容や勤務先との関係を踏まえて、相談しながら決めていくことになります。
まとめ
- 逮捕から勾留請求までは最大72時間、勾留は原則10日、延長で最大20日続くため、逮捕直後は休みの見通しが立たない状態で連絡することになる(刑事訴訟法203条1項、205条、208条)。
- 本人は自分で勤務先に連絡できないため、弁護人の接見を通じて本人の意向を確認しながら伝える内容を決めるのが望ましい(同法39条1項、81条)。
- 逮捕直後は、出勤できないことと改めて連絡することだけを伝え、事実と異なる理由は作らない。
- 勾留決定後は、休みの見込み期間と休みの扱いを相談する。有給休暇は本人が時季を指定するものなので、本人の意向を確認してから伝える(労働基準法39条5項)。
- 事件の内容を家族が説明する義務はなく、尋ねられても本人や弁護人から改めて説明する形にとどめられる。
- 退職は本人の意思で決めるもので、逮捕によって直ちに解雇が有効になるわけでもないため、家族が代わりに退職を申し出ることは避ける(民法627条1項、労働契約法15条、16条)。
- 勤務先が被害を受けた事件では、家族による謝罪や返済の約束が処分に影響しうるため、弁護人を通じて対応する。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、刑事事件に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。ご家族が逮捕された直後の勤務先への連絡についても、接見を通じて本人の意向を確認しながら、今後の見通しを踏まえてご一緒に考えます。
勤務先に何と伝えればよいか迷っているご家族の方も、すでに伝えた内容をどう続けていくかでお困りの方も、どうぞお気軽にご相談ください。


