【解決事例】繰り返し不貞行為に及んだことによる高額の慰謝料請求・違約金請求|訴訟対応により請求の減額と無理のない分割払いを実現した事例
マッチングアプリのやり取りが問題になったとき、多くの方が最初に考えるのが「運営会社に頼めば、当時のメッセージを出してもらえるのではないか」という発想です。手元の画面から消えていても、サーバーには残っているはずだという感覚は自然なものだと思います。しかし実際には、この考え方はいくつもの段階でつまずきます。しかもその理由は、事業者の対応が不親切だからではなく、通信を扱う事業者に課された法律上の枠組みによることが少なくありません。ここでは、アプリ内のメッセージがどこに置かれ、どのような規律のもとにあり、どこまでなら求めうるのかを整理します。
「取り寄せられるのか」という問いは三つに分かれている
この問いは一つの質問のように見えて、実際には性質の異なる三つの問いが重なっています。どれか一つでも通らなければ、結果としては「取り寄せられない」という同じ結論になりますが、どの段階でつまずいているのかによって、次に打てる手はまったく変わります。
| 問いの層 | 何によって決まるか | 壁になりやすい点 |
|---|---|---|
| 記録がまだ存在しているか | 事業者の保存の運用と、利用者側の操作 | 法律上の保存期間の定めがない |
| 事業者が出せる立場にあるか | 通信の秘密に関する規律 | やり取りの当事者が二人いる |
| どこまでの範囲が出るか | 求める根拠となる制度の枠組み | 自分に関する事項と通信の中身とで扱いが分かれる |
手元に残りにくいという特徴
マッチングアプリのやり取りには、他の連絡手段と比べて記録が利用者の側に残りにくいという性質があります。やり取りがサービスの中で完結しているため、端末に独立したファイルとして蓄積されるわけではなく、アプリを開いて表示させて初めて見える形になっているのが一般的です。そのため、退会やアカウントの削除、相手側の操作といったきっかけで、自分の画面からも一斉に見えなくなることがあります。取り寄せの必要性が高い場面ほど、手元には何も残っていないという状況が生じやすいわけです。
「開示」という言葉が二つの制度を指している
このテーマを調べると「開示請求」という言葉が出てきますが、これは少なくとも二つの別の制度を指して使われています。一つは自分に関する情報を事業者に求める個人情報保護法上の開示請求、もう一つは投稿によって権利を侵害されたときに投稿者を特定するための発信者情報開示です。根拠となる法律も対象も異なり、「メッセージそのものを取り寄せたい」という求めは、どちらの制度の中心的な想定とも一致していません。
アプリのメッセージ機能に働いている法律
運営会社が「お答えできません」と回答する背景には、事業者側の方針の問題だけではなく、通信を扱う事業者に共通して課されている規律があります。
利用者どうしのやり取りを「媒介」するサービス
総務省の「電気通信事業参入マニュアル(追補版)」は、マッチングサイトやアプリについて、企業や個人のマッチング希望に関する情報を閲覧できるようにしたうえで、その情報に係る利用者間のメッセージをアプリや電子メールなどを用いて媒介するものと整理し、他人の通信を媒介していることから、登録または届出が必要な電気通信事業に当たると判断されるとしています。出会い系サイトもこの整理に含めて説明されています。
登録または届出をした事業者は電気通信事業者となり、検閲の禁止(電気通信事業法3条)と通信の秘密の保護(同法4条)の規律を受けます。同マニュアルは、登録や届出が不要とされる事業を営む者についても、取扱中に係る通信には同じ規律が及ぶとしています。メッセージ機能を備えたサービスである以上、通信の秘密の枠組みからは外れにくいという構造です。
やり取りが終わった後の記録も範囲に含まれる
「送受信が終わったものなら単なる保存データではないか」という疑問が生じるところですが、総務省が公表している通信の秘密に関するFAQは、「取扱中に係る通信」とは伝達行為が終了した後も事業者の管理支配下にある間は保護の対象となる趣旨であるとし、通信終了後に事業者が記録・保存している通信に関する記録も、通信の秘密の保護の対象となると説明しています。
同じFAQは、保護の範囲について、通信の内容のほか、個別の通信に係る日時・回数、発受信場所、通信当事者の氏名・住所・電話番号などを広く含むと解されるとしています。誰といつ何回やり取りしたかという事実そのものが保護の対象に入りうる点は、実務上とくに重要です。
海外の会社が運営していても枠組みは同じ
海外の法人が運営しているアプリはどうか、というご質問もよくあります。前記のマニュアルは、国外に設置したサーバーを用いて国内の利用者向けに提供する電子メールやチャットなどについても、電気通信設備の設置場所に限定はないとして、登録または届出が必要な電気通信事業と判断されるとしています。ただしこれは枠組みの話であり、実際には窓口が国外にあることや日本語での対応が限られることなど、手続の負担は国内事業者の場合より重くなりやすい傾向があります。
通信の秘密が壁になるのはなぜか
この規律の中身を知ると、なぜ「当事者本人なのに出してもらえない」という事態が起きるのかが見えてきます。
侵害とされる三つの行為
前記のFAQは、通信の秘密の侵害に当たりうる行為を、知得(当事者以外の第三者が積極的な意思をもって知ろうとすること)、窃用(当事者の意思に反して利用すること)、漏えい(他人の知り得る状態に置くこと)の三つに分類しています。運営会社がやり取りの中身を取り出して誰かに渡す行為は三つ目に近い位置にあり、事業者にとっては求めに応じること自体が規律に触れうる行為として意識されるということになります。
「当事者の同意」は二人分ある
同じFAQは、形式的に侵害に当たる行為であっても、通信当事者の有効な同意がある場合や違法性阻却事由がある場合には、通信の秘密の規定に違反しないと解されるとし、有効な同意については原則として個別具体的かつ明確な同意が必要であるとしています。
ここで見落とされやすいのが、やり取りには当事者が二人いるという当たり前の事実です。自分の側が同意し、あるいは自分から求めているとしても、相手方の側から見れば、自分の同意なく通信の内容が第三者に渡されることになります。当事者の一方であることは、それだけで壁を越える理由にはなりにくい、ということです。
例外として挙げられているもの
FAQが法令に基づく行為の例として挙げているのは、裁判所や裁判官が発付する令状に基づく通信履歴の提供、通信傍受に関する法律の傍受令状に基づく通信傍受、発信者情報の開示に関する法律に基づく開示といったものです。正当業務行為の例としては、課金や料金請求を目的とした通信履歴の記録・保存などが挙げられています。
ここに、民事の紛争で当事者の一方が過去のやり取りを求める場面は、典型例として挙げられていません。制度上あり得ないと決まっているという意味ではありませんが、事業者の側が慎重な判断に傾きやすい理由の一つではあります。
自分の情報として求める場合の限界
「相手の情報ではなく、自分に関する情報として求めるならどうか」という発想は自然ですが、この道筋にも制度上の切れ目があります。
本人開示請求という制度
個人情報保護法は、本人が事業者に対し、当該本人が識別される保有個人データの開示を請求できると定めています(個人情報保護法33条1項)。対象は「保有個人データ」であり、自分が関わったすべての情報が当然に対象になるわけではありません。受付方法や必要書類は事業者ごとに定められ、手数料を設けている事業者もあります。
開示しないことができる場合
同法は、事業者が全部または一部を開示しないことができる場合を定めています(同条2項)。本人または第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合、事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合、他の法令に違反することとなる場合の三つです。メッセージのやり取りは、このうち一つ目と三つ目の両方にかかりやすい性質を持っています。相手方という第三者の権利利益が正面から関わり、かつ通信の秘密の規律との関係が生じるためです。
出てくるものと出てこないものの差
実際の回答は事業者や事案によって異なりますが、求める内容によって扱いが分かれやすい点は共通しています。
| 求める内容 | 位置づけ | 想定されやすい扱い |
|---|---|---|
| 登録情報や利用状況など自分に関する事項 | 本人の保有個人データに当たりうる | 範囲を限って示されることがある |
| 相手とのやり取りの内容そのもの | 通信の秘密に属し、相手方も当事者となる | 応じられない旨の回答になりやすい |
| 相手方の氏名・住所などの登録内容 | 他人に関する情報 | 本人開示の対象から外れる |
自分に関する事柄として通る部分と、通信として扱われる部分の境目は、やり取りの中身のところで引かれています。もっとも欲しい情報が、もっとも出にくい位置にあるという構造です。
発信者情報開示とは別の話である
もう一つの「開示」である発信者情報開示は、情報流通プラットフォーム対処法に基づく制度で、対象は「特定電気通信」による情報の流通です。同法は特定電気通信を、不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信と定義しています(情報流通プラットフォーム対処法2条1号)。
総務省が公表している逐条解説は、1対1の通信はこれに含まれないと説明しています。アプリ内の閉じたやり取りは、この制度の対象からは外れる方向で整理されることになり、プロフィール欄や掲示板への書き込みのように不特定の人が見られる形の情報とは扱いが分かれます。発信者情報開示の詳しい仕組みは、別の記事で扱っています。
保存期間に法律の定めはない
「何年保存されているのか」というご質問も多く寄せられます。
決めているのは法律ではなく事業者
マッチングアプリのメッセージについて、保存期間を定めた法律の規定は見当たりません。何をどれだけ保存するかは、各社のプライバシーポリシーや利用規約、社内の運用によって決まっており、サービスが違えば残っている可能性も異なります。また、保存されているかどうかを確認しようとしても、記録の存否そのものが通信の秘密の範囲に入りうるため、「ある」とも「ない」とも答えられないという回答になることがあります。
消え方にはいくつかの型がある
利用者から見た「消えた」という現象も、原因によって意味が違います。次のような型があります。
| きっかけ | 起きること |
|---|---|
| 退会やアカウントの削除 | そのアカウントに紐づく履歴が表示されなくなる |
| 相手側のブロックや退会 | 一覧から相手ごと表示されなくなる |
| 一定期間やり取りがない状態の継続 | マッチング自体が解除される運用がある |
| サービスの終了や仕様の変更 | 過去の履歴が引き継がれないことがある |
自分の操作によるものか、相手の操作によるものか、事業者側の事情かによって、後から説明する際の意味合いは変わります。自分から消したのか、気づいたら見えなくなっていたのかは、記録しておく価値のある違いです。
「消えていた」ことをどう位置づけるか
記録が失われたこと自体が争いの材料になる場面もありますが、これは訴訟における証拠の扱いの問題であり、本記事の範囲を超えます。証拠の保全や、失われた記録の位置づけについては、別の記事で扱っています。
取り寄せに頼らずに手元でできること
後から取り寄せる道が細い以上、まだ見えているうちに手元で押さえておくことの価値が相対的に大きくなります。ご相談の場面で後から効いてくるのは、次のような点です。
- 画面をそのまま残すこと。加工や切り取りを行うと、後から範囲や前後関係を問われたときに説明しづらくなります。
- いつ、どの端末で、どのような操作で見たのかを、その日のうちに書き留めておくこと。
- アプリの利用料や決済に関する記録のように、やり取りの中身とは別に残る周辺の記録に目を向けること。
- 端末に届いた通知や、他の連絡手段に移った後のやり取りなど、アプリの外に出た部分を確認すること。
記録の残し方の具体的な手順は別の記事で扱っています。ここでは、取り寄せを前提に置いた計画は立てにくいという点を押さえておいてください。
請求を受けた側から見た同じ問題
ここまでは、やり取りを手に入れたい側の視点で書いてきました。請求を受けている側から見ると、同じ事実がやや違って見えます。
相手も同じ壁の前にいる
「アプリの記録を全部出されたらどうしよう」という不安を口にされる方は多いのですが、相手方もまた、これまで述べたのと同じ制度上の制約の中にいます。運営会社に頼めば自由に取り出せるという前提は、多くの場合成り立ちません。ただし安心してよいという意味ではなく、実際に提出されるのは、相手方の手元にある画面や共有された記録、別の連絡手段に移った後のやり取りであることが多いためです。
手元にないことと、どこにもないことは違う
自分のアカウントから履歴が見えなくなっていても、相手方の側には残っていることがあります。この前提を取り違えたまま「そのようなやり取りはない」と述べてしまうと、後から示されたときに説明の一貫性が問われます。記憶にない部分は記憶にないと述べるという対応が、結果として安全であることが少なくありません。認めるかどうかの判断そのものは、別の記事で扱っています。
また、不安から手元の記録を消してしまう方がいらっしゃいますが、これは自分に有利な部分まで同時に失う選択でもあります。やり取りの全体を見れば、関係の性質や時期について、こちら側の説明を支える材料が含まれていることもあります。
よくあるご質問
退会した後でも運営会社に残っていますか
残っている可能性は否定できませんが、確かめる手段が限られているのが実情です。多くのサービスでは、退会によってアカウントに紐づく情報が削除される旨が定められています。仮に残っていたとしても通信の秘密の枠組みが同じように働くため、退会の前後で結論が大きく変わるとは考えにくいといえます。
弁護士に依頼すれば取り寄せられますか
弁護士が用いることのできる照会の制度はありますが、通信の内容に関する事項については、照会を受けた側が回答を差し控える判断をすることが少なくありません。どの手段が使えるかは何を求めるかによって変わりますので、取り寄せられるかどうかを先に確かめてから動くのではなく、いま手元にあるものを前提に組み立てるのが現実的です。
相手のアカウントを特定することはできますか
やり取りの内容を求めることと、相手が誰なのかを明らかにすることとは、根拠も手段も異なります。相手方の特定については、別の記事で扱っています。
まとめ
- 「取り寄せられるのか」という問いは、記録が残っているか、事業者が出せる立場にあるか、どこまでの範囲が出るか、という三つの層に分かれています。
- マッチングサイトやアプリは利用者間のメッセージを媒介するものとして、登録または届出が必要な電気通信事業に当たると整理されており、通信の秘密の保護(電気通信事業法4条)の規律が及びます。
- 通信が終わった後に事業者が記録・保存している通信に関する記録も、通信の秘密の保護の対象に含まれると説明されています。
- やり取りには当事者が二人いるため、自分が当事者であることだけを理由に中身を出してもらうことは難しい構造になっています。
- 自分の情報として求める本人開示請求(個人情報保護法33条1項)にも、第三者の権利利益や他の法令との関係による限界があります(同条2項)。
- 発信者情報開示の制度は、不特定の者によって受信されることを目的とする送信を対象としており、閉じた1対1のやり取りは対象から外れる方向で整理されます。
- 保存期間を定めた法律の規定は見当たらず、実際の扱いはサービスごとに異なるため、いま見えているものを手元で押さえておくことの重要性が高くなります。
ご相談について
弁護士法人若井綜合法律事務所では、男女間のトラブルに関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。やり取りの記録が手元から失われてしまった方、逆に過去のやり取りを持ち出されてご不安を抱えている方のいずれについても、いま残っている材料から何が言えるのかを一緒に整理いたします。
取り寄せの可否を確かめようとして時間が過ぎるより、手元にあるものを前提にした組み立てを早い段階で検討するほうが、選べる道が広く残ることが多いといえます。お一人で抱え込まずにご相談ください。


