【男女トラブル】恋人に避妊を拒まれ続けている、これは暴力にあたる?

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

交際相手に避妊をお願いしても聞き入れてもらえない、断ると不機嫌になる、話し合おうとしても「大げさだ」と流されてしまう。こうした状況が続くと、「自分が神経質すぎるのか」「これを暴力と呼んでよいのか」と迷われる方は少なくありません。

 避妊に協力しないことは、行政の啓発資料や法律事務所の解説でも「性的DV」の一例として挙げられています。ただ、「DVにあたるかどうか」と「法律上どのような手段をとれるか」は、分けて考える必要があります。本記事では、恋人に避妊を拒まれ続けている方に向けて、性的DVという捉え方、刑事・民事・保護命令のそれぞれで問題になる場面、記録の残し方、関係を見直すときの注意点を整理します。

本記事は2026年10月時点の法令(2023年7月施行の改正刑法、2024年4月施行の改正DV防止法を含む)にもとづいて解説しています。個別の事情によって結論が変わることがありますので、具体的な対応は専門家にご相談ください。


避妊に協力しないことは「性的DV」の一つとされている

 DV(ドメスティック・バイオレンス)は、殴る・蹴るといった身体的な暴力に限られません。一般に、精神的な暴力、経済的な暴力、性的な暴力などに分けて説明されており、性的な暴力の例として、性行為の強要とあわせて「避妊に協力しない」ことが挙げられるのが通例です。

 内閣府が実施している「男女間における暴力に関する調査」でも、避妊に協力しないことを暴力と捉えるかどうかが質問項目に含まれています。令和6年の調査では、暴力にあたると回答した人が9割近くにのぼったと報じられており、避妊をめぐる問題を「二人の好みの違い」として片づけず、相手の身体や人生設計に関わる問題として捉える考え方は、社会的にも広く共有されつつあるといえます。

 夫婦の間だけでなく、交際中の恋人同士で起きる暴力は「デートDV」と呼ばれます。結婚していない、同棲していないといった理由で、問題が軽く扱われてよいものではありません。

こんな状況が続いていませんか


  • 避妊してほしいと伝えても「大丈夫だから」と取り合ってもらえない。
  • 断ると機嫌が悪くなったり怒鳴られたりするので、あきらめて応じている。
  • 避妊具を着けると約束したのに、途中で外されたことがある。
  • 「妊娠したら責任を取る」と言われるが、具体的な話し合いには応じてもらえない。
  • 避妊を求めると「愛情がない」「ほかに相手がいるのか」と責められる。
  • 妊娠の不安で落ち着かない日が続いている。


 当てはまるものがあり、それが繰り返されているのであれば、一人で抱え込まずに状況を整理してみる価値があります。

「DVかどうか」と「法律で何ができるか」は分けて考える

 「性的DV」という言葉は、被害を受けている方がご自身の状況を理解し、相談につなげるための考え方です。一方で、法律上の対応を考えるときには、刑事事件として扱われるか、慰謝料などの民事上の責任を問えるか、DV防止法の保護命令を使えるか、という観点ごとに要件が異なります。性的DVと言える状況であっても、すべての場面で同じ手段をとれるわけではありません。

刑事|不同意性交等罪が問題になる場面

 2023年7月に施行された改正刑法により、強制性交等罪は不同意性交等罪(刑法177条)に改められました。暴行・脅迫、虐待に起因する心理的な反応、経済的・社会的な関係上の影響力による不利益の憂慮など、法律が定める8つの事情によって「同意しない意思を形成し、表明し、または全うすることが困難な状態」にさせ、またはその状態に乗じて性交等をした場合に成立します。条文上、婚姻関係の有無にかかわらず成立することも明記されています。

 そのため、避妊を拒まれたうえで性行為そのものを断ったのに、暴力をふるわれた、強く脅された、断れないほど追い詰められていたといった事情があれば、交際相手であっても不同意性交等罪が問題になることがあります。他方で、避妊をしないこと自体を直接処罰する規定はなく、性行為には同意していた場合に、避妊をしなかったことだけで直ちに犯罪になるとは限りません。避妊具を着けるという約束のもとで同意したのに無断で外されたケースについては、同意の範囲との関係でどう評価されるかが議論されており、個別の事情を踏まえた検討が必要です。

 交際相手との間での性行為と同意の問題については、恋人間の不同意・性的強要|交際相手でも成立する不同意性交等罪、避妊の約束が守られなかった場合の考え方については、【男女トラブル】避妊をすると約束したのに守られなかった|同意の範囲と責任で詳しく解説しています。

民事|慰謝料の請求が問題になる場面

 避妊を拒み続ける行為が、相手の意思を無視して性的な事柄を強いるものであれば、性的な事柄を自分で決める権利を侵害する不法行為(民法709条)として、慰謝料の請求が検討されることがあります。暴言や暴力、行動の制限などをともなっている場合には、それらを含めた一連の言動として評価されるのが一般的です。

 また、妊娠や中絶に至った場合について、性行為は男女の共同の行為であり、その結果として生じる身体的・精神的・経済的な負担を男性も分かち合うべきだとする考え方を示した裁判例があります(東京高等裁判所平成21年10月15日判決)。中絶費用や通院費の分担、話し合いに一切応じない態度などが問題になる場面では、こうした考え方が参照されることがあります。費用の分担については中絶費用は相手に請求できる?男女の費用負担もあわせてご覧ください。

 ただし、慰謝料は「性的DVだから必ず認められる」というものではありません。どのような言動が、いつ、どの程度繰り返されたのかを記録によって示せるかどうかが、結論を大きく左右します。

DV防止法の保護命令|同棲しているかどうかで変わる

 DV防止法(配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律)は、配偶者だけでなく、生活の本拠を共にする交際相手からの暴力にも準用されます(同法28条の2)。同棲している恋人から身体に対する暴力や脅迫を受けている場合には、裁判所に接近禁止命令などの保護命令を申し立てられる可能性があります。2024年4月施行の改正では、自由・名誉・財産に対する脅迫によって心身に重大な危害を受けるおそれが大きい場合も対象に加わり、接近禁止命令の期間も1年に延びました。

 一方、同棲していない交際相手は、DV防止法の保護命令の対象になりません。この場合は、警察への相談、別れた後のつきまといに対するストーカー規制法の活用、弁護士を通じた接触禁止の合意など、別の手段を組み合わせることになります。詳しくは交際相手からのDV(デートDV)|保護命令は使える?同棲の有無で変わる対応とストーカー規制法とDV防止法の違い|自分のケースはどっちで守られる?で解説しています。

状況ごとの整理


状況主に検討される枠組み
断ったのに暴力や脅迫などで性行為を強いられた不同意性交等罪(刑事)、慰謝料の請求(民事)
避妊具を着ける約束で同意したのに無断で外された同意の範囲の評価(刑事・民事とも個別に検討)
避妊を拒まれ続け、暴言や行動の制限もある慰謝料の請求(民事)、関係解消に向けた交渉
同棲中で、身体への暴力や脅迫もあるDV防止法の保護命令、警察への相談
別れた後もつきまといが続いているストーカー規制法、接触禁止の合意


今のうちに残しておきたい記録

 後から相談するときや法的な手続を検討するときに、記録があるかどうかで選べる手段が変わります。無理に証拠を集めようとして危険を招かない範囲で、次のようなものを残しておくことが考えられます。

  • 避妊を求めたことや、それを拒まれたことがわかるLINE・メールなどのやり取り。
  • いつ、どこで、何があったかを書き留めたメモや日記。
  • 婦人科の受診記録や診断書、緊急避妊薬の処方や中絶にかかった費用の領収書。
  • 暴言や威圧的な言動の録音。
  • 警察や相談窓口に相談した日時と相談先の記録。


 スマートフォンのデータは、相手に見られたり消されたりするおそれがあります。信頼できる人に預ける、相手が触れられない場所に保存するなど、保管の方法にも気を配ってください。記録の残し方については、交際関係のモラハラ・精神的DV|証拠の残し方と法的対応でも取り上げています。

相談先の選び方

 身の危険を感じる場面では、ためらわずに110番をしてください。それ以外の場面でも、悩みの内容に応じて次のような相談先があります。

相談先主な役割
警察(緊急時は110番)身の安全の確保、被害の相談、被害届の受理
性犯罪被害相談電話(#8103)性被害に関する警察の相談窓口
性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター(#8891)医療的な支援や相談、関係機関への橋渡し
DV相談ナビ(#8008)・DV相談+(0120-279-889)DVに関する相談、支援機関の案内
弁護士慰謝料の請求、相手との交渉、保護命令の申立て


 行政や支援機関の窓口は、気持ちの整理や安全確保の面で頼りになります。相手に費用の負担を求めたい、関係を終えるための話し合いを代わりに進めてほしいといった場合には、弁護士への相談が向いています。

関係を見直すときに気をつけたいこと

 避妊を拒まれ続ける状況は、話し合いで改善する場合もあれば、別れを考えるきっかけになる場合もあります。どちらを選ぶかはご本人が決めることですが、別れを切り出したときに相手が感情的になり、暴力やつきまといに発展するおそれもあります。

 直接伝えることに不安がある場合は、事前に警察へ相談しておく、一人で会わない、弁護士に窓口を任せるといった方法があります。弁護士が代理人として連絡を引き受ければ、相手と直接やり取りをせずに、関係の解消、今後接触しないことの約束、費用の清算などを話し合うことができます。流れについては【男女トラブル】別れ話を弁護士に任せるときの流れ|本人と会わずに関係を終えるをご参照ください。

よくあるご質問


これまで仕方なく応じてきた場合、後から問題にすることはできないのですか

 応じてきたという事実だけで、問題にできなくなるわけではありません。断ると怒鳴られる、関係を壊されるのではないかと不安だったなど、やむを得ず応じていた経緯も含めて検討の対象になります。ただ、時間が経つほど記録や記憶があいまいになりやすいため、早めに整理しておくことをおすすめします。

男性が避妊を拒まれている場合も相談できますか

 性的DVやデートDVは、性別にかかわらず起こり得ます。避妊についての意思を尊重してもらえない、拒むと責められるといった状況は、男性であっても同じように相談の対象になります。

相手に「それはDVだ」と伝えてもよいのでしょうか

 伝えること自体は自由ですが、相手が反発し、かえって状況が悪くなるおそれもあります。まずはご自身の安全と記録の確保を優先し、どのように伝えるか、伝える必要があるかを、相談先と一緒に考えることをおすすめします。

一人で抱え込まずにご相談ください

 避妊を求めることは、ご自身の身体と将来を守るための当然の意思表示です。それを繰り返し拒まれる状況は、我慢を重ねるほど抜け出しにくくなることがあります。性的DVにあたるかどうかの判断に迷う段階でも、状況を言葉にして整理することが、次の一歩につながります。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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