別れた途端「これまでの金を返せ」と言われた|贈与と貸付の違い
SNSやマッチングアプリで知り合った相手に恋愛感情や信頼を寄せ、投資や生活費、渡航費といった名目で送金してしまった——。後になって「もしかして詐欺だったのでは」と気づいたとき、多くの方がまず知りたいのは「送ってしまったお金は取り戻せるのか」という一点だと思います。
結論から申し上げると、国際ロマンス詐欺の被害回復は、可能性がまったくないわけではありませんが、現実には難しいケースが多いというのが正直なところです。取り戻せるかどうかは、いくら送ったかよりも「どのような形で送ったか」「相手や資金の流れをどこまで追えるか」によって大きく変わります。
この記事では、過度な期待をあおることなく、被害回復の可能性がある場面とその限界を整理し、あわせて近年問題になっている「二次被害」への注意点までお伝えします。
なぜ国際ロマンス詐欺の被害回復は難しいのか
国際ロマンス詐欺は、ここ数年で被害が急増している類型です。警察庁の公表によれば、2025年に入ってからのSNS型ロマンス詐欺の認知件数・被害額はいずれも前年同期を大きく上回って推移しており、被害額は数百億円規模に達しています。決して珍しい被害ではなく、また被害額も少額にとどまらない傾向があります。
被害回復が難しい背景には、この詐欺の構造そのものがあります。
第一に、多くの場合、相手は海外にいる組織的なグループです。プロフィール写真も名前も職業も偽られていることが多く、「本当は誰なのか」を特定すること自体が容易ではありません。
第二に、送金されたお金は速やかに別の口座やウォレットへ移され、海外へ流れていくことが少なくありません。追いかけようとした時点で、すでに資金がその場に残っていないというケースは珍しくないのです。
こうした事情から、被害回復は「できるかどうか」ではなく「どこまで追える状況か」を冷静に見極めることが出発点になります。
送金してしまった直後にやるべきこと
被害回復の可能性は、時間の経過とともに下がっていく傾向があります。送金からできるだけ早い段階で動くことが重要です。相手への感情の整理は後回しでかまいませんので、まず次の行動を検討してください。
- 送金に使った金融機関・カード会社・取引所へすぐ連絡する:銀行振込であれば振込先口座の凍結、クレジットカードであれば決済に関する相談、暗号資産であれば取引所への状況連絡など、早ければ打てる手が残っている場合があります。
- やり取りの証拠をすべて保存する:相手とのメッセージ、送金の記録、相手のプロフィール、指定された口座や送金先の情報などを、消さずに保全します。相手をブロックする前に、必ずスクリーンショットなどで残しておいてください。
- 警察に相談する:最寄りの警察署のほか、警察相談専用電話「#9110」でも相談できます。被害届の提出も検討します。
- 相手への追加の送金はきっぱり止める:「あと少しで出金できる」「税金を払えば返ってくる」といった言葉は、被害を拡大させるための口実であることが多いものです。
送金直後の初動は、後の被害回復の余地を左右します。迷って時間を空けるより、まず連絡だけでも入れておくことが大切です。
被害回復の「可能性」がある場面
被害回復の見込みは、お金をどのような形で相手に渡したかによって大きく異なります。以下は、あくまで「可能性が残りうる」場面であり、必ず回収できることを意味するものではありません。
国内の銀行口座へ振り込んだ場合
送金先が日本国内の銀行口座だった場合、**振り込め詐欺救済法(犯罪利用預金口座等に係る資金による被害回復分配金の支払等に関する法律)**に基づき、その口座を凍結し、口座に残った資金から「被害回復分配金」の支払いを受けられる可能性があります。
ただし、この制度には限界もあります。詐欺に使われる口座は、お金が振り込まれるとすぐに引き出されてしまうことが多く、凍結できても残高がほとんどないケースが少なくありません。また、ほかにも被害者がいる場合は残った資金を分け合うことになるため、送った金額の全額が戻ってくるとは限りません。それでも、送金先が国内口座であれば、諦めずに早く動く価値はあります。
クレジットカードで支払った場合
クレジットカード決済でお金を支払った場合は、カード会社に対して不正・不当な取引であることを申し立て、**チャージバック(支払いの取消し)**が認められる可能性があります。カード会社ごとに手続きや期限が異なるため、気づいた時点で早めに相談することが重要です。
国内の暗号資産取引所を経由した場合
暗号資産(仮想通貨)で送っていても、それが日本国内の取引所を経由していた場合は、取引所へ連絡することで出金や取引を一時的に止められる場合があります。一度ブロックチェーン上で送信された取引そのものを取り消すことは基本的にできませんが、国内取引所の段階で資金が止まっていれば、対応の余地が残ることがあります。
国内に協力者や口座名義人がいる場合
国際ロマンス詐欺では、犯行グループが日本国内の協力者に口座を用意させ、その口座を送金先に使わせることがあります。こうした国内の口座名義人や協力者を特定できた場合には、その相手に対して民事上の損害賠償(民法709条・710条)を求められることがあり、実際に口座を貸した名義人の責任が認められた例もあります。相手が海外の実行犯だけでなく、国内に関与者がいる構図であれば、被害回復の入り口が広がる可能性があります。
被害回復の「限界」がはっきりする場面
一方で、次のような場合には、被害回復は極めて難しくなります。この点は、期待をもって動く前に正直に知っておいていただきたいところです。
暗号資産で海外へ送ってしまった場合
暗号資産で送金し、それが海外のウォレットや海外の暗号資産交換業者に流れてしまった場合、被害回復は現状ほぼ不可能に近いと言わざるを得ません。ブロックチェーン上で資金の移動先を追うことはできても、そのウォレットを実際に管理している人物を突き止めることは著しく困難です。仮に交換業者を特定できても、その多くが海外の業者であるため、日本から被害回復を実現するのは容易ではありません。この点については、弁護士会も公式に注意を促しています。
海外の口座へ振り込んだ場合
送金先が海外の銀行口座だった場合も、相手の特定や、判決を得た後の回収(強制執行)が国内の口座に比べてはるかに難しくなります。
相手を特定できず、資金の行方も追えない場合
相手が完全に音信不通で、実在の人物すら特定できず、送金先の資金も追跡できないという場合には、法的手段を尽くしても回収に至らないことがあります。
こうした限界がある以上、「送金してしまったら必ず取り戻せる」という前提で動くのではなく、自分のケースがどの状況に近いのかを見極めたうえで、取りうる手段を選ぶことが現実的です。
「必ず取り戻せる」という言葉に注意——二次被害を防ぐ
近年、国際ロマンス詐欺の被害者を狙った「二次被害」が問題になっています。これは知っておいていただきたい重要な点です。
「暗号資産を追跡して必ず取り戻します」「高額回収を確実に実現します」といった宣伝で被害者に近づき、高額の着手金や調査費用だけを受け取って、実際にはほとんど何もしないという事例が報告されています。弁護士会の調査でも、国際ロマンス詐欺の被害回復は現実には難しく、多くの場合ほとんど回収できないか、ごく少額にとどまることが多いにもかかわらず、あたかも高額回収が確実であるかのように誤信させる広告が問題視されています。
見極めのポイントとして、次のような点は慎重に確認してください。
- 「必ず」「確実に」「100%」といった、結果を保証するかのような表現を使っていないか
- 弁護士本人ではなく、事務職員だけが電話やチャットで対応していないか
- 実績として挙げられている解決事例が、具体性を欠いていたり不自然でないか
すでに詐欺で被害を受けている状況で、さらに費用だけを失うことは避けなければなりません。仮に不適切な業者に費用を支払ってしまった場合でも、支払った費用の返還を求められる可能性があります。
相談先に迷ったときは、まずお住まいの自治体の消費生活センター(消費者ホットライン「188」)や、警察、弁護士会といった公的な窓口を入り口にすると安全です。
法的な整理——請求の根拠・相手の特定・時効
被害回復を法的に進める場合、いくつかの根拠と手続きが関わってきます。全体像を簡単に整理しておきます。
請求の根拠:当初からだます意図があったと認められる場合、相手に対しては不法行為に基づく損害賠償(民法709条・710条)を求めることが考えられます。また、だまされて意思表示をしたものとして詐欺による取消し(民法96条)を主張し、渡したお金の返還を不当利得(民法703条・704条)として請求する構成もあります。
刑事と民事は別:詐欺は刑法上の犯罪であり(詐欺罪・刑法246条1項、法定刑は10年以下の拘禁刑)、加害者が刑事責任を問われることはあります。ただし、刑事で処罰されることと、被害者にお金が戻ってくることは別の問題です。返金は原則として民事の手続きで別途求める必要があります。
相手の特定:相手の身元を明らかにするために、弁護士会照会(弁護士法23条の2)や、SNS事業者等への発信者情報開示といった手段が使われることがあります。もっとも、これらを尽くしても海外の実行犯本人まで特定できるとは限りません。
時効:不法行為に基づく損害賠償請求には期間の制限があり、被害と加害者を知ったときから3年、行為のときから20年で時効にかかります(民法724条)。時間が経つほど不利になりやすいため、この意味でも早めの相談が望まれます。
まとめ——早く動き、正確な情報で判断を
国際ロマンス詐欺で送金してしまった場合、被害回復の可能性はゼロではありません。特に、送金先が国内の口座やカード決済、国内取引所を経由していたケース、あるいは国内に協力者がいるケースでは、早く動くことで打てる手が残っていることがあります。
一方で、暗号資産で海外に送ってしまった場合など、現実には回収が極めて難しい場面があることも事実です。だからこそ、「必ず取り戻せる」といった言葉に頼るのではなく、自分のケースがどの状況にあるのかを見極め、二次被害を避けながら、取りうる手段を冷静に選んでいくことが大切です。
一人で判断に迷うときは、早い段階で弁護士に相談し、回復の見込みと現実的な選択肢を一緒に整理することをおすすめします。


