【不貞慰謝料】マッチングアプリで出会った相手が既婚だった
中絶という出来事を経たあと、交際相手や元交際相手から「謝罪がない」「誠意が見えない」と繰り返し責められ、どう応じればよいか分からなくなっている男性からのご相談があります。謝りたい気持ちはあっても、何をどこまで謝れば区切りがつくのかが見えず、連絡が来るたびに気持ちが沈んでいく、という声も聞かれます。
この記事は、合意のうえで中絶に至った後、男性側が相手から謝罪を求められ続けている場面を想定した一般的な整理です。妊娠の経緯や話し合いの内容、費用の負担状況などによって、取るべき対応は変わります。
ここでは、謝罪を求める相手の気持ちと法律上の責任とを分けて整理し、責められ続けるときに男性側が取れる対応を順に見ていきます。
相手の気持ちと法律上の責任は、分けて考える
中絶は、女性の体に直接の負担がかかるだけでなく、気持ちの整理にも時間がかかることがあります。相手が謝罪を求める背景には、悲しみや怒り、負担を一人で引き受けたという思いがあることが少なくありません。そうした気持ちに向き合うこと自体は、関係を穏やかに終えるうえでも意味があります。
一方で、「謝罪を続ける法的な義務があるのか」「いつまで応じればよいのか」という問いは、気持ちの問題とは別に考える必要があります。両方を一緒に抱え込むと、どこまで応じれば終わるのかの見通しが立たず、対応が場当たり的になりやすくなります。
中絶をめぐって男性に法的な責任が問われる場面
交際中の合意のうえでの性行為から妊娠し、話し合いのうえで中絶した場合、それだけで男性が慰謝料を支払う責任を負うとは限りません。ただし、裁判例の中には、男性の対応のしかたを問題にしたものがあります。
よく紹介されるのが東京高裁平成21年10月15日判決です。この判決は、性行為の結果として妊娠した場合、男性には、女性が受ける身体的・精神的な負担をできるだけ軽くし、経済的な負担を分け合うよう努める義務があるという考え方を示しました。そのうえで、話し合いに十分応じず判断を女性に任せきりにした対応について、不法行為にあたるとして賠償を命じています。
責任が問われやすい事情・問われにくい事情
| 事情 | 責任が問われやすい方向 | 責任が問われにくい方向 |
|---|---|---|
| 妊娠が分かった後の対応 | 連絡を断つ、話し合いに応じない | 話し合いに応じ、相手の意向を確認している |
| 費用の負担 | 中絶費用を一切負担しない | 費用を分担している、または負担している |
| 中絶後の対応 | 体調に配慮せず、一方的に関係を断つ | 通院の付き添いや体調の確認をしている |
| 交際の前提 | 既婚であることを隠していた | 互いの事情を知ったうえで交際していた |
表の右側にあたる対応をしてきた場合、追加の金銭的な責任が認められる余地は限られると考えられます。ただし、どの事情がどの程度重視されるかは事案によって異なります。費用の分け方については中絶費用は相手に請求できる?男女の費用負担や【男女トラブル】中絶費用は折半なのか|「おかしい」と感じたときの整理の仕方でも解説しています。
「謝罪」そのものは、法律で強制できるものなのか
民法上、不法行為の責任は原則としてお金で償う形をとります(民法722条1項)。名誉を傷つけた場合に謝罪広告などが命じられる例外(民法723条)はありますが、交際相手とのやり取りの中で謝罪の言葉を述べさせることを裁判所が命じる場面は、通常は想定されていません。
そのため、謝罪をしないこと自体が直ちに新たな違法行為になるとは考えにくいといえます。とはいえ、中絶前後の対応が不誠実だったと評価されれば、慰謝料の判断の中で考慮される可能性はあります。謝罪の有無だけを切り離さず、これまでの対応全体を振り返ることが大切です。
反対に、相手が脅しや暴力を用いて謝罪文や土下座を強いる場合には、強要罪(刑法223条)にあたる可能性があります。この点は土下座・謝罪文の強要|「義務のないこと」の広さで詳しく取り上げています。
謝る気持ちと「責任を認める書面」は別のもの
相手の気持ちを受け止め、謝意を伝えることで関係が落ち着く場面はあります。気をつけたいのは、謝罪の言葉と一緒に、法的な責任や金銭の約束まで書面に残してしまうことです。
責められている最中は、早く終わらせたいという思いから、相手が用意した文面にそのまま署名したり、求められるままに謝罪文を書いたりしがちです。その中に次のような記載が含まれていると、後の話し合いで重く扱われるおそれがあります。
- 「すべての責任は自分にある」といった、全面的に責任を認める表現。
- 「誠意として○円を支払う」といった、金額や支払時期を伴う約束。
- 「どんなことでも償う」といった、範囲の定まらない約束。
- 実際の経緯と異なる事実を認める記載。
謝意を伝えるのであれば、気持ちの表明と、費用や責任をどう整理するかの話し合いとは分けて扱うほうが安全です。文面を送る前や署名する前に、内容を弁護士に確認してもらうことも検討してください。脅されて書かされた書面の扱いについては脅されて署名した念書・示談書は有効か|「無効」と「取消し」の違い、妊娠をめぐって避けたい発言については【男女トラブル】妊娠を告げられたときに言ってはいけない言葉|後で不利になる発言もあわせてご覧ください。
責め方が行き過ぎていると感じたとき
相手の言葉が厳しくても、それだけで違法になるわけではありません。ただし、次のような事情が加わってくると、法的な対応を検討する段階に入ってきます。
連絡の回数や時間帯が日常生活に影響している
深夜を含めて電話やメッセージが大量に届き、仕事や睡眠に支障が出ている場合です。ストーカー規制法は、恋愛感情などの好意の感情や、それが満たされなかったことへの怨恨の感情を充足する目的で行う一定の行為を「つきまとい等」として規制しており、拒まれているのに電話やメッセージを繰り返す行為も含まれます(同法2条1項)。中絶後の非難がこれにあたるかどうかは目的や態様によって判断が分かれますが、日時と内容を記録しておくことが出発点になります。考え方はSNS・LINEの執拗な連絡はストーカーになる?警告・禁止命令の流れで解説しています。
職場や家族、SNSに話を広げると言われている
「会社に言う」「家族に知らせる」「SNSに書く」と告げられている場合や、実際に第三者へ連絡が入っている場合です。中絶という私的な事情を周囲に広められれば、名誉毀損やプライバシー侵害が問題になる可能性があります。伝える内容や相手によって評価は変わるため、別れた相手が家族や友人に接触してくる|第三者を巻き込む嫌がらせへの対応や【男女トラブル】別れを告げたら相手が自分の上司に話した|職場への影響を抑えるも参考にしてください。
謝罪とあわせて高額な金銭を求められている
損害の賠償を求めること自体は、正当な権利の行使です。ただし、「払わなければ職場に知らせる」など、害を加えることを告げて金銭を求める場合には、恐喝罪が問題になることもあります。どこまでが正当な請求かの線引きは「訴えるぞ」「警察に行くぞ」は脅迫か|正当な権利行使との境界線で整理しています。
命に関わる言葉をほのめかされている
相手が命に関わる言葉を口にしている場合は、話し合いの進め方よりも安全の確保を優先します。危険が差し迫っていると感じたときは、ためらわずに警察や救急に連絡してください。相手の家族など、身近で支えられる人に状況を伝えることも考えられます。そのうえで、安全を守るための対応と、金銭や謝罪の要求に応じるかどうかは、分けて考えることが大切です。考え方は「死んでやる」と言われて要求を呑まされている|自分への加害予告は脅迫かで解説しています。
関係を落ち着いて終えるための進め方
法律相談サイトの弁護士ドットコムにも、中絶後のケアをいつまで続ければ請求されなくなるのか、中絶後に別れを切り出しても受け入れてもらえない、といった男性からの相談が寄せられています。いつ終わるのか分からない状態が続くこと自体が、大きな負担になっていることがうかがえます。
当事者同士の話し合いが行き詰まっている場合、弁護士が窓口に立つという方法があります。弁護士が受任したことを相手に伝え、以後の連絡は弁護士を通すよう求めることで、直接責められる状態から距離を置きやすくなります。受任後の流れは受任通知とは何か|送られると相手方との関係はどう変わるかで説明しています。
そのうえで、中絶費用や中絶後の体調不良にかかった費用をどう整理するか、解決金を支払うかどうかを話し合い、合意できた内容を書面にまとめます。体調不良に伴う費用の考え方は【男女トラブル】中絶の後に体調を崩した|治療費・休業の負担を求めるをご覧ください。合意書には、これで互いに請求をしないことを確かめる清算条項や、今後の連絡を控える接触禁止の条項を入れておくと、同じ要求が繰り返されることを防ぎやすくなります。条項の作り方は接触禁止条項の書き方|今後の連絡を止める設計で解説しています。
謝罪をどう扱うかも、この話し合いの中で決めておくことができます。たとえば、合意書の中で相手の心身の負担に対する遺憾の意を示す一文を入れ、相手の気持ちに配慮しつつ、謝罪を求める連絡が際限なく続く状態を避けるといった調整です。
相談の前に整理しておきたいこと
- 妊娠が分かってから中絶に至るまでの経緯と、話し合いの内容。
- 中絶費用や通院費の負担状況が分かる領収書・振込記録。
- 中絶後のやり取りの日時・回数・内容が分かるスクリーンショット。
- 相手が求めている内容(謝罪の方法、金銭、そのほかの要求)。
- 職場や家族、SNSなど第三者への連絡の有無。
記録は、相手を追い詰めるためではなく、事実を正確に伝えるためのものです。手元にあるものだけでも構いません。
まとめ
- 相手が謝罪を求める気持ちと、法律上の責任とは分けて考えることが大切です。
- 中絶をめぐっては、男性が話し合いや負担の分担に十分応じなかったことについて、責任が認められた裁判例があります。
- 謝罪の言葉そのものを裁判で強制される場面は通常想定されていませんが、脅しを伴う謝罪の要求は強要罪にあたる可能性があります。
- 謝意を伝える場合でも、責任や金銭の約束を含む書面に急いで署名しないよう注意が必要です。
- 連絡の頻度、第三者への拡散、命に関わる言葉が出ている場合は、記録を残し、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
中絶後のやり取りでは、相手の気持ちに配慮しながらも、ご自身の生活を守る視点が欠かせません。責められ続けてどう返せばよいか分からなくなったときは、一人で抱え込まずにご相談ください。当事務所の対応については【男女トラブル】弁護士が交際関係の解消時のトラブルに介入するサービス|金銭の清算・画像の削除・ストーカー・脅迫まで全国対応でご紹介しています。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


