【男女トラブル】元恋人に貸したお金には、時効がある?

若井亮

若井亮

テーマ:男女トラブル

交際していた頃に貸したお金が、別れた後も返ってこないまま時間が過ぎていく。「そのうち返す」という言葉を信じて待っていたものの、気づけば何年も経っていた、というご相談は少なくありません。そこで気になるのが「時効」です。このコラムでは、元恋人に貸したお金の時効が何年で、いつから数えるのか、時効が近いときに何ができるのかを、順を追って整理します。

この記事は、2020年4月1日に施行された改正民法の規定を前提に解説しています。それより前に貸したお金には改正前の規定が適用されるため、本文で分けてご説明します。


元恋人に貸したお金にも時効はある

 交際相手との間のお金のやり取りであっても、「返してもらう約束で渡した」のであれば、法律上はお金の貸し借り(金銭消費貸借、民法587条)にあたります。貸した側が持つ「返してほしい」という権利は債権であり、一定の期間行使しないままでいると、消滅時効によって請求できなくなるおそれがあります。

 ただし、期間が過ぎた瞬間に自動的に権利が消えるわけではありません。時効によって返済を免れるには、借りた側が「時効が過ぎたので払わない」と主張する必要があり、これを時効の援用といいます(民法145条)。援用されるまでは、貸した側が請求すること自体は妨げられません。

 なお、時効を考える前提として、そのお金が「貸したもの」と言えるかどうかも確認しておきたいところです。交際中のお金は、後になって「もらったものだと思っていた」と言われることがあります。この点は別れた途端「これまでの金を返せ」と言われた|贈与と貸付の違いでも整理しています。

時効は何年か|貸した時期で変わる

 時効の期間は、お金を貸した時期によって適用されるルールが異なります。2020年4月1日に改正民法が施行され、それより前に貸したお金には改正前の規定が、それ以降に貸したお金には改正後の規定が適用されます(改正法附則10条4項)。

貸した時期時効期間根拠となる条文
2020年4月1日以降返してもらえると知った時から5年、または返してもらえる時から10年のいずれか早いほう民法166条1項
2020年3月31日以前返してもらえる時から10年改正前民法167条1項


 個人間の貸し借りでは、貸した側は返済期限がいつかを通常知っていますから、2020年4月以降に貸したお金は、実際には期限から5年で時効を迎える場面が多いと考えられます。たとえば2021年10月が返済期限だった場合、2026年10月には5年が経過するため、すでに時効が近づいている計算になります。

 交際中に何度かに分けて貸していた場合は、貸した回ごとに時期が異なります。2019年に貸した分と2022年に貸した分とでは、適用されるルールも時効を迎える時期も違ってくるため、まとめて考えず、一回ずつ整理することが大切です。

 別れた相手との間で問題になりやすい請求ごとの時効は、男女トラブルの時効早見表|請求の種類別に何年で消えるかで一覧にしています。

いつから数えるか|返済期限の決め方で変わる

 時効の期間と同じくらい重要なのが、どの時点から数え始めるか(起算点)です。これは、貸したときに返済期限をどう決めていたかによって変わります。

返済期限を決めていた場合

 「来年3月末までに返す」のように期限を決めていた場合は、その期限が到来した時から数え始めます。法律上、初日は算入しないため(民法140条)、期限の翌日が1日目となります。

「余裕ができたら」「いつでもいい」と言っていた場合

 交際中の貸し借りでは、期限を決めずに渡しているケースが多く見られます。返済の時期を決めていない場合、貸した側は相当の期間を定めて返済を求めることができます(民法591条1項)。このときの時効の起算点については、貸してから相当の期間が経過した時点から進行すると解するのが一般的です。

 つまり、「期限を決めていないから時効はまだ始まっていない」とは言い切れず、請求しないまま放置しているあいだにも時効が進んでいる可能性があります。「就職したら返す」「出世払いで」といった約束の場合は、その条件や時期の解釈によって判断が分かれるため、個別の事情を踏まえて確認する必要があります。

分割で返してもらっていた場合

 分割払いの約束では、原則として各回の支払期日ごとに時効が進みます。一方で、途中まで返済があった場合、その返済は借りた側が借金の存在を認めた(承認した)ことになり、時効はその時点から改めて数え直しになります。最後に返済を受けた日がいつかは、時効を考えるうえで重要な手がかりになります。

時効が近いときに止める・数え直す方法

 時効が迫っている場合でも、法律で定められた手続をとれば、時効の完成を一時的に先送りしたり(完成猶予)、ゼロから数え直したり(更新)することができます。

方法効果主な注意点
相手が借金を認める(承認)更新=その時点から数え直し一部の返済、返済を待ってほしいという申出、借金があることを認めるメッセージなどが該当し得る(民法152条1項)
内容証明郵便などで請求する(催告)6か月間の完成猶予猶予中に再度催告しても延長されない(民法150条)
協議を行うことを書面で合意する最長1年間の完成猶予再度の合意で延長できるが、本来の時効期間から通算5年が上限(民法151条)
訴訟・少額訴訟・支払督促手続中は完成猶予、判決などで確定すると更新確定した権利の時効期間は10年になる(民法147条、169条)


元恋人との間で現実的なのは「承認」

 相手と連絡が取れている場合、まず考えたいのが承認です。少額でも返済を受けたり、「残りも必ず返す」「今は待ってほしい」といったメッセージをもらったりすると、それが承認にあたり、時効を数え直すことにつながります。

 口頭のやり取りだけでは後から争いになりやすいため、残っている金額と返済方法を書面にしておくと安心です。書面の作り方や効力については、【男女トラブル】交際相手との間で作った書面|『誓約書』『覚書』の効力や【男女トラブル】口約束で別れの条件を決めてしまった|後から書面にする方法もあわせてご覧ください。

催告は「時間稼ぎ」にとどまる

 内容証明郵便で返済を求めると、6か月間は時効の完成が猶予されます。ただし、これはあくまで一時的な効果で、その6か月のあいだに訴訟などの手続をとらなければ、時効は猶予が終わった時点で完成してしまいます。催告を何度繰り返しても期間は延びないため、時効が目前の場合は、催告の後の手続まで見通しておく必要があります。

すでに時効期間が過ぎていそうなとき

 期間が過ぎているように見えても、あきらめる前に確認したい点があります。

  • 最初に貸した日から数えていて、返済期限や最後の返済日を基準にしていない。
  • 途中で一部の返済を受けていたり、返済を約束するメッセージをもらっていたりする。
  • 2020年3月31日以前に貸した分で、本来は10年の期間で考えるべきものがある。


 こうした事情があれば、時効がまだ完成していない可能性があります。弁護士ドットコムの相談でも、元交際相手から「時効だから返さなくていい」と言われたものの、実際には期間の数え方に検討の余地があるという相談が見られます。

 また、時効期間が過ぎた後に、相手が借金を認めたり一部を返済したりした場合、その後に時効を主張することは信義則上許されないとした判例があります(最高裁昭和41年4月20日判決)。ただし、事実と異なる説明で承認を引き出すようなやり方は、新たなトラブルを生むおそれがあります。事実に沿って請求することが前提です。

時効と同じくらい大切な「証拠」の保全

 時効の問題は、証拠の問題と表裏一体です。時間が経つほど、何をいつ貸したのかを示す材料は失われやすくなります。弁護士ドットコムでも「借用書を書いてもらっていない」「やり取りのメールが消えてしまった」という相談が多く寄せられています。借用書がなくても、次のような記録が貸し借りを示す材料になることがあります。

  • 銀行振込の記録や通帳の履歴。
  • 「貸して」「必ず返す」といったLINEやメールのやり取り。
  • 一部返済を受けた際の振込記録。
  • 貸した日付や金額を当時書き留めたメモ。


 スマートフォンの機種変更でトーク履歴が消えてしまうこともあるため、画面の保存やバックアップは早めに済ませておきたいところです。借用書がない場合の回収の考え方は、恋人・元恋人に貸したお金が返ってこない|借用書なしでも回収できる?で詳しく解説しています。

 なお、生活費やデート代などの立て替えは、そもそも貸し借りとして扱えるかどうかから検討が必要です。交際中に立て替えた生活費・プレゼント代は返してもらえる?も参考にしてください。

時効を意識して急ぐときに気をつけたいこと

 時効が近いと分かると、焦って強く連絡を重ねたくなるかもしれません。しかし、相手の勤務先や実家に押しかける、共通の知人やSNSで借金のことを広める、強い言葉で返済を迫るといった行動は、名誉毀損や脅迫などの問題を生じさせるおそれがあります。そうなると、返してもらうための話し合いがかえって難しくなりかねません。

 相手と連絡が取れない、話し合いに応じてもらえないといった場合の進め方は、【男女トラブル】相手が話し合いに応じない|連絡が取れないまま清算する方法で整理しています。

弁護士に相談するメリット

 元恋人への貸金の時効は、貸した時期、返済期限の決め方、途中の返済や連絡の有無によって結論が変わり、ご自身だけで正確に判断するのは簡単ではありません。弁護士にご相談いただくと、次のような点を一緒に確認できます。

  • 貸した回ごとに、時効がいつ完成するのかを整理できます。
  • 手元のやり取りが承認にあたるかどうかを検討できます。
  • 時効の残り期間に応じて、交渉・催告・訴訟のどれを選ぶべきか判断できます。
  • 弁護士が窓口になることで、元恋人と直接やり取りする負担を減らせます。


よくあるご質問


相手から「時効だから払わない」と言われました。もう請求できませんか?

 相手が時効を主張しても、実際に時効が完成しているかどうかは別の問題です。期間の数え方や、途中の返済・承認の有無によっては、まだ請求できる場合があります。結論を出す前に、貸した日、返済期限、最後の返済日などを整理してご相談ください。

交際中に何度も少しずつ貸しました。時効はまとめて考えてよいですか?

 原則として、貸した回ごとに時効を考えます。古い分から順に時効を迎えるため、合計額だけでなく、それぞれの時期と金額を一覧にしておくと判断がしやすくなります。

相手の住所が分からなくても、時効を止めることはできますか?

 内容証明郵便による催告や訴訟には、相手の住所が必要になるのが通常です。住所が分からない場合でも、手元の情報から相手方を調べる方法を検討できることがあります。時効が迫っている場合は、調査にかかる時間も見込んで早めに動くことが大切です。

 元恋人に貸したお金は、気持ちの整理がつかないまま請求を先送りにしがちですが、時効は静かに進んでいきます。「まだ大丈夫だろうか」と気になった段階で、一度、貸した時期と金額を書き出してみることをおすすめします。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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