同性との不倫は慰謝料の対象になる?近年の考え方
「マッチングアプリで知り合って交際していた相手が、実は既婚者でした。プロフィールにははっきり独身と書かれていました」「年収も勤務先も、後から確かめたらまったく違っていました。これは詐欺ではないのでしょうか」。当事務所には、このようなご相談が寄せられます。反対に、「プロフィールを少し良く書いていただけなのに、慰謝料を請求すると言われている」という側からのご相談もあります。
インターネット上には、独身と偽られた場合には慰謝料を請求できる、という説明が数多く見られます。その説明自体が誤っているわけではありません。ただ、そこで語られているのはプロフィールの嘘のうちのごく一部です。年収や職業の嘘がどう扱われるのか、そもそも嘘のどこからが法的な問題として扱われるのかという部分は、あまり説明されていません。
この記事では、プロフィールに書かれた内容の嘘が、どのような場合に法的な問題になり、どのような場合になりにくいのかを、偽られた内容の種類ごとに整理します。既婚であることを知らなかった場合の責任の有無や、独身と偽られたことをどう裏づけるかといった論点は別の記事に譲り、ここでは「嘘の内容によって扱いが変わる」という一点に絞ってご説明します。
プロフィールの嘘そのものを取り締まる法律はない
最初に確認しておきたいのは、出発点です。
記載内容を直接規律する法律はない
マッチングアプリのプロフィール欄に何を書くべきか、嘘を書いたらどうなるかを直接定めた法律はありません。年収を実際より高く書くこと、職業を言い換えること、写真を加工すること。これらの行為を名指しで禁じ、それ自体に罰則を用意した規定は存在しません。
そのため、「嘘をつかれた」という一点だけを示しても、法的な結論は出てきません。問われるのは嘘の有無ではなく、その嘘が何を動かしたのかという点です。
問われるのは嘘ではなく、嘘が動かしたもの
法律が用意しているのは、財産が失われた場合、意思決定をゆがめられて性的な関係に至った場合、他人の婚姻関係が害された場合というように、結果の側から組み立てられた仕組みです。嘘は、その結果に至る過程に置かれた事情として評価されます。同じ「嘘をつかれた」でも、金銭が動いたのか、関係を持つかどうかの判断が変わったのか、何も動かないまま気持ちだけが傷ついたのかによって、たどり着く枠組みが変わります。
「詐称」という言葉は三つの場面で使われている
相談の場では「経歴詐称」「年収詐称」という言い方がよく使われますが、この言葉は少なくとも三つの異なる場面で使われています。刑事の問題として犯罪に当たるかという場面、民事の問題として賠償を求められるかという場面、そしてアプリの利用規約に違反しているかという場面です。
この三つは連動していません。規約違反であっても犯罪ではない場合があり、犯罪に当たらなくても賠償の問題になる場合があります。ご自身の状況がどの場面の話なのかを分けておくと、見通しが立てやすくなります。
嘘が法的な問題になるときの三つの入口
プロフィールの嘘が法的な問題として扱われる道筋は、大きく三つに分かれます。
| 入口 | 問題になりやすい場面 | 関わってくる考え方 |
|---|---|---|
| 財産が動いた場合 | 嘘を信じて金銭や物を渡していた | 詐欺罪(刑法246条1項)、不法行為(民法709条) |
| 性的な関係についての判断がゆがめられた場合 | 嘘によって判断を誤ったまま関係を持った | 貞操権の侵害としての不法行為(民法709条・710条) |
| 他人の婚姻関係に触れた場合 | 既婚であることを隠したまま関係を持った | 相手の配偶者からの慰謝料請求(民法709条・710条) |
三つは重なることもあれば、一つも当てはまらないこともある
既婚者が独身と偽り、結婚を期待させたうえで金銭も受け取っていたという場合には、三つの入口がすべて関係してきます。一方、プロフィールが事実と違っていたことに気づいて、会う前にやり取りを終えたという場合には、どの入口にも入りません。
どの入口にも入らないことは、相手の行為が誠実だったという意味ではありません。法が損害として扱う形になっていない、というだけのことです。
腹が立つことと、法が損害と見るものは別
ご相談では、「時間を返してほしい」「信じていた気持ちを踏みにじられた」というお気持ちを伺うことが多くあります。その感情は自然なものですが、失われた時間そのものや、裏切られたという感覚そのものが、そのまま金額に置き換えられる仕組みにはなっていません。感情の大きさと、法的に組み立てられる主張の強さは、別の物差しで測られます。ここを分けて考えることが、次に何をするかを決める手がかりになります。
独身・既婚の嘘だけが別の扱いになる理由
プロフィールの嘘のなかで、独身であるという記載の嘘は、ほかの項目とは扱いが異なります。
結婚できるかどうかに直結する
年収や職業の嘘は、その内容が事実と違っていたとしても、その相手と交際を続けることや結婚することを妨げるものではありません。これに対して既婚であるという事実は、その相手と結婚することができないという結論に直結します。交際の前提そのものが成り立たなくなるという点で、ほかの項目とは性質が違うのです。
結婚を前提とした交際を望んでいることを知りながら、既婚であることを隠して関係を持ったという場合には、性的な自己決定に関わる判断をゆがめたものとして、慰謝料の請求が検討されることになります。この枠組みは、一般に貞操権の侵害と呼ばれています。
嘘をついた側は二つの方向から問われる
既婚であることを隠していた側は、交際相手からの請求だけでなく、自分の配偶者との関係でも問題を抱えることになります。配偶者から見れば、アプリへの登録とその後の交際は、婚姻関係を害する行為として扱われうるからです。
つまり独身と偽った場合は、嘘をついた相手方向と、自分の家庭の方向という、二つの方向から責任を問われる可能性のある状態になります。ほかの項目の嘘には、この二方向性がありません。
嘘をつかれた側にも別の問題が生じる
見落とされがちなのが、独身と偽られた側にも法的な問題が生じうるという点です。相手が既婚者だった以上、その配偶者から不貞行為を理由に慰謝料を請求される立場に置かれる可能性があります。
このとき問われるのは、既婚だと知っていたかどうかに加えて、知らなかったことに落ち度がなかったといえるかどうかです。この判断の枠組みと、それをどう裏づけるかについては、別の記事で詳しくご説明しています。
年収・職業・学歴の嘘はどこまで問えるか
ここからが、あまり説明されていない部分です。
その人と交際できること自体は変わらない
年収が実際より低かった、勤務先が違っていた、学歴が事実と異なっていた。こうした事情に強い不快感を覚えるのは当然ですが、法的な評価としては、独身か既婚かの嘘と同じようには扱われにくいのが実情です。理由は単純で、その嘘が判明した後でも、その相手と交際を続けるか終わりにするかを選ぶことはできるからです。
結婚への期待が裏切られたという主張は、その期待が保護に値するものだったといえるかどうかで評価が分かれます。収入や肩書きについての見込み違いは、交際そのものを不可能にする性質のものではないため、賠償に結びつきにくい傾向があります。
金銭が動いたときは別の問題になる
もっとも、その嘘を前提として金銭が動いていた場合は、話が変わります。事業がうまくいっているという説明を信じて資金を渡していた、返済できる収入があると聞いて貸していた、といった場合です。
人をだまして財産を交付させた場合には、詐欺罪(刑法246条1項)の問題になりえます。同罪の法定刑は10年以下の拘禁刑で、罰金刑は定められていません。民事でも、返還や賠償を求める余地があります。ただし、渡した側が求められてもいないのに一方的に贈った金銭は、嘘との結びつきが弱く、取り戻しにくい傾向があります。金銭被害が中心となる場合の進め方は、当事務所の詐欺被害に関する記事をご参照ください。
事実との隔たりが大きい場合
職業について、似た分野の言い換えにとどまるのか、まったく異なる状態を装っていたのかによって、受け止め方は変わります。専門的な資格を持っていると述べていた人が実際にはその資格を持っていなかったというように、隔たりが大きく、かつ相手がその点を重視していたことが分かる場合には、判断をゆがめる事情として意味を持つ余地があります。ただし、この場合でも金額が大きくなる方向には働きにくく、何を回復したいのかを先に整理しておくことが役に立ちます。
年齢や写真を「盛る」ことの境目
プロフィールの嘘のなかでも、程度の問題として語られやすいのがこの二つです。
誇張と虚偽の間に明確な線はない
写真の明るさを調整することと、別人と見分けがつかないほど加工することの間に、法律があらかじめ引いた線はありません。実務上は、相手がその記載を見て何を判断したのか、その判断がなければ関係が始まらなかったといえるのかという形で評価されます。
見た目の印象は受け取る人によって差があり、損害として測りにくい性質を持つため、写真や身長の記載だけを理由に賠償が認められる場面は限られます。
別人の写真を使っていた場合
加工とは別に、無関係な第三者の写真を掲載していた場合は、写っている本人との関係でも問題が生じます。はじめから会うつもりがなく、写真を含めた人物像そのものを作り上げていたという事情があれば、金銭のやり取りに関する評価にも影響します。
年齢の嘘は別の重い問題に接することがある
年齢の嘘は、数年の違いにとどまる限り、交際の判断を左右したとは言いにくい項目です。ただし、相手が実際には18歳未満だった場合には、性的な行為に関する刑事上の規制や各自治体の条例が関わってくるため、まったく別の問題になります。
この点は本記事の範囲を超えるため、相手が年齢を偽っていた場合の刑事上の取り扱いについては、当事務所の刑事事件に関する記事をご参照ください。
どこで出会ったかが評価を左右する
同じ内容の嘘でも、どのような場で交わされたやり取りかによって、受け止められ方が変わります。この点は、あまり正面から説明されていません。
場によって前提が違う
結婚相手を探すことを目的として掲げ、登録できる人を独身者に限っていると明記している場と、交際相手を広く探すことを想定している場とでは、利用する人が置いている前提が違います。前者では、結婚に向かえる関係かどうかが、参加の条件として最初から共有されています。
実際、結婚を目的として独身者に限定していた場での独身偽装と、そうした限定のない場での独身偽装とで、認められた賠償額に差が出た裁判例が紹介されています。同じ嘘でも、その場が何を前提に人を集めていたかによって、裏切られた期待の重みが変わると評価されているわけです。
規約違反そのものが責任の根拠になるわけではない
ここで注意が必要なのは、利用規約に違反したこと自体が、相手に対する賠償責任を生むわけではないという点です。規約は運営会社と利用者の間の取り決めであり、やり取りをした相手はその取り決めの当事者ではありません。
規約が意味を持つのは、責任の根拠としてではなく、その場がどのような条件で人を集めていたかを示す事実としてです。両者は似て見えますが、位置づけが異なります。
職業や収入を参加条件としている場では位置づけが変わる
この考え方は、年収や職業の嘘にも当てはまります。特定の職業や一定以上の収入を登録の条件として掲げている場であれば、その条件は参加の前提として共有されていることになります。この場合、職業や収入の嘘は、単なる見込み違いとは違う位置づけになる余地があります。
ご自身の事案を整理するときは、利用していたサービスがどのような条件を掲げていたかを、規約や登録画面の記載とあわせて確認しておくと役に立ちます。
偽られた内容ごとの整理
ここまでの内容を、偽られた項目ごとに並べ直すと、次のようになります。
| 偽られた内容 | 問題になりやすい場面 | 扱いが軽くなりやすい理由 |
|---|---|---|
| 独身か既婚か | 結婚を前提とした交際に入っていた場合 | 関係を続ける前提そのものが崩れるため、軽く扱われにくい |
| 年収・職業・学歴 | その説明を前提に金銭を渡していた場合 | 嘘があっても、その相手と交際を続けること自体は妨げられない |
| 年齢 | 相手が18歳未満だった場合など、別の規制が関わる場合 | 数年の違いにとどまるときは、交際の判断を左右したとは言いにくい |
| 写真・容姿 | 別人の写真を使い、人物像そのものを作っていた場合 | 見た目の印象は人によって差があり、損害として測りにくい |
この表は目安であり、実際の判断は、やり取りの経過や相手の説明の仕方によって動きます。
嘘をつかれた側が先に確かめておくこと
どの枠組みで考えるかを決める前に、手元の状況を整理しておくと、相談の場での見通しが早く立ちます。
- プロフィールに何と書かれていたか。画面を保存していれば、その形のまま残しておきます。
- 利用していたサービスが、登録できる人や目的についてどのような条件を掲げていたか。
- 嘘を前提にして、金銭や物を渡していないか。渡していれば、その時期と経緯。
- 相手の説明を確かめようとしたやり取りが残っていないか。確かめた記録は、それ自体が材料になります。
プロフィール画面やメッセージを保存していない場合に、後から運営会社に記録を求められるかという点については、別の記事で保存期間と開示の限界をご説明しています。
嘘をついた側から見た同じ問題
プロフィールを実際と違う内容で登録していた側から、責任を問われるのではないかというご相談を受けることもあります。整理すると、次のような点が問題になります。
- 規約に違反していたことと、相手に対して賠償責任を負うかどうかは、別に判断されます。
- 運営会社との関係では、利用の停止やアカウントの削除といった対応が取られる場合があります。
- 既婚であることを隠していた場合は、交際相手からの請求と、自分の配偶者との関係の両方を考える必要があります。
- 相手から示された金額が、そのまま支払うべき金額になるわけではありません。
請求を受けた場合の初動や、示された金額との向き合い方については、それぞれ別の記事でご説明しています。
よくあるご質問
プロフィールの嘘だけを理由に、警察に届け出ることはできますか
プロフィールに事実と違う内容を書いたこと自体を理由として、刑事事件として扱われることは通常ありません。刑事の問題になりうるのは、その嘘によって金銭や物を交付させていた場合です。金銭が動いているかどうかが、一つの分かれ目になります。
相手の嘘を信じてデート代を多く負担していました。返してもらえますか
飲食代などを自分の判断で負担していた場合、その支出が嘘によって引き出されたものだと示すのは容易ではありません。一方、明確に事業や返済の見込みを説明されて資金を渡していた場合は、性質が異なります。金額の大小より、渡した経緯と説明の内容が手がかりになります。
プロフィール画面を保存していませんでした。今からでも確認できますか
相手が退会していたり、記載を書き換えていたりすると、同じ内容を後から見ることは難しくなります。運営会社に記録を求める方法にも制約があります。ただし、やり取りのなかで相手が同じ内容を述べていれば、その部分が代わりの材料になることがあります。
まとめ
- プロフィールに嘘を書くこと自体を取り締まる法律はなく、問われるのはその嘘が何を動かしたかです。
- 法的な入口は、財産が動いた場合、性的な関係についての判断がゆがめられた場合、他人の婚姻関係に触れた場合の三つに分かれます。
- 独身・既婚の嘘は、その相手と結婚できるかどうかに直結するため、ほかの項目と扱いが異なります(民法709条・710条)。
- 年収や職業の嘘は、その相手との交際自体を妨げないため、賠償に結びつきにくい傾向があります。
- その嘘を前提に金銭が動いていた場合は、詐欺罪(刑法246条1項)や返還請求という別の問題になります。
- 登録できる人や目的をどのように定めた場だったかは、期待の重みの評価に影響します。
- 利用規約に違反したことと、相手に対して責任を負うかどうかは、別に判断されます。
プロフィールの嘘をめぐるトラブルでお悩みの方へ
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嘘をつかれて請求を考えている方も、記載の内容を理由に請求を受けている方も、どちらの立場からのご相談にも対応しています。手元に残っている記録の範囲でかまいませんので、経緯を整理したうえでお早めにご相談ください。


